泌尿器 ― 臨床検査

犬と猫の尿検査判定因子と結果解釈 ― 陽性・偽陽性因子と尿結晶×pHの読み方

試験紙の一つひとつの反応が「何を、どこまで」教えてくれるのか。偽陽性・偽陰性を生む条件を整理し、尿沈渣の結晶とpHの関係を軸に、犬と猫の尿検査結果を臨床の文脈で読み解くための一冊です。

PART 1 ― 総論と検体

尿検査の考え方と検体の質

尿検査は「理学的検査・化学検査・沈渣検査」の三本柱から成り、それぞれが独立した情報源であると同時に、互いの結果を照合してはじめて解釈が成立する検査でもあります。まずは検査の全体像と、結果の信頼性を左右する検体そのものの扱いから整理します。

01

尿検査の意義と検体採取

同じ「尿検査」でも、採り方が違えば読み方が変わります。まず全体構成と採取法ごとの特性を押さえましょう。

尿検査でわかること・わからないこと

尿検査は非侵襲的かつ安価でありながら、腎泌尿器系だけでなく肝胆道系、内分泌系、全身の代謝状態までを映し出す優れたスクリーニング検査です。ただし一枚の試験紙や一視野の沈渣像だけで診断が確定することはほとんどなく、常に「理学的検査(色調・混濁・尿量)」「化学検査(試験紙法)」「尿沈渣検査(遠心後の顕微鏡観察)」の三者を突き合わせて読む前提で設計されています。

このいずれか一つだけを見て判断すると、偽陽性・偽陰性に振り回されやすくなります。たとえば試験紙の潜血反応が陽性でも沈渣に赤血球がなければ、出血ではなく血色素尿・ミオグロビン尿の可能性を考える、といったように、検査項目同士のクロスチェックが尿検査の基本姿勢です。

ポイント 尿検査の結果は「試験紙だけ」「沈渣だけ」で完結させず、必ず理学的検査・化学検査・沈渣検査の三者を照合してから解釈する。本書全体を通じて繰り返すこの姿勢が、偽陽性・偽陰性を見抜く最大の武器になります。

採取方法の種類と特徴

採取方法は「どの程度の解釈精度が必要か」「培養検査を予定しているか」によって使い分けます。代表的な4つの方法にはそれぞれ長所と限界があります。

採取法特徴混入しやすいもの培養適性
自然排尿(自由排尿)非侵襲的、自宅採尿も可能外陰部・包皮・被毛・環境由来の細菌、細胞、扁平上皮不適(下部生殖路の常在菌が混入するため解釈困難)
用手圧迫排尿診察室で即時に採取可能膀胱内圧上昇による医原性の血尿、まれに尿管への逆流自然排尿に準じて不適
カテーテル導尿下部尿路閉塞の解除を兼ねられる尿道粘膜の擦過による血尿・上皮細胞、尿道由来細菌の持ち込み限定的(尿道通過時の混入に注意)
膀胱穿刺(シストセンテシス)超音波ガイド下または触診下で施行、最も清潔穿刺手技による軽微な血尿最適(培養のゴールドスタンダード)
用語
膀胱穿刺(シストセンテシス):触診または超音波ガイド下で腹壁から膀胱内へ直接針を穿刺し、尿を採取する方法。下部生殖路・尿道の常在菌を経由しないため、細菌培養や正確な沈渣評価に最も適した採取法とされます。
注意 膀胱穿刺は清潔な検体が得られる一方、重度の血小板減少・凝固異常がある症例や、膀胱壁の著しい菲薄化・腫瘤性病変が疑われる症例では出血や医原性播種のリスクを考慮し、実施の可否を慎重に判断します。膀胱が適度に充満していない状態での穿刺も、周囲臓器の誤穿刺リスクを高めます。

採取方法が結果解釈に与える影響

自然排尿・用手圧迫排尿で得た尿は、タンパク・潜血・細菌・扁平上皮細胞が「下部生殖路由来」なのか「上部尿路・膀胱由来」なのか区別がつきません。特に発情前期・発情期の未避妊雌では、生殖器からの出血がそのまま潜血反応陽性や沈渣中の赤血球高値として現れるため、問診で発情周期を必ず確認します。

一方でカテーテル導尿は、尿道粘膜を機械的に擦過することで軽度の血尿や移行上皮細胞の混入を生じやすく、「本当に膀胱由来の血尿か、採取手技による血尿か」を判断する材料として、採取直後の色調変化(採尿開始時のみ赤みが強く、後半にクリアになるなど)を記録しておくと有用です。

採取タイミングの考え方

尿比重や尿沈渣の評価には、水分摂取や排尿の影響を受けにくい早朝起床時尿(第一尿)が理想的とされますが、実務上は来院時に採取できた尿で評価し、直近の飲水量・輸液の有無・利尿薬投与歴を必ず併記して解釈することが重要です。大量飲水直後や輸液後の尿は比重が見かけ上低下し、腎濃縮能を過小評価してしまうことがあります。

豆知識 培養検査を予定している場合は、可能な限り抗菌薬投与開始前に膀胱穿刺で採取します。すでに抗菌薬が投与されている状態での培養は偽陰性の温床になります。
02

検体の取り扱いと保存 ― 結果を歪める見落としがちな落とし穴

試験紙の性能や顕微鏡の腕前より先に、検体の「鮮度」が結果を左右します。放置時間そのものが偽陽性・偽陰性因子であることを押さえます。

なぜ「すぐに検査する」ことが重要なのか

採取された尿は生きた細胞・細菌・溶存ガスを含む不安定な検体です。室温に置かれた時間が長くなるほど、細菌が増殖し、細胞が崩壊し、溶質が析出していきます。つまり「検体を採ってから検査するまでの時間」自体が、結果を歪める独立した因子になります。理想は採取後30〜60分以内の分析であり、それ以上遅れる場合は保存方法を工夫する必要があります。

