CANINE & FELINE DIGESTIVE SYSTEM
犬と猫の
消化吸収メカニズム図鑑
同じ「消化管」という一本の路線を通りながら、犬と猫はところどころで違う線路を走っている ―― そんなイメージで全身の消化・吸収の仕組みをたどり、後半では消化器系の薬がどこに、どう効くのかを解説します。 下の路線図の駅をタップ(クリック)すると、該当する章にジャンプします。
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◆ 第2部:消化器系薬理学 ◆
第1部で学んだ生理学を踏まえ、実際に使われる消化器系薬がどの受容体・経路に作用するのかを解説します。
第1部・生理学 | 第1章
序章:犬と猫の消化器系全体像と、この本の読み方
なぜ「路線図」で考えるのか
犬と猫はどちらも食肉目(Carnivora)に属し、消化管の基本設計は共通しています。口腔から食道・胃・小腸・大腸へと続く一本の管があり、そこに膵臓と肝臓が消化液を送り込む――この構造そのものは犬も猫も同じです。ただし、猫は野生の祖先からほぼ姿を変えていない「絶対的肉食動物(obligate carnivore)」としての性質を色濃く残しているのに対し、犬は肉食動物でありながら人間の農耕社会と共に暮らす中で炭水化物への適応度をある程度高めてきました。本書では、この共通の一本道を路線図に見立て、駅(器官)ごとに生理学を確認しながら、犬と猫の線路がわずかに分岐するポイント(★駅)を重点的に見ていきます。
消化管の基本設計
肉食動物の消化管は、草食動物に比べて全体に短く、単純な構造をしています。動物性タンパク質・脂質は植物の細胞壁(セルロース)のような分解しにくい成分を含まないため、大がかりな発酵タンクとしての盲腸・結腸を持つ必要が薄いためです。猫は犬よりもさらに消化管が短い傾向にあり、これは猫がより純粋な動物性食に特化していることの表れと考えられています。
胃内容物の滞留時間や口から肛門までの通過時間は、食事の内容(水分量・脂肪量・粒子の大きさ)や個体差によって大きく変動しますが、一般に胃はおおむね数時間、消化管全体の通過にはおよそ半日から1日前後を要するとされています。これはあくまで目安であり、後述するように胃や腸の運動機能そのものに犬猫差があるわけではなく、主に食事内容と個体差が大きく影響します。
猫 ―「絶対的肉食動物」という原則
猫の消化・代謝システムは、動物性タンパク質を主要なエネルギー源とすることを前提に最適化されています。これは単なる「好み」ではなく、生理学的な必然です。本書の各章で繰り返し登場する猫の特徴を、ここで先に一覧にしておきます。
- 唾液にも膵液にも、デンプン消化酵素(アミラーゼ)の活性が犬に比べて低く、炭水化物の消化・利用能力に限りがある(第2章・第4章)
- 必須アミノ酸タウリンを体内で合成する能力が低く、食事からの摂取にほぼ全面的に依存する(第5章)
- 胆汁酸の抱合が原則としてタウリン抱合のみに限られる(グリシン抱合ができない)(第5章)
- 必須脂肪酸アラキドン酸を、リノール酸から自ら十分に合成できず食事から直接摂取する必要がある(第6章)
- 尿素回路を正常に働かせるために、食事ごとに一定量のアルギニンを必要とする(不足すると急性の高アンモニア血症を起こしうる)
これらはいずれも「猫は小さな犬ではない」という、獣医学でよく語られる原則を裏づける具体例です。
犬 ― 適応力の高い肉食動物
犬は猫よりも雑食的な要素を取り込む余地が大きく、膵臓由来のアミラーゼ活性も猫よりかなり高い傾向にあります。興味深いことに、犬のゲノムには膵アミラーゼ遺伝子(AMY2B)のコピー数がオオカミよりも増えている系統が多いことが知られており、人と共に農耕社会で暮らす中でデンプンを多く含む食事に適応してきた進化の痕跡だと考えられています。とはいえ犬もあくまで肉食動物であり、良質な動物性タンパク質を基盤とした食事が基本であることに変わりはありません。
| 項目 | 犬 | 猫 |
|---|---|---|
| 食性の分類 | 肉食動物(適応力がやや高い) | 絶対的肉食動物 |
| 唾液アミラーゼ | なし | なし |
| 膵アミラーゼ活性 | 比較的高い | 低め |
| 空腹時の胃内pHの目安 | 強酸性 | 強酸性 |
| 消化管の長さの傾向 | やや長い | より短い |
| タウリン合成能 | 比較的保たれる | 低く、食事依存が高い |
★ 本書の読み方
路線図やページ中の★マークは「犬と猫で特に差が大きいポイント」の目印です。まずは表紙の路線図から気になる駅(章)へ飛んでみてください。サイドバーの検索窓から気になるキーワード(例:「タウリン」「プロトンポンプ」)を探すこともできます。
なお本書はあくまで生理学・薬理学の教育的な参考情報であり、実際の診断・処方は必ず獣医師にご相談ください。
