猫の甲状腺機能亢進症|【獣医師国家試験対策】

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甲状腺機能亢進症は猫でもっとも多い内分泌疾患であり、中〜高齢猫の診療で日常的に遭遇します。「よく食べるのに痩せる」という古典的な症状はよく知られていますが、国家試験および実臨床での本当の難所は別のところにあります。

それは、この疾患が併発する慢性腎臓病を覆い隠してしまうという点です。甲状腺ホルモンが糸球体濾過量を押し上げているため、治療前の血液検査では腎機能が正常に見えます。そして治療が奏効した途端に、隠れていた腎障害が姿を現します。この機序を理解しているかどうかが、治療方針の選択を分けます。

過去問分析

「甲状腺機能亢進症」は第73〜77回の試験問題を分析したところ、主なテーマとした設問、または正解や重要な選択肢として扱われている問題は、合計で5問出題されています。
主に猫での病態や、治療薬であるチアマゾール(メチマゾール)に関する知識が問われています。

1. 疾患の知識・臨床徴候を問う問題
第73回 学説A:「犬と猫において多食の原因となる疾患」を問う問題。正解の組み合わせの一つとして甲状腺機能亢進症が挙げられています。
第76回 学説B:「全身性高血圧の原因疾患」として不適切なものを探す問題。甲状腺機能亢進症は高血圧を引き起こす正しい原因疾患として登場しています。

2. 治療薬(抗甲状腺薬)に関する問題
第73回 学説B:「内分泌疾患と治療薬の組み合わせ」を問う問題。正解肢として「甲状腺機能亢進症 ― チアマゾール」が示されています。
第73回 学説A:「抗甲状腺薬はどれか」という知識問題。正解としてプロピルチオウラシルを選択させる設問。
第77回 学説B:疾患と治療薬の組み合わせ問題。選択肢5に「甲状腺機能亢進症 ― トルブタミド」という不適切なペア(トルブタミドは糖尿病薬)として登場しています。

甲状腺機能亢進症については以下の事項が重要です。
対象:主に高齢の猫で頻発する疾患です。
主徴:多食であるにもかかわらず体重が減少する、活発化(興奮)、高血圧など。
治療:抗甲状腺薬であるチアマゾール(メチマゾール)の投与が一般的です。


なお、関連する内容として「甲状腺ホルモンの生理機能」を問う問題や、ホルモンの成分であるヨウ素についての必須問題なども出題されています。

この記事で押さえること
  • 猫の甲状腺腫瘍は大部分が良性で、犬とは逆であること
  • GFRの上昇がCKDを覆い隠し、治療後に顕在化する機序
  • 総T4が正常でも否定できない理由(日内変動と非甲状腺疾患)
  • 遊離T4は特異度が低く単独では診断できないこと
  • メチマゾールが貯蔵ホルモンには効かない理由
  • 甲状腺摘出術で上皮小体の温存が最重要である理由
  • まず可逆的な薬で腎機能を試すという治療戦略

1. 原因 — 犬とは逆になっている

猫の甲状腺機能亢進症は、そのほとんどが甲状腺の良性結節性過形成または腺腫によるものです。腫瘍化した濾胞細胞が下垂体からのTSHによる調節を離れ、自律的にT4・T3を分泌します。約7割の症例で両側性に発生します。

種差のひっかけ

猫の甲状腺腫瘍は98%以上が良性で、悪性(甲状腺癌)は数%にとどまります。一方犬の甲状腺腫瘍は悪性であることが多く、かつ非機能性が大半です。「猫は良性・機能性、犬は悪性・非機能性」と、そのまま逆に覚えてください。

発症は中〜高齢に集中し、8歳未満での発生はまれです。環境要因(缶詰フード、難燃剤、飼料中ヨウ素量の変動など)の関与が議論されていますが、確定した原因は特定されていません。(※シャムやヒマラヤンが国内の腫瘍統計では好発猫種とされることもあるが、一般的な疫学では発生が少ないとされる)

2. 病態生理

甲状腺ホルモンは全身の細胞で基礎代謝率を上げ、さらにβ受容体の発現と感受性を高めることでカテコールアミン様の作用を増幅します。ここから症状の大部分が説明できます。