室温放置で起こる変化

項目放置による変化機序
pH上昇(アルカリ化)細菌のウレアーゼが尿素を分解しアンモニアを産生/容器開放による二酸化炭素の揮散
細菌数増加室温での細菌増殖。感染の有無に関わらず数が増える
グルコース減少細菌・細胞による糖の消費(解糖)
ケトン体減少アセト酢酸・アセトンの揮発
ビリルビン減少光曝露による酸化・分解(ビリベルジンへ変化し試験紙では検出されにくくなる)
赤血球・白血球崩壊・減少特に低張尿・アルカリ尿中で細胞膜が破綻し溶解する
円柱崩壊アルカリ尿・低張尿中でマトリックスが崩れる
結晶析出・増加温度低下・溶質濃縮による過飽和。生体内では存在しなかった結晶が検体内で新たに形成される
注意 放置尿ではpHが実際より高く出ることが多く、その結果として本来アルカリ尿では出にくいはずの結晶が見かけ上出現する、あるいは逆に本来の結晶が見落とされることがあります。pHと結晶の対応関係(第10章)を読むときは、必ず「この検体はいつ採取され、いつ観察されたか」を確認してください。

冷蔵保存の功罪

やむを得ず保存が必要な場合、冷蔵(4℃前後)は細菌増殖と解糖を大幅に遅らせるため一般的に推奨されます。しかし冷蔵にも代償があります。

  • 結晶の人工的析出:温度低下によって溶解度が下がり、生体内では形成されていなかった結晶(特にシュウ酸カルシウムや無晶形リン酸塩・尿酸塩)が試験管内で新たに析出します。冷蔵検体での結晶所見は、体内での結晶形成傾向をそのまま反映しない場合があることを念頭に置きます。
  • 比重の見かけ上の上昇:屈折計は室温での測定を前提に較正されているため、冷えた検体は測定前に室温に戻してから測定します。
  • 細胞の保存性向上:一方で赤血球・白血球・円柱の崩壊は室温放置より抑えられるため、沈渣の細胞形態評価には有利に働きます。
保存の目安
採取後30〜60分以内の分析が理想。やむを得ず遅れる場合は4℃で冷蔵し24時間以内に検査。冷蔵検体は測定前に室温へ戻し、結晶所見は「保存によるアーチファクトの可能性」を常に併記して解釈します。

検体とあわせて記録しておくべき情報

試験紙や沈渣の数値だけを見ても、その解釈は成立しません。以下の情報が結果の意味を大きく変えるため、検体提出時に必ず記録します。

採取法
自然排尿/導尿/穿刺
採取〜分析の時間
放置時間・保存温度
食事・絶食状況
直近の食事内容・時間
投薬歴
利尿薬・抗菌薬・輸液
性周期(雌)
発情前期・発情期の有無
PART 2 ― 理学的検査

見た目と濃さから読み取る

試験紙を浸す前に、肉眼所見だけでも多くの情報が得られます。色調・混濁・尿量、そして腎の濃縮能を反映する尿比重を扱います。

03

外観・尿量

色調と混濁は最も安価な情報源です。ただし色の変化には多くの紛らわしい原因があります。

色調の評価

正常な犬猫の尿は、尿中色素(ウロクロム)により淡黄色〜黄色を呈します。色の濃淡はおおまかに濃縮の程度を反映しますが、色調の異常は必ずしも病的意味を持つとは限らず、食事・薬剤・混入物によっても変化します。

色調考えられる原因
無色〜淡黄色希釈尿(多飲多尿、腎の濃縮能低下、輸液後、利尿薬投与後)
濃黄色〜琥珀色濃縮尿(脱水、飲水制限)
赤色〜赤褐色血尿・血色素尿・ミオグロビン尿(遠心して鑑別、第8章)
茶色〜濃茶色(振ると黄色の泡)ビリルビン尿(泡が黄色に着色するのが特徴)
オレンジ色高濃度のビリルビン、一部の薬剤(リファンピシンなど)
褐色〜黒褐色陳旧性出血によるメトヘモグロビン、まれにフェノール系薬剤中毒
豆知識 「振ったときの泡の色」は簡便な鑑別ポイントです。ビリルビン尿では泡が黄色〜黄褐色に着色しますが、血尿由来の赤色調では泡は白いままのことが多く、この違いだけでも肉眼的な当たりをつけられます。

混濁(にごり)の評価

混濁の原因は多岐にわたり、必ずしも異常を意味しません。犬の正常尿は透明であることが多い一方、猫では正常でも軽度の混濁を呈することがあり、種差を踏まえて評価します。

混濁の主因
結晶/細胞(赤血球・白血球・上皮細胞)/細菌・酵母/粘液/精子(未去勢雄)/脂質滴(特に猫)/糞便混入などの外因性混入物。混濁があれば必ず遠心後の沈渣で原因を特定します。

尿量の異常

多尿(1日あたりの尿量増加)・乏尿・無尿は問診と飲水量の実測(可能であれば)を組み合わせて評価します。試験紙・沈渣所見だけでは尿量異常の原因は特定できず、腎機能検査(血液生化学、SDMA等)や画像検査との統合が必要です。本書では試験紙・沈渣の解釈に主眼を置くため、尿量そのものの精査は他の専門書に譲ります。

