狂犬病|【獣医師国家試験対策】

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狂犬病は発症すればほぼ100%が死亡する人獣共通感染症です。それでいて曝露後の適切な処置により発症を防ぐことができるという、他に例のない性質をもっています。この「治せないが防げる」という構造が、狂犬病を防疫の対象として特別な位置に置いています。

国家試験では、ネグリ小体をはじめとする病理所見と、3つの法律にまたがる法的位置づけが問われます。あわせて、ウイルスが血流ではなく神経を通って脳へ向かうという体内移動の様式も、潜伏期の理解に直結する重要事項です。

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過去問分析

第73回〜第77回の試験問題を分析したところ、伴侶動物のウイルス病として狂犬病(ネグリ小体、法規)が繰り返し出題されています。

また必須問題では、感染症法や家畜伝染病予防法に基づく基礎知識(届出義務、指定動物)が問われており、狂犬病は法規と直結する疾病として重要です。

「狂犬病(または狂犬病ウイルス、狂犬病予防法・予防員)」が主なテーマ、あるいは重要な選択肢として扱われている設問は、合計で16問、回別の出題内容は以下の通りです。

第73回
必須問題:「狂犬病予防法」の検疫対象動物を直接問う問題。
必須:動物検疫所の役割として「狂犬病の侵入防止を目的とした犬猫等の輸入検査」を行うという知識が選択肢に登場。
必須:我が国で緊急時用にワクチンが備蓄されている感染症の選択肢(正解は口蹄疫)として登場。
学説A:「幼犬に心筋炎を起こす疾患」の選択肢として登場(正解は犬パルボウイルス感染症)。

第74回
必須問題:「と畜場法」において、患畜・疑似患畜のとさつまたは解体が禁止されている疾病として「狂犬病」を特定させる問題。

第75回
学説A:「狂犬病予防員」の具体的な役割(鑑札のない犬の抑留など)について問う問題。
実地D:輸入禁止動物(コウモリ、プレーリードッグなど)から「狂犬病」を特定させ、さらに「野生動物用の経口ワクチンが実用化されている」といった特徴を答えさせる連問。

第76回
必須問題:狂犬病に特徴的な封入体である「ネグリ小体」を問う問題。
必須:「歴史上初めて発見された動物ウイルス」を問う問題の選択肢(正解は口蹄疫ウイルス)として登場。
学説A:「逆転写酵素をもつウイルス」の選択肢(正解はB型肝炎ウイルス、馬伝染性貧血ウイルス)として登場。
学説A:「獣医師免許が法令上必要な職種」として「狂犬病予防員」が選択肢に含まれています。
学説B:「コウモリ由来人獣共通感染症でないもの」を問う問題で、狂犬病はコウモリ由来の正しい例として登場。

第77回
必須:「狂犬病予防法に基づく輸出入検疫の対象でない動物(正解はスカンク)」を問う問題。
学説A:「バイオセーフティレベル4(BSL-4)施設で取り扱う必要のある病原体(正解はクリミア・コンゴ出血熱ウイルス)」の選択肢として登場。
学説B:「我が国で患畜と診断された場合、淘汰(殺処分)対象でない感染症」の選択肢として登場(狂犬病は殺処分対象です)。
実地C:「野生動物に経口ワクチンを用いて対策を講じている疾患」の選択肢として登場。

狂犬病は「伝染病学」と「公衆衛生学(法規)」の双方をまたぐ最重要疾患であり、以下のポイントが形を変えて繰り返し出題されています。
病理・ウイルス学:ネグリ小体、ラビエスウイルス(ラブドウイルス科)の特徴。
法規:狂犬病予防法による検疫対象 や、狂犬病予防員の職務・資格要件。
防疫・公衆衛生:と畜場法での規制、野生動物に対する経口ワクチンの実用化、コウモリなどの輸入禁止動物との関連。

