Introduction

はじめに ― 鼓動を読むということ

洞結節に生まれた1つの興奮が、0.2秒あまりで心臓全体を巡り、拍動という仕事に変わる。本書は犬と猫の心臓を、生理学・組織学・病理学・薬理学の四つの層から通して読み解く電子ブックです。

心臓は、生涯にわたり休むことなく拍動を刻み続ける唯一の臓器である。犬と猫の臨床現場において、聴診器越しに聞こえる雑音や、心電図に現れる波形の乱れは、その奥にある構造と電気系のどこかに生じた変化を映す鏡にすぎない。本書は、その鏡の裏側――ポンプとしての生理、組織としての構築、病としての破綻、そして薬による是正――を、一つの流れとして通して読めるように構成した。

本書は四つの章で構成される。第一章「生理学」では、心臓がどのように血液を送り出し、そのリズムがどう作られ調節されているかを扱う。第二章「組織学」では、心臓壁・心筋細胞・弁膜・刺激伝導系といった、拍動を支える組織の顕微鏡的構造を図解する。第三章「病理学」では、犬と猫でそれぞれ特徴的な心疾患と、その行き着く先であるうっ血性心不全を整理する。第四章「薬理学」では、実際の治療薬がどの病態・どの調節経路に作用するのかを、作用点ごとに図解する。

種差ポイント

犬と猫は同じ「小動物」として一括りにされがちだが、心臓病の臨床像は大きく異なる。犬の後天性心疾患は僧帽弁粘液腫様変性(MMVD)が圧倒的多数を占め、雑音を手がかりに早期から病期を追いやすい。一方、猫では肥大型心筋症(HCM)が中心となり、雑音を伴わないまま進行することも珍しくない。本書では各章でこの種差を繰り返し取り上げる。

本書について

本書は教育目的の一般的な解説資料であり、個々の症例に対する診断・治療方針は必ず担当獣医師の判断に従うこと。薬剤名・用量に関する記載は薬理作用の理解を助けるための例示であり、処方情報として用いないこと。

Physiology

第一章 生理学 ― 心臓はどう動いているか

心臓は心拍出量という仕事量と、それを生み出す刺激伝導系という2つの軸で理解できる。血液を送り出す仕組みと、そのリズムを生み出し調節する仕組みを追う。

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心臓の構造とポンプ機能

犬と猫の心臓は、2つのポンプが1つの筋肉の塊に同居した臓器である。右心系は肺へ、左心系は全身へ血液を送り、この2系統が心房中隔・心室中隔で仕切られながら同じリズムで拍動する。

心臓は4つの部屋からなる。血液を受け取る心房(右心房・左心房)は薄い壁を持つ低圧の部屋で、主な役割は心室が拡張する直前に血液を「押し込む」ポンプ・プライマーである。血液を送り出す心室(右心室・左心室)は厚い壁を持ち、実際に血液を拍出する主ポンプとなる。左心室は全身循環という高圧回路を担うため、右心室よりも壁が著しく厚く、断面はほぼ円形をしている。右心室は低圧の肺循環を担うため壁は薄く、三日月状に左心室に巻きつくような断面を示す。

心臓のポンプ回路模式図:全身循環と肺循環の流れ 肺 (ガス交換:CO₂→O₂) 右心房 RA 右心室 RV・肺循環へ 三尖弁 左心房 LA 左心室 LV・全身循環へ 僧帽弁 全身組織 (酸素消費・CO₂排出) 大静脈(静脈血) 肺動脈 肺静脈(動脈血) 大動脈
図1-1静脈血(青)は大静脈から右心系・肺を経て動脈血(赤)となり、左心系から大動脈へ拍出される。右心系は低圧の肺循環、左心系は高圧の全身循環を担当する2階建て構造。

4つの弁 ― 一方向弁としての役割

血液の逆流を防ぐ4つの弁は、いずれも心臓の線維骨格(弁輪)に支持された結合組織性の構造物である。房室弁である三尖弁(右)と僧帽弁(二尖弁)(左)は、心室収縮時に腱索と乳頭筋によって支えられ、心房側への翻転(逸脱)を防ぐ。動脈弁である肺動脈弁大動脈弁は3尖の半月弁で、腱索を持たず、拡張期に逆流を防ぐポケット状の弁尖のみで機能する。犬の後天性心疾患で最も頻度が高い僧帽弁粘液腫様変性は、まさにこの僧帽弁の弁尖・腱索の変性である。

臨床への接続

聴診で最強点が異なるのは、この解剖学的配置を反映している。僧帽弁の逆流性雑音は左第5肋間下部(心尖部)で、大動脈弁狭窄の駆出性雑音は左第4肋間の心基部で最強となることが多い。弁の位置と聴診部位の対応を意識すると、雑音の由来弁を推定しやすくなる。

心膜と心臓の位置

心臓は線維性心膜と漿膜性心膜(壁側板・臓側板)からなる心膜腔に包まれ、少量の心膜液が摩擦を減らす。心膜腔に液体や血液が病的に貯留すると心タンポナーデとなり、心室拡張が制限されて心拍出量が急激に低下する。犬猫では胸腔内で心臓はやや左寄りに位置し、胸骨に近い第3〜6肋間に心基部から心尖部までが収まる。

1-2

心周期 ― 収縮と拡張のタイムライン

1回の拍動は、圧・容量・弁の開閉・心音・心電図が精密に同期したタイムラインである。この同期のどこが崩れるかを理解することが、心雑音や不整脈を読むための土台になる。

心周期は大きく収縮期(シストーレ)拡張期(ダイアストーレ)に分かれ、さらに以下の4つの局面に分解できる。

  1. 等容性収縮期:僧帽弁・三尖弁が閉じた直後、心室が収縮を始めるが大動脈弁・肺動脈弁はまだ閉じているため容積は変化せず、心室内圧だけが急上昇する。
  2. 駆出期:心室内圧が大動脈圧・肺動脈圧を超えると動脈弁が開き、血液が拍出される。前半は急速駆出、後半は緩徐駆出。
  3. 等容性弛緩期:動脈弁が閉じた直後、房室弁もまだ閉じているため容積は変化せず、心室内圧だけが急降下する。
  4. 充満期:房室弁が開いて血液が心室に流入する。前半は圧較差による急速充満、後半は緩徐充満、心房収縮による最後の一押し(心房キック)で終わる。
ウィッガース図:大動脈圧・心室圧・心房圧・心室容積・心電図・心音の時間経過 等容性収縮 駆出期 等容性弛緩 充満期 S1 S2 大動脈圧 左心室圧 左心房圧 心室容積 心電図 圧・容量
図1-2ウィッガース図の簡略版。S1(僧帽弁・三尖弁閉鎖音)は等容性収縮の開始、S2(大動脈弁・肺動脈弁閉鎖音)は駆出期の終了を告げる。心室圧が心房圧・大動脈圧のどちらより高いかで、どの弁が開閉するかが決まる。

心音 ― 弁の閉鎖が生む音

心音の実体は弁の開放ではなく、弁が閉じる際の振動である。S1は等容性収縮期の開始時に房室弁(僧帽弁・三尖弁)が閉じる音、S2は等容性弛緩期の開始時に動脈弁(大動脈弁・肺動脈弁)が閉じる音である。急速充満期の異常な血流やこわばった心室壁が原因で聞こえるS3(拡張早期奔馬音)や、心房収縮による血流が硬い心室に流入する際のS4は、犬猫では正常では聴取されにくく、聴取される場合は心筋の伸展性低下やうっ血性心不全を示唆する重要な所見となる。

