CANINE & FELINE HYPERLIPIDEMIA

犬と猫の
高脂血症

発生メカニズム・引き起こされる臓器障害・治療薬の薬理

血清が白濁するその裏側で、リポタンパク代謝はどこで破綻しているのか。 原発性と続発性の高脂血症を機序から整理し、膵炎や眼病変などの臨床像へどうつながるかを追い、 食事療法とフィブラート系薬・オメガ3脂肪酸をはじめとする薬物治療の薬理までを一冊で通覧します。

第1章から読む
Part 1 基礎編 ― 高脂血症と脂質代謝生理
Chapter 1

高脂血症とは

1-1. 定義と分類

高脂血症(hyperlipidemia)とは、血清中のトリグリセリド(中性脂肪、TG)またはコレステロール、あるいはその両方が基準範囲を超えて上昇した状態の総称である。臨床の現場でまず押さえておくべきは、これは単一の疾患名ではなく「脂質検査値の異常」を指す状態像であるという点である。原因や病態は多岐にわたり、犬と猫で好発する型も異なる。

脂質検査値は食事の影響を強く受けるため、高脂血症の評価は必ず絶食下の血清で行うことが大前提となる。食後は腸管からのカイロミクロン分泌により生理的にTGが上昇する「食後性脂血(postprandial lipemia)」が生じ、これは通常6〜12時間程度で消退する。したがって空腹時にもかかわらず脂質値が高い場合にはじめて「病的な高脂血症」として評価の対象になる。

臨床上のポイント

高脂血症は「原発性(一次性)」と「続発性(二次性)」に大別される。続発性のほうが臨床現場での遭遇頻度が高く、 甲状腺機能低下症 No.024 犬の甲状腺 副腎皮質機能亢進症 No.009 犬と猫の副腎 糖尿病 No.004 犬と猫の血糖調節メカニズム 蛋白喪失性腎症 No.026 犬と猫の腎臓(尿生成編) ・胆汁うっ滞・肥満・薬剤性などの基礎疾患を必ず鑑別に挙げる必要がある。

さらに脂質パターンによる分類も重要である。上昇している脂質分画によって、TG優位に上昇する「高トリグリセリド血症」、コレステロール優位に上昇する「高コレステロール血症」、両者がともに上昇する「混合型高脂血症」に分けられる。どの分画が主体かは、原因疾患を推定するうえで重要な手がかりになる。一般に、内分泌疾患(甲状腺機能低下症など)はコレステロール優位、原発性の遺伝性疾患やカイロミクロン代謝異常はTG優位の上昇を呈しやすい。

1-2. 疫学と好発犬種・猫種

犬では原発性高脂血症に犬種素因が知られている。代表格はミニチュア・シュナウザーで、若齢〜中年齢から空腹時高トリグリセリド血症を呈しやすく、遺伝的関与が示唆されているが、その分子機序は完全には解明されていない。シェットランド・シープドッグでも家族性の高脂血症(高コレステロール血症とTG上昇の混合型)が報告されており、シュナウザーとは異なる病態と考えられている。ビーグルなど他犬種でも家族性の報告があるが、臨床上遭遇する頻度としてはミニチュア・シュナウザーが突出して多い。

猫では、遺伝性のリポタンパク質リパーゼ(LPL)欠損による家族性高カイロミクロン血症が知られており、常染色体劣性形式の遺伝形式をとることが報告されている。これは猫における原発性高脂血症の代表例であり、重度のTG上昇と乳び血漿を呈する。

続発性高脂血症は犬種・猫種を問わず、基礎疾患を有する個体であればどの犬猫にも起こりうる。中高齢で肥満傾向にある個体、内分泌疾患の好発犬種(甲状腺機能低下症好発犬種など)では特に念頭に置く必要がある。