第1部・生理学 | 第2章
口腔と食道最初の駅 ― 消化はまだ始まらない
歯と摂食行動:「噛む」より「切って呑む」
犬・猫の歯列は、獲物の肉を切り裂くための裂肉歯(れつにくし)を中心に発達しており、人の臼歯のようにすりつぶすことには不向きです。実際、多くの犬・猫はドライフードやある程度の大きさの肉塊を、あまり咀嚼せずに丸呑みに近い形で嚥下する傾向があります。つまり口腔での「機械的消化」は限定的で、消化の主役はこの先の胃・小腸に委ねられています。
唾液の役割:実は消化酵素をほとんど含まない
耳下腺・下顎腺・舌下腺・頬骨腺という4対の唾液腺から分泌される唾液は、食塊を湿らせて滑りをよくし、安全に飲み込めるようにすることが主な役割です。ヒトの唾液に含まれるアミラーゼ(デンプン分解酵素)は、犬にも猫にもほとんど存在しません。「よく噛んで唾液と混ぜればデンプンの消化が始まる」というヒトの常識は、犬にも猫にもそのまま当てはまらない点に注意が必要です。唾液にはこのほか、リゾチームや免疫グロブリンA(IgA)などの抗菌・防御成分も含まれています。
嚥下反射
嚥下は、意識的に食塊を咽頭へ送り込む口腔期と、その後は反射的に進む咽頭期・食道期に分かれます。延髄の嚥下中枢が、軟口蓋の挙上・喉頭蓋による気道の閉鎖・食道上部括約筋の弛緩といった一連の動きを協調させ、食塊が気管に入らないよう安全に食道へ送り込みます。
食道の筋肉構成 ― 犬と猫が分岐する駅
嚥下によって始まる一次蠕動と、食道内に残った内容物を感知して起こる二次蠕動により、食塊は食道を通って胃へと運ばれます。ここで、犬と猫の間に解剖学的にはっきりした違いがあります。
★ 種差ポイント:骨格筋か、平滑筋か
犬の食道は、咽頭から胃の噴門部まで、ほぼ全長にわたって骨格筋(随意筋)で構成されているという、哺乳類の中でもやや珍しいタイプです。これにより蠕動が強力かつ協調的に働き、後述する能動的な嘔吐(第10章)の際にも食道が力強い排出路として機能します。
猫は多くの哺乳類と同様に、食道の遠位側で骨格筋から平滑筋(不随意筋)へと移行します。おおまかには近位2/3が骨格筋、遠位1/3が平滑筋という構成で、この移行部はレントゲン検査で横走する特徴的な"herringbone(ヘリンボーン)"様の模様として観察されることがあります。
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下部食道括約筋(LES)
食道と胃の境界にある下部食道括約筋は、常に一定の緊張(筋緊張)を保つことで胃内容物の逆流を防いでいます。嚥下時には一時的に弛緩して食塊を胃へ通過させ、それ以外の時間は閉じた状態を保ちます。この機能がうまく働かない、あるいは食道の蠕動そのものが障害されると、犬でしばしば見られる巨大食道症(メガエソファガス)のような病態につながることがあります。
第1部・生理学 | 第3章
胃における消化強酸のタンク ― 壁細胞というスイッチ
胃の区分と役割
胃は噴門部・胃底部・胃体部・幽門部に区分されます。犬・猫の胃は容量に対する伸展性が高く、一度にまとまった量を食べて後の時間で消化するという、野生下での「捕食の機会は不定期」という生活に合わせた貯蔵タンクとしての役割を持ちます。ここで食塊は強酸性の胃液と混和され、タンパク質分解の第一段階が始まります。
胃酸分泌の仕組み ― 壁細胞というスイッチ
胃酸(塩酸, HCl)を分泌するのは、胃底腺に存在する壁細胞です。壁細胞の管腔側(内腔側)の膜には、H⁺/K⁺ ATPase(プロトンポンプ)と呼ばれる輸送体があり、これが細胞内の水素イオン(H⁺)をエネルギーを使って胃内腔へ汲み出し、代わりにカリウムイオン(K⁺)を取り込みます。汲み出されたH⁺は塩化物イオン(Cl⁻)と結びついて塩酸(HCl)となり、胃内腔はpH1〜2という強酸性に保たれます。
このプロトンポンプの働きは、壁細胞の基底膜(血液側)にある3種類の受容体からの刺激によって高まります。
- M3受容体:迷走神経終末から放出されるアセチルコリンが結合(食事を見る・匂いを嗅ぐといった脳相の刺激や、胃の伸展刺激で活性化)
- CCK2受容体(ガストリン受容体):幽門洞のG細胞が分泌するガストリンが結合(胃内のペプチド・アミノ酸によって刺激)
- H2受容体:胃底腺近くのECL細胞(腸クロム親和性様細胞)が傍分泌的に放出するヒスタミンが結合
この3つの経路は互いに補強し合いながら、最終的にすべてH⁺/K⁺ ATPaseの活性を高める方向に収束します。特にヒスタミン‐H2経路は、他の2経路の効果を増幅させるハブのような役割を果たしていると考えられています。この収束構造こそが、次のパートで解説する制酸薬(H2拮抗薬・プロトンポンプ阻害薬)がどこを狙って作用するかを理解する鍵になります。