奔馬調律(ギャロップリズム)

猫のHCM(肥大型心筋症)ではS4が、犬のDCM(拡張型心筋症)や進行した心不全ではS3が聴取されやすい。頻脈と重なって「ギャロップ(馬の駆け足)」のように聞こえることからこの名がある。

1-3

刺激伝導系とECGの基礎

拍動のリズムは、洞結節という「自然発火するペースメーカー細胞の集団」から始まる電気信号が、決まった配線をたどって心筋全体に伝わることで生まれる。

興奮の伝導経路は次の順にたどる。

  1. 洞結節(SA結節):右心房の上大静脈開口部付近にあるペースメーカー。最も速く自発的に脱分極するため、正常では常にここが心臓全体のリズムを決める「歩調取り」となる。
  2. 心房内・結節間伝導路:興奮が心房筋を伝わり、両心房が収縮する。
  3. 房室結節(AV結節):心房と心室の境界(線維骨格)を貫通できる唯一の伝導路。ここで意図的に伝導を遅延させ、心房収縮が完了してから心室が収縮するよう「間(ま)」を作る。
  4. ヒス束・左脚右脚:心室中隔を高速で下行する伝導路。
  5. プルキンエ線維:心内膜側から心筋全体に興奮を拡散させる末端網。これにより心室全体がほぼ同時に収縮できる。
刺激伝導系の模式図とそれに対応する心電図波形 刺激伝導系(模式) 心房 心室 ① 洞結節(SA) ② 房室結節(AV) ③ ヒス束 左脚 右脚 ④ プルキンエ線維 P PR間隔(房室結節の遅延) QRS T P波=心房脱分極 / QRS=心室脱分極 / T波=心室再分極
図1-3洞結節①→房室結節②→ヒス束③→プルキンエ線維④の順で興奮が伝わり、心電図上ではP波→(PR間隔)→QRS波→T波として記録される。房室結節での遅延がPR間隔の正体。
なぜ房室結節でわざと遅らせるのか

心房収縮で心室を「満タン」にしてから心室が収縮しないと、1回拍出量が失われる。房室結節の伝導遅延(約0.1秒前後)は、心房のポンプ仕事を心室の充満に活かすための、進化的に理にかなった「間」である。

異所性ペースメーカーと歩調取りの階層

洞結節が最も速く発火するため通常はこれが心臓全体を支配するが、心房・房室結節接合部・心室のプルキンエ線維網にもそれぞれ固有の自動能(バックアップの発火能力)があり、発火頻度は洞結節>心房>接合部>心室固有調律の順に遅くなる。洞結節の機能が低下したり(病的洞機能不全症候群)、伝導がブロックされたりすると、これら下位の歩調取りが遅いリズムで心臓を支える(補充調律)。第3章の不整脈で詳しく扱う。

1-4

心拍出量の調節

心拍出量(CO)は心臓というポンプの総合的な「仕事量」であり、心不全の薬理学(第4章)を理解するための中心的な指標になる。

心拍出量は次の式で表される。

CO(心拍出量) = HR(心拍数) × SV(1回拍出量)

心拍数は主に自律神経が、1回拍出量は前負荷後負荷収縮力という3つの独立した要因が調節する。

前負荷 ― フランク・スターリングの法則

前負荷とは、心室が収縮を始める直前にどれだけ引き伸ばされているか(拡張末期容積・拡張末期圧)を指す。心筋も骨格筋と同様、ある範囲内では引き伸ばされるほど(=心筋線維が長くなるほど)、次の収縮でより強い力を発揮する。これがフランク・スターリングの法則であり、静脈還流量が増えれば自動的に拍出量が増えるという、心臓が持つ精妙な自己調節機構である。

フランク・スターリング曲線:前負荷と1回拍出量の関係、収縮力による曲線シフト 前負荷(拡張末期容積・肺毛細血管楔入圧) 1回拍出量(SV) 収縮力↑(ピモベンダン等) 正常 収縮力↓(DCM等) うっ血域(肺水腫のリスク)
図1-4前負荷が増えるほど1回拍出量は増えるが、心不全では曲線全体が右下方へシフトし、同じ前負荷でも拍出量が低下する一方、肺うっ血のリスクは高いままになる。強心薬(ピモベンダン等)は曲線を左上方へシフトさせる。

後負荷

後負荷とは、心室が血液を拍出する際に打ち勝たなければならない抵抗であり、大動脈圧・肺動脈圧や末梢血管抵抗、そして大動脈弁狭窄のような解剖学的な閉塞がこれに含まれる。後負荷が高いほど同じ収縮力でも1回拍出量は減少する。ACE阻害薬や血管拡張薬は主にこの後負荷を下げることで心臓の仕事を助ける。

収縮力(心筋収縮性)

前負荷・後負荷が同じでも、心筋細胞そのものが強く収縮できるかどうかで1回拍出量は変わる。収縮力は交感神経刺激(β1受容体を介した細胞内Ca²⁺動態の亢進)で増強し、心筋症など心筋細胞そのものの障害で低下する。ピモベンダンのような強心薬は、この収縮力を直接高める薬理作用を持つ。

自律神経による心拍数の調節

洞結節の発火頻度は自律神経の綱引きで決まる。交感神経はノルアドレナリンを介してβ1受容体を刺激し、心拍数と収縮力を高める。副交感神経(迷走神経)はアセチルコリンを介してM2受容体を刺激し、心拍数を抑える。安静時の犬猫では副交感神経(迷走神経)の緊張が優位であり、これが後述する犬の呼吸性洞性不整脈の背景にもなっている。

1-5

犬と猫の生理学的な違い

同じ4室2ポンプの構造を持ちながら、犬と猫の心臓は臨床の現場では驚くほど違う顔を見せる。この違いを知らないと、猫の正常を犬の物差しで異常と誤診してしまう。

犬と猫の心血管生理・診察所見の比較
項目
安静時心拍数の目安小型〜中型で概ね70〜140回/分、大型・超大型ではより遅い傾向概ね140〜220回/分と犬よりかなり速い
呼吸性洞性不整脈安静時によく見られる正常所見(迷走神経緊張が高い)通常はほとんど見られず、目立てばむしろ異常を疑う
診察室でのストレス反応比較的軽度なことが多い「白衣性頻脈」が非常に強く出やすく、心拍数だけで病的かどうか判断しにくい
代表的な奔馬音S3が拡張型心筋症・進行した心不全で聴取されやすいS4が肥大型心筋症で聴取されやすい
代表的な後天性心疾患僧帽弁粘液腫様変性(MMVD)が圧倒的多数肥大型心筋症(HCM)が圧倒的多数
心雑音の心疾患との相関雑音の強さと病態の進行度がある程度対応しやすい重度のHCMでも雑音を伴わないことが珍しくない(無雑音性HCM)
血栓塞栓症のリスク比較的まれHCMに伴う左心房拡大から動脈血栓塞栓症(ATE・鞍状血栓)のリスクが高い
種差がもたらす診断の落とし穴

猫は診察台の上での心拍数が容易に200回/分を超えるため、頻脈だけを根拠にHCMや甲状腺機能亢進症を疑うのは危険である。逆に、猫で聴診上まったく雑音がないからといってHCMを否定することもできない。犬では若齢〜中年の小型犬に聞こえる収縮期雑音の多くはMMVDの早期像であることが多く、種と年齢・体格を踏まえた確率的な読み方が求められる。

