犬と猫の血液検査値ガイド

健康診断や体調不良の際に測定される血液検査の各項目について、「数値そのもの」ではなく、その値が上がったり下がったりする理由・背景を、生理学・病態生理学の視点から詳しく解説する電子書籍です。具体的な基準値には触れず、増減の要因を整理して理解することに焦点を当てています。

第1章

検査値を読み解く前に

具体的な数値の解説に入る前に、血液検査という検査そのものの性質と、本書全体を通じて使う「読み方の枠組み」を確認しておきます。

血液検査でわかること

血液検査は大きく分けて、血液中の細胞成分(赤血球・白血球・血小板)を数えて評価する血球算定検査(CBC)と、血液中に溶けている酵素・蛋白・電解質・代謝産物などを測定する生化学検査の2つから構成されます。CBCは主に「酸素を運ぶ力があるか」「感染や炎症が起きていないか」「出血や血が固まりにくい状態ではないか」を映し出し、生化学検査は「肝臓・腎臓・膵臓などの臓器がきちんと働いているか」「脱水や電解質のバランスが崩れていないか」「代謝性の病気(糖尿病や甲状腺疾患など)が隠れていないか」を映し出します。

いずれの項目も、単独の臓器の働きだけを反映しているわけではなく、複数の生理的な仕組みが重なり合って一つの数値として表れます。そのため、ある項目が高い・低いという事実だけでなく、「なぜその方向に動いたのか」という背景を理解することが、検査結果を正しく捉える上で重要になります。

「数値」より「方向と要因」を読む

血液検査の基準値は、使用する検査機器・測定法・動物の犬種や年齢・採血の条件によって幅があり、施設ごとに異なる基準範囲が設定されています。そのため本書では具体的な基準値や数値そのものには触れず、各項目が上昇する方向に働く要因低下する方向に働く要因を整理して解説する構成をとっています。

それぞれの項目について、要因を次の3つの視点に分けて捉えると理解が整理しやすくなります。

生理的要因

病気ではなく、年齢・犬種猫種・食後や運動後、興奮やストレス、妊娠など「正常な体の反応」として値が動く場合。

病的要因

特定の臓器の障害や全身性の疾患によって値が動く場合。

検体・技術的要因

採血や検体の取り扱い、測定方法との相性によって、実際の体の状態とは無関係に値が動いて見える場合。

本書の各項目の解説でも、この3つの視点をできるだけ区別しながら記載しています。

検体の質による影響(アーチファクト)

採血した血液や分離した血清・血漿の状態そのものが、測定値に影響を与えることがあります。代表的なものが溶血・脂血・黄疸の3つです。これらは動物の病態を反映していることもあれば、採血手技や検体の保存条件によって二次的に生じることもあり、検査結果を読む際には常に念頭に置く必要があります。

ILLUSTRATION 1

検体の質が測定値に与える影響

採取した血液検体
溶血
(Hemolysis)
脂血
(Lipemia)
黄疸
(Icterus)
主な原因
乱暴な採血手技・細い針での急速吸引・検体の激しい振盪・凍結保存 など

測定への影響
カリウム・AST・LDHなどが赤血球内成分の漏出により偽高値になりやすい
主な原因
採血前の食事(特に高脂肪食直後)・脂質代謝異常・膵炎 など

測定への影響
濁りが比色法・分光測定に干渉し、電解質などが見かけ上低下(希釈効果)することがある
主な原因
高ビリルビン血症(肝疾患・胆道閉塞・溶血性疾患) など

測定への影響
血清の黄色着色が一部の比色法に干渉することがあるが、ビリルビン自体の上昇は病態を正しく反映する
採血・検体保存の条件によって、実際の病態とは無関係に値が変動して見えることがある。強い溶血や脂血が見られた場合は、再採血や別の測定法での確認が検討される。

これらのアーチファクトを念頭に置いた上で、以降の章では各項目が生体内で本当に上昇・低下している場合の要因を中心に解説していきます。

犬と猫、前提となる生理的な違い

犬と猫は同じ哺乳類であっても、血液検査値の動き方には無視できない違いがあります。本書では各項目の解説の中で「犬猫の違い」を随時取り上げますが、まず前提として押さえておきたい傾向を挙げます。

猫はストレスの影響を強く受けやすい

診察台や輸送によるストレスだけで、白血球数や血糖値が大きく変動することが犬より目立ちやすいとされます。「病院慣れしていない」「興奮しやすい」個体では、この影響を差し引いて考える必要があります。

犬種・体格による基準の幅

グレーハウンドなどの一部の犬種はヘマトクリットが高め、逆に特定の犬種では血小板がやや少なめに出るなど、犬種固有の傾向が知られています。純血種では犬種特有の遺伝性疾患の可能性も考慮されます。

