伝染病学 > 牛の主要な細菌病
牛の細菌病は、剖検所見や鏡検像から疾患を特定させる形式で出題されます。それぞれの疾病がきわめて特徴的な像をもつため、所見と疾患名を対応づけて記憶しておけば、そのまま得点になります。
本記事では炭疽・ヨーネ病・牛肺疫・牛のマイコプラズマ病を扱います。とくに炭疽については、炭疽を疑ったときに絶対にしてはならないことがあり、これは獣医師自身と環境を守るための知識として必ず押さえてください。
第73回〜第77回の試験問題を分析したところ、牛の感染症としては炭疽(莢膜、パールテスト)、マイコプラズマ病(M. bovis による肺炎)、ヨーネ病、牛肺疫が頻出です。
細菌病は家畜伝染病予防法の対象疾患を中心に、病原体の特徴・診断・予防法が問われます。学説試験Bでは伝染病学各論として集中的に出題される得点源のセクションであり、実地試験では剖検所見(肉眼像)や顕微鏡写真から疾患を特定する形式が中心です。
- 炭疽が疑われる場合は剖検(開腹)してはならない理由
- 炭疽菌の莢膜がポリペプチドであること、パールテストの原理
- ヨーネ病の「食欲があるのに削痩する」という組み合わせ
- ヨーネ病の脳回転様の腸粘膜と、感染時期と発症時期のずれ
- マイコプラズマは細胞壁をもたないため β-ラクタム系が無効であること
- 牛肺疫の大理石様の肺
1. 4疾病の比較
| 疾病 | 病原体 | 経過 | 特徴的な所見 | 法的位置づけ |
|---|---|---|---|---|
| 炭疽 | Bacillus anthracis グラム陽性大桿菌・芽胞形成 |
最急性〜急性 突然死 |
天然孔からの暗赤色タール様の出血、死後硬直の不全 | 家畜伝染病 |
| ヨーネ病 | Mycobacterium avium subsp. paratuberculosis 抗酸菌・細胞内寄生 |
きわめて慢性 潜伏期2〜5年 |
脳回転様の腸粘膜肥厚、顎下水腫 | 家畜伝染病 |
| 牛肺疫 | Mycoplasma mycoides 細胞壁をもたない |
急性〜慢性 | 大理石様の肺、線維素性胸膜肺炎 | 家畜伝染病 |
| マイコプラズマ病 | Mycoplasma bovis 細胞壁をもたない |
亜急性〜慢性 | 難治性の肺炎・乳房炎・関節炎・中耳炎 | — |
2. 特徴的な所見
図:特徴的な所見。ヨーネ病では回腸末端を中心に腸粘膜が肥厚し、大脳の皺のような太いヒダを形成する。牛肺疫では小葉間結合組織が拡張して大理石様の割面を呈する。炭疽菌は血液塗抹で莢膜をもつ大型の桿菌が連鎖する像を示し、ペニシリン存在下では球状に膨化して真珠のネックレスのように見える。
3. 炭疽
3-1. 病原体
Bacillus anthracis はグラム陽性の大桿菌で、次の2つの性質が病態と防疫のすべてを決めます。
| 性質 | 内容 | 意味するところ |
|---|---|---|
| 芽胞を形成する | 体外で酸素に触れると芽胞をつくる。体内(動物体内)では栄養型のまま | 芽胞は土壌中で数十年生存する。一度汚染された土地は長期にわたり感染源となる |
| 莢膜をもつ | D-グルタミン酸のポリペプチドからなる(多糖体ではない) | 貪食に抵抗する。血液塗抹での鏡検所見となる |
病原因子としては炭疽毒素があり、防御抗原・浮腫因子・致死因子の3成分からなります。防御抗原が細胞への結合と侵入を担い、これと浮腫因子が組み合わさると浮腫毒素、致死因子と組み合わさると致死毒素として働きます。防御抗原だけでは毒性を示しません。
3-2. パールテスト
ペニシリンを含む培地で培養すると、細胞壁の合成が阻害されて菌体が球状に膨化し、それが連鎖することで真珠のネックレスのように見えます。この所見をパールテストといい、B. anthracis の同定に用いられます。
