免疫学 > 自然免疫と獲得免疫
免疫系は自然免疫と獲得免疫という2つの層で成り立っています。この区別は用語の整理にとどまらず、どの細胞が何を認識し、いつ働くのかという出題の枠組みそのものです。
両者を分ける軸は3つあります。認識の仕方(病原体に共通する分子パターンか、個々の抗原か)、反応の速さ、そして記憶の有無です。この3点を押さえたうえで、担当する細胞を振り分けていけば、細胞や分子を問う設問には確実に対応できます。
第73回〜第77回の試験問題を分析したところ、免疫系の仕組みや担当細胞に関する知識を問う設問は例年1〜2問程度出題されています。
具体的には、抗体産生能をもつ細胞(形質細胞)、抗原提示能をもたない細胞(好中球)、犬のB細胞の表面分子(CD20)を選択させる問題や、ウイルス感染初期の自然免疫応答(TLR、インターフェロン)と獲得免疫の区別を問う問題が出題されています。
「自然免疫」および「獲得免疫」の定義、担当細胞、応答の仕組みを直接問う設問は、合計で4問出題されています。
1. 自然免疫と獲得免疫の区別を問う問題
第76回 学説A:ウイルス感染初期における「自然免疫応答」として不適切なものを選択させる問題。選択肢の中で「形質細胞による抗体産生」が獲得免疫に該当するため、両者の応答タイミングとメカニズムの区別が問われています。
2. 獲得免疫の担当細胞・分子を問う問題
自然免疫の情報を得て作動する「獲得免疫」の具体的な構成要素についての出題。
第73回 学説A:「獲得免疫を担当する細胞」として適切なもの(T細胞)を選択させる基礎的な知識問題。
第74回 必須:「抗体産生能をもつ細胞」として形質細胞(プラズマ細胞)を選択させる問題。形質細胞は獲得免疫における液性免疫の主役。
第75回 学説A:獲得免疫を担う「犬のB細胞」に発現する表面分子(CD20)を問う問題。
これらは免疫学の最重要事項として整理されています。試験対策としては、以下のキーワードを整理しておくことが重要です。
自然免疫(素早い応答):
・受容体:Toll様受容体(TLR)。
・因子:I型インターフェロン(IFN)。
・細胞:好中球、マクロファージ、NK細胞。
獲得免疫(特異的・持続的):
・細胞:T細胞、B細胞、形質細胞。
・分子:抗体(免疫グロブリン)、CD20(B細胞マーカー)。
・機能:抗原提示(樹状細胞などが自然免疫から獲得免疫へ橋渡しをする)。
このように、単独の用語を問うだけでなく、「ウイルス感染時にどちらが先に働くか」といった時間軸や、「どの細胞がどちらの系譜か」という分類が繰り返し問われています。
- 自然免疫は分子パターンを、獲得免疫は個々の抗原を認識すること
- 好中球は抗原提示能をもたないこと
- 抗体を産生するのは形質細胞であること
- NK細胞はリンパ球だが自然免疫に属し、MHCクラスIが低下した細胞を狙うこと
- Ⅰ型IFNは抗ウイルス、Ⅱ型IFN(γ)はマクロファージ活性化という役割の違い
- MHCクラスI=CD8、クラスII=CD4という対応
1. 2つの免疫の対比
図:自然免疫と獲得免疫の構成と連携。樹状細胞が抗原を取り込んでリンパ節へ運び、T細胞に提示することで獲得免疫が始動する。一方、獲得免疫が産生した抗体やIFN-γは、補体やマクロファージといった自然免疫の働きを増強する。
| 項目 | 自然免疫 | 獲得免疫 |
|---|---|---|
| 認識の対象 | 病原体に共通する分子パターン | 個々の抗原(特異的) |
| 反応の速さ | 数分〜数時間 | 数日〜1週間 |
| 免疫記憶 | なし | あり |
| 主な細胞 | 好中球、マクロファージ、樹状細胞、NK細胞、肥満細胞、好酸球 | T細胞、B細胞、形質細胞、記憶細胞 |
| 主な液性因子 | 補体、インターフェロン、サイトカイン、リゾチーム | 抗体(免疫グロブリン) |
2. 自然免疫のしくみ
2-1. バリアと貪食
最初の防御は物理的・化学的バリアです。皮膚と粘膜、気道の線毛運動、胃酸、涙や唾液に含まれるリゾチームなどが病原体の侵入そのものを妨げます。侵入を許した場合には好中球とマクロファージが貪食して処理します。
2-2. パターン認識とToll様受容体
自然免疫は個々の抗原を見分けません。代わりに病原体に共通して存在する分子パターンを、あらかじめ用意されたパターン認識受容体で捉えます。その代表がToll様受容体(TLR)です。
| 受容体 | 認識する分子 | 由来 |