04

尿比重 ― 濃縮能の評価

試験紙の比重パッドは犬猫では信頼できません。屈折計での測定と、比重を偽って動かす因子を押さえます。

屈折計を用いる理由

試験紙の比重パッドはヒト尿を想定して較正されており、犬猫の尿では実際の比重との誤差が大きく、臨床判断には使用できません。尿比重は必ず屈折計で測定します。犬猫専用のスケールを持つ屈折計もありますが、一般的な屈折計でも読み取り値をそのまま解釈して問題ありません。

基準値の目安

区分目安解釈
十分な濃縮犬:おおむね1.030以上/猫:おおむね1.035〜1.040以上腎の濃縮能は保たれていると考えてよい
等張尿1.008〜1.012血漿とほぼ等しい浸透圧。腎の濃縮も希釈もできていない状態
低張尿1.008未満能動的に希釈している状態(尿崩症、心因性多飲など)
ポイント 等張尿そのものは「濃縮していない」ことしか意味しません。脱水徴候や高窒素血症を伴う等張尿は腎機能低下を強く示唆しますが、十分な飲水・輸液下での等張尿は必ずしも異常ではないため、必ず脱水評価・血液検査と併せて解釈します。

比重を見かけ上動かす因子

比重は「浸透圧を反映する溶質の量」を屈折率から推定する検査であるため、糖やタンパクなど本来は少量しか関与しない溶質が大量に存在すると、実際の腎濃縮能以上に高い値を示すことがあります。

因子比重への影響備考
著明な糖尿見かけ上上昇糖濃度が高いほど濃縮能を過大評価しやすい
著明なタンパク尿見かけ上やや上昇糖ほど影響は大きくないが無視できない
マンニトール・ヨード造影剤投与後著明に上昇浸透圧的に活性な物質が濃縮能とは無関係に比重を押し上げる。検査前の投与歴を必ず確認
溶血・脂血検体測定誤差濁りにより屈折計の境界線が読み取りにくくなる
冷えた検体測定誤差(見かけ上上昇)室温に戻してから再測定する
注意 造影検査の直後やマンニトール投与後に採取した尿で比重を評価すると、腎の濃縮能を実態より高く見積もってしまいます。投与歴がある場合は、その影響が消失するまで比重による濃縮能評価を保留します。
PART 3 ― 化学検査(試験紙法)

試験紙の一項目ずつを疑う

試験紙は反応の仕組みごとに得意・不得意があります。各項目について「何が真の陽性を作り、何が偽陽性・偽陰性を作るか」を一つずつ整理します。

05

pH ― 産生機序と変動因子

尿pHは単独の数値ではなく、食事・代謝・感染・検体の鮮度が複雑に絡む「合成された値」として読みます。

犬猫の尿pHの基本

犬・猫は肉食(犬は雑食寄り)であるため、正常な尿はやや酸性〜中性(おおむねpH 6.0〜7.5、平均6.5前後)に傾く傾向があります。ただし正常範囲は広く、食事内容や採尿タイミングによって単発の測定値は大きく変動するため、一回の測定だけで「異常」と判断せず、他の所見と合わせて解釈します。

生理的にpHを動かす真の変動因子

  • 食事内容:動物性タンパク中心の食事は尿を酸性に、植物性タンパクを多く含む食事や一部の療法食は尿をアルカリ性に傾けます。
  • 食後一過性アルカリ尿(アルカリタイド):食後、胃が胃酸(塩酸)を分泌する際に血中へ重炭酸イオンが放出され、その結果として一過性に尿がアルカリ性へ傾く現象です。食後1〜2時間以内の尿はこの影響を受けている可能性を考慮します。
  • 採尿からの経過時間:第2章で述べた通り、放置検体は細菌のウレアーゼ活性と二酸化炭素の揮散により見かけ上アルカリ性に傾きます。

病的にpHを動かす因子

方向主な原因
酸性に傾く代謝性アシドーシス、呼吸性アシドーシス、飢餓・ケトーシス、重度の下痢による重炭酸イオン喪失、高タンパク(動物性)食
アルカリ性に傾くウレアーゼ産生菌(ブドウ球菌属、プロテウス属など)による尿路感染、食後アルカリタイド、遠位尿細管性アシドーシス(後述)、呼吸性アルカローシス(過換気)、植物性タンパク中心の食事、放置検体(アーチファクト)
用語
遠位尿細管性アシドーシス(遠位RTA):腎尿細管が水素イオンを十分に排泄できず、全身は代謝性アシドーシスに傾いているにもかかわらず、尿は酸性化されずアルカリ〜中性のままになる病態。「全身はアシドーシスなのに尿が酸性化していない」という不釣り合いが診断の手がかりになります。
注意 全身性の代謝性アシドーシスがある動物では、腎が正常であれば尿は代償的に強い酸性を示すはずです。血液ガス・生化学でアシドーシスが確認されているのに尿pHが中性〜アルカリ性である場合は、単純な検体の問題として片付けず、ウレアーゼ産生菌による尿路感染や遠位尿細管性アシドーシスを鑑別に挙げます。
ポイント 尿pHは第10章で扱う尿結晶の種類と密接に関係します。ストルバイト結晶はアルカリ〜中性尿で、シュウ酸カルシウムや尿酸アンモニウム、シスチンは酸性〜中性尿で形成されやすい傾向があります。pHを読むときは、常に「この先に結晶所見がどう対応するか」を意識してください。
06