Chapter 2

脂質代謝の生理学

2-1. 脂質とリポタンパク質の基礎

血漿脂質の主体はトリグリセリド、コレステロール(遊離型・エステル型)、リン脂質、遊離脂肪酸である。これらは疎水性が高く、そのままでは血漿中を移動できないため、リン脂質とアポリポタンパク質からなる親水性の被膜をまとった球状粒子「リポタンパク質」として血中を輸送される。

リポタンパク質粒子の模式図:中心の疎水性コアとリン脂質単層、埋め込まれたアポリポタンパク質 疎水性コア TG・コレステロールエステル リン脂質単層 Apo B-100 (VLDL・LDLの主要アポ蛋白) Apo C-II (LPLの必須補因子) Apo A-I / Apo E

図2-1: リポタンパク質粒子の基本構造。疎水性コアの外側をリン脂質単層が覆い、そこに機能の異なるアポリポタンパク質が埋め込まれている。Apo C-IIはLPLの活性化に必須の補因子であり、この経路の異常は高トリグリセリド血症に直結する。

アポリポタンパク質は単なる構造蛋白ではなく、酵素の活性化因子や受容体の認識シグナルとして機能する点が重要である。たとえばApo C-IIはリポタンパク質リパーゼ(LPL)の必須補因子であり、Apo B-100はLDL受容体に認識される標識として働く。これらアポ蛋白の量的・質的異常は、そのままリポタンパク質代謝経路のどこかの破綻として高脂血症に結びつく。

リポタンパク質は密度によってカイロミクロン、VLDL(超低比重リポタンパク質)、LDL(低比重リポタンパク質)、HDL(高比重リポタンパク質)に分類される。密度が低いほどTG含有率が高く粒子径が大きい。犬猫では人と比較してLDLの占める割合が低く、HDLが優位な脂質プロファイルを示す点が種特異的な特徴として知られている。

2-2. 外因性経路(食事由来)

食事由来の脂質は小腸上皮細胞に吸収された後、TGとコレステロールエステルを主成分とするカイロミクロンとして再構成され、リンパ管(乳び管)を経て胸管から静脈系へと流入する。カイロミクロンはApo B-48を骨格とし、血中でApo C-IIやApo Eを受け取ることで機能的な粒子となる。

血中に入ったカイロミクロンは、脂肪組織・骨格筋・心筋・乳腺などの毛細血管内皮表面に係留されたLPLによってTGを加水分解される。LPLはApo C-IIを補因子として活性化され、遊離脂肪酸とグリセロールを産生する。遊離脂肪酸は各組織に取り込まれエネルギー源または貯蔵脂肪として利用される。TGを失った残余粒子はカイロミクロンレムナントとなり、Apo Eを介して肝臓のレムナント受容体に認識され速やかに肝臓へ取り込まれる。

この経路のどこか―LPLそのものの活性低下、Apo C-IIの欠損、レムナント受容体の機能不全―が起これば、カイロミクロンおよびそのレムナントが血中に停滞し、高トリグリセリド血症・乳び血漿として現れる。原発性のLPL欠損症(猫の家族性高カイロミクロン血症など)はこの経路の破綻の典型例である。

2-3. 内因性経路とHDLによる逆転送

肝臓は食事に依存せず自らTGとコレステロールを合成し、Apo B-100を骨格とするVLDLとして血中に分泌する。VLDLもカイロミクロンと同様に末梢のLPLによってTGを加水分解され、中間密度リポタンパク質(IDL)を経てLDLへと変換されていく。LDLは主に肝臓のLDL受容体(Apo B-100を認識)を介して取り込まれ、細胞内へコレステロールを供給する。

一方、末梢組織で余剰となったコレステロールはHDLによって回収され、肝臓へと戻される。これを「コレステロール逆転送経路」と呼ぶ。HDLはApo A-Iを骨格とし、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)の働きでコレステロールをエステル化しながら粒子内に取り込み、最終的に肝臓のスカベンジャー受容体(SR-BI)等を介して回収させる。