本書を通じて「犬猫差」として取り上げる内容は、あくまで一般的な傾向であり、個体差や犬種猫種による例外も存在します。実際の評価は必ず動物種・年齢・犬種猫種を踏まえた上で、獣医師が総合的に行います。

第2章

血球算定検査(CBC)

血液中の細胞成分を数え、酸素運搬能・感染や炎症の有無・止血機能を評価する検査項目です。

赤血球数・ヘマトクリット・ヘモグロビンRBC / Hct(PCV) / Hb

酸素を全身に運ぶ赤血球の「数」「血液中に占める割合」「酸素と結合するヘモグロビン量」を示す、互いに連動して動くことが多い3項目です。3つをまとめて評価することで、貧血や多血の程度を把握します。

↑ 上昇要因

生理的

  • 脱水による血液の相対的な濃縮
  • 興奮・恐怖時の脾臓収縮に伴う赤血球の動員(特に緊張した際に脾臓に貯蔵されていた赤血球が末梢血へ放出される)

病的

  • 真性多血症(骨髄が自律的に赤血球を作り過ぎる疾患)
  • 二次性多血症(慢性的な低酸素状態に対する代償:心肺疾患、腫瘍によるエリスロポエチン産生など)

↓ 低下要因(貧血)

生理的

  • 成長期の子犬・子猫でみられる生理的な低め傾向

病的

  • 出血(急性の外傷性出血、慢性的な消化管出血など)
  • 溶血(免疫介在性溶血性貧血、猫のヘモプラズマ感染、犬のバベシア症など)
  • 骨髄の造血機能低下(再生不良性貧血、 慢性腎臓病 No.027 犬と猫の腎臓(赤血球生成編) に伴うエリスロポエチン産生低下、慢性炎症性疾患に伴う貧血)
  • 鉄欠乏、猫白血病ウイルス(FeLV) No.030 猫のFeLV 感染による骨髄抑制

検体・技術的

  • 抗凝固剤に対して採血量が少なすぎることによる希釈

犬猫差 猫は 慢性腎臓病 No.027 犬と猫の腎臓(赤血球生成編) に伴う貧血が非常に多くみられます。犬はグレーハウンドなど一部犬種で平常時のヘマトクリットが高めであることが知られており、犬種特性を踏まえた評価が必要です。

赤血球指数MCV・MCH・MCHC

赤血球1個あたりの大きさ(MCV)やヘモグロビン量(MCH・MCHC)を表す指数で、貧血の種類(大球性か小球性か、色素量が十分かどうか)を分類するために用いられます。単独で病態を示すというより、貧血の原因を絞り込む手がかりとして使われます。

↑ 上昇要因

MCV(大球性)

  • 再生性貧血に伴う若く大きな網赤血球の増加
  • まれな遺伝性の大球性(一部犬種)

検体・技術的

  • 採血後の時間経過による赤血球の膨化(EDTA検体の保存アーチファクト)

↓ 低下要因

MCV(小球性)

  • 鉄欠乏性貧血(慢性的な出血に伴うことが多い)
  • 門脈体循環シャントなど先天性肝血管異常に伴う小球性変化(犬で報告が多い)

MCHC

  • 鉄欠乏や強い再生性貧血(未熟な網赤血球はヘモグロビン含量が少ない)

MCHCが高値になる場合は病的意義よりも、強い溶血や脂血による測定への干渉(アーチファクト)であることが多いとされています。

網赤血球Reticulocyte

骨髄を出たばかりの若い赤血球で、貧血に対して骨髄がきちんと反応(代償)できているかを判定する重要な指標です。貧血を「再生性」か「非再生性」かに分類する軸になります。

↑ 上昇要因(再生性)

  • 出血や溶血に対する骨髄の代償反応(通常、出血・溶血の発生から数日後にピークを迎える)
  • 慢性的に持続する溶血性疾患

↓ 上昇しない要因(非再生性)

  • 骨髄自体の機能低下(再生不良性貧血、骨髄異形成、腫瘍細胞の骨髄浸潤)
  • 慢性腎臓病 No.027 犬と猫の腎臓(赤血球生成編) によるエリスロポエチン産生の低下
  • 慢性的な鉄欠乏、FeLV感染による骨髄抑制
  • 出血・溶血の発生直後(骨髄が反応を開始する前の数日間は一時的に非再生性に見える)

犬猫差 猫の網赤血球は凝集型(aggregate)と点状型(punctate)に分類されます。凝集型がより新しく骨髄から出た細胞を反映するとされ、猫の貧血評価では凝集型網赤血球数が重視されます。