|---|---|---|
| TLR4 | リポ多糖(LPS) | グラム陰性菌 |
| TLR2 | ペプチドグリカン、リポタンパク | グラム陽性菌 |
| TLR5 | フラジェリン | 細菌の鞭毛 |
| TLR3 | 二本鎖RNA | ウイルス |
| TLR7・TLR8 | 一本鎖RNA | ウイルス |
| TLR9 | 非メチル化CpG DNA | 細菌・ウイルス |
受容体の局在にも規則性があります。核酸を認識するTLR(3・7・8・9)は細胞内のエンドソーム膜上にあり、菌体成分を認識するもの(2・4・5)は細胞表面にあります。ウイルスの核酸は細胞内に取り込まれて初めて露出するためです。
TLRが刺激されると細胞内シグナルを介して炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1、IL-6など)が産生され、炎症反応が始動します。
2-3. インターフェロン
- Ⅰ型インターフェロン(IFN-α・IFN-β):ウイルス感染細胞などが産生します。周囲の細胞に抗ウイルス状態を誘導してウイルスの複製を阻害するのが主作用で、ウイルス感染初期の自然免疫応答を担います。
- Ⅱ型インターフェロン(IFN-γ):主にTh1細胞とNK細胞が産生します。主作用はマクロファージの活性化であり、獲得免疫と自然免疫をつなぐ役割を果たします。
「インターフェロン=抗ウイルス」と一括りにすると、IFN-γの位置づけを誤ります。
2-4. NK細胞
NK細胞は形態的にはリンパ球ですが、抗原特異的な受容体をもたず、感作を必要としないため自然免疫に属します。
NK細胞はMHCクラスIの発現が低下した細胞を攻撃します。ウイルス感染細胞や腫瘍細胞は、細胞傷害性T細胞に認識されないようMHCクラスIの発現を減らすことがあります。その回避行動そのものがNK細胞にとっての目印になるという仕組みです。
標的細胞はパーフォリンとグランザイムによって傷害されます。またNK細胞はFc受容体をもつため、抗体が結合した細胞を攻撃する抗体依存性細胞傷害にも関与します。
3. 免疫担当細胞と抗原提示
| 細胞 | 所属 | 主な役割 | 抗原提示 |
|---|---|---|---|
| 好中球 | 自然 | 貪食と殺菌。感染初期に大量動員される | しない |
| マクロファージ | 自然 | 貪食、サイトカイン産生、抗原提示 | する |
| 樹状細胞 | 自然 | 最も強力な抗原提示細胞。ナイーブT細胞を活性化できる | する |
| NK細胞 | 自然 | MHCクラスI低下細胞の傷害 | しない |
| 好酸球 | 自然 | 多細胞寄生虫への傷害、Ⅰ型アレルギー | しない |
| 肥満細胞・好塩基球 | 自然 | ヒスタミン放出、Ⅰ型アレルギー | しない |
| T細胞 | 獲得 | 細胞性免疫の中心。B細胞の補助 | しない |
| B細胞 | 獲得 | 抗原認識、抗原提示、形質細胞への分化 | する |
| 形質細胞 | 獲得 | 抗体を産生・分泌する | しない |
プロフェッショナル抗原提示細胞は、樹状細胞・マクロファージ・B細胞の3つです。いずれもMHCクラスIIを発現しています。
好中球は貪食能をもちますが、抗原提示能はもちません。「貪食するから提示もするだろう」と考えると誤ります。
4. 獲得免疫のしくみ
4-1. MHCとT細胞
T細胞はMHC分子に提示された抗原断片だけを認識します。MHCには2種類あり、どちらに提示されるかで、応答するT細胞が決まります。
| MHCクラスI | MHCクラスII | |
|---|---|---|
| 発現する細胞 | ほぼすべての有核細胞 | 抗原提示細胞のみ |
| 提示する抗原 | 内因性抗原(細胞内で合成された蛋白、ウイルス由来) | 外因性抗原(取り込んだ蛋白) |
| 応答するT細胞 | CD8陽性(細胞傷害性T細胞) | CD4陽性(ヘルパーT細胞) |
| 結果 | 感染細胞・腫瘍細胞の傷害 | サイトカイン産生による免疫応答の調節 |
クラスI × CD8 = 8、クラスII × CD4 = 8。掛けて8になる組み合わせが正解です。
CD4陽性T細胞はさらに分化し、Th1はIFN-γを産生して細胞性免疫を、Th2はIL-4などを産生して液性免疫(B細胞の抗体産生)を促進します。すべてのT細胞に共通するマーカーはCD3です。