タンパク ― 陽性因子と偽陽性

試験紙のタンパクパッドは「アルブミンだけ」を主に検出する検査です。この特性を知らないと解釈を誤ります。

試験紙の反応原理と限界

試験紙のタンパクパッドは、pH指示薬がタンパクの存在下で変色する「タンパク誤差」の原理を利用しています。この方法はアルブミンに対する感度が高い一方、グロブリンやベンス・ジョーンズタンパクなど非アルブミン性タンパクへの感度は低く、これらが主体の病態では偽陰性になり得る半定量検査であることを理解しておきます。

真の陽性(病的タンパク尿)の原因

由来代表例
腎前性(溢流性)血色素尿、ミオグロビン尿、単クローン性高グロブリン血症に伴うベンス・ジョーンズタンパク尿
腎性糸球体疾患(糸球体腎炎、アミロイドーシス)、尿細管性タンパク尿(近位尿細管機能障害)
腎後性腎盂から尿道までの炎症・出血・感染、下部生殖路からの混入(未避妊雌の発情期出血など)

偽陽性の主な原因

  • アルカリ尿(pH 8以上):指示薬の変色反応自体がアルカリ側にずれて生じる偽陽性。放置検体でのpH上昇が間接的にタンパク偽陽性を作ることもあります。
  • 著しく濃縮した尿:高比重尿では見かけ上タンパクが濃く判定されやすくなります。
  • 肉眼的血尿・膿尿の混入:血液や炎症細胞そのものがタンパクを持ち込むため、真の「腎性タンパク尿」と区別がつかなくなります。沈渣で赤血球・白血球が多数見られる場合は、この寄与分を差し引いて解釈します。
  • 消毒薬・洗浄剤の混入:塩化ベンザルコニウムなどの第四級アンモニウム化合物やクロルヘキシジンで外陰部・容器を洗浄した直後の検体は偽陽性になり得ます。
  • 精液の混入:未去勢雄での自然排尿・用手圧迫排尿では精漿由来のタンパクが混入することがあります。
注意 沈渣に活動性の血尿・膿尿(多数の赤血球・白血球)が見られる状態でUPC(尿タンパク/クレアチニン比)を測定しても、その値は炎症・出血の寄与を含んでおり、糸球体性タンパク尿の指標として使えません。UPCは沈渣が非活動性(赤血球・白血球がほぼ見られない)であることを確認してから測定・解釈します。

偽陰性の要因

著しく希釈された尿では真のタンパク尿があっても検出感度以下になることがあります。またベンス・ジョーンズタンパクのように試験紙が検出しにくいタンパクが主体の場合も、実際の病態を過小評価するおそれがあります。

陽性だったときの次の一手

試験紙で陽性、かつ沈渣が非活動性であれば、UPCで定量評価に進みます。単回の軽度タンパク尿は生理的(運動後、発熱時など)なこともあるため、臨床的に意味のある腎性タンパク尿と判断するには、2〜3回・2週間以上の間隔をあけた再検で持続性を確認するのが原則です。

07

グルコース・ケトン体

グルコースは「腎閾値」という一段仕組みがある検査、ケトン体は「見えない成分がある」検査です。

グルコース:腎閾値という考え方

血糖が腎の再吸収能力(腎閾値)を超えると、はじめて尿中に糖が漏れ出します。腎閾値の目安は犬でおおむね180〜220mg/dL、猫では180〜290mg/dLとされ、特に猫は個体差・ストレスの影響で幅が大きいとされています。

分類原因
真の陽性 糖尿病 No.004 犬と猫の血糖調節メカニズム 、猫のストレス性高血糖(糖尿病ではないのに一過性に糖尿を呈する)、ファンコニー症候群(近位尿細管障害による正常血糖時の糖尿)、原発性腎性糖尿、副腎皮質機能亢進症 No.009 犬と猫の副腎 、急性膵炎、ブドウ糖加輸液後
偽陽性採尿容器への次亜塩素酸・過酸化水素など酸化性物質の混入
偽陰性放置検体での細菌・細胞による糖の消費(解糖)、一部の試験紙ブランドで高濃度アスコルビン酸(ビタミンC)が反応を阻害
豆知識 猫は興奮・ストレスにより一過性に血糖が大きく上昇し、糖尿病でなくても糖尿を呈することがあります。来院時の興奮度、フルクトサミンなど数週間単位の血糖状態を反映する指標と組み合わせて評価すると、ストレス性高血糖と糖尿病を区別しやすくなります。

ケトン体:試験紙には「見えない」ケトンがある

試験紙のケトンパッドはニトロプルシド反応を利用しており、アセト酢酸とアセトンには反応しますが、糖尿病性ケトアシドーシスで最も多く産生されるβヒドロキシ酪酸には反応しません。つまり試験紙は、実際のケトーシスの重症度を過小評価する可能性がある検査です。

注意 臨床的にケトアシドーシスが強く疑われるにもかかわらず試験紙のケトン反応が弱陽性・陰性である場合、βヒドロキシ酪酸を測定できない試験紙の限界を疑います。可能であれば血中βヒドロキシ酪酸の測定を検討してください。
分類原因
真の陽性糖尿病性ケトアシドーシス、長期絶食・食欲不振、低炭水化物・高脂肪食、猫の肝リピドーシス No.028 猫の肝リピドーシス など負のエネルギーバランス状態
偽陽性強く着色した尿による反応色の誤読、一部のスルフヒドリル基を持つ薬剤(カプトプリルなど)による発色干渉
偽陰性放置・高温によるアセト酢酸・アセトンの揮発、試験紙自体の保存不良(湿気・空気曝露による試薬劣化)
08