ILLUSTRATION 2

貧血を「再生性」か「非再生性」かで捉える

貧血を確認
網赤血球数を確認
上昇あり(再生性)
上昇なし(非再生性)
骨髄は正常に機能しており、出血または溶血が疑われる。外傷・消化管出血・免疫介在性溶血性貧血・寄生虫感染など。
骨髄自体の異常、慢性腎臓病、慢性炎症性疾患、鉄欠乏の遷延、あるいは出血・溶血発生直後の時間差を疑う。
網赤血球数の増減は、貧血の原因を「骨髄の外」で起きている問題か、「骨髄そのもの」の問題かに大別する手がかりになる。

白血球数(総数)WBC

感染・炎症・免疫の状態を映す細胞群の総数です。総数だけでは判断材料として不十分なことが多く、後述する好中球・リンパ球などの内訳(分画)と合わせて評価する必要があります。

↑ 上昇要因

  • 細菌感染症、組織の炎症・壊死、免疫介在性疾患
  • ストレスやステロイド No.015 犬と猫のステロイド薬 投与によるコルチゾルの上昇(好中球増加とリンパ球減少を伴う「ストレス性白血球像」)
  • 興奮・運動による一過性の生理的上昇(特に猫で目立ちやすい)
  • 白血病(骨髄またはリンパ組織での腫瘍性の異常増殖)

↓ 低下要因

  • 重度感染症の初期(骨髄からの供給が消費に追いつかない状態)
  • ウイルス感染症(犬のパルボウイルス感染症、猫の汎白血球減少症、 FeLV No.030 猫のFeLV FIV No.020 猫のFIV 感染に伴う骨髄抑制)
  • 骨髄疾患(再生不良性貧血、骨髄線維症)、抗がん剤など骨髄抑制性の薬剤
  • 免疫介在性の白血球破壊、重篤な敗血症における消費

好中球Neutrophil

細菌感染や急性の炎症に対して最初に動員される白血球で、白血球分画の中心的な存在です。

↑ 上昇要因

  • 細菌感染、急性炎症、外傷・組織壊死後
  • ストレスやステロイドによる血管内皮からの動員(成熟した好中球が中心)
  • 慢性骨髄増殖性疾患

↓ 低下要因

  • 重度・急性の細菌感染(消費が生成を上回る状態)
  • ウイルス感染による骨髄抑制、免疫介在性好中球減少症
  • 骨髄抑制性の薬剤、まれな遺伝性の周期性好中球減少

未成熟な好中球(桿状核球など)の増加は「核左方移動」と呼ばれ、生体の炎症・感染への反応が強く、骨髄が総動員をかけている状態を示唆します。

リンパ球Lymphocyte

免疫を担う細胞で、抗原刺激や慢性的な炎症、ストレスホルモンの影響を強く受けて増減します。

↑ 上昇要因

  • 若齢動物にみられる生理的な高値傾向
  • 慢性的な抗原刺激(慢性感染症・慢性炎症)
  • リンパ球性白血病
  • 副腎皮質機能低下症(アジソン病) No.009 犬と猫の副腎 にみられる、通常のストレス反応が欠如することによる相対的なリンパ球増加

↓ 低下要因

  • ストレス反応(コルチゾルの上昇によりリンパ球が血管内から組織へ再分布する)
  • 急性ウイルス感染(子犬のパルボウイルス感染症、猫の汎白血球減少症など)
  • 免疫抑制療法・抗がん剤治療
  • 慢性消耗性疾患、乳び胸などによるリンパ液の体外への喪失

単球Monocyte

慢性的な炎症や壊死組織の処理に関わる細胞です。

↑ 上昇要因

  • 慢性炎症、組織の壊死・化膿の処理
  • 肉芽腫性疾患
  • ストレス性反応の一部として好中球増加と並行して上昇することがある
  • 単球性白血病などの腫瘍性疾患

↓ 低下要因

  • 臨床的に意義のある低下は稀とされています

好酸球Eosinophil

寄生虫感染やアレルギー性疾患に反応して増える細胞です。

↑ 上昇要因

  • 消化管内寄生虫、フィラリア症 No.021 犬のフィラリア症 予防編 などの寄生虫感染
  • アトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患
  • 猫の好酸球性肉芽腫症候群
  • 肥満細胞腫など一部の腫瘍性疾患