内因性経路とHDL経路は互いに独立ではなく、コレステロールエステル転送蛋白(CETP)を介してVLDL/LDLとHDLの間で脂質がやり取りされる。ヒトではこのCETP活性が高くLDL優位の脂質プロファイルに傾きやすいが、犬猫ではCETP活性が低いためHDLが優位に保たれやすいという種差がある。

2-4. 犬猫における種特異性

犬猫はヒトと比較してコレステロールエステル転送蛋白(CETP)の活性が低いことが知られており、この結果としてLDLへのコレステロール転送が少なく、相対的にHDL優位な脂質プロファイルを持つ。これは犬猫で動脈硬化の臨床例が極めてまれである一因として説明される。

種差のポイント:なぜ犬猫はヒトほど動脈硬化を起こしにくいのか

CETP活性が低い→HDLが優位に保たれる→LDLが相対的に少なく酸化LDLの蓄積も起こりにくい、という脂質プロファイル上の違いに加え、犬猫は肝でのコレステロール合成・排泄の調節能が高いことも一因とされる。ただし甲状腺機能低下症など基礎疾患を合併すると、この防御的なプロファイルが崩れ、動脈硬化のリスクが顕在化しうる。

この種差は治療戦略にも影響する。ヒト医療で中心的な位置を占めるスタチン系薬(HMG-CoA還元酵素阻害薬)は、LDL受容体発現の増加を介してLDLを低下させることを主作用とするが、犬猫ではもともとLDLが少なくコレステロール合成阻害による恩恵が限定的であるため、ヒトほどの明確な有効性のエビデンスは確立していない(第9章で詳述)。犬猫の高脂血症治療では、LPL活性を高めTG代謝を改善する薬剤(フィブラート系・オメガ3脂肪酸)がより中心的な役割を担う。

Part 2 病態編 ― 発生機序と臓器障害・診断
Chapter 3

原発性高脂血症の発生機序

3-1. 遺伝性リポタンパク質リパーゼ欠損症

猫における家族性高カイロミクロン血症は、LPL遺伝子自体の変異による酵素活性の欠損、あるいはLPL量そのものの低下が原因とされる。常染色体劣性形式の遺伝が報告されており、ホモ接合体の個体では重度のTG上昇と持続する乳び血漿を呈する。LPLが機能しないため、カイロミクロンが末梢でTGを加水分解されず血中に蓄積し続ける。

この病態では、皮下への脂肪沈着(皮下黄色腫)や末梢神経への脂質性肉芽腫形成による神経障害(末梢神経圧迫による跛行など)が特徴的な合併症として報告されている。これはLPL欠損というただ一つの分子的異常が、下流で多様な臓器症状を引き起こす好例である。

3-2. 犬種関連特発性高脂血症

ミニチュア・シュナウザーの特発性高脂血症は、遺伝的背景が強く疑われながらも単一の原因分子が特定されていない点が特徴である。LPL活性そのものは正常に近いとする報告がある一方、Apo C-IIの機能異常やLPLの発現調節に関わる未知の因子の関与が推測されており、複数の遺伝的要因が組み合わさった多因子性の病態である可能性が高い。

臨床的に重要なのは、この犬種では明らかな基礎疾患がなくても持続する空腹時高トリグリセリド血症がみられ、それ自体が急性膵炎の重要な危険因子になるという点である(5-1節)。したがって基礎疾患が見当たらない場合でも、この犬種では高脂血症を「様子見」にせず積極的に管理する意義がある。

シェットランド・シープドッグの家族性高脂血症は、TG上昇に加えコレステロールも上昇する混合型を呈することが多く、シュナウザーとは異なる病態と考えられている。いずれの犬種関連高脂血症も、続発性の原因を除外したうえで診断される除外診断である点は共通している。