潜血・ビリルビン・ウロビリノーゲン

この3項目は「試験紙だけでは正体が特定できない」という共通点を持ちます。遠心・比較・種差という3つの視点で読み解きます。

潜血反応の原理と限界

潜血パッドはヘモグロビンが持つペルオキシダーゼ様活性を利用した反応で、赤血球(血尿)・遊離ヘモグロビン(血色素尿)・ミオグロビン(ミオグロビン尿)のいずれが原因でも陽性になります。試験紙単独ではこの3つを区別できないことをまず理解します。

3つを見分ける方法

手順所見示唆される病態
尿を遠心する沈渣(ペレット)が赤く、上清が透明になる血尿(赤血球が沈降した)
尿を遠心する上清が赤いまま、沈渣は目立たない血色素尿またはミオグロビン尿
採血して血漿の色を見る血漿がピンク〜赤色(溶血)血管内溶血による血色素尿
採血して血漿の色を見る血漿は透明なままミオグロビン尿(横紋筋融解などによる)

偽陽性の主な原因

  • 下部生殖路からの出血混入:未避妊雌の発情前期・発情期の生殖器出血が自然排尿尿に混入する。
  • 採取時の混入:自然排尿・用手圧迫排尿での外陰部・包皮由来の微量出血。
  • 容器の酸化性汚染物質:次亜塩素酸系消毒薬などが残留した容器。
  • 高濃度の細菌:一部の細菌が持つペルオキシダーゼ様活性による発色。

偽陰性の要因

高濃度のアスコルビン酸(ビタミンC)はペルオキシダーゼ反応を阻害し、偽陰性の原因になります。ビタミンC製剤やサプリメントの投与歴がある場合は念頭に置きます。

ポイント 潜血陽性でも沈渣に赤血球がなければ「血尿ではない」ことがまず分かります。そこから血漿色調を確認する、という2段階の思考プロセスを習慣にすると、血色素尿・ミオグロビン尿の見落としが減ります。

ビリルビン:犬と猫で解釈が異なる

ビリルビン No.017 犬と猫の黄疸 は犬と猫で臨床的な意味合いが大きく異なる項目です。

種差
:腎の再吸収閾値が低いため、特に濃縮された尿を持つ雄犬では軽度のビリルビン尿が正常範囲内の所見として見られることがあります。:腎閾値が高く、ビリルビン尿は原則として異常所見であり、少量であっても溶血性疾患や肝胆道系疾患の精査対象になります。
分類原因
真の陽性溶血(ビリルビン産生量の増加)、肝細胞障害、胆汁うっ滞、肝外閉塞
偽陰性光曝露によりビリルビンがビリベルジンへ酸化され試験紙で検出されにくくなる、高濃度アスコルビン酸による反応阻害

ウロビリノーゲン:臨床的な有用性は限定的

ウロビリノーゲンは腸肝循環を経て少量が尿中に排泄される正常代謝産物であり、陽性であること自体は病的意義に乏しいとされます。また「陰性であれば胆道完全閉塞を示唆する」という古典的な解釈も犬猫では再現性・信頼性が低く、単独での診断的価値は限定的です。肝胆道系の評価は血液生化学・画像検査を中心に行い、ウロビリノーゲンは補助的な位置づけにとどめます。

09

白血球反応・亜硝酸塩 ― 犬猫では当てにならない理由

この2項目は「陽性・陰性の因子」を細かく覚えるより先に、そもそも犬猫での有用性自体が低いことを知っておくべき項目です。

白血球反応(ロイコサイトエステラーゼ)の限界

白血球反応パッドはヒトの好中球エステラーゼを検出するよう設計・較正されており、犬猫での妥当性検証は不十分です。実際、犬猫の尿では偽陽性・偽陰性のいずれも高頻度に生じることが知られており、このパッドの結果を膿尿の有無の判断に用いるべきではありません。

亜硝酸塩の限界

亜硝酸塩検査は、細菌が硝酸塩を亜硝酸塩へ還元する反応を利用しますが、この還元には膀胱内である程度長時間(ヒトでは数時間単位)尿が滞留している必要があります。犬猫は排尿頻度が高く、この反応に十分な滞留時間が確保されにくいうえ、グラム陽性菌や一部のグラム陰性菌など、硝酸塩還元能を持たない、あるいは弱い起因菌も多いため、感度が著しく低くなります。

注意 白血球反応・亜硝酸塩の2項目は、犬猫の臨床では実質的に判定材料として使用しません。膿尿・細菌尿の評価は、必ず尿沈渣の顕微鏡的観察(視野あたりの白血球数、細菌の有無)と、必要に応じた細菌培養で行います。

参考:それでも生じうる誤差の方向性

項目偽陽性の一因偽陰性の一因
白血球反応ホルマリン残留、強い色調の尿による誤読高比重尿、著明な糖尿・タンパク尿、一部の抗菌薬(テトラサイクリン系・セファロスポリン系など)、高濃度アスコルビン酸
亜硝酸塩試験紙の変色・古い試薬滞留時間不足、硝酸塩還元能を持たない起因菌、高濃度アスコルビン酸