↓ 低下要因

  • 急性ストレス反応やステロイド No.015 犬と猫のステロイド薬 投与(コルチゾルにより骨髄からの放出が抑制される)
  • 急性炎症の初期段階

好塩基球Basophil

数が非常に少なく、単独で評価されることは少ない項目です。

↑ 上昇要因

↓ 低下要因

  • 臨床的な意義に乏しいことがほとんどです

ILLUSTRATION 3

「ストレス性」の白血球像と「炎症性」の白血球像の違い

ストレス性白血球像
(コルチゾル由来)
炎症性白血球像
(感染・組織障害)
好中球:軽度〜中等度に上昇(成熟型が中心、核左方移動を伴わない)
リンパ球:低下
好酸球:低下
単球:軽度上昇することがある
好中球:上昇(重度の場合、未熟な核左方移動を伴うことがある)
リンパ球:疾患により多様(変化に乏しいことも)
単球:しばしば上昇
全身状態や発熱など臨床症状を伴うことが多い
同じ「好中球増加」でも、随伴する他の細胞の変化パターンを見ることで、単なる緊張・興奮によるものか、実際の感染・炎症によるものかを推測する手がかりになる。

血小板Platelet

出血を止める役割(止血)を担う細胞で、数が極端に少なくなると出血しやすくなります。

↑ 上昇要因

  • 炎症性疾患や出血後の反応性増加、鉄欠乏性貧血に伴う反応性増加
  • 脾臓摘出後、激しい運動・興奮による一過性の動員
  • 骨髄増殖性疾患(まれ)

↓ 低下要因

  • 免疫介在性血小板減少症
  • 消費の亢進(播種性血管内凝固症候群=DIC、重度の出血)
  • 生成低下(骨髄疾患、骨髄抑制性の薬剤)
  • マダニ媒介性疾患(バベシア症、エーリキア症など)
  • 脾腫による血小板の脾臓内貯留(隔離)

検体・技術的

  • 採血管内での血小板凝集による見かけ上の低値(特に猫で頻度が高いとされる)

犬猫差 猫は採血・検体調製時に血小板が凝集しやすく、機械測定での偽性低値がしばしば問題になるため、塗抹標本での目視評価が重視されます。キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルには、大型の血小板を伴う良性の遺伝性血小板減少がみられることが知られています。

第3章

肝機能関連の検査値

肝臓は代謝・解毒・蛋白合成・胆汁産生など多岐にわたる役割を担っており、その障害のパターンによって上昇する項目が異なります。

ALT(GPT)Alanine Aminotransferase

肝細胞の中に存在する酵素で、肝細胞の膜が損傷を受けると血液中に漏れ出します。犬・猫ともに肝細胞障害の代表的な指標として使われます。

↑ 上昇要因

生理的

  • 成長期の若齢動物における軽度の高値
  • フェノバルビタールなどの抗てんかん薬、 副腎皮質ステロイド No.015 犬と猫のステロイド薬 による酵素誘導

病的

↓ 低下要因

  • 臨床的に意義のある低下は稀ですが、末期の重度肝不全で肝細胞そのものの量が減り、産生能が低下した結果としてわずかに低くなることがあります

AST(GOT)Aspartate Aminotransferase

肝細胞だけでなく筋肉や赤血球にも存在する酵素のため、上昇の原因が肝臓なのか筋肉なのかを見極める際にはCK(クレアチンキナーゼ)と併せて評価します。

↑ 上昇要因

  • 肝細胞障害(ALTと同様の原因)
  • 筋肉の損傷(激しい運動、外傷、筋肉注射部位の反応)
  • 強い溶血のある検体(赤血球内の酵素が漏出するため測定上の偽高値になりやすい)

↓ 低下要因

  • 臨床的に意義のある低下は乏しいとされています

ASTのみが上昇しCKが正常であれば肝臓由来、AST・CKがともに上昇していれば筋肉由来の可能性が高くなるというように、他の項目と組み合わせて解釈されます。

ALPAlkaline Phosphatase

肝臓・骨・副腎皮質ステロイドの影響など、複数の由来(アイソザイム)を持つ酵素です。特に犬では、ステロイドの影響を受けやすいという特徴があります。

↑ 上昇要因

生理的

  • 成長期の骨代謝が活発な若齢動物(骨由来のALP)

病的

↓ 低下要因

  • 臨床的に意義のある低下は乏しいとされています

犬猫差 ステロイド誘導性ALPアイソザイムは犬に特有の反応で、猫にはこのタイプの上昇はほとんど見られません。猫でALPが上昇する場合は、胆道系疾患や 肝リピドーシス No.028 猫の肝リピドーシス をより強く疑う根拠になります。