Chapter 4

続発性高脂血症の発生機序

4-1. 内分泌疾患による機序

甲状腺機能低下症 No.024 犬の甲状腺 は犬における続発性高コレステロール血症の最も代表的な原因である。甲状腺ホルモンはLPLおよび肝性リパーゼの発現、さらにLDL受容体の発現を維持する方向に働くため、甲状腺ホルモンが欠乏するとこれらの活性・発現が低下し、LDLおよびVLDLレムナントの血中からのクリアランスが遅延する。結果としてコレステロール優位の高脂血症が生じる。

副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群) No.009 犬と猫の副腎 では、過剰なコルチゾールが肝での脂質合成を亢進させるとともに、ホルモン感受性リパーゼを介した脂肪組織での脂肪分解を促進し、遊離脂肪酸の肝への流入を増やす。肝はこれを基質としてVLDL合成を亢進させる一方、コルチゾールはLPL活性を抑制する方向にも働くため、供給過多と処理能力低下が重なりTG・コレステロールともに上昇しやすい。

4-2. 糖尿病とインスリン抵抗性

インスリンは脂肪組織におけるLPLの発現を誘導する重要な調節因子である。糖尿病 No.004 犬と猫の血糖調節メカニズム (インスリン欠乏またはインスリン抵抗性)の状態ではLPLの発現・活性が低下し、カイロミクロンやVLDLからのTG加水分解が滞る。

加えて、インスリン作用不足は脂肪組織でのホルモン感受性リパーゼの抑制を解除し、脂肪分解が亢進して遊離脂肪酸の血中放出が増える。この遊離脂肪酸は肝に運ばれてVLDL合成の基質となるため、末梢でのクリアランス低下と肝からの供給増加が同時に起こり、著しい高トリグリセリド血症をきたしうる。糖尿病性高脂血症は血糖コントロールの改善とともに軽快することが多く、治療反応性の良い指標としても利用できる。

4-3. 腎疾患・胆汁うっ滞・肥満

蛋白喪失性腎症(ネフローゼ症候群) No.026 犬と猫の腎臓(尿生成編) では、尿中への大量のアルブミン喪失に対する代償反応として肝でのアルブミン合成が亢進するが、これと連動して肝でのリポタンパク質(特にVLDL・LDL)合成も亢進する。さらに、尿中にLPLの活性化に関わる低分子量蛋白が喪失することも代謝クリアランスの低下に寄与すると考えられている。低アルブミン血症の程度と高コレステロール血症の程度はしばしば相関する。

胆汁うっ滞性肝疾患では、本来胆汁中に排泄されるべきコレステロールの排泄経路が障害され、加えて異常なリポタンパク質粒子である「リポタンパク質X」が出現し血中に蓄積することで高コレステロール血症をきたす。

肥満は単独でも軽度〜中等度のインスリン抵抗性を介した高脂血症の原因となりうる。それ自体が高脂血症の主因となることは多くないが、他の基礎疾患による高脂血症を増悪させる修飾因子として重要である。

4-4. 薬剤性高脂血症

グルココルチコイド製剤 No.015 犬と猫のステロイド薬 は、クッシング症候群と同様の機序(肝での脂質合成亢進・末梢での脂肪分解亢進・LPL抑制)により高脂血症を誘発しうる。プロゲスチン製剤(メゲストロール酢酸など)も同様の脂質異常やインスリン抵抗性を惹起することが知られている。

犬ではフェノバルビタールなど一部の抗てんかん薬の長期投与で肝酵素上昇とともに高脂血症を伴うことが報告されている。投薬歴の聴取は続発性高脂血症の鑑別診断において必ず確認すべき項目である。

見落としやすいポイント

高脂血症の精査では、甲状腺・副腎・腎臓といった臓器系だけでなく「今使っている薬」を必ず確認する。グルココルチコイド、プロゲスチン、フェノバルビタールなどの投薬歴を見落とすと、原因不明の高脂血症として不要な追加検査を重ねてしまうことになる。