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ペプシンによるタンパク質消化の開始
胃底腺の主細胞は、不活性型のペプシノーゲンを分泌します。ペプシノーゲンは胃内の強酸性環境にさらされることで自己触媒的に活性型のペプシンに変換され、タンパク質を大まかなペプチド断片に分解し始めます。ペプシンは酸性環境でのみ働く酵素であり、この点でも胃酸分泌の意義が大きいことがわかります。
胃の運動:貯留・攪拌・排出
食塊が入ると胃底部は反射的に弛緩して内圧の上昇を抑えつつ大量の内容物を受け入れます(受容性弛緩)。胃体部・幽門部では強い攪拌運動が起こり、内容物は胃液と混和されながら少しずつ小さな粒子(粥状液, カイム)へと砕かれていきます。幽門括約筋は門番のように働き、十分に小さくなった内容物だけを少量ずつ十二指腸へ送り出します。脂肪の多い食事は、小腸から分泌されるコレシストキニン(CCK)を介したフィードバックによって胃の運動と排出速度を抑制するため、胃内滞留時間が長くなる傾向があります。
内因子(Intrinsic Factor)
★ 種差ポイント:内因子はどこから来るか
ヒトではビタミンB12(コバラミン)の吸収に必要な内因子は主に胃の壁細胞から分泌されますが、犬と猫では事情が異なります。犬と猫における内因子の主要な供給源は胃ではなく膵臓です(特に猫ではほぼ膵臓由来に限られるとされます)。そのため、慢性膵炎や膵外分泌不全(EPI)を起こすと、胃自体に問題がなくてもビタミンB12欠乏に陥りやすくなります。この点は第4章・第6章・第13章でも改めて取り上げます。
第1部・生理学 | 第4章
膵臓の外分泌機能枝分かれの駅 ― 消化酵素の本社工場
膵臓の二つの顔
膵臓には血糖調節を担う内分泌部(ランゲルハンス島、インスリン・グルカゴンなど)と、消化を担う外分泌部があります。本章で扱うのは外分泌部、つまり腺房細胞と導管細胞が作る「消化液の工場」としての膵臓です。
腺房細胞と消化酵素
膵臓の腺房細胞は、三大栄養素すべてに対応する消化酵素を作っています。
- タンパク質分解酵素:トリプシノーゲン、キモトリプシノーゲン、プロカルボキシペプチダーゼ、プロエラスターゼなど ― いずれも不活性な前駆体(チモーゲン)として分泌される
- 脂肪分解酵素:膵リパーゼ(これ自体は活性型のまま分泌される)と、その働きを助ける補因子プロコリパーゼ
- デンプン分解酵素:膵アミラーゼ(こちらも活性型のまま分泌される)
興味深いのは、タンパク質分解酵素だけが軒並み「前駆体」として分泌される点です。これは、活性型のまま分泌してしまうと膵臓自身のタンパク質を消化してしまう(自己消化)危険があるためで、膵炎はまさにこの安全装置が膵臓内で誤って作動してしまう病態と考えられています。
活性化のカスケード
不活性なトリプシノーゲンは、十二指腸の腸管ブラシ縁に存在するエンテロキナーゼ(エンテロペプチダーゼ)によって初めて活性型のトリプシンに変換されます。ここが全体のスイッチです。生まれたトリプシンは、そこから先は自分自身の力でさらにトリプシノーゲンを次々と活性化する(自己触媒)と同時に、キモトリプシノーゲン・プロカルボキシペプチダーゼ・プロエラスターゼ・プロコリパーゼといった他の前駆体も次々に活性化していきます。つまりトリプシンは、膵消化酵素カスケード全体の「起爆装置」です。
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膵リパーゼは最初から活性型で分泌されますが、脂肪滴の表面で働くには補因子コリパーゼが必要です。コリパーゼも本来はプロコリパーゼという前駆体型で分泌され、トリプシンによって活性化されて初めてリパーゼをしっかり脂肪滴に留めることができます(胆汁酸だけだとリパーゼが脂肪滴表面から追い出されてしまうため、コリパーゼがいわば「アンカー」の役目を果たします)。
膵液の重炭酸 ― 酸を中和する
膵臓の導管細胞は、酵素とは別に重炭酸イオン(HCO₃⁻)を豊富に含む水様の液を分泌します。これは胃から送られてくる強酸性の内容物を中和し、十二指腸粘膜を酸から守るとともに、膵消化酵素が最も効率よく働けるpH環境を作り出す役割を担っています。
ホルモンによる調節
十二指腸粘膜のS細胞は、酸性の内容物が届くとセクレチンを分泌し、これが導管細胞を刺激して重炭酸に富む膵液の分泌を促します。一方、脂肪やタンパク質の分解産物が届くとI細胞がコレシストキニン(CCK)を分泌し、これが腺房細胞を刺激して消化酵素に富む膵液の分泌を促すと同時に、次章で扱う胆嚢の収縮も引き起こします。セクレチンとCCKは、いわば「酸には重炭酸で、脂肪・タンパク質には酵素で」という具合に、内容物の性質に応じて膵臓の仕事を切り替える司令塔です。
★ 種差ポイント:猫の膵アミラーゼは控えめ