体格差も生理に直結する。超大型犬は心拍数が生理的に遅く、体表面積あたりの心拍出量を保つために1回拍出量を大きくする方向に適応している。一方、猫は体が小さく心拍数を高く保つことで心拍出量を確保しており、この違いは薬物の投与量や心拍数への反応性(例えばβ遮断薬の効き方)にも影響する。

Q. 診察台の上で心拍数220回/分だった猫に、まず行うべき最も妥当な考え方はどれか?

Histology

第二章 組織学 ― 顕微鏡で見る心臓

心臓壁、心筋細胞、弁膜、そして刺激伝導系。第一章で見た機能は、いずれも特定の組織構築のうえに成り立っている。

2-1

心臓壁の3層構造

心臓の壁は、内側から心内膜・心筋層・心外膜という性質のまったく異なる3枚の層が積み重なった複合構造である。この積層を理解すると、心内膜炎・心筋症・心膜炎という「層ごとに違う病名」の理由が見えてくる。

心臓壁の断面:心内膜・心筋層・心外膜・心膜腔の積層構造 心内膜(内皮+結合組織) 心筋層(myocardium)― 心臓の主体、収縮を担う 心外膜(漿膜性心膜・臓側板) 心膜腔(少量の心膜液) 壁側心膜(線維性心膜) 内腔側 → 外側
図2-1血液に接する心内膜、実際に力を発生する心筋層、心臓を包む心外膜(漿膜性心膜)。心膜腔を挟んでさらに外側を壁側心膜(線維性心膜)が覆う。

心内膜 ― 血液と接する最内層

心内膜は血管内皮と連続する単層扁平上皮と、その下の疎性結合組織からなる薄い層で、弁もこの心内膜が肥厚・特殊化した構造物である。細菌性心内膜炎はこの層と弁膜に病変の主座を持つ。

心筋層 ― 心臓の主役

心筋層は分岐しながら網目状に連結する心筋細胞(心筋線維)の集合体で、心臓の壁厚のほとんどを占める。心室では、らせん状に走る筋線維の層が幾重にも重なることで、単純な短縮だけでなく「絞る」ようなねじれ運動(トーション)を生み出し、効率よく血液を駆出する。心筋症(DCM・HCM)はこの心筋層そのものの疾患であり、名前の通り「筋肉の病気」である。

心外膜と心膜 ― 潤滑と保護

心外膜(漿膜性心膜の臓側板)は心筋層の表面を覆う薄い漿膜で、間皮細胞と結合組織、しばしば脂肪組織を含む。心臓の表面を走る冠動脈もこの層の中を走行する。心外膜は反転して壁側心膜(線維性心膜)となり、その間の心膜腔にわずかな心膜液を含むことで、拍動中の摩擦を最小化している。心膜疾患(心膜炎・心嚢水貯留)は、この最外層とその腔の病気として区別される。

層で覚える心臓の炎症性疾患

心内膜炎(弁膜中心)・心筋炎(筋層)・心膜炎(最外層と心膜腔)は、同じ「心臓の炎症」でも病変の主座となる層が異なり、原因・症状・治療方針もそれぞれ異なる。「どの層の病気か」を意識するだけで鑑別の見通しが良くなる。

2-2

心筋細胞の微細構造

心筋細胞は骨格筋と平滑筋のハイブリッドのような細胞で、横紋を持ちながら自動能と同期収縮という骨格筋にはない性質を兼ね備えている。その秘密は微細構造に刻まれている。

心筋細胞の微細構造:分岐、介在板、T管、ミトコンドリア、筋原線維 分岐して網目状に連結する心筋細胞 介在板 (Intercalated disk) ・接着結合/デスモソーム(機械的連結) ・ギャップ結合(電気的に興奮を伝える) ミトコンドリア(豊富・持久力に対応) 中心に1〜2個の核 横紋(サルコメア構造)
図2-2心筋細胞は隣接する細胞と介在板で強固に連結し、その中のギャップ結合が電気的興奮を細胞間で瞬時に伝える。これにより心筋は「機能的合胞体」として振る舞い、1つの興奮が心臓全体にほぼ同時に広がる。

ギャップ結合と「機能的合胞体」

介在板に存在するギャップ結合(コネキシン43などのチャネルタンパク質)は、隣接する心筋細胞の細胞質を直接つなぎ、活動電位を化学シナプスを介さず瞬時に伝える。この結果、心筋は解剖学的には別々の細胞でありながら、電気的には1つの塊であるかのように振る舞う――これを機能的合胞体と呼ぶ。心室が「ほぼ同時に」収縮できるのはこの仕組みのおかげである。

T管とカルシウム誘発性カルシウム放出

心筋細胞の細胞膜はT管(横行小管)としてZ帯付近で細胞内に陥入し、筋小胞体と密接する。活動電位がT管を伝わるとL型Ca²⁺チャネルが開口し、細胞外からのCa²⁺流入が引き金となって筋小胞体からさらに大量のCa²⁺が放出される(カルシウム誘発性カルシウム放出)。このCa²⁺がトロポニンCに結合し、アクチン・ミオシンの相互作用(収縮)を開始させる。ジギタリス製剤や強心薬の多くは、このCa²⁺動態のどこかに作用して収縮力を変化させる(第4章)。

2-3

弁膜の組織構造

弁尖は単なる「膜」ではなく、機能の異なる3層が積層した精巧な結合組織性構造物である。犬で最も頻度の高い心疾患は、まさにこの層構造が変性する病気である。

僧帽弁尖の正常組織構造と粘液腫様変性による層構造の乱れの比較 正常な弁尖 心房側:atrialis(弾性線維に富む) fibrosa:密なコラーゲン線維(強度の中心) spongiosa:プロテオグリカンに富む疎な層 心室側:ventricularis 粘液腫様変性(MMVD) spongiosaのプロテオグリカンが 過剰に蓄積し、fibrosaの コラーゲン構築が破壊される
図2-3正常な僧帽弁尖はfibrosa(コラーゲン)・spongiosa(プロテオグリカン)・atrialis/ventricularis(弾性線維)の層構造で強度と柔軟性を両立する。粘液腫様変性ではこの層構造が乱れ、弁尖が肥厚・伸長して閉鎖不全(逆流)を起こす。

弁尖の中心をなすfibrosaは密なⅠ型コラーゲン線維からなり、弁が受ける機械的張力に耐える骨格の役割を担う。心室側のspongiosaはグリコサミノグリカン・プロテオグリカンに富む疎な層で、拍動ごとの衝撃を吸収するクッションとして働く。心房側と心室側の表層(atrialis・ventricularis)は弾性線維に富み、弁尖のしなやかな変形を可能にする。

腱索は弁尖の遊離縁からfibrosaへと連続するコラーゲン性の索状構造で、乳頭筋の収縮と協調して弁尖が心房側へ翻転(逸脱)するのを防ぐ。僧帽弁粘液腫様変性(MMVD)では、spongiosaのプロテオグリカンが過剰に蓄積し、fibrosaのコラーゲン配列が乱れることで弁尖が肥厚・伸長し、腱索も脆弱化する。結果として弁尖が心房側へ膨隆・逸脱し、収縮期に逆流を生じる。これが第3章で扱う犬の最も一般的な後天性心疾患の組織学的な正体である。

