自律神経系と受容体|【獣医師国家試験対策】

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自律神経系と受容体は、薬理学のほぼすべてが乗る土台です。アドレナリン、アトロピン、メデトミジン、アテノロール——臨床で使う薬の多くが、この枠組みのどこかに位置づけられます。

覚えるべきことは多く見えますが、構造は単純です。中枢から出た神経は必ず一度神経節で乗り換えます。この乗り換え地点までは交感神経も副交感神経もまったく同じで、違いが生じるのは神経節から先だけです。ここを押さえれば、あとは効果器ごとの対応を積み上げるだけになります。

過去問分析

第73回〜第77回の試験問題を分析したところ、基礎獣医学は学説試験Aの約75%(約60問)を占め、必須問題でも10〜15問程度が出題されています。

薬理学は生理学・生化学とあわせて学説試験Aの中盤に配置され、受容体と作用の対応薬物の作用点が問われます。また臨床各分野の設問でも、治療薬の選択理由としてこの知識が前提となります。

「自律神経系(解剖・生理)」および「受容体(作動薬・拮抗薬・ホルモン受容体・機序など)」に関連する設問は、合計で23問出題されています。自律神経の基礎(解剖・生理)が5問、受容体の薬理・機能・内分泌が18問となっています。

1. 自律神経に関する出題(主に解剖・生理学)
自律神経の分布、神経節の分類、支配関係、神経伝達物質など基礎的な知識が問われています。

第76回 学説A:自律神経の「二重支配を受けている器官」(唾液腺)を選択させる問題(汗腺、副腎髄質、立毛筋などは一重支配)。
第76回 学説A:末梢神経系の問題。「翼口蓋神経節は交感神経節である」という誤った選択肢の判断などが含まれました(実際は副交感神経節)。
第75回 学説A:自律神経系に関する総合的な正誤問題。交感神経の節前ニューロンの投射経路や、心臓を支配する副交感神経節前ニューロン(第X脳神経=迷走神経)などの知識が問われました。
第74回 学説A:末梢神経系における「頸胸神経節」が交感神経節であることなどの知識問題。
第73回 学説A:交感神経の節前ニューロンから分泌される神経伝達物質(アセチルコリン)を選択させる基礎問題。

2. 受容体に関する出題(主に薬理学・内分泌生理)
受容体に関連する設問は、自律神経系薬理やホルモン作用機序など、薬理学のメインテーマとして非常に多く出題されています。

① アセチルコリン/アドレナリン受容体(自律神経薬理)
第76回 学説A:排尿障害改善薬であるシロドシンの作用機序(α1アドレナリン受容体阻害)を問う問題。
第75回 学説A:鎮静薬の作用機序として、メデトミジンが(α2アドレナリン受容体を活性化することや、ハロペリドールがD2ドパミン受容体を遮断することなどの正誤を問う問題。
第74回 学説A:ムスカリン受容体拮抗薬(抗コリン薬)の作用(散瞳、気管支平滑筋の弛緩、心拍数増加など)を選択させる問題。
第73回 学説B:βアドレナリン受容体拮抗薬(プロプラノロール)の特性を問う問題。

② ヒスタミン/セロトニン/ドパミン受容体など(制吐薬・消化器薬理など)
第77回 学説A:制吐薬オンダンセトロンの作用標的受容体(5-HT3セロトニン受容体)を選択させる問題。
第77回 学説A:D2ドパミン受容体に対して拮抗作用を示すアセプロマジンなどの鎮静薬に関する問題。
第76回 必須:H2ヒスタミン受容体拮抗薬(ファモチジン)を選択させる一問一答問題。
第74回 学説B:生理活性物質とその関連薬において、5-HT3受容体拮抗薬(グラニセトロン)やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(カンデサルタン)の知識が問われました。
第73回 学説A:嘔吐抑制薬とその作用機序(マロピタント:NK1受容体拮抗など)の組み合わせを問う定番問題。

③ オピオイド/GABA受容体など(麻酔・鎮痛・殺虫薬)
第77回 必須:オピオイド受容体に作用する鎮痛薬(フェンタニル)を選択させる問題。
第76回 学説B:下痢治療薬ロペラミドがμオピオイド受容体を刺激して水分の分泌を抑制する、という薬理作用を問う問題。
第76回 学説A:中枢神経興奮薬の作用機序(カフェインによるアデノシン受容体阻害、メタンフェタミン、ストリキニーネによるグリシン受容体阻害など)を問う問題。
第75回 学説A:殺虫薬フェニルピラゾール系(フィプロニル)の作用機序がγ-アミノ酪酸(GABA)受容体Cl⁻チャネルの阻害であることを問う問題。