出典

本ページの法令・疫学に関する記載は、厚生労働省「狂犬病」および農林水産省 動物検疫所「監視伝染病(家畜伝染病)」に基づいています。

法令の内容および発生状況は変動します。最新の情報は必ず所管官庁の公表資料でご確認ください。

この記事で押さえること
  • すべての哺乳類が感染すること
  • ウイルスが神経を逆行性に移動し、血行性ではないこと
  • 潜伏期が咬傷部位によって変わる理由
  • ネグリ小体は神経細胞の細胞質内の封入体であること
  • 確定診断が蛍光抗体法によること
  • 狂犬病予防法・家畜伝染病予防法・感染症法の3法にまたがること

1. 病原体

項目内容
分類ラブドウイルス科リッサウイルス属
核酸一本鎖RNA(マイナス鎖)
エンベロープあり
形態弾丸状。電子顕微鏡像で特徴的
環境抵抗性低い。乾燥、紫外線、一般的な消毒薬で容易に不活化される

2. 宿主と伝播

名前によるひっかけ

狂犬病は「犬だけの病気」ではありません。すべての哺乳類が感染します。疾病名から犬に限定された感染症と誤解しないでください。

地域によって主要な伝播動物は異なり、アジアやアフリカではイヌ、北米ではアライグマ・スカンク・キツネ・コウモリ、ヨーロッパではキツネ、中南米では吸血コウモリが家畜の感染源となっています。自然界のリザーバーは野生動物です。

伝播は感染動物の唾液中のウイルスが咬傷を介して侵入することで成立します。傷口や粘膜への唾液の付着によっても感染しえます。なお通常ヒトからヒトへ感染することはなく、患者を介して感染が拡大することはありません。

3. ウイルスの体内移動

狂犬病ウイルスが咬傷部位から中枢神経系を経て唾液腺へ移動する経路を示す模式図 咬傷部位 筋肉内で増殖 ① 逆行性に軸索内を移動 血行性ではない ② 中枢神経系で増殖 非化膿性脳炎・ネグリ小体 ③ 遠心性に末梢神経を伝わる ④ 唾液腺 唾液中に排出され咬傷で伝播 潜伏期は、咬傷部位が中枢に近いほど短くなる。

図:狂犬病ウイルスの体内移動。咬傷部位の筋肉で増殖したウイルスは末梢神経の終末から侵入し、軸索内を逆行性に中枢へ向かう。中枢神経系で増殖したのち、今度は遠心性に末梢神経を伝わって唾液腺に達し、唾液中へ排出される。

神経を通るということ

狂犬病ウイルスは血流に乗って全身へ広がるのではなく、神経の軸索内を移動します。この事実から2つのことが導かれます。

  • 潜伏期は咬傷部位から中枢までの距離に依存する。顔面や頭部を咬まれた場合は距離が短いため潜伏期が短く、四肢末端であれば長くなります。厚生労働省は潜伏期の目安をヒトで1〜3か月程度、イヌで2週間〜2か月程度としています。
  • 潜伏期が長いからこそ、曝露後の処置が間に合う。後述する曝露後予防が成立する根拠がここにあります。

4. 臨床症状

前駆期には行動の変化、不安、性格の変化、発熱、咬傷部位を気にするといった非特異的な徴候がみられます。その後、2つの型に分かれます。

症状
狂躁型 攻撃性の亢進、無差別に咬みつく、異嗜(石や木片を食べる)、徘徊、羞明、瞳孔散大、嗄声
麻痺型 下顎の下垂、嚥下困難による流涎、進行性の麻痺。狂躁型を経ずに麻痺型から始まる例もある

いずれの型でも嚥下障害による流涎が特徴的です。
(※咽頭や食道自体に物理的障害はなく、特定の脳神経を送り出す脳幹神経核のウイルス性障害による『機能的な咽喉頭麻痺』が生じるため、嚥下困難・激しい流涎を呈する。これが狂水病と呼ばれる生理学的背景である)
最終的には昏睡と呼吸麻痺により死亡し、発症後の救命はほぼ不可能です。

5. 病理と診断

5-1. ネグリ小体

最重要の病理所見

ネグリ小体は狂犬病に特徴的な封入体です。次の3点が問われます。

  • 神経細胞の「細胞質内」に形成される好酸性の封入体である(核内ではない)※基本的には脳の神経細胞に形成されるが、唾液腺(主に顎下腺)の組織内神経節細胞でもまれに検出されることがある
  • アンモン角(海馬)の錐体細胞(犬などの肉食動物)と、小脳のプルキンエ細胞(牛などの草食動物)にそれぞれ多く認められる
  • 検出率は100%ではない。ネグリ小体が認められなくても狂犬病を否定できない