桿菌が球状になるのは細胞壁の形成が妨げられるためであり、ペニシリンの作用機序を知っていれば所見そのものが導けます。
3-3. 症状と剖検時の注意
牛では最急性から急性の経過をとり、多くは突然死として発見されます。高熱、呼吸困難、痙攣がみられることもあります。
- 天然孔(鼻・口・肛門・膣)からの暗赤色でタール様の出血
- 死後硬直が起こりにくい、または不完全
- 血液凝固不全
炭疽が疑われる場合、剖検(開腹)を行ってはいけません。
体内では栄養型のままである菌が、開腹によって酸素に触れると芽胞を形成し、その土地を数十年にわたって汚染します。さらに獣医師自身が感染する危険もあります。
検査は耳静脈などから採取した末梢血の塗抹によって行います。死体は焼却によって処理します。
血液塗抹では莢膜をもつ大型のグラム陽性桿菌が連鎖する像が観察されます。莢膜を染め出す特殊染色を用いると、莢膜が明瞭に確認できます。
炭疽は人獣共通感染症であり、家畜伝染病予防法の家畜伝染病であると同時に感染症法にも位置づけられています。
4. ヨーネ病
4-1. 病原体と感染
原因菌は Mycobacterium avium subsp. paratuberculosis で、抗酸菌に分類される細胞内寄生菌です。培養にきわめて長い時間を要するという性質が、診断の難しさに直結します。
感染するのは子牛期(とくに新生子期)であり、糞便に汚染された飼料や水、乳汁を介した経口感染が主体です。
ところが発症するのは2〜5年後の成牛期です。この長い潜伏期のあいだ、感染牛は外見上健康でありながら菌を排出しうるため、気づいたときには群内に広がっているという事態を招きます。
4-2. 症状と所見
難治性の慢性下痢がありながら、食欲は保たれている。それなのに削痩が進む。この組み合わせがヨーネ病を強く示唆します。発熱を伴わない点も特徴です。
削痩の背景には、肉芽腫性腸炎による蛋白漏出性腸症があります。失われた蛋白により低蛋白血症をきたし、顎下水腫が現れます。
剖検では回腸末端を中心に腸粘膜が著明に肥厚し、大脳の皺のような太いヒダを形成します。腸間膜リンパ節の腫大や、腸管漿膜のリンパ管が索状に肥厚する所見も伴います。
4-3. 診断と防疫
- 糞便のPCRおよび培養:培養には数か月を要します
- 抗体検査(ELISA):発症期には陽性となりますが、潜伏期には陰性のことが多く、早期摘発には限界があります
- ヨーニン反応:Ⅳ型アレルギーを利用した皮内反応です。結核菌との交差反応に注意します
有効な治療法はなく、摘発と淘汰が防疫の基本です。感染は子牛期に成立するため、分娩房の衛生管理と子牛の隔離が予防の要となります。
5. 牛肺疫
原因菌は Mycoplasma mycoides で、マイコプラズマは細胞壁をもたないという決定的な特徴があります。
ペニシリンをはじめとする β-ラクタム系抗菌薬は細胞壁の合成を阻害する薬であるため、細胞壁をもたないマイコプラズマには無効です。治療にはマクロライド系、テトラサイクリン系などが用いられます。
また細胞壁がないためグラム染色では染まらず、多形性を示します。
症状は発熱、呼吸困難、湿性咳嗽で、病理学的には線維素性胸膜肺炎を呈します。小葉間結合組織が著明に拡張し、割面が大理石のように見えるのが特徴的な所見です。慢性化すると隔離病巣を形成し、保菌牛となります。
日本では発生が確認されていませんが、越境性動物疾病として国際的に重要な位置を占め、家畜伝染病に指定されています。
6. 牛のマイコプラズマ病
Mycoplasma bovis による疾病で、こちらも細胞壁をもたないため β-ラクタム系は無効です。次の病型が単独または複合して現れます。
- 肺炎:子牛の呼吸器病の重要な原因となります