2-4

刺激伝導系の組織学

刺激伝導系を構成する細胞は、収縮のための「働く心筋細胞」とは異なる、電気信号の発生・伝導に特化した特殊心筋細胞である。

作業心筋・刺激伝導系細胞の組織学的な違い
細胞の種類特徴役割
作業心筋細胞豊富な筋原線維、明瞭な横紋、規則正しい配列実際の収縮力を発生する
洞結節P細胞小型・淡染性、筋原線維に乏しい、細胞内Caクロックとイオンチャネルによる自発脱分極心臓全体の歩調取り(自動能)
移行細胞P細胞と作業心筋の中間の性質結節から周囲の心房筋へ興奮を橋渡し
房室結節細胞細く緩徐に伝導する特殊心筋意図的な伝導遅延(心房→心室の間)
プルキンエ線維太い細胞径、筋原線維に乏しく淡明、グリコーゲンに富む、豊富なギャップ結合高速伝導により心室全体をほぼ同時に興奮させる
プルキンエ線維と作業心筋細胞の組織学的な比較図 作業心筋細胞 筋原線維が密で細胞径は小さい プルキンエ線維 細胞径が太く、グリコーゲンに富み淡明。筋原線維は少ない
図2-4プルキンエ線維は作業心筋より細胞径が太く、細胞内グリコーゲンに富み、筋原線維が少ないため組織像では淡く抜けて見える。この太い細胞径と豊富なギャップ結合が、高速な興奮伝導を可能にしている。
なぜプルキンエ線維は「太く・淡く」見えるのか

伝導速度は細胞径にほぼ比例して速くなる(電気抵抗が下がるため)。プルキンエ線維は収縮そのものより「速く伝えること」に特化しているため、収縮装置(筋原線維)を減らして細胞径を太くし、代わりにグリコーゲンを蓄えたエネルギー予備の高い細胞になっている。HE染色標本で淡明に抜けて見えるのはこのためである。

Pathology

第三章 病理学 ― リズムと構造が崩れるとき

犬と猫の心疾患の多くは、特定の年齢・犬種・品種に偏って現れる。原因疾患の分布は種によって大きく異なり、放置すれば拍動そのものが立ち行かなくなる。

3-1

僧帽弁粘液腫様変性(MMVD)

犬の後天性心疾患のうち最も頻度が高く、特に小型犬の高齢期にはごく一般的にみられる。第2章で学んだ弁尖の層構造の変性が、そのまま病態の出発点になる。

好発犬種

キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルは若齢から高率に発症することで知られ、そのほかチワワ、ダックスフンド、トイ・プードル、マルチーズなど小型〜中型犬種で加齢とともに有病率が上昇する。

MMVDの進行:弁尖逸脱と逆流ジェットによる左心房・左心室の拡大 正常な僧帽弁閉鎖 左心房 左心室 MMVD:弁尖逸脱と逆流 左心房(拡大) 左心室 逆流ジェット 弁尖の肥厚・逸脱 → 収縮期逆流 → 左心房圧上昇・左心房/左心室の容量負荷 → 拡大
図3-1粘液腫様変性で肥厚・伸長した弁尖は収縮期に心房側へ逸脱し、閉鎖不全から逆流を生じる。慢性の逆流は左心房・左心室の容量負荷性拡大を招き、進行すると左側うっ血性心不全(肺水腫)に至る。

病態生理と進行

逆流により左心房圧が上昇し、左心房は容量負荷に対応して拡大する。同時に左心室も逆流分を余分に拍出しなければならないため容量負荷性に拡大する。代償期には無症状のまま経過することが多いが、代償の限界を超えると左心房圧の上昇が肺静脈圧・肺毛細血管圧の上昇として伝わり、肺水腫(左側うっ血性心不全)を引き起こす。急性に腱索が断裂すると、代償の間もなく急激な肺水腫に陥ることがある。

身体検査所見

典型的には左心尖部を最強点とする収縮期逆流性雑音として聴取される。雑音の強さ(レバイン分類 I〜VI度)は疾患の重症度とある程度相関するが、絶対的な指標ではなく、心エコー検査による左心房/大動脈径比(LA:Ao)や左心室拡張末期径などの客観的評価が病期分類(3-7で詳述)の基本となる。

3-2

拡張型心筋症(DCM)

MMVDが「弁」の病気であるのに対し、DCMは心筋そのものの収縮力が低下する「筋肉」の病気であり、大型〜超大型犬種に多い。

好発犬種と背景因子

ドーベルマン・ピンシャー、グレート・デーン、アイリッシュ・ウルフハウンド、ニューファンドランドなど大型〜超大型犬種で頻度が高く、遺伝的要因(ドーベルマンにおけるタイチンやPDK4関連の遺伝子多型など)が報告されている。ボクサーでは不整脈原性右室心筋症(ARVC)という特殊な病型があり、心室性不整脈が前景に立つ。また、一部のアメリカン・コッカー・スパニエルではタウリン欠乏に関連するDCM様病態が知られ、近年は特定のグレインフリー(穀物不使用)フードとの関連が疑われる「食事関連性DCM」も調査が続く分野であり、品種・個体差を含め結論が一様ではない。

正常心とDCM心の左心室断面比較:壁厚と内腔の拡大、収縮率の低下 正常左心室(収縮期) 内腔 壁厚は十分、内腔はしっかり縮小 DCM左心室(収縮期) 拡大した内腔 壁は薄く伸展、収縮しても内腔が縮まらない
図3-2DCMでは心室壁が菲薄化し、収縮性(収縮力)が低下するため収縮期でも内腔が十分に縮小しない。図1-4のフランク・スターリング曲線でいう「収縮力↓」の状態そのものである。

病態生理

心筋収縮力の低下は1回拍出量を減少させ、代償的に心室が拡張して前負荷を高めることで拍出量を保とうとする(フランク・スターリングの法則による代償)。しかし心筋自体の収縮性低下がある以上、この代償には限界があり、慢性的な容量負荷はさらなる心室拡大と機能低下の悪循環を招く。多くは無症状の潜伏期(occult DCM)を経て、左側または両側のうっ血性心不全、あるいは不整脈による失神や突然死という形で表面化する。

スクリーニングの重要性

好発犬種では臨床症状が出る前の潜伏期に心エコー検査(短縮率・駆出率の評価)やホルター心電図検査でスクリーニングを行うことが推奨される。症状が出てから発見するのでは遅いという点が、MMVDとの臨床的なアプローチの違いでもある。

3-3

肥大型心筋症(HCM)

猫における最も頻度の高い心疾患であり、DCMとは対照的に心室壁が過剰に厚くなる病気である。犬のMMVDに匹敵する、猫の心臓病理学の中心的なテーマといえる。

好発品種と遺伝的背景

メインクーンではミオシン結合蛋白C遺伝子(MYBPC3)の変異が、ラグドールでも別のMYBPC3変異が原因の一つとして知られる。ただし雑種猫を含め幅広い猫で発症し、原因が特定されない特発性の症例も多い。

正常猫心とHCM猫心の左心室断面比較:求心性肥大による内腔狭小化 正常左心室 壁厚・内腔とも正常範囲 HCM左心室(求心性肥大) 壁が厚くなり内腔は狭小化(拡張機能が障害される)
図3-3HCMでは心室壁が求心性に肥厚し、内腔容積が減少する。収縮力自体はむしろ保たれることが多いが、硬く肥厚した壁のために拡張期に十分に拡がれず(拡張機能不全)、左心房圧が上昇しやすい。