第1章で触れたとおり、猫は膵アミラーゼの活性が犬に比べて低く、デンプンの消化能力に限りがあります。また、犬・猫では慢性膵炎から膵外分泌不全(EPI)に至ることがあり、その場合は脂肪・タンパク質・炭水化物のいずれも消化できず未消化のまま大腸に達するため、多量の軟便・下痢や体重減少が起こります。EPIの治療(酵素補充療法)は第13章で扱います。
第1部・生理学 | 第5章
肝臓と胆汁枝分かれの駅 ― 脂肪のための「せっけん」工場
肝臓が作る「脂肪の洗剤」― 胆汁酸
肝細胞はコレステロールを材料に、コール酸やケノデオキシコール酸といった一次胆汁酸を合成します(律速酵素はCYP7A1と呼ばれる酵素です)。胆汁酸は水になじむ部分と脂になじむ部分を併せ持つ両親媒性の分子で、脂肪の粒を細かい油滴(ミセル)に乳化する、いわば「天然の洗剤」として働きます。この乳化によって、水溶性である膵リパーゼが脂肪の表面に効率よくアクセスできるようになります。
抱合 ― 犬と猫が分かれる駅
胆汁酸はそのままでは働きにくいため、分泌前にアミノ酸と結合(抱合)されて水への溶けやすさを高めます。この抱合に使われるアミノ酸の選択に、犬と猫のはっきりした違いがあります。
★ 種差ポイント:タウリン抱合しか使えない猫
犬はグリシン抱合とタウリン抱合の両方を状況に応じて使い分けることができます。一方、猫は原則としてタウリン抱合のみに限られており、グリシン抱合を行う能力がほとんどありません。さらに猫は腸内でタウリンを再利用する効率も犬より低いとされ、糞便中への胆汁酸(タウリン)喪失が起こりやすい体質です。
猫はもともと体内でのタウリン合成能力自体も低いため、この「タウリン抱合しか使えない」という胆汁酸代謝の特徴と合わさって、食事からの継続的なタウリン摂取が欠かせません。タウリン欠乏は拡張型心筋症や中心性網膜変性を引き起こすことが知られる、猫の栄養学における代表的な注意点です。
胆汁の貯蔵と放出:胆嚢とCCK
肝臓で作られた胆汁は、食間は胆嚢に貯えられ、水分が吸収されて濃縮されます。食事によって脂肪やタンパク質が十二指腸に届くと、前章で登場したコレシストキニン(CCK)が分泌され、胆嚢を収縮させると同時にオッディ括約筋を弛緩させて、濃縮された胆汁を勢いよく十二指腸へ送り込みます。
腸肝循環
十二指腸で仕事を終えた胆汁酸は、そのまま排泄されるわけではありません。小腸を通過する間はミセル形成を続けながら脂肪吸収を助け、回腸の末端に達すると、ASBT(頂端膜ナトリウム依存性胆汁酸トランスポーター)と呼ばれる輸送体によって能動的に再吸収されます。再吸収された胆汁酸は門脈を通ってそのまま肝臓に戻り、再び胆汁として分泌されます。この「肝臓 → 胆嚢 → 腸管 → 回腸で再吸収 → 門脈 → 肝臓」というリサイクルの輪を腸肝循環と呼び、体内の胆汁酸の大部分がこのサイクルの中で繰り返し再利用されています。
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肝臓のそのほかの役割(参考)
肝臓は胆汁の生成以外にも、栄養素の代謝・貯蔵、薬物や毒素の解毒、血漿タンパクの合成など多岐にわたる役割を担っています。これらは「消化・吸収」というテーマからはやや外れるため本書では深入りしませんが、第15章で扱う薬剤の多くが肝臓で代謝される点は、種差を考えるうえでも重要です。
第1部・生理学 | 第6章
小腸における消化と吸収最大の駅 ― 吸収の本舞台
絨毛と微絨毛 ― 吸収面積を稼ぐ構造
小腸粘膜は輪状ひだ・絨毛・微絨毛という三段構えの構造によって、表面積を劇的に拡大しています。絨毛の表面を覆う吸収上皮細胞(腸細胞)の管腔側の膜には、さらに無数の微絨毛が並び、これが「刷子縁(ブラシ縁)」と呼ばれる構造を作ります。この刷子縁の膜上には、糖質・タンパク質の最終消化を担う酵素と、栄養素を細胞内に取り込む各種の輸送体が密集しています。
糖質の消化と吸収
膵アミラーゼによって腸管内腔である程度分解されたデンプンは、マルトースやα-限界デキストリンといった小さな断片になっています。これらは刷子縁にあるマルターゼ・グルコアミラーゼやスクラーゼ・イソマルターゼによって、最終的にグルコース(ブドウ糖)にまで分解されます。乳汁中の乳糖(ラクトース)はラクターゼによってグルコースとガラクトースに分解されます。
できあがった単糖は、刷子縁膜上のSGLT1(ナトリウム依存性グルコース輸送体)によってナトリウムイオンと共役する形でグルコース・ガラクトースが能動的に取り込まれます(果糖はGLUT5によって取り込まれます)。細胞内に入った単糖は、基底膜側のGLUT2を通って血液(門脈)へと受け渡されます。
タンパク質の消化と吸収