2-1. 心臓 — 甲状腺中毒性心筋症

陽性変時作用と陽性変力作用により心拍数と収縮力が増し、心拍出量が増加します。この負荷が続くと左室肥大を生じ、頻脈・奔馬調律(ギャロップ音)・心雑音として現れます。高拍出性の心不全に至ることもあります。

重要なのは、この心筋変化の多くが甲状腺機能の正常化により可逆的であるという点です。原発性の肥大型心筋症とは区別して扱います。

2-2. 腎臓 — CKDが隠れる機序

この疾患の核心

甲状腺ホルモンは心拍出量を増やし、同時に腎血管抵抗を下げることで腎血流量と糸球体濾過量(GFR)を増加させます。その結果、実際にはネフロンが失われていてもBUNやクレアチニンが正常範囲に収まってしまいます

治療により甲状腺機能が正常化するとGFRは本来の水準まで低下し、隠れていた慢性腎臓病が顕在化します。

甲状腺機能亢進症の治療前後における見かけの腎機能と真の腎機能の変化を示す模式図 腎機能低下として検出される域 腎機能(GFR) 時間 治療開始 真の腎機能 見かけのGFR 甲状腺ホルモンが GFRを押し上げている 治療でGFRが低下し CKDが顕在化する 治療前の検査値だけでは、併発する慢性腎臓病を見抜けない。

図:治療前後の腎機能。真の腎機能(破線)はすでに低下しているが、甲状腺ホルモンによりGFRが押し上げられているため、治療前の検査値は正常域に見える。治療により甲状腺機能が正常化するとGFRは本来の水準まで下がり、慢性腎臓病が顕在化する。

3. 臨床症状

  • 多食にもかかわらず体重減少 — もっとも特徴的な組み合わせです
  • 多飲多尿
  • 活動性の亢進、落ち着きのなさ、夜鳴き、攻撃性の増加
  • 嘔吐、下痢(消化管運動の亢進による)
  • 被毛の粗剛、グルーミング行動の変化
  • 頸部腹側に甲状腺腫を触知 — 正常な猫では甲状腺は触知できないため、触れること自体が異常所見です
  • 頻脈、奔馬調律、心雑音
  • 高血圧 — 網膜剥離や眼底出血による急性の失明をきたすことがあります
見逃しやすい病型

症例の1割弱では、活動性の亢進ではなく食欲不振・沈うつ・虚脱を呈します。これをアパシー型(無関心型)といい、心不全や腫瘍などの併発疾患を伴うことが多いとされます。

「元気のない痩せた高齢猫」でも甲状腺機能亢進症を除外してはいけません。

4. 一般検査所見

  • ALT・ALP・ASTの上昇:大半の症例でみられます。肝疾患ではなく甲状腺ホルモンによる代謝亢進が原因であり、甲状腺機能の正常化により改善します。
  • BUN・クレアチニンが正常または低値:GFR上昇によるもので、腎機能が保たれていることを意味しません。
  • 尿比重の低下
  • 軽度の赤血球増多、ストレスリューコグラム
  • 高血圧

5. 診断

5-1. 総T4(TT4)

第一選択の検査で、多くの症例で高値を示します。臨床症状・甲状腺腫の触知とあわせて診断します。

頻出のひっかけ

総T4が基準範囲内であっても、甲状腺機能亢進症は否定できません。およそ1割の症例で初回測定が正常範囲に収まります。理由は3つあります。

  1. T4には日内変動があり、変動の谷で採血された可能性がある
  2. 非甲状腺疾患がT4を低下させる(ユウサイロイドシック症候群)。高齢猫はCKDや腫瘍など他疾患を併せもつことが多い
  3. 軽症例では上昇が軽微である

5-2. 総T4が正常だが疑いが強い場合

手段特徴注意点
2〜4週間後に
総T4を再測定
もっとも簡便で、まず選択される日内変動や一過性の低下を回避できる
遊離T4(fT4)感度は高い特異度が低い。非甲状腺疾患でも偽高値を示すため、単独では診断できない。総T4と併せて解釈する
甲状腺シンチグラフィ機能している甲状腺組織を直接描出できる基準検査実施可能な施設が限られる。異所性甲状腺組織の検出にも有用
最重要のひっかけ — 猫にTSHは使えない

猫では甲状腺刺激ホルモン(TSH)を測定することができません。犬用に確立されたcTSHのアッセイが猫では使用できず、検査会社の受託項目にも猫のTSHは存在しません。