拡張機能不全という病態の本質

HCMの主病態は収縮不全ではなく拡張機能不全である。肥厚し硬くなった心室壁は弛緩・伸展しにくく、同じ血液量を受け入れるためにより高い充満圧を必要とする。この左心室拡張末期圧の上昇が左心房へ、さらに肺静脈へと伝わり、うっ血や肺水腫、あるいは猫で特徴的な胸水貯留を招く。

左室流出路の動的閉塞(SAM)

一部のHCM症例では、収縮期に僧帽弁前尖が異常な血流に引き寄せられて左室流出路側へ移動し、流出路を動的に狭窄させる収縮期前方運動(SAM)が生じる。これは大動脈弁下狭窄に類似した血行動態を作り、駆出性雑音の原因ともなる。

動脈血栓塞栓症(ATE)― 猫のHCMで特に重要な合併症

拡大し血流がうっ滞した左心房(特に左心耳)では血栓が形成されやすく、これが遊離して全身の動脈を閉塞する動脈血栓塞栓症を起こす。大動脈が後肢へ分岐する部分(三分岐部)に詰まる「鞍状血栓」は特に有名で、突然の後肢麻痺・激しい疼痛・後肢のチアノーゼや冷感として発症する、猫のHCMにおける救急疾患である。

HCMという診断名は原発性(遺伝性・特発性)の心筋肥厚に対して用いられ、全身性高血圧や甲状腺機能亢進症による二次性の心肥大とは区別する必要がある。二次性の原因を除外することは、HCMの診断プロセスにおいて欠かせないステップである。

3-4

先天性心疾患

生まれつきの構造異常であり、無治療のまま成長すると多くは若齢期に心不全や運動不耐性として顕在化する。代表的な3つの疾患を、血行動態の観点から整理する。

動脈管開存症(PDA)

胎生期に肺動脈と大動脈を短絡させている動脈管が、出生後の閉鎖に失敗して残存した状態。犬で最も頻度の高い先天性心疾患であり、トイ・プードル、ポメラニアン、マルチーズ、ビションフリーゼなどの小型犬種で好発する。多くは大動脈から肺動脈への左→右短絡となり、肺循環への血液還流が過剰になることで左心房・左心室の容量負荷を来す。収縮期・拡張期を通して連続的に聞こえる特徴的な「連続性雑音(機械様雑音)」が特徴的所見である。まれに肺高血圧が進行して短絡が逆転(右→左短絡、アイゼンメンゲル化)すると、後半身にのみ低酸素血が及ぶ「差異性チアノーゼ」を呈するようになる。

肺動脈弁狭窄症

肺動脈弁の形成異常により右室流出路が狭窄し、右心室に圧負荷がかかる。ブルドッグ、ボクサーなどで好発する。右心室の求心性肥大を来し、重度例では右側心不全に至る。左心基部を最強点とする収縮期駆出性雑音が特徴。

大動脈弁下狭窄症(SAS)

大動脈弁の直下に線維性・線維筋性の隆起(狭窄輪)が形成され、左室流出路を狭窄する。ニューファンドランド、ゴールデン・レトリバー、ロットワイラーなど大型犬種で好発する遺伝性疾患とされる。左心室に圧負荷がかかり、求心性肥大を来す。重度例では失神や突然死のリスクがある。

代表的な先天性心疾患3種の血行動態模式図 PDA(動脈管開存) 大動脈 肺動脈 動脈管(短絡) 大動脈→肺動脈への 左→右短絡が主体 肺動脈弁狭窄 右心室 弁の狭窄で右室に 圧負荷・肥大 大動脈弁下狭窄(SAS) 左心室 弁下の線維性隆起で 左室に圧負荷・肥大
図3-4先天性心疾患は、短絡(PDA)による容量負荷型と、弁・弁下狭窄(肺動脈弁狭窄・SAS)による圧負荷型に大別すると病態を理解しやすい。
容量負荷 vs 圧負荷という軸

MMVDやPDAのように血液量そのものが過剰になる病態は「容量負荷」、肺動脈弁狭窄やSASのように狭い場所を無理に通そうとする病態は「圧負荷」に分類できる。前者は心室の遠心性拡大、後者は求心性肥大という異なるリモデリングを引き起こし、心エコーでの評価ポイントも異なる。

3-5

犬糸状虫症(フィラリア症)

蚊によって媒介される寄生虫が、右心系と肺動脈という「低圧ポンプ」を直接すみかにする、循環器疾患の中でも特異な感染症である。

感染幼虫は蚊の吸血を介して体内に侵入し、皮下組織で発育しながら血管内に移行、最終的に成虫は主に肺動脈とその末梢枝に定着する。重度感染では右心室や右心房にまで虫体が及ぶこともある。→犬のフィラリア症 No.021 犬のフィラリア症 予防編

フィラリア症の病態:肺動脈内の成虫寄生から肺高血圧・右心不全に至る流れ 右心室 肺動脈 成虫が肺動脈内に定着 結果として起こること ・肺動脈内膜の障害と炎症 ・肺血管抵抗の上昇(肺高血圧) ・右心室の圧負荷 → 肥大・拡大 ・進行すると右側うっ血性心不全 (腹水・肝腫大など)
図3-5成虫が肺動脈内膜を傷害し続けることで肺高血圧が進行し、これに対抗して働く右心室に慢性的な圧負荷がかかる(肺性心)。
キャバルシンドローム(大静脈症候群)

虫体数が非常に多い重度感染では、虫体が三尖弁口から後大静脈にまで達し、血流を物理的に閉塞するとともに赤血球を破壊する。急性の溶血性貧血・血色素尿・虚脱を呈する救急疾患で、外科的な虫体除去が必要になることがある。

猫における違い

猫は犬に比べて感染しにくく寄生虫体数も少ない傾向があるが、その分、少数の虫体(あるいは幼若な段階での死虫)でも強い炎症反応を引き起こしやすく、HARD(フィラリア関連呼吸器疾患)と呼ばれる喘息様の呼吸器症状や、前触れのない突然死のリスクが問題となる。猫には承認された成虫駆虫薬がないため、予防が唯一の確実な対策となる。

3-6

不整脈

刺激伝導系(1-3)のどこかで発火や伝導のリズムが崩れると、心電図はそれぞれ特徴的な「崩れ方」を見せる。波形のパターンから、どこで何が起きているかを逆算するのが不整脈診断の基本である。

代表的な不整脈4種の心電図パターン比較 心房細動(AFib) P波が消失し基線が細かく揺れる(細動波)。QRS間隔は「絶対不整」(不規則でリズムなし) 心室性期外収縮(VPC) 先行するP波を伴わず、幅広く奇異な形のQRSが早期に出現する 第三度房室ブロック(完全房室ブロック) P波(金)は一定の速さで規則的に出るが、QRSとは無関係(房室解離)で、QRSはより遅い補充調律で出現 洞性徐脈 / 病的洞機能不全(参考) P-QRS-Tの形は正常だが、間隔が異常に長い(心拍数が遅い)
図3-6心房細動はP波の消失と絶対不整、心室性期外収縮は幅広く奇異なQRSの早期出現、完全房室ブロックはP波とQRSの解離が診断の鍵となる。