Chapter 5

高脂血症が引き起こす臓器障害

5-1. 膵炎

高トリグリセリド血症と急性膵炎の関連は、犬の臨床において最も重要な合併症の一つである。膵の毛細血管内でTGが膵リパーゼにより過剰に加水分解されると、局所的に高濃度の遊離脂肪酸が生じる。この遊離脂肪酸は毛細血管内皮細胞および膵腺房細胞に対して直接的に細胞毒性を発揮し、微小循環障害・虚血・フリーラジカル産生を介した組織傷害を引き起こす。

高トリグリセリド血症から急性膵炎に至る機序のフロー図 空腹時 高トリグリセリド血症 膵毛細血管内で 膵リパーゼが過剰加水分解 局所の遊離脂肪酸 濃度が急上昇 内皮・腺房細胞障害/虚血/酸化ストレス → トリプシノーゲンの早期活性化 急性膵炎 (腺房壊死・炎症)

図5-1: 高トリグリセリド血症が急性膵炎へとつながる機序。ミニチュア・シュナウザーの特発性高脂血症で本経路が特に重要視される。

ミニチュア・シュナウザーにおいて特発性高脂血症が膵炎の重要な危険因子とされているのはこのためである。逆に、急性膵炎そのものが局所・全身の炎症を介して二次的にリポタンパク質代謝を乱し、一過性の高脂血症を助長することもあり、両者は双方向性の関係にあると理解しておくとよい。

5-2. 眼病変

重度の高脂血症では眼にも特徴的な変化がみられる。網膜血管内の血液が脂質により白濁して見える「網膜脂血症(lipemia retinalis)」は、眼底検査で血管がクリーム色〜サーモンピンク調に観察される所見であり、高脂血症の重症度を反映する。

角膜実質への脂質沈着(脂質角膜症)は、結晶様の白色〜灰白色の混濁として角膜に観察される。房水中に脂質が漏出すると前房内の混濁(脂質房水)として観察されることがあり、ぶどう膜炎との鑑別が必要になる場合もある。これらの眼所見は非特異的ではあるが、高脂血症を疑うきっかけとなる身体検査所見として重要である。

5-3. 皮膚病変と神経症状

皮膚黄色腫(cutaneous xanthoma)は、脂質を貪食したマクロファージ(泡沫細胞)が真皮に浸潤することで生じる結節性〜局面性の皮膚病変であり、糖尿病に伴う重度の高脂血症や脂質代謝異常症の猫・犬で報告される。

神経症状としては、猫の重度の家族性高カイロミクロン血症において、末梢神経に脂質性肉芽腫が形成され神経を圧迫することによる末梢神経障害(跛行や姿勢反応の低下)が報告されている。まれではあるが痙攣発作が重度の高脂血症と関連して報告されることもあり、機序としては血液粘稠度の変化や脂質の中枢神経系への直接的影響が推測されているが、詳細は十分に解明されていない。

5-4. 動脈硬化と肝リピドーシス

2犬猫はCETP活性が低くHDL優位な脂質プロファイルを持つため、ヒトと比較して動脈硬化の発生は非常にまれである。しかし、甲状腺機能低下症や糖尿病を合併し高コレステロール血症が高度かつ遷延する場合には、犬でも動脈硬化性病変(大動脈や冠動脈への脂質沈着)が報告されている。臨床徴候としては、跛行、失神、突然死などが関与しうる。猫での報告はさらにまれである。

関連病態として整理しておきたい点

猫の肝リピドーシス(脂肪肝) No.028 猫の肝リピドーシス は、高脂血症そのものとは成因の異なる病態である点に注意したい。肝リピドーシスは急激な負のエネルギーバランス(食欲廃絶や急な減量)によって末梢脂肪が動員され、肝の脂質輸出能力を超えてTGが肝細胞内に蓄積することで生じる。肥満が両者に共通する背景因子となりうるため関連づけて理解されることが多いが、病態の主軸は別物として区別しておくと診断の混乱を避けられる。