胃のペプシンと膵臓のトリプシン・キモトリプシンなどによってすでに小さなペプチドにまで分解されたタンパク質は、刷子縁のペプチダーゼによってさらに分解されます。ジペプチド・トリペプチドは、水素イオン(H⁺)と共役するPepT1という輸送体によって効率よく細胞内へ取り込まれ、細胞内のペプチダーゼによって最終的にアミノ酸にまで分解されます。遊離アミノ酸は複数の専用輸送体によってそれぞれ取り込まれ、基底膜側から門脈血流へと送り出されます。
脂質の消化と吸収 ― 血液ではなくリンパへ
胆汁酸によって作られたミセルは、脂肪酸とモノグリセリドを刷子縁のすぐそばまで運びます。これらは受動拡散によって腸細胞内に入り、滑面小胞体で中性脂肪(トリグリセリド)に再合成されます。さらにアポタンパクと結合してカイロミクロンという粒子を形成し、開口分泌によって細胞外へ放出されます。ここが糖質・タンパク質と大きく異なる点で、カイロミクロンは血管(門脈)には入らず、絨毛内のリンパ管(乳び管)へと吸収されていきます。
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| 分類 | 名称 | 働き |
|---|---|---|
| 糖質分解酵素 | マルターゼ・グルコアミラーゼ / スクラーゼ・イソマルターゼ | マルトース等 → グルコース |
| 糖質分解酵素 | ラクターゼ | 乳糖 → グルコース+ガラクトース |
| タンパク質分解酵素 | アミノペプチダーゼ等 | オリゴペプチド → ジ・トリペプチド/アミノ酸 |
| 糖質輸送体 | SGLT1 / GLUT5 / GLUT2 | 単糖の細胞内取り込み・血液への受け渡し |
| ペプチド輸送体 | PepT1 | ジ・トリペプチドの細胞内取り込み |
ビタミンB12(コバラミン)の吸収
第3章で触れたとおり、犬・猫における内因子は主に膵臓由来です。食事中のコバラミンはまず内因子と結合し、この複合体が回腸末端に存在するクビリン・アムニオンレスからなる受容体複合体(通称キューバム)によって特異的に吸収されます。したがって、膵外分泌不全や重度の腸疾患で内因子の供給や回腸末端の吸収機能が損なわれると、コバラミン欠乏が起こりやすくなります。特に猫では内因子のほぼ全量が膵臓由来とされ、この経路への依存度が高いと考えられています。
乳糖不耐について
ラクターゼの活性は離乳後に犬でも猫でも大きく低下します。成犬・成猫に牛乳を与えると、分解されなかった乳糖が大腸まで届いて浸透圧性の下痢を起こすことがあるのはこのためです。「動物にミルクは自然」というイメージとは裏腹に、成体の犬猫の多くは乳糖をうまく消化できません。
第1部・生理学 | 第7章
大腸の機能と腸内細菌叢終着駅の手前 ― 水分回収と発酵の場
大腸の主な仕事:水と電解質の回収
小腸でほとんどの栄養素を吸収し終えた内容物は、大腸に入る頃には水分の多い液状に近い状態です。大腸粘膜はここから水とナトリウムなどの電解質を積極的に再吸収し、内容物を徐々に固形の便へと濃縮していきます。大腸は栄養素そのものを吸収する場というより、水分バランスを整える場としての性格が強い器官です。
腸内細菌叢と発酵
大腸には膨大な数の常在細菌が生息し、小腸で消化しきれなかった食物繊維や難消化性デンプン、一部のタンパク質を発酵させています。この発酵によって酢酸・プロピオン酸・酪酸といった短鎖脂肪酸(SCFA)が作られ、特に酪酸は大腸粘膜細胞(結腸細胞)にとって主要なエネルギー源となります。短鎖脂肪酸はまた大腸内をやや酸性に保つことで病原性の細菌が増えにくい環境を作り、粘膜バリアの維持にも寄与していると考えられています。
犬と猫で腸内細菌叢は違うか
絶対的肉食動物である猫と、やや雑食寄りの犬とでは、日常的な食事の組成(タンパク質・脂肪の割合や炭水化物量)が異なるため、それに応じて優勢な腸内細菌の顔ぶれにも違いが生じると考えられています。一般に、より高タンパクな食事はタンパク質を発酵する細菌を、より炭水化物を含む食事は食物繊維を発酵する細菌を、それぞれ相対的に優勢にする傾向があるとされます。ただし個体差・食事内容による変動が大きく、「犬の腸内細菌叢」「猫の腸内細菌叢」として単純に一括りにできるものではない、という点には注意が必要です。
大腸の運動と排便
大腸では、内容物を行きつ戻りつさせながら水分吸収を促す分節運動(ハウストラ収縮)と、内容物を一気に直腸方向へ送る大蠕動(mass movement)が組み合わさって働いています。大蠕動はしばしば食事の摂取によって誘発され(胃‐結腸反射)、直腸に便が達すると排便反射が起こります。
第1部・生理学 | 特別編
三大栄養素の変化の流れ糖質・タンパク質・脂質、それぞれの旅をたどる
この章の狙い
第2章〜第7章では「口腔」「胃」「膵臓」というように器官ごとに生理学を見てきました。この特別編では視点を変え、糖質・タンパク質・脂質という3つの栄養素それぞれについて、口に入ってから吸収されるまでにどのような姿に変化していくのかを、ひとつづきの流れとして追いかけます。同じ器官を通っていても、栄養素によって「そこで何が起こるか」がまったく違う点に注目してください。