上室性不整脈

心房細動は、心房内で無数の小さな興奮波が無秩序に旋回することで生じ、房室結節をランダムなタイミングで通過するためQRS波は「絶対性不整」を呈する。大型犬のDCMや重度のMMVDなど、心房が高度に拡大した基礎疾患を背景に発生することが多い。

心室性不整脈

心室性期外収縮(VPC)は心室内の異所性焦点から発生し、正常伝導系を介さないため幅広く奇異な形のQRS波となる。頻発する場合や連発する場合(心室頻拍)は、血行動態の悪化や心室細動への移行による突然死のリスクを高める。ボクサーのARVCやDCMを持つドーベルマンなどで特に注意が必要である。

徐脈性不整脈

病的洞機能不全症候群(ミニチュア・シュナウザーやウェスト・ハイランド・ホワイト・テリアで好発)や完全房室ブロックは、失神や運動不耐性の原因となる。完全房室ブロックでは心房と心室が互いに無関係なリズムで動く「房室解離」が特徴で、心室は洞結節よりずっと遅い補充調律によって最低限維持される。重度の徐脈性不整脈は、薬物治療に反応しない場合、人工ペースメーカーの適応となる。

除外すべき代謝性の原因

著明な徐脈や心房停止様の心電図をみたときは、 副腎皮質機能低下症(アジソン病) No.009 犬と猫の副腎 による高カリウム血症を必ず鑑別に入れる。電解質異常による不整脈は、原疾患の補正だけで劇的に改善することが多い。

3-7

うっ血性心不全とACVIMステージ分類

これまでの疾患各論が最終的に流れ着く共通の終着点が「心不全」である。心臓は最初、驚くほど巧妙な代償機構でこれに抵抗する。

代償機構という諸刃の剣

心拍出量が低下すると、体は主に3つの神経体液性機構で血圧と灌流を維持しようとする。

  • 交感神経系の活性化:心拍数と収縮力を高め、末梢血管を収縮させて血圧を維持する。
  • レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)の活性化:腎血流低下を感知してレニンが放出され、アンジオテンシンⅡによる血管収縮とアルドステロンによるナトリウム・水分の再吸収が、循環血液量と血圧を保とうとする。 →RAAS No.002 犬と猫の血圧
  • ナトリウム利尿ペプチド(ANP・BNP)の分泌:心房・心室の伸展に反応して分泌され、上記2つに拮抗して利尿・血管拡張的に働く、いわば体に備わったブレーキ役。

短期的には有用なこれらの代償機構も、慢性的に活性化され続けると、末梢血管抵抗の上昇(後負荷増大)、体液貯留による前負荷過剰、心筋そのものへの障害的なリモデリングを引き起こし、かえって心不全を悪化させる悪循環に陥る。この悪循環を薬理学的に断ち切ることが、第4章で学ぶACE阻害薬や利尿薬、β遮断薬の治療戦略の根幹にある。

心拍出量低下から始まる代償機構の悪循環図 心拍出量の低下 (心筋症・弁膜症など) 交感神経・RAAS 活性化(代償) 前負荷・後負荷の増大 体液貯留・血管収縮 心筋への負担増大 悪化するリモデリング 代償の悪循環
図3-7短期的な代償が長期的にはさらなる前負荷・後負荷の増大と心筋障害を招く悪循環。第4章の薬物治療の多くは、この輪のどこかを断ち切ることを目的としている。

左側・右側うっ血性心不全

左心系の機能不全は肺静脈圧の上昇を介して肺水腫(犬に多い)を、猫ではしばしば胸水貯留を招く。右心系の機能不全は全身静脈圧の上昇を介して腹水・肝腫大・頸静脈怒張などを招く。フィラリア症や肺高血圧、三尖弁疾患は右側心不全と結びつきやすい。

ACVIMステージ分類

米国獣医内科学会(ACVIM)によるコンセンサスステージ分類は、特にMMVDを念頭に広く臨床で用いられる病期分類であり、「いつ・どの薬を始めるか」という治療方針に直結する。

Stage A好発犬種だが構造的異常なし
Stage B1構造的異常はあるが有意なリモデリングなし・無症状
Stage B2血行動態的に有意なリモデリングあり・無症状
Stage C心不全の現症または既往あり
Stage D標準治療に反応しない難治性心不全
なぜステージ分類が薬理学の理解に直結するのか

Stage B1では基本的に薬物治療の明確な生存benefitは確立されておらず経過観察が中心だが、Stage B2では心臓のリモデリングが進んだ症例に対して強心薬(ピモベンダン)の導入がEPIC試験などで支持されている。Stage Cではうっ血症状に対する利尿薬・ピモベンダン・ACE阻害薬の併用が標準治療となる。つまり同じ薬でも「どのステージで、何を目的に使うか」が異なる。第4章はこの文脈を踏まえて読むと理解が深まる。

Pharmacology

第四章 薬理学 ― リズムを取り戻す

治療薬の多くは、これまでの章で見た調節経路や病態の悪循環のどこか一点をピンポイントで狙う。作用点を理解すれば、なぜその薬が選ばれ、何をモニタリングすべきかが見えてくる。

4-1

強心薬 ― ピモベンダン

図1-4のフランク・スターリング曲線を左上方へシフトさせる薬、それがピモベンダンである。犬の心不全治療において中心的な役割を担う。

ピモベンダンイノダイレーター(強心血管拡張薬)
作用機序
心筋トロポニンCのCa²⁺感受性を高める(カルシウム増感作用)とともに、ホスホジエステラーゼⅢ(PDE3)を阻害して血管平滑筋を弛緩させる。細胞内Ca²⁺流入そのものを増やさずに収縮力を高めるため、酸素需要の増加が比較的少ない。
主な適応
MMVDによる心不全(ACVIM Stage B2・C)、DCMによる心不全
禁忌・注意
肥大型心筋症(HCM)や左室流出路狭窄など、収縮力増強がかえって流出路閉塞を悪化させうる病態

なぜ「イノダイレーター」なのか

強心作用(inotropy)と血管拡張作用(vasodilation)を併せ持つことから、この造語で呼ばれる。強心作用は前負荷を活かして1回拍出量を増やし、血管拡張作用は後負荷を下げて心臓の仕事量そのものを減らす。うっ血性心不全という「ポンプが弱っているのに負荷は高いまま」という悪循環(図3-7)に対し、2方向から働きかける薬理学的な合理性がここにある。

EPIC試験とStage B2という考え方

MMVDにより心臓が有意にリモデリング(拡大)しているが、まだうっ血症状のないStage B2の犬に対してピモベンダンを投与することで、心不全の発症や心臓関連死までの期間が延長したとする大規模臨床試験(EPIC試験)の結果は、「症状が出る前から治療を始める」という現在の治療戦略に大きな影響を与えた。

4-2

RAAS抑制薬 ― ACE阻害薬

図3-7で見た代償の悪循環のうち、RAAS(レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系)という主要な輪を薬理学的に断ち切るのがこのクラスである。

ベナゼプリル / エナラプリルACE阻害薬
作用機序
アンジオテンシン変換酵素(ACE)を阻害し、アンジオテンシンⅠからⅡへの変換を抑制する。結果として血管収縮とアルドステロン分泌が減少し、後負荷・前負荷がともに軽減される。
主な適応
MMVD・DCMによるうっ血性心不全(Stage C)に対する併用療法の柱の一つ
モニタリング
腎機能(BUN・クレアチニン)、血清カリウム値、血圧。特に利尿薬併用時は脱水・腎前性の腎機能低下に注意する。