では何を根拠に膿尿・細菌尿を判定するか

沈渣中の白血球数(強拡大視野あたりの個数)と細菌の視認(無染色または染色標本)が最も信頼できる根拠です。臨床症状(頻尿・血尿・排尿痛など)と合わせて感染を疑う場合は、抗菌薬感受性を含む細菌培養を実施し、治療方針を確定します。

PART 4 ― 尿沈渣検査

遠心して初めて見えるもの

試験紙が「化学的な反応」を見るのに対し、沈渣検査は尿の中に実在する構造物を直接観察します。中でも結晶とpHの関係は、この本の核となるテーマです。

10

尿結晶とpHの関係

結晶の種類は尿のpH環境と強く結びついています。まず全体の対応関係を俯瞰し、そのあとで一つずつの結晶を掘り下げます。

結晶を読む前に知っておくべき3つの前提

結晶の解釈には、個々の形状を覚える前に押さえておくべき前提が3つあります。

  • 結晶形成はpH・溶質濃度・温度の3要素で決まる:同じ結晶でも、条件が変われば形成されたりされなかったりします。pHはその一因にすぎません。
  • 結晶尿=疾患ではない:健康な犬猫の尿にも、食事内容によっては結晶が普通に見られます(結晶尿はあっても尿石症はない、という状態は珍しくありません)。
  • 結晶の種類は尿石の成分を「示唆」するが「確定」しない:実際に摘出された尿石の成分同定は、赤外分光分析などの結石分析で行うのが原則です。
注意 放置・冷蔵された検体では、体内では形成されていなかった結晶が試験管内で新たに析出することがあります。結晶所見とpHの対応関係を読むときは、常に「この検体は新鮮か」を確認してください。

結晶 × pH スペクトラム

主要な結晶が形成されやすいpH域を、酸性(左)からアルカリ性(右)へ並べた早見図です。結晶名をタップすると、形状と臨床的な意味が表示されます。

尿結晶 × pH スペクトラム
帯の位置と幅は「形成されやすい傾向」を示す目安であり、絶対的な境界線ではありません。
← 酸性アルカリ性 →

上のバーにある結晶名をタップすると、形状と臨床的な意味が表示されます。

ストルバイト(リン酸アンモニウムマグネシウム, MAP)

形状
無色、「棺のふた(コフィンリッド)」型と呼ばれる平たいプリズム状〜長方形の結晶。中性〜アルカリ尿で形成されやすい。

ストルバイトは犬と猫で臨床的意味が大きく異なります。では、ほとんどの症例でウレアーゼ産生菌(ブドウ球菌属、プロテウス属など)による尿路感染が背景にあり、尿素がアンモニアへ分解されることで局所的にアルカリ環境が作られ結晶・尿石が形成されます。では感染を伴わない特発性(食事関連)の形成が多く、特に若齢〜成猫の下部尿路疾患(FLUTD)の原因として頻度が高い点が犬と対照的です。

シュウ酸カルシウム二水和物

形状
無色、正方形に対角線が入った「封筒」状(マルタ十字状)の結晶。酸性〜中性尿、時に中性〜弱アルカリ尿でも見られる。

高カルシウム血症(上皮小体機能亢進症、悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症、ビタミンD中毒など)、特発性のシュウ酸カルシウム尿石症で頻繁にみられます。ミニチュア・シュナウザー、ビション・フリーゼ、ヨークシャー・テリアなど特定犬種、および猫でも近年増加傾向にあるとされる尿石のタイプです。pHとの対応は他の結晶ほど厳密ではなく、比較的広いpH域で形成され得ることも知っておきます。

シュウ酸カルシウム一水和物

形状
無色、紡錘形〜ダンベル状(両端がやや膨らんだ棒状)の結晶。酸性尿で形成されやすい。
注意 この結晶はエチレングリコール(不凍液)中毒の代表的な所見として知られています。原因不明の急性腎障害と多数のシュウ酸カルシウム一水和物結晶を認めた場合は、中毒の可能性を必ず問診・鑑別に含めます。

尿酸アンモニウム(ビウレート)

形状
黄褐色、「いがぐり(ソーンアップル)」状の球形で棘を持つ結晶。酸性〜中性尿で形成されやすい。

ダルメシアンやポルトガル・ウォーター・ドッグでは、プリン代謝経路の遺伝的特性により尿酸の尿細管再吸収が低下し、高尿酸尿症の結果として本結晶が高頻度にみられます。これら好発犬種以外の動物で本結晶を認めた場合は、門脈体循環シャント(肝性)によりアンモニア・尿酸の代謝処理能が低下している可能性を考え、肝機能検査(胆汁酸負荷試験など)を検討します。

豆知識 若齢動物で尿酸アンモニウム結晶と発育不良・術後麻酔からの覚醒遅延などの既往が重なる場合、門脈体循環シャントの手がかりとして結晶所見が診断の入り口になることがあります。

シスチン

形状
無色、平坦な六角形の板状結晶。酸性尿で形成されやすい。

近位尿細管でのシスチン(および他の二塩基性アミノ酸)再吸収障害=シスチン尿症を示唆する所見です。遺伝的素因が知られる犬種(イングリッシュ・ブルドッグ、ニューファンドランド、ダックスフンドなど)で特に注意します。持続する場合はシスチン尿石症の素因として、酸性化を避ける食事管理などの対策が検討されます。

ビリルビン結晶

形状
黄金色〜赤褐色の針状結晶が房状に集簇する。酸性尿で形成されやすい。

犬では濃縮された尿中に少量認められることがあり、必ずしも異常とは限りません。ただし量が多い場合や猫での検出は、溶血性疾患・肝胆道系疾患の存在を示唆するため、ビリルビン試験紙所見・血液検査と合わせて評価します。