GGTγ-GTP/γ-グルタミルトランスペプチダーゼ

ALPと同様に胆汁うっ滞を反映する酵素ですが、ステロイドの影響を受けにくく、より胆道系に特異的とされています。

↑ 上昇要因

  • 胆汁うっ滞(胆管閉塞、胆管炎)
  • 膵炎に伴う胆管の圧迫
  • 猫における多くの胆道系疾患

↓ 低下要因

  • 臨床的に意義のある低下は乏しいとされています

犬猫差 猫の 肝リピドーシス(脂肪肝) No.028 猫の肝リピドーシス では、ALPが著明に上昇する一方でGGTの上昇は軽度にとどまるという特徴的な乖離がみられ、他の胆道疾患との鑑別の手がかりとされています。

ILLUSTRATION 4

「肝細胞障害型」と「胆汁うっ滞型」の見分け方

肝細胞障害型パターン
胆汁うっ滞型パターン
ALT・AST:優位に上昇
ALP・GGT:軽度〜正常範囲
肝細胞そのものが壊れて内容物が漏れ出すイメージ
代表例:急性肝炎、中毒性肝障害
ALP・GGT:優位に上昇
ALT・AST:軽度〜正常範囲、ビリルビンも上昇しやすい
胆汁の流れが滞るイメージ
代表例:胆管閉塞、胆泥症、胆管炎
実際にはどちらかに完全に分かれるとは限らず、両方の性質を併せ持つ「混合型」もしばしば見られる。

総ビリルビンTotal Bilirubin

赤血球(ヘモグロビン)が分解されてできる黄色い色素で、肝臓で処理され胆汁として排泄されます。どの段階で滞っているかによって原因が変わります。→黄疸 No.017 犬と猫の黄疸

↑ 上昇要因

肝前性(産生過剰)

  • 溶血の亢進(免疫介在性溶血性貧血、寄生虫感染など)によりビリルビンの産生量が処理能力を上回る

肝性

  • 肝細胞での取り込み・抱合能の低下(重度の肝炎、肝不全)

肝後性(排泄障害)

  • 胆道の閉塞(胆石、腫瘍による圧迫、胆泥症)

生理的

  • 猫は長時間の絶食でわずかに上昇しやすい体質があるとされます

↓ 低下要因

  • 臨床的に意義のある低下は乏しいとされています

総蛋白・アルブミン・グロブリンTP / Albumin / Globulin

血液中の蛋白質は、主に肝臓で作られる「アルブミン」と、免疫グロブリンなどを含む「グロブリン」に大別されます。総蛋白はこの2つの合計値です。

↑ 上昇要因

総蛋白・グロブリン

  • 脱水による相対的な濃縮
  • 慢性炎症・感染症に伴うグロブリン産生の増加(高グロブリン血症)
  • 猫の伝染性腹膜炎(FIP) NO.019 猫のFIP でみられる著しい高グロブリン血症
  • 骨髄腫などモノクローナルな免疫グロブリン産生

アルブミン

  • 脱水による相対的な濃縮がほぼ唯一の上昇要因です

↓ 低下要因

アルブミン

  • 出血や滲出液としての体外喪失
  • 肝不全による合成能の低下
  • 蛋白喪失性腎症(腎臓からの喪失)、蛋白喪失性腸症(消化管からの喪失)
  • 栄養不良、重度熱傷、慢性炎症(炎症時に優先順位が下がる蛋白のひとつ)

グロブリン

  • 免疫不全状態
  • 初乳を十分に摂取できなかった新生子にみられる移行抗体不足

第4章

腎機能・電解質関連の検査値

腎臓は老廃物の排泄だけでなく、水分バランス・電解質・血圧の調整にも関わっており、多くの項目に影響を及ぼします。

BUN(尿素窒素)Blood Urea Nitrogen

蛋白質の代謝過程で肝臓が作り、腎臓から排泄される老廃物です。腎臓だけでなく、食事内容や消化管の状態にも影響を受けます。

↑ 上昇要因

生理的・その他

  • 高蛋白食の摂取後
  • 消化管出血(消化管内の血液由来の蛋白が分解されることでBUNが上昇しやすい)

腎前性

  • 脱水、出血性ショックや心不全による腎血流量の低下

腎性・腎後性

↓ 低下要因

  • 肝不全(尿素の合成能が低下するため)、門脈体循環シャント
  • 低蛋白食、多尿による希釈
  • 若齢動物にみられる軽度の低値傾向

クレアチニンCreatinine

筋肉の代謝で一定量産生され、腎臓の糸球体でろ過されて排泄される老廃物です。食事の影響を受けにくく、BUNよりも腎機能をより特異的に反映するとされています。

↑ 上昇要因

↓ 低下要因

  • 筋肉量の少ない個体(高齢による筋肉の減少、小型犬・猫)
  • 妊娠に伴う糸球体濾過量の生理的な増加

クレアチニンは筋肉量の影響を強く受けるため、筋肉が少ない痩せた個体では、実際には腎機能が低下していても数値上は正常範囲に収まってしまう(見かけ上良く見える)ことがある点に注意が必要です。