Chapter 6

診断アプローチ

6-1. 検体採取と肉眼的評価

高脂血症の評価は、12時間以上(理想的には12〜14時間)の絶食後に採取した血清・血漿で行うことが原則である。絶食が不十分だと食後性脂血と病的な高脂血症の区別ができなくなり、誤った臨床判断につながる。

採血後はまず遠心分離した血清の肉眼的性状を観察する。均一に白濁している場合はVLDLの上昇を、上層にクリーム状の層が浮く場合はカイロミクロンの増加(高トリグリセリド血症)を示唆する。冷蔵庫内で検体を数時間静置する「冷蔵試験」は、この上層のクリーム形成を確認するための簡便なベッドサイド評価として有用である。

6-2. 脂質検査とパターン分類

基本となるのは血清TGと総コレステロールの測定である。どちらが優位に上昇しているかによって、原因疾患の推定を進める。TG優位の上昇は原発性の脂質代謝異常やカイロミクロン代謝異常、膵炎との関連を、コレステロール優位の上昇は内分泌疾患や胆汁うっ滞を、それぞれ想起させる手がかりになる。

より詳細なリポタンパク質分画の評価(電気泳動や超遠心法)は主に大学病院や研究機関で行われる特殊検査であり、一般臨床では総TG・総コレステロールの測定と病歴・身体検査所見の組み合わせで十分に方針を立てられることが多い。

6-3. 基礎疾患のスクリーニング

続発性高脂血症が疑われる場合は、以下のような基礎疾患スクリーニングを組み合わせて行う。

  • 甲状腺機能低下症:総T4・遊離T4・TSHの測定
  • 副腎皮質機能亢進症:ACTH刺激試験、低用量デキサメタゾン抑制試験、腹部超音波検査
  • 糖尿病:空腹時血糖・フルクトサミン、尿糖の確認
  • 蛋白喪失性腎症:血清アルブミン、尿蛋白/クレアチニン比
  • 胆汁うっ滞・肝疾患:肝酵素、総ビリルビン、胆汁酸負荷試験、腹部超音波検査
  • 膵炎:膵特異的リパーゼ(Spec cPL / Spec fPLなど)、腹部超音波検査

原発性高脂血症(ミニチュア・シュナウザーの特発性高脂血症、猫の家族性高カイロミクロン血症など)は、これらの続発性の原因をひと通り除外したうえで診断される除外診断であることを常に念頭に置く。

Part 3 治療編 ― 食事療法と薬理学
Chapter 7

食事療法

7-1. 低脂肪食の機序

食事療法は、原発性・続発性を問わずほぼ全ての高脂血症管理における第一段階に位置づけられる。低脂肪食の目的は、食事由来の脂肪摂取量そのものを減らすことでカイロミクロン形成の基質を減らし、外因性経路への負荷を軽減することにある。

特にミニチュア・シュナウザーの特発性高脂血症や膵炎既往犬では、薬物治療の有無にかかわらず低脂肪食が管理の土台となる。効果判定は絶食下の脂質再検査で行い、数週間単位で反応をみていく。

7-2. 食物繊維と体重管理

食物繊維、特に水溶性食物繊維は腸管内で胆汁酸を吸着し糞便中への排泄を促すことで、肝でのコレステロールから胆汁酸への異化を亢進させ、結果として血中コレステロールを低下させる方向に働く。また腸管でのコレステロール吸収そのものを緩やかにする効果も期待される。

肥満個体では緩徐な減量がインスリン感受性を改善し、LPL活性の回復を通じて脂質値の改善に寄与する。急激な減量は猫では肝リピドーシスのリスクを高めるため、体重管理は必ず緩徐かつ計画的に行う。