無晶形結晶(アモルファス)について

無晶形リン酸塩(アルカリ尿)・無晶形尿酸塩(酸性尿)は、砂粒状の顆粒として観察されますが、診断的意義はほとんどありません。放置・冷蔵検体で特に増える典型的なアーチファクトであり、他の異常所見がなければ無視して差し支えありません。なお炭酸カルシウム結晶(強アルカリ尿)は草食動物(ウサギ、ウマなど)では正常所見ですが、犬猫ではまれです。

pHと結晶所見が一致しないときの考え方

「測定されたpHと、観察された結晶の典型域が食い違う」という場面は珍しくありません。次のような可能性を順に検討します。

  • 検体が放置・冷蔵されており、pH自体がアーチファクトでアルカリ側に変化している(第2・5章)。
  • 結晶は膀胱内での「瞬間的な過飽和」を反映するため、来院時に測定した1点のpHが、結晶形成が起きた時点の環境を必ずしも代表していない。
  • 複数種類の結晶が同一検体内に混在することもあり、pHの解釈は「結晶が優勢に存在する条件」を推定する程度にとどめる。

結晶尿と尿石症の関係

結晶が見えることと、実際に尿石(結石)が存在することは同じではありません。健康な動物の食後尿に一過性の結晶尿がみられることもあれば、逆に尿石が存在していても沈渣に結晶が全く見られないこともあります。犬のストルバイト尿石はほぼ必ず尿路感染を伴う一方、猫のストルバイト尿石は無菌性のことが多いという種差は、治療方針(抗菌薬の要否、食事療法の位置づけ)に直結するため特に重要です。実際に摘出・排出された尿石の成分を確定するには、結石分析(赤外分光分析など)が必要である点も忘れないようにします。

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細胞成分と円柱

結晶の陰に隠れがちですが、細胞と円柱は出血・炎症・尿細管障害の局在を教えてくれる情報源です。

赤血球

強拡大1視野あたり数個程度までは正常範囲とされますが、これを超える場合は出血源の検索が必要です。原因は下部尿路の炎症・尿石・腫瘍から、上部尿路の出血、全身性の凝固異常、採取手技による医原性の混入(用手圧迫排尿・カテーテル導尿)まで多岐にわたるため、採取方法(第1章)を必ず踏まえて解釈します。

白血球

強拡大1視野あたり数個程度までが目安で、これを超える膿尿は感染性・非感染性を問わず炎症の存在を示します。非感染性の原因としては尿石・腫瘍・特発性の膀胱炎(猫の特発性膀胱炎など)が挙げられ、細菌の視認や培養結果と合わせて感染の有無を判断します。自然排尿では下部生殖路由来の白血球混入にも注意します。

上皮細胞

種類由来臨床的意味
扁平上皮細胞下部生殖路・外陰部・包皮自然排尿・用手圧迫排尿での混入所見。少量であれば通常は無視してよい
移行上皮(尿路上皮)細胞腎盂〜膀胱〜近位尿道炎症・刺激で数が増加。集塊状・異型を伴う場合は移行上皮癌などの腫瘍性病変を疑い、細胞診・画像検査に進む
腎尿細管上皮細胞近位尿細管急性尿細管障害・壊死(腎毒性物質曝露、虚血など)で増加
注意 集塊状・核異型を伴う移行上皮細胞を認めた場合、炎症による反応性変化か腫瘍性変化かの区別は沈渣の単回観察だけでは困難です。臨床的に膀胱腫瘍が疑われる場合は、専門的な尿細胞診や画像検査(超音波検査など)を追加します。

円柱

円柱は腎尿細管内でタム・ホースフォールタンパクを基質として形成される、尿細管の「鋳型」です。存在自体が腎実質の情報を直接反映するため、結晶よりもさらに崩れやすく、新鮮な検体でしか正確に評価できません。

種類臨床的意味
硝子円柱軽度のタンパク尿・脱水でも見られることがあり、少数であれば病的意義は小さい
顆粒円柱尿細管上皮の変性・壊死を示唆
赤血球円柱糸球体または尿細管からの出血を示唆。腎実質性の出血源であることの強い根拠
白血球円柱腎実質の炎症(腎盂腎炎など)を示唆
上皮円柱尿細管上皮の急性障害を示唆
ろう様円柱慢性かつ重度の尿細管障害を示唆
脂肪円柱尿細管上皮の脂質変性。猫の糖尿病などで見られることがある
豆知識 円柱はアルカリ尿・低張尿・放置検体では急速に崩壊するため、「円柱が見えない=腎障害がない」とは限りません。腎障害を強く疑う症例では、できるだけ新鮮な尿を速やかに遠心・観察することが円柱の検出感度を左右します。
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細菌とその他の所見

沈渣の最後は、見落とされがちな混入物と、感染診断の要となる細菌の読み方です。

細菌の観察と限界

無染色の湿式標本では、ブラウン運動をする微細な無晶形結晶や細胞破片を細菌と誤認しやすく、逆に少数の細菌は見落とされがちです。染色標本(修正ライト染色やグラム染色)を用いると、細菌の有無・形態(球菌か桿菌か)の判定精度が上がります。