理論上は「甲状腺機能が亢進すれば負のフィードバックによりTSHは抑制される」というのは正しく、そのため「TSHが検出されれば除外できる」と考えたくなりますが、猫ではそもそも測定できないため成立しません

猫の甲状腺機能亢進症の診断とモニタリングには、総T4および遊離T4(fT4)を用います。第一選択は総T4です。

6. 治療

方法作用可逆性主な欠点
抗甲状腺薬
(メチマゾール等)
ホルモン合成を抑制可逆的生涯投与が必要。副作用あり。甲状腺腫は縮小しない
放射性ヨウ素
(I-131)
亢進した甲状腺組織を選択的に破壊不可逆日本国内では実施できない
甲状腺摘出術腫瘍組織を外科的に除去不可逆上皮小体損傷による低カルシウム血症、麻酔リスク
ヨウ素制限食ホルモン合成の基質を制限可逆的他の食物を一切与えないことが条件。多頭飼育や外出する猫では実行困難

6-1. 抗甲状腺薬(メチマゾール/チアマゾール)

甲状腺ペルオキシダーゼを阻害し、ヨウ素の有機化とヨードチロシンのカップリングを妨げることでT4・T3の合成を抑制します。

作用機序から導かれるひっかけ

この薬は合成を止めるだけで、すでに甲状腺内に貯蔵されているホルモンには作用しません。そのため効果の発現までに数日から2週間程度を要します。「投与すればすぐ改善する」わけではありません。

同様の理由で、甲状腺腫そのものは縮小しません。腫瘍を治す薬ではなく、ホルモン量を管理する薬です。

副作用として、食欲不振・嘔吐が1〜2割にみられるほか、顔面の掻痒と自傷、肝毒性、血小板減少や無顆粒球症などの血液異常が報告されています。投与開始後は定期的な血液検査が必要です。経皮製剤(耳介内側への塗布)は、投薬が困難な猫に有用な選択肢となります。

6-2. 放射性ヨウ素治療

投与されたヨウ素131は、機能が亢進している甲状腺組織に選択的に取り込まれ、β線によってその組織を破壊します。抑制されている正常組織はヨウ素を取り込まないため温存されます。

1回の治療で大多数が治癒し、麻酔も不要という優れた方法です。転移を有する甲状腺癌にも適用でき、海外では根治療法の第一選択とされています。

日本では実施できない

放射線の管理および隔離施設に関する法規制により、日本国内において猫の放射性ヨウ素治療を一般臨床で行うことはできません。

したがって国内では、抗甲状腺薬による内科療法、甲状腺摘出術、ヨウ素制限食のいずれかから選択することになります。「根治療法の第一選択は放射性ヨウ素治療」という記述は海外の状況であり、国内の実務とは異なる点に注意してください。

6-3. 甲状腺摘出術

術式の要点

上皮小体を温存することが最重要です。とくに両側摘出において上皮小体を損傷すると、術後に低カルシウム血症が生じ、テタニーや痙攣をきたします。術後数日間は血清カルシウム濃度のモニタリングが必須です。

そのほか、反回神経の損傷による喉頭麻痺、ホルネル症候群のリスクがあります。胸腔内などに異所性甲状腺組織が存在する場合は、摘出後も症状が持続または再発します。

6-4. 治療戦略 — 腎機能をどう試すか

実務と試験の要点

前述のとおり、治療によりCKDが顕在化する可能性があります。放射性ヨウ素や外科は不可逆であるため、腎機能が耐えられなかった場合に後戻りできません。

そこでまず可逆的な抗甲状腺薬で甲状腺機能を正常化し、その状態で腎機能を評価するという手順を踏みます。腎機能が保たれていれば根治療法へ進み、悪化するようであれば投薬を調整して、T4をやや高めに維持し腎灌流を確保する方針をとります。

あわせて、医原性の甲状腺機能低下症は避けるべきとされています。過剰な抑制はCKDを併発する猫の生存期間を短縮させることが報告されています。「下げればよい」という疾患ではありません。