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糖質(炭水化物)の変化の流れ
デンプンは口腔でも胃でも、実はほとんど姿を変えません。第2章で見たとおり犬・猫の唾液にはアミラーゼが存在せず、そのまま胃を通過します(ちなみにヒトの唾液アミラーゼは胃酸で速やかに失活するため、仮にあったとしても胃の中では長続きしません。犬・猫の場合はそもそも唾液アミラーゼ自体がないため、この点は関係がありません)。本格的な変化が始まるのは十二指腸で、膵アミラーゼによってデンプンがマルトースやα-限界デキストリンといった小さな断片に切り分けられます。そして小腸刷子縁のマルターゼ・グルコアミラーゼ・スクラーゼ・イソマルターゼ・ラクターゼによって、最終的にグルコース・ガラクトース・フルクトースという単糖にまで分解されて初めて吸収されます。吸収された単糖はSGLT1・GLUT5で細胞内に入り、GLUT2を通って門脈血流へ、そして肝臓へと向かいます。
タンパク質の変化の流れ
タンパク質は3つの栄養素の中で唯一、胃の時点ですでに変化が始まっています。塩酸によって高次構造がほどかれ(変性)、主細胞由来のペプシンによって大まかなポリペプチドへと分解されるのです。十二指腸に入ると、第4章で見たトリプシンを起爆剤とする膵消化酵素のカスケードが働き、ポリペプチドはさらに細かいオリゴペプチドへと切り刻まれます。仕上げは小腸刷子縁で、ペプチダーゼによってジペプチド・トリペプチド、そして遊離アミノ酸にまで分解されます。ジ・トリペプチドはPepT1によって、遊離アミノ酸は専用の輸送体によってそれぞれ細胞内に取り込まれ、細胞内でさらにアミノ酸へと分解された上で門脈血流へ、そして肝臓へと送られます。
脂質の変化の流れ
中性脂肪(トリグリセリド)も、口腔・胃の段階では化学的にはほとんど変化しません。胃の攪拌運動によって粗い脂肪滴に砕かれる程度で、本格的な分解はやはり十二指腸から始まります。第5章の胆汁酸がここで脂肪を細かいミセルへと乳化し、第4章の膵リパーゼとその補因子コリパーゼがトリグリセリドをモノグリセリドと遊離脂肪酸に分解します。これらは小腸粘膜細胞に受動拡散で取り込まれ、細胞内の滑面小胞体で再びトリグリセリドへと組み立て直され、アポタンパクと結合してカイロミクロンという粒子になります。ここが糖質・タンパク質と決定的に違う点で、カイロミクロンは開口分泌によって細胞外に出た後、門脈ではなくリンパ管(乳び管)へと吸収されていきます。
3つの流れを比べて見えてくること
3つの栄養素はいずれも、最終的には小腸刷子縁を「共通のゴールライン」として吸収されますが、そこに至るまでの道のりはずいぶん違います。タンパク質だけは胃の時点ですでに分解が始まっている一方、糖質と脂質は十二指腸で膵液・胆汁と合流するまで本格的には動き出しません。そして吸収された後の行き先も、糖質・アミノ酸は門脈を通って直接肝臓に向かうのに対し、脂質(カイロミクロン)だけはリンパ管という別の経路を経て全身循環に合流します。同じ管の中を進みながら、栄養素ごとにこれほど異なる旅をしているのだと考えると、消化管の見え方が少し変わってくるのではないでしょうか。
第1部・生理学 | 第8章
犬と猫の消化生理 種差まとめ第1部の終着駅
消化管に沿って振り返る
口腔から大腸まで、一本の路線をたどりながら犬と猫の消化・吸収の仕組みを見てきました。前章の特別編では糖質・タンパク質・脂質それぞれの変化の流れも確認しました。ここで、路線図の★駅を中心に、これまでの種差ポイントを一枚の表にまとめておきます。
| 器官・トピック | 犬 | 猫 |
|---|---|---|
| 食道の筋肉構成 | 全長がほぼ骨格筋 | 遠位1/3が平滑筋に移行 |
| 唾液アミラーゼ | なし | なし |
| 膵アミラーゼ活性 | 比較的高い | 低め |
| 内因子(IF)の供給源 | 主に膵臓(一部胃) | ほぼ膵臓のみ |
| 胆汁酸の抱合 | グリシン・タウリンの両方 | タウリンのみ |
| タウリン合成能 | 比較的保たれる | 低く、食事依存が高い |
| アラキドン酸 | リノール酸からある程度合成可能 | 合成能が低く食事必須 |
| アルギニン要求性 | 比較的緩やか | 1回の欠乏食でも急性高アンモニア血症の恐れ |
| 乳糖分解能(成体) | 離乳後に低下 | 離乳後に低下 |
「猫は小さな犬ではない」を支える追加の2ポイント
第5章のタウリンに加えて、猫の絶対的肉食性を象徴するもう2つの栄養学的な特徴に触れておきます。
★ アルギニン ― たった一食の不足でも危険