Chapter 8

薬物治療の薬理学Ⅰ ― 脂質代謝そのものに働きかける薬

8-1. フィブラート系薬

ベザフィブラートやゲムフィブロジルなどのフィブラート系薬は、核内受容体であるPPAR-α(ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体α)を活性化することで薬効を発揮する。PPAR-αの活性化は、LPL遺伝子の発現を増加させると同時に、LPLを阻害的に働くApo C-IIIの発現を低下させる。この二重の作用によってLPLによるTG加水分解能が底上げされ、血中TGの低下につながる。

PPAR-α

脂質・エネルギー代謝関連遺伝子の発現を調節する核内受容体。活性化されるとLPL発現亢進・Apo C-III抑制・肝での脂肪酸酸化亢進が起こり、総じてTGを低下させる方向に代謝を傾ける。フィブラート系薬はこの受容体の作動薬(アゴニスト)である。

加えて、PPAR-αの活性化は肝における脂肪酸のβ酸化を促進し、VLDL合成の基質となる脂肪酸を減少させる方向にも働く。犬での使用報告は蓄積されつつあるものの、大規模な臨床試験によるエビデンスは限定的であり、食事療法や基礎疾患治療で反応が不十分な難治例に対する追加治療として位置づけられることが多い。肝酵素上昇などの副作用モニタリングを併せて行う。

8-2. オメガ3脂肪酸

魚油由来のEPA(エイコサペンタエン酸)・DHA(ドコサヘキサエン酸)に代表されるオメガ3脂肪酸は、肝でのVLDL合成を抑制することを主たる脂質低下機序とする。これは、オメガ3脂肪酸自体が肝でのTG合成の基質競合を起こすこと、また脂肪酸合成に関わる転写因子(SREBP-1など)の発現を抑制する方向に働くことによるとされる。

これに加えてオメガ3脂肪酸は抗炎症作用を有し、炎症性エイコサノイド産生の基質をアラキドン酸からEPAへとシフトさせることで、より炎症惹起性の低いエイコサノイドの産生を促す。この抗炎症作用は、高脂血症に伴う膵炎リスクの軽減という観点からも臨床的意義があると考えられている。

忍容性が比較的高く、フィブラート系薬と併用しやすいことから、多くの症例で食事療法に次ぐ早期の追加治療として選択される。

8-3. ニコチン酸とスタチンの位置づけ

ニコチン酸(ナイアシン)は、脂肪細胞のGPR109A受容体を介して脂肪分解(ホルモン感受性リパーゼの活性化)を抑制し、肝への遊離脂肪酸供給を減らすとともに、肝細胞内でジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ2(DGAT2)を阻害してTG合成・VLDL分泌を抑える。ヒト医療では脂質異常症治療薬として古くから用いられてきたが、犬猫では紅潮様反応や肝毒性などの懸念から使用経験が乏しく、一般臨床での位置づけは限定的である。

スタチン系薬(HMG-CoA還元酵素阻害薬)は、コレステロール合成の律速酵素を阻害し、代償的にLDL受容体の発現を増加させることでLDLの血中クリアランスを高める。ヒトでは高コレステロール血症治療の中心的薬剤であるが、2-4節で述べた通り犬猫はもともとLDLが少なくHDL優位な脂質プロファイルを持つため、コレステロール合成阻害による治療効果の理論的根拠がヒトほど強くない。犬猫での有効性を裏付ける確立されたエビデンスは限られており、現時点では甲状腺機能低下症治療などの基礎疾患治療や食事療法・フィブラート系薬・オメガ3脂肪酸で管理が難しい選択的な症例に限って検討される薬剤という位置づけになる。

Chapter 9

基礎疾患治療薬の薬理学

9-1. 甲状腺ホルモン補充療法

甲状腺機能低下症に続発する高コレステロール血症は、レボチロキシンによるホルモン補充療法によって原因そのものを是正することで改善する。甲状腺ホルモンの補充はLPLおよび肝性リパーゼの発現・活性、LDL受容体の発現を回復させ、数週間の治療で脂質値が正常化していくことが多い。この「治療への反応の良さ」自体が甲状腺機能低下症の診断を後方視的に支持する材料にもなる。