後負荷を下げるという発想

図1-4で示したように、後負荷が下がれば同じ収縮力でも1回拍出量は増える。ACE阻害薬は心筋そのものを直接強くするのではなく、心臓を取り巻く血管抵抗というハンディキャップを軽くすることで、間接的に心臓の仕事を助ける薬である。あわせてアルドステロンによる体液貯留も抑えるため、前負荷側にも作用する。

ARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬)という選択肢

近年は、アンジオテンシンⅡ受容体そのものを遮断するテルミサルタンなどのARBも、特に猫の腎性蛋白尿対策や一部の心疾患管理で用いられるようになっている。ACE阻害薬とは阻害する場所(酵素 vs 受容体)が異なる点を押さえておくと理解しやすい。

4-3

利尿薬

うっ血性心不全の「うっ血」そのもの、すなわち過剰な体液を直接減らす薬。症状を最も速く改善する薬であると同時に、使いすぎれば脱水や腎機能低下を招く諸刃の剣でもある。

フロセミドループ利尿薬
作用機序
ヘンレ係蹄上行脚のNa⁺-K⁺-2Cl⁻共輸送体を阻害し、強力なナトリウム・水分の排泄を促す。うっ血性心不全治療における利尿薬の第一選択。
主な適応
急性肺水腫の緊急管理、慢性うっ血性心不全の維持治療
注意点
脱水、腎前性窒素血症、低カリウム血症のリスク。可能な限り低い有効量への漸減(タイトレーション)が望ましい。
スピロノラクトンアルドステロン拮抗薬(カリウム保持性利尿薬)
作用機序
遠位尿細管でアルドステロン受容体を competitively に遮断する。利尿作用自体は緩やかだが、慢性的なアルドステロン過剰による線維化・リモデリングを抑える効果が重視される。
主な適応
慢性うっ血性心不全におけるACE阻害薬・フロセミドとの併用
注意点
ACE阻害薬との併用で高カリウム血症のリスクがやや高まるため、電解質モニタリングが望ましい。

トラセミドはフロセミドより効力が強く作用時間も長いループ利尿薬で、フロセミドの増量にもかかわらずうっ血がコントロールできない「利尿薬抵抗性」の症例に対する選択肢として位置づけられる。

利尿薬は「対症療法」であることを忘れない

利尿薬はうっ血という結果を取り除くが、心拍出量そのものを改善するわけではなく、過剰投与は前負荷を下げすぎて心拍出量をむしろ低下させることがある。ピモベンダンやACE阻害薬など病態そのものに働きかける薬と組み合わせて初めて、心不全治療は完成する。

4-4

β遮断薬とCa拮抗薬

HCM(3-3)の主病態は拡張機能不全だった。この2クラスは、心拍数を落として拡張(充満)のための時間を稼ぐという発想で共通する。

アテノロールβ1選択的遮断薬
作用機序
心筋のβ1受容体を遮断し、心拍数と収縮力を低下させる。心拍数を落とすことで拡張期(充満時間)を延長し、SAM(3-3)による流出路の動的閉塞や心筋酸素需要を軽減する。
主な適応
猫のHCM、特に閉塞性(SAMを伴う)HCMや頻脈性不整脈を伴う症例
注意点
陰性変力作用(収縮力を下げる作用)を持つため、すでに収縮不全を伴う代償不全期の心不全では原則として避ける。
ジルチアゼムCa²⁺チャネル拮抗薬(非ジヒドロピリジン系)
作用機序
L型Ca²⁺チャネルを遮断し、房室結節の伝導速度を低下させるとともに、心筋・血管平滑筋の収縮を抑える。
主な適応
猫のHCM(β遮断薬の代替・選択肢として)、心房細動における心拍数コントロール
「心拍数を落とす」ことの意味の違い

DCMのような収縮不全が主体の病態で心拍数を落としすぎると心拍出量(CO=HR×SV)がさらに低下しかねないが、HCMのような拡張障害が主体の病態では、心拍数を落として充満時間を確保することがむしろ治療的に働く。同じ「徐脈作用」でも、背景にある病態によって意味がまったく異なる好例である。

4-5

抗不整脈薬

3-6で見た不整脈のパターンに対応して、心筋の電気的性質(イオンチャネルや受容体)を狙い撃ちする薬が使い分けられる。

ソタロールⅢ群(+β遮断作用)
作用機序
K⁺チャネルを遮断して活動電位持続時間・不応期を延長し、あわせてβ遮断作用も併せ持つ。
主な適応
犬の心室性不整脈(ボクサーのARVC、ドーベルマンのDCMに伴う心室性頻拍など)
メキシレチンⅠb群
作用機序
Na⁺チャネルを遮断し、異所性の興奮性を抑える。しばしばソタロールと併用され、相加的な抗不整脈効果が期待される。
主な適応
難治性の心室性不整脈に対するソタロールとの併用療法
リドカインⅠb群(静脈内投与)
作用機序
Na⁺チャネルを遮断する速効性の抗不整脈薬。局所麻酔薬としても知られるが、静脈内投与で心室性頻拍の緊急管理に用いられる。
主な適応
血行動態が不安定な心室性頻拍の急性期治療(病院内での静脈内投与)
ジゴキシン強心配糖体
作用機序
Na⁺/K⁺-ATPaseを阻害して細胞内Na⁺を増やし、Na⁺/Ca²⁺交換系を介して間接的に細胞内Ca²⁺濃度を高める(軽度の陽性変力作用)。また迷走神経緊張を高めて房室結節の伝導を遅くする作用が特に重要視される。
主な適応
心房細動における心拍数コントロール
注意点
治療域が狭く、悪心・嘔吐・不整脈などの中毒兆候が生じやすいため、血中濃度モニタリングが強く推奨される。
Vaughan Williams分類という地図

抗不整脈薬はしばしばⅠ〜Ⅳ群(Na⁺チャネル遮断・β遮断・K⁺チャネル遮断・Ca²⁺チャネル遮断)に分類される。どのイオンチャネル・受容体を標的にするかで作用の性質が決まるため、この分類を軸に薬を整理すると全体像を把握しやすい。

4-6

フィラリア予防・治療薬

3-5で見た通り、フィラリア症は「治療より予防」が圧倒的に合理的な疾患である。予防薬と治療薬では、狙う虫体のステージそのものが異なる。 →犬のフィラリア症 No.021 犬のフィラリア症 予防編

マクロライド系(大環状ラクトン系)予防薬イベルメクチン/ミルベマイシンオキシム/セラメクチン/モキシデクチンなど
作用機序
線虫のグルタミン酸作動性Cl⁻チャネルに作用して神経筋の麻痺・死滅を引き起こす。感染幼虫(L3・L4)の段階で駆除することで成虫への発育を防ぐ「予防薬」であり、すでに定着した成虫には効果が乏しい。
投与
多くは月1回の経口または滴下(スポットオン)投与。感染時期をカバーするため、蚊の活動期を通じて継続投与することが前提となる。
犬・猫共通の考え方 いずれも用法用量は製剤ごとに規定されており、体重・年齢に応じた製剤選択と、投与間隔を空けすぎないことが重要。
メラルソミン塩酸塩有機ヒ素系成虫駆虫薬(犬のみ)
作用機序
成虫の代謝を障害して駆虫する、犬に承認された成虫駆虫薬。深部筋肉内注射で投与するプロトコルに従う。
主なリスク
死滅した虫体の破片が肺動脈を閉塞し、肺血栓塞栓症を引き起こす危険があるため、投与後は厳格な運動制限が必須となる。
猫に成虫駆虫薬がない理由