尿素回路を正常に働かせるには、犬・猫ともにアルギニンが必要ですが、猫は特にこの依存度が高いとされます。アルギニンが著しく不足した食事を一度摂っただけでもオルニチン回路が滞り、急性の高アンモニア血症(流涎・運動失調・痙攣など)を起こしうる点は、ゆっくり進行する多くの栄養欠乏とは性質が異なる、猫に特有の急性リスクとして知られています。
★ アラキドン酸 ― 変換できないので直接摂る
猫はリノール酸からアラキドン酸を合成する酵素(Δ6-不飽和化酵素)の活性が低く、動物性脂肪に含まれるアラキドン酸を食事から直接摂取する必要があります。犬はこの変換をある程度自力で行うことができます。
ここまでで、消化管という一本の路線をひととおり走り抜けました。第2部では、この生理学の地図の上に、実際に使われる消化器系の薬がどこに、どのように効くのかを重ねて見ていきます。
第2部・薬理学 | 第9章
消化器系治療薬 総論生理学の地図に薬を重ねる
第2部の読み方
第1部で見た生理学の地図の上に、実際に使われる消化器系の薬がどこへ、どのように作用するのかを重ねていきます。本書が扱うのはあくまで作用機序(どこにどう効くか)という考え方の部分であり、具体的な用量や投与間隔といった処方情報は扱いません。実際の診断・処方は必ず獣医師にご相談ください。
症状から探す:消化器系治療薬の見取り図
| 症状・目的 | 薬剤分類 | 代表的な薬 | 解説章 |
|---|---|---|---|
| 嘔吐 | 制吐薬 | マロピタント、オンダンセトロン、メトクロプラミド 等 | 第10章 |
| 胃酸過多・胃潰瘍 | 制酸薬・胃粘膜保護薬 | ファモチジン、オメプラゾール、スクラルファート 等 | 第11章 |
| 消化管運動の低下 | 消化管運動機能改善薬 | メトクロプラミド、モサプリド 等 | 第12章 |
| 膵外分泌不全・下痢 | 酵素補充・整腸薬・止瀉薬 | 膵酵素製剤、プロバイオティクス、ロペラミド 等 | 第13章 |
| 便秘 | 下剤 | ラクツロース、ビサコジル 等 | 第14章 |
| 慢性腸症(IBDなど) | 抗炎症薬・免疫抑制薬 | プレドニゾロン、シクロスポリン 等 | 第15章 |
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第10章以降では、薬をひとつずつカード形式で紹介します。各カードには「分類」「作用機序」「特徴・注意点」を記載し、特に犬と猫で使い分けや注意点が異なる場合はその旨を明記します。生理学の該当章(★駅)を思い出しながら読むと、なぜその薬がそこに効くのかがつながりやすくなります。
第2部・薬理学 | 第10章
制吐薬嘔吐反射のどこを止めるか
嘔吐はどう起こるか
嘔吐は、延髄の「嘔吐中枢(嘔吐パターン発生器)」が複数の入力を統合し、腹筋の収縮・食道の逆蠕動・声門の閉鎖といった一連の動きを協調させることで起こります。入力源は大きく4つに分けられます。
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CTZ(化学受容器引金帯)は血液脳関門の外側という特殊な位置にあるため、血液中の毒素や薬物、尿毒症性の代謝産物などを直接感知できます。これが、多くの制吐薬がCTZの受容体を標的にする理由です。以下、代表的な制吐薬を作用点ごとに見ていきます。
マロピタント
オンダンセトロン / ドラセトロン
メトクロプラミド
クロルプロマジン
ジフェンヒドラミン / メクリジン
第2部・薬理学 | 第11章
制酸薬・胃粘膜保護薬第3章の経路図に、薬を重ねる
2つの戦略:「分泌を止める」か「届いた酸に対処するか」
胃酸に関わる薬は大きく2つの発想に分けられます。ひとつは第3章で見た壁細胞の分泌経路そのものを遮断する戦略(H2拮抗薬・プロトンポンプ阻害薬)、もうひとつは分泌された酸や荒れた粘膜に直接働きかける戦略(制酸剤・粘膜保護薬)です。まずは前者から見ていきましょう。
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ファモチジン
オメプラゾール / パントプラゾール
「届いた酸・荒れた粘膜」に対処する薬
次の2つは、分泌経路をブロックするのではなく、すでに胃内腔にある酸や、傷んだ粘膜そのものに直接働きかけるタイプの薬です。
水酸化アルミニウム / 炭酸カルシウム 等
スクラルファート
ミソプロストール
第2部・薬理学 | 第12章
消化管運動機能改善薬「止める」薬から「動かす」薬へ
「動きを助ける」という発想
ここまでの制吐薬・制酸薬は、それぞれ嘔吐反射や酸分泌という「働きすぎ」を抑える薬でした。プロキネティクス(消化管運動機能改善薬)はその逆で、胃排出の遅延や腸管運動の低下といった「働き不足」を補い、協調した蠕動を取り戻すことを目的とします。