4-2. B細胞と形質細胞
B細胞は表面に膜結合型の免疫グロブリンを発現し、これを受容体として抗原を認識します。表面マーカーとしてはCD19、CD20、CD21、CD79aおよびMHCクラスIIが知られており、犬のB細胞ではCD20が同定・治療標的として注目されています。
抗体を産生・分泌するのは形質細胞です。B細胞は抗原を認識し、ヘルパーT細胞の助けを受けて活性化・増殖したのち形質細胞へ分化して初めて抗体を大量に分泌します。形質細胞は表面免疫グロブリンを失い、細胞質に豊富な粗面小胞体をもつ形態をとります。
「抗体を産生する細胞はどれか」という設問でB細胞を選ぶと誤りです。
活性化したB細胞の一部は記憶B細胞として残り、次回の同じ抗原の侵入に備えます。
5. 一次応答と二次応答
| 項目 | 一次応答(初回) | 二次応答(再曝露) |
|---|---|---|
| 潜伏期 | 長い(5〜10日程度) | 短い(1〜3日程度) |
| 主体となる抗体 | IgM | IgG |
| 抗体量 | 少ない | 多い |
| 抗原への親和性 | 低い | 高い(親和性成熟) |
| 持続期間 | 短い | 長い |
この差を生むのが記憶細胞の存在です。ワクチンの追加接種は、この二次応答を意図的に引き出すことで、強く長く続く防御を得る手続きにほかなりません。
6. 国家試験で狙われるポイントの整理
- 好中球は抗原提示能をもたない。貪食はするが提示はしない。
- プロフェッショナル抗原提示細胞は樹状細胞・マクロファージ・B細胞の3つ。
- 抗体を産生するのは形質細胞。B細胞ではない。
- NK細胞はリンパ球だが自然免疫に属する。
- NK細胞はMHCクラスIの発現が低下した細胞を攻撃する。
- TLR4はリポ多糖(LPS)を認識する。
- 核酸を認識するTLR(3・7・8・9)は細胞内のエンドソームに局在する。
- Ⅰ型IFN(α・β)は抗ウイルス作用、Ⅱ型IFN(γ)はマクロファージ活性化。
- MHCクラスIは全有核細胞・内因性抗原・CD8、クラスIIはAPCのみ・外因性抗原・CD4。
- 一次応答はIgM、二次応答はIgGが主体。
- 犬のB細胞の表面分子としてCD20が挙げられる。
- 自然免疫は記憶しない。
7. 確認問題
Q1. 貪食能をもちながら抗原提示能をもたない細胞を挙げ、抗原提示細胞との違いを述べよ。
A. 好中球。プロフェッショナル抗原提示細胞である樹状細胞・マクロファージ・B細胞はMHCクラスIIを発現し、取り込んだ抗原を断片化してCD4陽性T細胞に提示できる。好中球はMHCクラスIIを発現せず、貪食した病原体を処理するにとどまる。
Q2. NK細胞が自然免疫に分類される理由と、標的細胞を認識する仕組みを述べよ。
A. 形態的にはリンパ球であるが、抗原特異的な受容体をもたず事前の感作を必要としないため自然免疫に分類される。標的の認識はMHCクラスIの発現低下を指標とし、ウイルス感染細胞や腫瘍細胞が細胞傷害性T細胞から逃れるためにMHCクラスIを減らすと、かえってNK細胞の標的となる。
Q3. Ⅰ型インターフェロンとⅡ型インターフェロンの産生細胞と主作用の違いを述べよ。
A. Ⅰ型(IFN-α・IFN-β)はウイルス感染細胞などが産生し、周囲の細胞に抗ウイルス状態を誘導してウイルス複製を阻害する。Ⅱ型(IFN-γ)は主にTh1細胞とNK細胞が産生し、マクロファージの活性化を主作用とする。
Q4. MHCクラスIとクラスIIについて、発現細胞・提示する抗原・応答するT細胞の違いを述べよ。
A. MHCクラスIはほぼすべての有核細胞に発現し、細胞内で合成された内因性抗原を提示してCD8陽性の細胞傷害性T細胞に認識される。MHCクラスIIは抗原提示細胞のみに発現し、取り込んだ外因性抗原を提示してCD4陽性のヘルパーT細胞に認識される。
Q5. 抗体を産生する細胞の名称と、その細胞が生じるまでの過程を述べよ。
A. 形質細胞。B細胞が膜結合型免疫グロブリンにより抗原を認識し、ヘルパーT細胞の補助を受けて活性化・増殖したのち、形質細胞へ分化して抗体を大量に分泌する。一部は記憶B細胞として残り二次応答に備える。
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参考文献
- 動物病理学総論 文永堂出版
- 犬と猫の血液アトラス 緑書房
- CAP 緑書房
- 農林水産省 獣医師国家試験(公式)