細菌尿の解釈:採取法との組み合わせが鍵

自然排尿・用手圧迫排尿での細菌検出は、下部生殖路の常在菌混入である可能性を常に考慮します。一方、膀胱穿刺で採取した検体での細菌検出は、混入の可能性が低く、白血球尿を伴わなくても臨床的意義を持つことがあります(特に糖尿病、副腎皮質機能亢進症、慢性腎臓病など免疫状態に影響する基礎疾患がある動物)。確定診断・薬剤感受性の判断には細菌培養が必須です。

注意 抗菌薬投与後に採取した検体での培養は偽陰性の原因になります。可能な限り抗菌薬投与前、かつ膀胱穿刺での採取を心がけます。

その他の混入物・所見

所見解釈
精子未去勢雄での自然排尿・用手圧迫排尿でみられる正常所見。臨床的意義はない
脂肪滴特に猫でよくみられる所見。顆粒円柱や球菌と誤認しやすいが、多くは病的意義に乏しい
真菌・酵母様構造物環境由来の混入が大半だが、免疫抑制状態の動物では真の真菌性尿路感染も稀に起こりうる
粘液下部生殖路由来(未去勢雄の前立腺分泌物、雌の腟分泌物)であることが多い
豆知識 沈渣で「よくわからない構造物」に出会ったら、まず「採取法」「食事内容」「投薬歴」「検体の鮮度」という混入・アーチファクトの4大要因に立ち返って考えると、多くは説明がつきます。
PART 5 ― 総合解釈

結果を統合して読む

最後に、これまでの各項目を一枚の早見表にまとめ、実際の症例を想定した統合解釈の視点を確認します。

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偽陽性・偽陰性の総まとめと症例統合

各章で扱った内容を一覧化し、実際の解釈の流れを想定例で確認します。

項目別 偽陽性・偽陰性 早見表
項目真の陽性の主因偽陽性の主因偽陰性の主因
pH代謝性・呼吸性アシドーシス/アルカローシス、UTI(ウレアーゼ産生菌)、遠位RTA、食事内容放置検体(細菌ウレアーゼ、CO2揮散)、食後アルカリタイド
タンパク糸球体疾患、尿細管性タンパク尿、腎後性の炎症・出血、溢流性(血色素尿等)アルカリ尿、高比重尿、血尿・膿尿混入、消毒薬混入、精液混入著しい希釈尿、非アルブミン性タンパク(ベンス・ジョーンズ等)
グルコース糖尿病、猫のストレス性高血糖、ファンコニー症候群、副腎皮質機能亢進症酸化性物質の混入放置検体(解糖)、高濃度アスコルビン酸
ケトン体糖尿病性ケトアシドーシス、絶食・食欲不振、肝リピドーシス強い着色尿、スルフヒドリル基含有薬剤放置・揮発、試験紙の劣化、βヒドロキシ酪酸は原理上検出不可
潜血血尿、血色素尿、ミオグロビン尿下部生殖路出血混入、採取時混入、酸化性汚染物質、高濃度細菌高濃度アスコルビン酸
ビリルビン溶血、肝細胞障害、胆汁うっ滞・閉塞(猫は少量でも異常)光曝露による分解、高濃度アスコルビン酸
ウロビリノーゲン(診断的価値は限定的)(陰性でも閉塞を否定できない)
白血球反応(犬猫では判定材料として非推奨)ホルマリン残留、強い色調の尿高比重尿、糖尿・タンパク尿、一部抗菌薬、高濃度アスコルビン酸
亜硝酸塩(犬猫では判定材料として非推奨)試薬の劣化膀胱内滞留時間不足、硝酸塩非還元性の起因菌
尿比重(濃縮能そのものを反映)著明な糖尿・タンパク尿、マンニトール/ヨード造影剤溶血・脂血による測定誤差、冷えた検体
尿結晶pH・溶質濃度に応じた各結晶の形成(第10章)放置・冷蔵によるex vivoでの人工的析出放置によるアルカリ化で酸性尿型結晶が見えにくくなる等

症例で考える統合解釈

想定例 1
若齢〜成猫、頻尿・血尿を主訴に来院。試験紙:潜血2+、pH 6.8。沈渣:赤血球多数、結晶なし、細菌なし。
読み方:結晶もなく、pHもストルバイトの典型域から外れているため、結石が第一の原因とは考えにくく、猫の特発性膀胱炎(FLUTD)が有力な鑑別に挙がります。画像検査で尿石の有無を確認しつつ、感染は沈渣所見からは支持されません。
想定例 2
中年犬、多飲多尿を主訴に来院。試験紙:グルコース3+、ケトン体陰性。屈折計での比重1.020。
読み方:糖尿病が濃厚ですが、比重は著明な糖尿によって見かけ上やや高めに出ている可能性があるため、腎の濃縮能そのものの評価は血糖コントロール後に再評価するのが安全です。
想定例 3
高齢犬、排尿痛・頻尿。試験紙:pH 8.0、タンパク1+。沈渣:ストルバイト結晶多数、白血球・細菌多数。
読み方:犬でのストルバイト結晶+アルカリ尿+膿尿・細菌尿という組み合わせは、ウレアーゼ産生菌による尿路感染を強く示唆します。培養・感受性試験を提出し、結果に基づいた抗菌薬選択と、必要に応じた画像検査での尿石評価に進みます。
ポイント 尿検査は「単一の陽性所見」で完結させず、理学的検査・化学検査・沈渣検査、そして採取法や検体の鮮度という背景情報までを一つの物語として組み立てたときに、はじめて臨床的な意味を持ちます。本書がその組み立て方の土台になれば幸いです。