肉眼的な剖検所見に特徴は乏しく、組織学的には非化膿性脳炎と血管周囲のリンパ球浸潤がみられます。

5-2. 確定診断

確定診断は蛍光抗体法による脳組織中のウイルス抗原の検出によります。検査部位としては延髄、海馬、小脳が用いられます。RT-PCRも併用されます。

生前診断は困難であり、確定は死後の脳検査によることになります。ネグリ小体の検出は補助的な位置づけです。

6. 法規 — 3つの法律にまたがる

狂犬病は同一の疾病でありながら、対象と目的の異なる3つの法律に規定されています。設問では「どの法律に基づく措置か」が問われます。

法律対象所管主な内容
狂犬病予防法 犬など 厚生労働省 犬の登録年1回の予防注射、鑑札と注射済票の装着、発生時の抑留・けい留命令。届出先は保健所長(感染症法と異なり知事を経由しない)
家畜伝染病予防法 牛・馬・豚などの家畜 農林水産省 家畜伝染病(法定伝染病)に指定。対象家畜は牛・馬・めん羊・山羊・豚・水牛・鹿・いのししであり犬は含まれない。届出先は都道府県知事
感染症法 ヒト 厚生労働省 4類感染症。診断した医師は直ちに保健所長を経由して都道府県知事へ届け出る
狂犬病予防法の要点
  • 生後91日以上の犬について、取得後30日以内に市町村へ登録する(生涯1回)
  • 生後91日以上の犬に年1回の予防注射を受けさせる
  • 交付された鑑札と注射済票を犬に装着する
  • 狂犬病にかかった、またはその疑いのある犬等を発見した者は、直ちに保健所長へ届け出る

予防注射の時期は施行規則により4月1日から6月30日までと定められており、厚生労働省もこの期間を「狂犬病予防注射月間」として周知しています。義務に違反した場合は罰則の対象となります。

マイクロチップの特例

令和4年6月1日から、販売される犬猫へのマイクロチップ装着と環境省データベースへの登録が義務化されました。これに伴い、あらかじめ手続きを行った市町村に所在する犬については、マイクロチップ情報の登録が狂犬病予防法に基づく登録申請とみなされ、装着されたマイクロチップが鑑札とみなされます

これを狂犬病予防法の特例制度といいます。新しい制度であるため出題される可能性があります。

法令の確認について

法令の内容および届出の手続きは改正される場合があります。実際の手続きにあたっては最新の法令と所管官庁の公表資料をご確認ください。

7. 曝露後予防

治せないが防げる

狂犬病は発症すればほぼ確実に死亡しますが、発症前であれば防ぐことができます。潜伏期が数週間から数か月と長いため、その間に免疫を成立させる時間があるからです。

  1. 創傷の洗浄:石鹸と流水で十分に洗い流す。最も重要かつ直ちに行うべき処置
  2. ワクチンの連続接種:規定のスケジュールで複数回接種する
  3. 抗狂犬病免疫グロブリン:重度の曝露では受動免疫を併用する

ワクチンによる能動免疫は成立に時間を要するため、緊急性の高い症例では即効性のある受動免疫を組み合わせるという考え方です。

8. 日本の状況

1950年の狂犬病予防法の施行により、犬の登録・予防注射・野犬等の抑留が徹底された結果、日本はわずか7年で狂犬病を撲滅しました。犬における発生は1956年の6頭を最後に確認されていません。

ただし海外で咬傷を受けて帰国後に発症した輸入症例が、1970年(ネパール)、2006年(フィリピン、2例)、2020年(フィリピン)にヒトで報告されています。「国内に狂犬病はないから安全」ではないことを示す事例です。