猫は虫体数が少なくても強い炎症反応を起こしやすく、駆虫によって死んだ虫体が引き金となる急性の肺塞栓・アナフィラキシー様反応のリスクが犬よりも高いと考えられている。そのため猫に承認された成虫駆虫薬は存在せず、感染した場合は対症療法(HARDに対する管理など)が中心となる。この非対称性が、猫における予防の重要性をさらに際立たせている。

Q. HCMの猫にピモベンダンを安易に使うべきでないと考えられる理由として、最も適切なものはどれか?

Appendix

付録 ― 早見表・用語集・参考文献

本編で扱った内容を、参照しやすい形にまとめた資料編。

5-1

早見表

心拍数や好発疾患の目安には個体差・測定条件による幅があり、単一の絶対値として扱うべきではない。以下は本編(1-5節、3章)で扱った内容を、犬猫共通の目安として整理したものである。

項目
安静時心拍数の目安60〜140/分140〜220/分
代表的な後天性心疾患僧帽弁粘液腫様変性(MMVD)肥大型心筋症(HCM)
主病態弁尖の変性による逆流(容量負荷)心室壁の求心性肥大による拡張障害
代表的な奔馬音S3S4
特有の合併症腱索断裂による急性増悪動脈血栓塞栓症(ATE)

第4章の薬剤と主な標的の早見表

薬剤群主な標的犬での位置づけ猫での位置づけ
ピモベンダントロポニンC・PDE3MMVD・DCMの中心的治療薬HCMでは原則使用しない
ACE阻害薬アンジオテンシン変換酵素心不全の併用療法同左
フロセミドNa⁺-K⁺-2Cl⁻共輸送体うっ血のコントロール同左
アテノロール・ジルチアゼムβ1受容体・Ca²⁺チャネル頻脈性不整脈の管理HCMの中心的治療薬
マクロライド系予防薬線虫のCl⁻チャネルフィラリア予防の基本同左(成虫駆虫薬なし)
5-2

用語集

心拍出量(Cardiac Output, CO)
心臓が単位時間あたりに拍出する血液量。心拍数×1回拍出量。
1回拍出量(Stroke Volume, SV)
1回の収縮で心室から拍出される血液量。前負荷・後負荷・収縮性で規定される。
前負荷・後負荷・収縮性
前負荷は拡張末期に心室を満たす血液量、後負荷は拍出時に打ち勝つべき抵抗、収縮性はそれらと独立に心筋が発揮する収縮力そのもの。
フランク・スターリングの法則
心筋の拡張末期の伸展度が大きいほど、次の収縮でより強い力を発揮するという心臓固有の自己調節機構。
洞結節(SA結節)
右心房にあるペースメーカー細胞の集団。心臓全体のリズムを決める歩調取り。
房室結節(AV結節)
心房と心室の間で伝導を意図的に遅延させる特殊心筋。心房収縮完了後に心室が収縮するよう「間」を作る。
ヒス束・プルキンエ線維
房室結節から心室筋へ興奮を高速に伝える伝導路。心室全体をほぼ同時に興奮させる。
P波・QRS波・T波
心電図上でそれぞれ心房脱分極・心室脱分極・心室再分極を反映する波形。
機能的合胞体
心筋細胞が介在板のギャップ結合を介して電気的に一体化し、あたかも1つの塊のように興奮する性質。
介在板・ギャップ結合
隣接する心筋細胞をつなぐ構造。デスモソームによる機械的連結とギャップ結合による電気的連結を兼ねる。
fibrosa・spongiosa
弁尖を構成する層。fibrosaは強度を担うコラーゲン層、spongiosaは衝撃を吸収するプロテオグリカン層。
僧帽弁粘液腫様変性(MMVD)
弁尖のspongiosaが過剰に蓄積し弁尖が肥厚・逸脱する、犬で最も頻度の高い後天性心疾患。
拡張型心筋症(DCM)
心筋の収縮力低下により心室が拡大する心筋症。大型〜超大型犬種で好発。
肥大型心筋症(HCM)
心室壁の求心性肥大により拡張機能が障害される、猫で最も頻度の高い心疾患。
収縮期前方運動(SAM)
HCMにおいて僧帽弁前尖が左室流出路側へ引き寄せられ、流出路を動的に狭窄させる現象。
動脈血栓塞栓症(ATE)
拡大した左心房内で形成された血栓が遊離し、全身動脈を閉塞する猫のHCMの重篤な合併症。
動脈管開存症(PDA)
胎生期の動脈管が出生後も残存し、大動脈-肺動脈間で短絡を生じる先天性心疾患。
犬糸状虫症(フィラリア症)
蚊が媒介する寄生虫が肺動脈・右心系に定着し、肺高血圧・右心不全を来す疾患。
キャバルシンドローム(大静脈症候群)
重度フィラリア感染で虫体が後大静脈にまで達し、溶血と循環虚脱を来す救急病態。
心房細動
心房内の無秩序な興奮によりQRS波が絶対不整となる上室性不整脈。
完全房室ブロック
心房と心室の興奮が互いに独立する(房室解離)重度の伝導障害。補充調律により心室が維持される。
RAAS(レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系)
血圧・体液量を長期的に調節する内分泌系。心不全では慢性的な過剰活性化が悪循環を招く。
ACVIMステージ分類
米国獣医内科学会による心不全の病期分類(Stage A〜D)。治療方針の決定に用いられる。
ピモベンダン
カルシウム増感作用とPDE3阻害作用を併せ持つイノダイレーター。MMVD・DCMの心不全治療の中心的薬剤。
ACE阻害薬
アンジオテンシン変換酵素を阻害し、後負荷・前負荷をともに軽減する薬剤群。
5-3

参考文献

本書は教育目的の一般的な解説資料であり、以下のような標準的なガイドライン・教科書分野で共有されている一般的知見をもとに、独自にまとめ直したものである。原文からの引用ではなく、正確な記述や最新の情報が必要な場合は、必ず原典・最新版を直接参照すること。

  • Keene BW, Atkins CE, Bonagura JD, et al. ACVIM consensus guidelines for the diagnosis and treatment of myxomatous mitral valve disease in dogs. Journal of Veterinary Internal Medicine. 2019;33(3):1127–1140.
  • Luis Fuentes V, Abbott J, Chetboul V, et al. ACVIM consensus statement guidelines for the classification, diagnosis, and management of cardiomyopathies in cats. Journal of Veterinary Internal Medicine. 2020;34(3):1062–1077.
  • 犬と猫の内科学領域の代表的教科書(例:Ettinger, Feldman, Côté編『Textbook of Veterinary Internal Medicine』)における循環器疾患の総説的知見
  • 獣医生理学領域の代表的教科書(例:Cunningham『Textbook of Veterinary Physiology』)における循環生理の総説的知見
  • 獣医組織学領域の代表的教科書における心臓・血管組織の記載
  • 獣医薬理学領域の代表的参考書(例:Plumb's Veterinary Drug Handbook)における薬理作用に関する一般的知見
本書の位置づけ

本書はあくまで学習・復習のための一般的な電子ブックであり、特定動物の診断・治療方針を示すものではない。臨床上の判断は、必ず担当獣医師による直接の診察・検査結果に基づいて行われるべきである。