SDMASymmetric Dimethylarginine

クレアチニンと同様に腎臓から排泄される物質ですが、筋肉量による影響を受けにくく、より早期の腎機能低下を鋭敏に検出できるとされる比較的新しい指標です。

↑ 上昇要因

  • 早期の腎機能低下(糸球体濾過量の低下をクレアチニンより早い段階で反映するとされる)
  • 脱水などクレアチニンと共通する腎前性の要因

↓ 低下要因

  • 臨床的に特筆すべき低下要因は乏しいとされています

犬猫差 筋肉量が少なくなりがちな高齢の猫や小型犬において、クレアチニンでは見逃されやすい早期の腎機能低下をSDMAが先に検出できる場合があるとされ、クレアチニンと併せて評価されることが増えています。

ILLUSTRATION 5

高窒素血症を「どこで起きているか」で3つに分ける

BUN・クレアチニン上昇
(高窒素血症)
腎前性
腎性
腎後性
腎臓に届く血流そのものが不足している状態。

代表例
脱水、出血性ショック、心拍出量低下(心不全)

尿の濃縮能は保たれていることが多い。
腎臓の組織そのものに障害がある状態。

代表例
慢性腎臓病、急性腎障害(中毒・感染・虚血など)

尿の濃縮能が低下していることが多い。
尿の通り道が塞がれている・破れている状態。

代表例
尿道閉塞(特に猫の雄)、尿管結石、膀胱破裂

排尿困難・血尿などの症状を伴うことが多い。
3つは併存することもあり、例えば長期間の腎後性閉塞が二次的に腎臓そのものを傷める、といった移行も起こり得る。

ナトリウムNa

体内の水分バランスと密接に関わる電解質で、ナトリウムそのものの増減よりも「水分に対する相対的な濃度」として動くことが多い項目です。

↑ 上昇要因

  • 水分摂取の制限・アクセス不可
  • 嘔吐・下痢による水分喪失がナトリウム喪失を上回る場合
  • 尿崩症、高張液の投与

↓ 低下要因

  • 嘔吐・下痢によるナトリウムの喪失
  • 副腎皮質機能低下症(アジソン病 No.009 犬と猫の副腎 :アルドステロン不足によるナトリウム喪失とカリウム貯留)
  • うっ血性心不全・肝不全・腎疾患に伴う体液貯留による希釈
  • 過剰な飲水

カリウムK

主に細胞内に存在する電解質で、心臓の電気的な活動に直結するため、急激な変動は不整脈などの重篤な症状につながります。

↑ 上昇要因

検体・技術的

  • 検体の溶血(赤血球内のカリウムが漏出するため偽高値になりやすい)

↓ 低下要因

  • 食欲不振・嘔吐・下痢による喪失
  • 慢性腎臓病 No.026 犬と猫の腎臓(尿生成編) に伴う尿中への喪失(猫で顕著な傾向)
  • インスリン投与後の細胞内への移動、利尿薬の投与
  • 代謝性アルカローシス

クロールCl

多くの場合ナトリウムと同じ方向に動きますが、酸塩基平衡(体の酸性・アルカリ性のバランス)との関わりで独自の意味を持つこともあります。

↑ 上昇要因

  • 脱水による相対的な濃縮
  • 代謝性アシドーシスの代償として生じる高クロール性の変化

↓ 低下要因

  • 嘔吐(特に胃内容物の喪失により、クロールと水素イオンが失われ代謝性アルカローシスを伴いやすい)
  • 利尿薬の投与

リンP(無機リン)

骨代謝や腎機能と密接に関わるミネラルで、カルシウムとバランスを取りながら調整されています。

↑ 上昇要因

生理的

  • 成長期の若齢動物(骨代謝が活発なため)

病的

  • 腎臓病による排泄能の低下、尿路閉塞
  • 甲状腺機能低下症 No.024 犬の甲状腺
  • 骨腫瘍など骨破壊を伴う疾患、ビタミンD過剰

↓ 低下要因

  • 摂食不良・慢性的な栄養不良
  • 原発性上皮小体機能亢進症(PTH過剰によるリン排泄の促進)
  • インスリン投与後の細胞内への移動
  • 腎尿細管でのリン再吸収障害

カルシウムCa

骨・神経・筋肉の働きに欠かせないミネラルで、複数のホルモン(上皮小体ホルモン、ビタミンDなど)によって厳密に調整されています。

↑ 上昇要因

  • 悪性腫瘍随伴性高カルシウム血症(リンパ腫、肛門嚢腺癌などで比較的頻度が高い)
  • 原発性上皮小体機能亢進症
  • ビタミンD中毒(殺鼠剤の誤食など)
  • 成長期の若齢動物にみられる生理的な高値