9-2. 副腎皮質機能亢進症治療薬

トリロスタン(副腎皮質ステロイド合成酵素である3β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素の阻害薬)やミトタン(副腎皮質の選択的な細胞傷害作用を持つ薬剤)は、過剰なコルチゾール産生を是正することで、コルチゾールを介した脂質合成亢進・脂肪分解亢進・LPL抑制の連鎖を断ち切り、続発性高脂血症の改善に働く。脂質値の改善速度は基礎にある副腎皮質機能亢進症のコントロール状況に依存する。

9-3. インスリンとその他

糖尿病に続発する高脂血症は、インスリン治療による血糖コントロールの改善に伴い、脂肪組織でのLPL発現が回復し、同時にホルモン感受性リパーゼを介した過剰な脂肪分解が抑えられることで軽快していく。血糖値の安定と脂質値の改善は並行して評価するとよい指標になる。

胆汁うっ滞性肝疾患や蛋白喪失性腎症に続発する高脂血症については、それぞれの原疾患に対する特異的治療(胆道閉塞の解除、免疫抑制療法や腎保護療法など)が主体となり、高脂血症自体への薬物治療は食事療法やオメガ3脂肪酸の併用にとどめることが多い。原疾患のコントロールなしに脂質低下薬だけで管理しようとしても効果は限定的である点に注意する。

Chapter 10

モニタリングと長期管理・まとめ

10-1. 治療効果判定と再検査間隔

食事療法・薬物治療のいずれを開始した場合も、効果判定は絶食下での脂質再検査で行う。一般的には治療開始後2〜4週間を目安に再検査し、反応が不十分であれば食事内容の見直しや薬剤の追加・変更を検討する。フィブラート系薬を使用する場合は、肝酵素などのモニタリングも併せて行う。

原発性高脂血症(ミニチュア・シュナウザーなど)は生涯にわたる管理が必要になることが多く、いったん脂質値が落ち着いても定期的な再評価と食事管理の継続が再燃・膵炎再発の予防につながる。続発性高脂血症では、原疾患の再燃が脂質値の再上昇として表れることがあるため、原疾患のモニタリング項目と併せて脂質値もフォローするとよい。

10-2. まとめ

高脂血症は単一の疾患ではなく、リポタンパク質代謝経路のどこかに生じた破綻を映し出す検査所見である。原発性か続発性かをまず見極め、続発性であれば甲状腺・副腎・膵臓・腎臓・肝臓・薬剤歴という定番の鑑別軸に沿って基礎疾患を探すことが診断の骨格になる。

治療の第一歩は低脂肪食であり、そのうえでオメガ3脂肪酸やフィブラート系薬によるLPL経路への介入、基礎疾患があればその特異的治療を組み合わせていく。膵炎・眼病変・皮膚病変といった臓器障害は、いずれも脂質代謝のどのステップが破綻しているかを理解していれば、なぜその臓器に症状が出るのかを機序として説明できるようになる。検査値だけを追うのではなく、その背後にある代謝経路を思い浮かべながら診療にあたることが、高脂血症を扱ううえでの臨床的な軸になる。

本書のまとめ

①絶食下での評価が大前提/②原発性と続発性の鑑別が診断の起点/③膵炎リスクの評価は特にミニチュア・シュナウザーで重要/④治療は食事療法を土台にオメガ3脂肪酸・フィブラート系薬・基礎疾患治療を組み合わせる/⑤犬猫はHDL優位の脂質プロファイルを持つため動脈硬化はまれ、という5点を軸に臨床像を組み立てるとよい。

本書は犬猫の高脂血症について、発生機序・臨床病態・薬理を中心に整理した臨床リファレンスです。実際の診療方針は、個々の症例の検査データと病歴に基づき判断してください。