メトクロプラミド
シサプリド
モサプリド
低用量エリスロマイシン
第2部・薬理学 | 第13章
酵素補充・整腸薬・止瀉薬足りないものを補い、流れを整える
膵外分泌不全(EPI)と酵素補充療法
第4章で触れた膵外分泌不全(EPI)では、腺房細胞の萎縮により消化酵素そのものが著しく不足し、脂肪・タンパク質・炭水化物のいずれも十分に消化できなくなります。多くの場合、内因子(第3章)の欠乏を通じてビタミンB12(コバラミン)不足も併発します。
パンクレライパーゼ 等
整腸・腸内環境へのアプローチ
各種生菌製剤
サイリウム 等
吸着薬・止瀉薬
カオリン・ペクチン / 次サリチル酸ビスマス
ロペラミド
⚠ 安全性に関する注意:MDR1(ABCB1)変異とロペラミド
コリー系品種をはじめとする一部の犬種では、P糖タンパクをコードするMDR1(ABCB1)遺伝子に変異があり、血液脳関門でのP-gpのくみ出し機能が低下していることがあります。この場合、通常はほとんど中枢に入らないはずのロペラミドが脳内に移行しやすくなり、過度の鎮静や呼吸抑制など重篤な症状を起こす危険があるとされています。
第2部・薬理学 | 第14章
下剤便秘への4つのアプローチ
便秘への4つのアプローチ
下剤は作用の仕組みによって、大きく浸透圧性・膨張性・刺激性・潤滑性の4つに分けて理解すると整理しやすくなります。
ラクツロース
フスマ / サイリウム 等
ビサコジル
流動パラフィン(鉱物油)
⚠ 安全性に関する注意:潤滑性下剤の誤嚥リスク
流動パラフィンのような潤滑性下剤を口から無理に(シリンジなどで強制的に)飲ませようとすると、気道に入り込み誤嚥性肺炎を起こす危険があるとされています。
第2部・薬理学 | 第15章
炎症性腸疾患治療薬免疫の働きすぎを鎮める
慢性腸症・IBDへの薬物療法の考え方
慢性的な腸炎(いわゆるIBD, 炎症性腸疾患)の治療では、食事療法と並行して、行き過ぎた免疫反応そのものを鎮めることを目的とした薬が使われます。ここでは代表的な薬を作用機序ごとに見ていきます。
プレドニゾロン
★ 種差ポイント:猫にはプレドニゾロンを
プレドニゾンはそれ自体はほぼ不活性なプロドラッグで、肝臓で活性型のプレドニゾロンに変換されて初めて効果を発揮します。猫はこの変換効率が低いとされ、確実に効果を得るために、猫では最初からプレドニゾロンそのものを用いることが推奨されます。
ブデソニド
シクロスポリン
アザチオプリン
⚠ 安全性に関する注意:猫とアザチオプリン
猫はTPMTの活性が犬に比べて顕著に低いことが知られており、アザチオプリンの代謝が遅れて薬が蓄積しやすく、重篤な骨髄抑制を起こす危険が高いとされます。そのため猫での使用は避けられるか、用いる場合でも極めて慎重な経過観察が必要とされます。
メトロニダゾール
第2部・薬理学 | 第16章
まとめ・臨床上の注意点終着駅 ― 種差に基づく安全性チェックリスト
路線の終わりに
口腔から大腸まで消化管という一本の路線をたどり(第1部)、その地図の上に消化器系の薬がどこへ効くのかを重ねてきました(第2部)。犬と猫は同じ路線図の上を走りながらも、食道の筋肉構成、内因子の供給源、胆汁酸の抱合様式、薬物代謝の効率など、いくつもの駅で線路が分かれていることを見てきました。最後に、本書に登場した「種差に基づく安全性上の注意点」を一枚のチェックリストにまとめます。
| 薬剤・要因 | 対象 | 注意点 | 関連章 |
|---|---|---|---|
| ロペラミド | MDR1(ABCB1)変異を持つ犬種 | 中枢移行による過度の鎮静・呼吸抑制のおそれ | 第13章 |
| アザチオプリン | 猫 | TPMT活性低下により骨髄抑制のリスクが高い | 第15章 |
| プレドニゾン | 猫 | プレドニゾロンへの変換効率が低く、プレドニゾロンを直接使用 | 第15章 |
| 次サリチル酸ビスマス | 猫 | グルクロン酸抱合能低下によりサリチル酸が蓄積しやすい | 第13章 |
| ミソプロストール | 妊娠中(の可能性がある)個体 | プロスタグランジン製剤のため原則使用しない | 第11章 |
| 潤滑性下剤 | すべての個体 | 無理な経口投与による誤嚥のリスク | 第14章 |
| タウリン不足の食事 | 猫 | 拡張型心筋症・網膜変性のリスク | 第5章 |
| アルギニン欠乏食 | 猫 | 1回の食事でも急性高アンモニア血症のおそれ | 第8章 |
本書について
本書は犬・猫の消化・吸収の生理学および消化器系薬の作用機序を紹介する教育的な参考資料であり、特定の個体に対する診断・処方・用量の決定を目的としたものではありません。実際の診断・治療方針については、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。
― 完 ―