↓ 低下要因

  • 子癇(分娩後の低カルシウム血症、特に小型犬種で報告が多い)
  • 急性膵炎、進行した慢性腎臓病
  • 上皮小体機能低下症

検体・技術的

  • 採血管内でEDTAがカルシウムをキレートすることによる測定上の偽低値

第5章

代謝・内分泌関連の検査値

エネルギー代謝やホルモンバランスを反映する項目群です。食事のタイミングや興奮状態など、日常的な要因の影響も受けやすいのが特徴です。

血糖(グルコース)Glucose

エネルギー源となる糖の血中濃度で、インスリンをはじめとする複数のホルモンによって調整されています。

↑ 上昇要因

生理的

  • 食後の一過性上昇
  • ストレス・興奮によるカテコラミン由来の一過性高血糖(診察時の猫で特に顕著)

病的

↓ 低下要因

  • インスリノーマ(インスリンを産生する腫瘍)
  • 重度の肝不全(糖新生能の低下)
  • 敗血症、 副腎皮質機能低下症(アジソン病) No.009 犬と猫の副腎
  • 体の小さな子犬にみられる絶食耐性の低さに伴う低血糖
  • インスリンの過量投与

犬猫差 猫は診察や保定によるストレス性の一過性高血糖が非常に起こりやすく、糖尿病との鑑別には尿糖の有無や、より長期の指標(後述の血糖以外の指標)と併せた評価が重要とされています。

総コレステロールT-Cho

脂質代謝の状態や、複数の内分泌疾患の影響を反映する項目です。

↑ 上昇要因

↓ 低下要因

  • 肝不全による合成能の低下
  • 蛋白喪失性腸症、慢性的な栄養不良

トリグリセリド中性脂肪 / TG

脂肪の貯蔵・運搬に関わる脂質で、食事の影響を非常に強く受ける項目です。

↑ 上昇要因

  • 採血前の絶食が不十分だった場合(最も頻度の高い原因)
  • 膵炎
  • 甲状腺機能低下症、糖尿病、副腎皮質機能亢進症などの内分泌疾患
  • ミニチュア・シュナウザーにみられる家族性高脂血症

↓ 低下要因

  • 臨床的に意義のある低下は乏しく、重度の栄養不良でみられる程度です

トリグリセリドの評価では、採血前に十分な絶食時間(一般的に10〜12時間程度)が取れていたかどうかが結果の解釈に大きく影響します。

甲状腺ホルモンT4

代謝速度を調節するホルモンで、犬と猫で問題になる方向が対照的なのが特徴的な項目です。

↑ 上昇要因

  • 猫の甲状腺機能亢進症 No.023 猫の甲状腺 (高齢の猫で非常に頻度の高い内分泌疾患)
  • 甲状腺ホルモン製剤の過剰投与

↓ 低下要因

  • 犬の甲状腺機能低下症(中年以降の犬で比較的多くみられる)
  • 重篤な全身疾患に伴う二次的な低下(甲状腺自体は正常でも、体調不良時に一時的に値が下がることがある)

犬猫差 「犬は機能低下症、猫は機能亢進症」がそれぞれ代表的な甲状腺疾患とされ、同じT4という項目でも、犬と猫では臨床的に注目される変動の方向が逆になる点が特徴的です。

第6章

膵臓・筋肉関連の検査値

急性の腹部症状や運動器の異常が疑われるときに参照される項目です。

膵特異的リパーゼ・アミラーゼcPL / fPL / Amylase / Lipase

膵臓の炎症(膵炎)を評価するための項目です。従来型のアミラーゼ・リパーゼは膵臓以外の影響も受けやすいため、近年は膵臓により特異的な「膵特異的リパーゼ」(犬はcPL、猫はfPL)が優先して用いられる傾向にあります。

↑ 上昇要因

  • 急性・慢性の膵炎
  • 腎臓病に伴う排泄能低下による二次的な軽度上昇(特に従来型のアミラーゼ・リパーゼで目立つ)
  • 消化管疾患や腹腔内の他の炎症性疾患でも軽度に上昇することがある

↓ 低下要因

  • 臨床的に意義のある低下は乏しいとされています

従来型のアミラーゼ・リパーゼは腎機能や他臓器の状態にも左右されやすく特異性が低いため、膵炎が疑われる場合には膵特異的リパーゼ(cPL/fPL)を用いた評価がより信頼性が高いとされています。