7. 国家試験で狙われるポイントの整理

ひっかけ注意
  1. 猫の甲状腺腫瘍は大部分が良性・機能性。犬は悪性・非機能性が多く、逆になっている。
  2. 7割が両側性
  3. アパシー型(沈うつ・食欲不振)が存在する。
  4. GFR上昇によりCKDがマスクされ、治療後に顕在化する。
  5. 総T4が正常でも否定できない(日内変動、非甲状腺疾患)。
  6. 遊離T4は特異度が低く単独では診断できない。
  7. 猫ではTSHを測定できない。犬のcTSHアッセイは使用できず、検査会社の受託項目にも存在しない。診断・モニタリングは総T4と遊離T4による。
  8. 放射性ヨウ素治療は日本国内では実施できない。国内の選択肢は抗甲状腺薬・甲状腺摘出術・ヨウ素制限食。
  9. ALT・ALP上昇は肝疾患ではなく甲状腺由来で、治療により改善する。
  10. メチマゾールは貯蔵ホルモンに作用せず、効果発現に時間がかかる。
  11. メチマゾールで甲状腺腫は縮小しない。
  12. 甲状腺摘出術では上皮小体の温存が最重要。術後低カルシウム血症に注意。
  13. 可逆的な薬でまず腎機能を試してから根治療法へ進む。
  14. 医原性甲状腺機能低下症は避ける。
  15. 正常な猫では甲状腺は触知できない

8. 確認問題

Q1. 甲状腺機能亢進症の猫で、治療前は正常であったBUN・クレアチニンが治療後に上昇した。この機序を説明せよ。

A. 甲状腺ホルモンは心拍出量の増加と腎血管抵抗の低下により糸球体濾過量を上昇させるため、慢性腎臓病が存在しても治療前は腎機能指標が正常に見える。治療により甲状腺機能が正常化するとGFRが本来の水準まで低下し、潜在していた慢性腎臓病が顕在化する。

Q2. 臨床症状から甲状腺機能亢進症が強く疑われる猫で、総T4が基準範囲内であった。考えられる理由を2つ挙げよ。

A. ①T4には日内変動があり、低い時間帯に採血された可能性がある。②併発する非甲状腺疾患がT4を低下させている(ユウサイロイドシック症候群)。このほか軽症例では上昇が軽微にとどまることもある。対応としては2〜4週間後の再測定を行う。

Q3. メチマゾールの作用機序を述べ、効果発現までに時間を要する理由を説明せよ。

A. 甲状腺ペルオキシダーゼを阻害してヨウ素の有機化とカップリングを妨げ、甲状腺ホルモンの合成を抑制する。すでに甲状腺内に貯蔵されているホルモンには作用しないため、貯蔵分が消費されるまで効果が現れず、数日から2週間程度を要する。

Q4. 両側甲状腺摘出術後に注意すべき電解質異常と、その機序を述べよ。

A. 低カルシウム血症。甲状腺に近接する上皮小体を損傷または切除すると上皮小体ホルモンが不足し、血清カルシウム濃度が低下してテタニーや痙攣を生じる。術後数日間はカルシウム濃度のモニタリングが必要である。

Q5. 根治療法の前に、まず抗甲状腺薬で治療することが推奨される理由を述べよ。

A. 放射性ヨウ素治療や甲状腺摘出術は不可逆であるため、治療後に慢性腎臓病が顕在化しても後戻りできない。可逆的な抗甲状腺薬で甲状腺機能を正常化し、その状態で腎機能を評価することで、根治療法に耐えられるかを事前に判断できる。

関連コンテンツ

参考文献

  • 新獣医内科学 文永堂出版
  • 伴侶動物治療指針 緑書房
  • 犬と猫の治療ガイド インターズー
  • CAP 緑書房
  • SA Medicine インターズー
  • 新編 家畜薬理学 養賢堂
  • 動物病理学各論 文永堂出版
  • 農林水産省 獣医師国家試験(公式)

執筆・編集:Vet Study Library 編集部
監修:獣医師(農林水産省 獣医師名簿第44733号登録)/小動物臨床13年、環境衛生監視員としての実務経験、獣医療系出版社での獣医学情報誌・獣医学書籍の編集経験、医療系情報サイトでの執筆経験
公開日:2026年8月14日/最終更新日:2026年8月24日
本記事は獣医学生および獣医療従事者の学習支援を目的とした教育用コンテンツです。実際の診療上の判断は担当獣医師の責任において行ってください。