厚生労働省によれば、狂犬病は日本・英国・スカンジナビア半島の国々など一部の地域を除いて全世界に分布しています。世界保健機関の推計(2017年)では年間の死亡者数は約59,000人で、うちアジア地域が約35,000人、アフリカ地域が約21,000人を占めます。曝露後ワクチン接種者は年間約1,500万人と推計されています。

清浄を維持するための水際対策と、飼い犬への予防注射の徹底が、日本の防疫の柱となっています。

9. 国家試験で狙われるポイントの整理

ひっかけ注意
  1. ラブドウイルス科リッサウイルス属の弾丸状RNAウイルス。
  2. すべての哺乳類が感染する。犬だけの病気ではない。
  3. ウイルスは神経の軸索内を逆行性に移動する。血行性ではない。
  4. 潜伏期は咬傷部位が中枢に近いほど短い。
  5. ネグリ小体は神経細胞の細胞質内の封入体。核内ではない。
  6. ネグリ小体はアンモン角とプルキンエ細胞に多い。
  7. ネグリ小体が陰性でも狂犬病を否定できない。
  8. 確定診断は蛍光抗体法による脳組織の抗原検出。
  9. 発症すればほぼ100%死亡する。
  10. 狂犬病予防法:生後91日以上の犬に年1回の予防注射。届出先は保健所。
  11. 予防注射の時期は4月1日から6月30日まで。
  12. 家畜伝染病予防法の狂犬病の対象家畜に犬は含まれない。犬は狂犬病予防法の対象。
  13. マイクロチップの登録が犬の登録申請とみなされる特例がある(狂犬病予防法の特例制度)。
  14. 家畜伝染病予防法では家畜伝染病、感染症法では4類感染症。
  15. 曝露後予防は発症前であれば有効。創傷の洗浄が最優先。

10. 確認問題

Q1. 狂犬病ウイルスが体内を移動する経路を述べ、潜伏期との関係を説明せよ。

A. 咬傷部位の筋肉で増殖したのち、末梢神経の終末から侵入して軸索内を逆行性に中枢神経系へ移動する。中枢で増殖した後は遠心性に末梢神経を伝わって唾液腺へ達し、唾液中に排出される。血行性に広がるのではないため、潜伏期は咬傷部位から中枢までの距離に依存し、頭部や顔面に近いほど短くなる。

Q2. ネグリ小体について、存在部位と診断上の限界を述べよ。

A. ネグリ小体は神経細胞の細胞質内に形成される好酸性の封入体で、アンモン角(海馬)の錐体細胞や小脳のプルキンエ細胞に多く認められる。核内封入体ではない。検出率は100%ではないため、認められなくても狂犬病を否定することはできず、確定診断は蛍光抗体法による抗原検出による。

Q3. 狂犬病が3つの法律に規定されている点について、それぞれの対象と届出先を述べよ。

A. 狂犬病予防法は犬などを対象とし、厚生労働省が所管する。犬の登録と年1回の予防注射を義務づけ、届出先は保健所である。家畜伝染病予防法では家畜を対象とする家畜伝染病に指定され、農林水産省の所管で届出先は都道府県知事である。感染症法ではヒトの4類感染症とされ、診断した医師が直ちに最寄りの保健所長を経由して都道府県知事に届け出る。

Q4. 発症すればほぼ100%死亡する狂犬病において、曝露後予防が有効となる理由を述べよ。

A. ウイルスが神経を移動して中枢神経系に到達するまでに数週間から数か月の潜伏期があるため。この間にワクチン接種により能動免疫を成立させ、必要に応じて抗狂犬病免疫グロブリンによる受動免疫を併用することで、発症を防ぐことができる。創傷の洗浄を直ちに行うことが最も重要である。

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参考文献

執筆・編集:Vet Study Library 編集部
監修:獣医師(農林水産省 獣医師名簿第44733号登録)/小動物臨床13年、環境衛生監視員としての実務経験、獣医療系出版社での獣医学情報誌・獣医学書籍の編集経験、医療系情報サイトでの執筆経験
公開日:2026年8月20日/最終更新日:2026年8月25日
本記事は獣医学生および獣医療従事者の学習支援を目的とした教育用コンテンツです。法令の内容および発生状況は変動するため、最新の情報は所管官庁の公表資料をご確認ください。