CKクレアチンキナーゼ

骨格筋や心筋に多く含まれる酵素で、筋肉が損傷を受けると血液中に漏れ出します。

↑ 上昇要因

  • 筋肉の物理的な損傷(外傷、手術、激しい運動、痙攣発作の後)
  • 筋肉注射の部位反応
  • 横紋筋融解症、心筋の障害

↓ 低下要因

  • 臨床的に意義のある低下は乏しいとされています

第3章で触れたASTと同時にCKも上昇している場合は、AST上昇の原因が肝臓ではなく筋肉である可能性を考える手がかりになります。

第7章

組み合わせで読む検査値

ここまで項目ごとに解説してきましたが、実際の検査結果は複数の項目を組み合わせて読むことで、より意味のある解釈につながります。代表的な組み合わせの考え方を紹介します。

脱水の評価

ヘマトクリットの上昇は「本当に脱水で血液が濃縮しているのか」「興奮による脾臓収縮で赤血球が動員されただけなのか」の2通りが考えられます。ここで手がかりになるのが総蛋白(またはアルブミン)です。

ヘマトクリット↑ + 総蛋白↑ 水分だけが失われて血液全体が濃縮している状態と考えられ、脱水を積極的に疑う組み合わせです。

ヘマトクリット↑ + 総蛋白は正常 赤血球だけが選択的に動員された状態と考えられ、興奮や緊張による脾臓収縮の影響である可能性が高くなります。

肝疾患パターンの総合判断

第3章で紹介した「肝細胞障害型」と「胆汁うっ滞型」の分類に加えて、肝臓の機能そのもの(合成能・解毒能)がどれだけ保たれているかを評価するには、酵素以外の項目も重要になります。アルブミンやBUN、コレステロールは肝臓で作られたり処理されたりするため、重度の肝不全ではこれらが低下し、逆にビリルビンは上昇するという組み合わせが特徴的です。酵素の上昇度合いだけでなく、こうした肝臓の「働き」を示す項目も含めて総合的に評価することで、単なる一時的な肝細胞の炎症なのか、肝臓の機能そのものが損なわれた状態なのかを区別する手がかりが得られます。

腎疾患の進行評価

腎臓病は多くの場合、単発の検査値よりも経時的な変化(トレンド)で評価されます。BUN・クレアチニン・SDMAが徐々に上昇する経過に加えて、進行するとリンが上昇し、さらに進行するとカルシウムやカリウムのバランスにも影響が及ぶことがあります。特にクレアチニンは同じ個体で継続的に測定することで、たとえ基準範囲内であっても「上昇傾向にあるかどうか」自体が早期発見の手がかりになるとされています。

ストレス・興奮の影響(特に猫)

第1章・第2章・第5章で触れたように、ストレスや興奮は白血球分画(好中球↑・リンパ球↓・好酸球↓)と血糖値(一過性の上昇)の両方に同時に影響することがあります。特に慣れない環境や保定に強く反応する猫では、この組み合わせが「炎症性疾患」や「糖尿病」と紛らわしく見えることがあるため、症状や経過、可能であれば落ち着いた環境での再検査と合わせて判断することが重要とされています。

第8章

犬と猫の違い 総まとめ

本書の中で触れてきた犬と猫の違いを、項目横断的に一覧としてまとめました。

種差まとめ表

テーマ
ストレス・興奮の影響 猫に比べると影響は穏やかな傾向 白血球分画・血糖値ともに影響を強く受けやすい
血小板の測定 比較的凝集しにくい 採血・検体調製時に凝集しやすく、偽性低値に注意
ALPのステロイド誘導 特徴的にみられる(クッシング症候群の指標にも) ほとんどみられない
肝疾患での酵素パターン 一般的な肝細胞障害型・胆汁うっ滞型の分類が当てはまりやすい 肝リピドーシスでALPがGGTに比べ著明に上昇する特徴的な乖離がみられる
腎機能評価 慢性腎臓病はみられるが猫ほど頻度は高くない 慢性腎臓病の頻度が非常に高く、SDMAの活用価値が大きい
甲状腺疾患の方向性 機能低下症が代表的 機能亢進症が代表的(高齢猫で多い)
網赤血球の分類 単一の集団として評価 凝集型・点状型の2種類に分類して評価
犬種・猫種特有の傾向 グレーハウンドのヘマトクリット高値、ミニチュア・シュナウザーの高脂血症、キャバリアの血小板減少など 純血種特有の傾向は犬ほど多く報告されていない

同じ検査項目であっても、犬と猫では「注目すべき変動の方向」や「頻度の高い原因」が異なる場合が少なくありません。血液検査を読み解く際は、項目の一般的な生理学的意味に加えて、対象となる動物種・犬種猫種・年齢・状況を踏まえた総合的な視点が欠かせません。