- 乳房炎:抗菌薬に反応しにくい難治性の経過をとります
- 関節炎:跛行、関節の腫脹
- 中耳炎:子牛の耳の下垂や斜頸として現れます
難治性であること、および保菌牛が存在することが防除を困難にしています。
7. 国家試験で狙われるポイントの整理
- 炭疽が疑われる場合は開腹してはならない。芽胞形成による土壌汚染と術者の感染を防ぐため。
- 炭疽菌は体外で芽胞を形成し、体内では栄養型。
- 炭疽菌の莢膜はポリペプチド(D-グルタミン酸)であり、多糖体ではない。
- 炭疽毒素は防御抗原・浮腫因子・致死因子の3成分。防御抗原単独では毒性を示さない。
- パールテストはペニシリン存在下で菌が球状に膨化する現象。
- 炭疽では天然孔からの暗赤色出血と死後硬直の不全がみられる。
- ヨーネ病は子牛期に感染し、2〜5年後の成牛期に発症する。
- ヨーネ病では食欲が保たれているのに削痩する。発熱しない。
- ヨーネ病の腸粘膜は脳回転様に肥厚する。
- ヨーニン反応はⅣ型アレルギーを利用した検査で、結核との交差反応に注意する。
- マイコプラズマは細胞壁をもたないため β-ラクタム系が無効。
- 牛肺疫では大理石様の肺が特徴的。
- 炭疽・ヨーネ病・牛肺疫はいずれも家畜伝染病。
8. 確認問題
Q1. 炭疽が疑われる牛の死体を剖検してはならない理由と、代わりに行うべき検査を述べよ。
A. 炭疽菌は動物体内では栄養型であるが、開腹して酸素に触れると芽胞を形成する。芽胞は土壌中で数十年生存するため、その土地を長期にわたって汚染することになる。また術者自身の感染の危険もある。検査は耳静脈などから採取した末梢血の塗抹により行い、死体は焼却して処理する。
Q2. パールテストの原理を述べよ。
A. ペニシリンを含む培地で培養すると細胞壁の合成が阻害され、桿菌である炭疽菌の菌体が球状に膨化する。これが連鎖することで真珠のネックレスのように観察される。炭疽菌の同定に用いられる。
Q3. ヨーネ病において、感染時期と発症時期が大きく異なることが防疫上どのような問題をもたらすか述べよ。
A. 感染は子牛期に成立するが発症は2〜5年後の成牛期であるため、その間の感染牛は外見上健康でありながら菌を排出しうる。抗体検査も潜伏期には陰性のことが多く早期摘発が難しいため、発症例が確認された時点ではすでに群内に感染が広がっている可能性が高い。
Q4. ヨーネ病で食欲が保たれているにもかかわらず削痩が進む理由を述べよ。
A. 腸管における肉芽腫性炎症により蛋白漏出性腸症を生じ、蛋白が消化管へ失われるため。低蛋白血症の結果として顎下水腫も現れる。摂取したものを吸収できず、かつ蛋白を失い続けるため、食欲があっても栄養状態が悪化する。
Q5. マイコプラズマによる疾病にペニシリンが無効である理由を述べよ。
A. ペニシリンなどのβ-ラクタム系抗菌薬は細菌の細胞壁合成を阻害することで作用するが、マイコプラズマは細胞壁をもたないため作用点が存在しない。治療にはマクロライド系やテトラサイクリン系などが用いられる。
関連コンテンツ
- 解説記事:家畜伝染病予防法と届出伝染病 — 発生時の届出と防疫措置の枠組みを扱います。
- 解説記事:アレルギー(Ⅰ〜Ⅳ型) — ヨーニン反応やツベルクリン反応の基礎となるⅣ型アレルギーを扱います。
- 解説記事:豚熱とアフリカ豚熱 — 剖検所見から疾患を特定する形式の演習になります。
- カード式分類問題:法定伝染病 — 疾病の法的分類を演習できます。
参考文献
- 新獣医内科学 文永堂出版
- 新編 家畜薬理学 養賢堂
- 動物病理学各論 文永堂出版
- 動物病理学総論 文永堂出版
- 家畜伝染病予防法施行規則(e-Gov)
- 動物検疫所|家畜伝染病予防法の解説
- 動物検疫所|監視伝染病(届出伝染病)
- 農林水産省 獣医師国家試験(公式)