④ イオンチャネル型・生理・ホルモン受容体
第77回 必須:「ホルモン受容体が標的細胞内(細胞質または核内)にあるもの」として、ステロイドホルモンであるプロジェステロンを選択させる重要問題です(ペプチドホルモン受容体は細胞膜上に存在)。
第76回 学説A:イオンチャネル共役型の味覚受容体が感知する基本味(酸味、塩味)を問う生理学問題。
第76回 学説A:神経筋接合部において終板電位を発生させる受容体(ニコチン受容体)を選択させる生理学問題。
第75回 学説A:甲状腺ホルモンが「核内受容体」に作用して効果を発現するという生理的特徴を問う設問。
第73回 学説A:副腎髄質ホルモンが作用する受容体(Gタンパク質共役型等の膜受容体であり、核内受容体ではない)に関する正誤問題。

とくに以下の関係性は薬理学・生理学の双方で繰り返し出題されています。

1. 交感神経 ➡ ノルアドレナリン受容体:
α1:血管収縮、瞳孔散大。阻害薬(プラゾシン、シロドシンなど)。
α2:節前線維での自己受容体(負のフィードバック)。作動薬(メデトミジン、キシラジンなど)。
β1:心機能亢進。遮断薬(プロプラノロール、アテノロールなど)。
β2:気管支拡張、血管拡張。作動薬(クレンブテロール、テルブタリンなど)。

2. 副交感神経 ➡ アセチルコリン受容体:
ニコチン受容体 (N):神経筋接合部(終板電位)や自律神経節に存在。
ムスカリン受容体 (M):効果器に存在。アトロピンなどの遮断薬の作用(散瞳、心拍数増加、唾液分泌抑制、消化管運動抑制)は超頻出です。

3. ホルモンの受容体位置:
細胞膜受容体:ペプチドホルモン(GnRH, FSH, プロラクチンなど)、プロスタグランジン(PGF2α)。
細胞内(核内・細胞質)受容体:ステロイドホルモン(プロジェステロン、エストロジェン、コルチゾールなど)、甲状腺ホルモン(T3, T4)。

この記事で押さえること
  • 節前線維はいずれもアセチルコリンを放出し、ニコチン受容体に作用すること
  • 神経節の位置が交感と副交感で逆であること
  • 副腎髄質と汗腺という2つの例外
  • β1は心臓、β2は気管支という対応
  • アトロピンが有機リン中毒の解毒に使われる理由
  • SLUDGEというムスカリン様症状のまとめ方

1. 自律神経系の構成

交感神経と副交感神経における伝達物質と受容体の配置を示す模式図 交感神経 中枢 効果器 ACh 神経節 ノルアドレナリン α・β 受容体 副交感神経 中枢 効果器 ACh 神経節 ACh ムスカリン 受容体 例外:副腎髄質 中枢 副腎髄質 ACh アドレナリン を血中へ 節前線維はいずれもアセチルコリンを放出し、ニコチン受容体に作用する。

図:自律神経の構成。交感神経は神経節が脊柱の近くにあるため節前線維が短く節後線維が長い。副交感神経は神経節が効果器の近くにあるため逆になる。節前線維はいずれもアセチルコリンを放出するが、節後線維の伝達物質は交感神経がノルアドレナリン、副交感神経がアセチルコリンと異なる。

項目交感神経副交感神経
中枢からの起始胸腰髄脳幹と仙髄
神経節の位置脊柱の近く効果器の近くまたは壁内
節前線維短い長い
節後線維長い短い
節前の伝達物質アセチルコリン(ニコチン受容体に作用)
節後の伝達物質ノルアドレナリンアセチルコリン
節後の受容体アドレナリン受容体(α・β)ムスカリン受容体
2つの例外
  • 副腎髄質:交感神経の節前線維が直接支配します。副腎髄質の細胞そのものが節後ニューロンに相当し、アドレナリンとノルアドレナリンを血中へ放出します。神経ではなくホルモンとして全身に作用する点が特徴です。
  • 汗腺:交感神経支配でありながら、節後線維がアセチルコリンを放出してムスカリン受容体に作用します。「交感神経=ノルアドレナリン」の唯一に近い例外です。

2. 受容体の種類と分布

2-1. アドレナリン受容体

受容体主な分布作用
α1血管平滑筋、瞳孔散大筋、内尿道括約筋血管収縮、散瞳、尿道括約筋の収縮
α2シナプス前終末、中枢ノルアドレナリン放出の抑制(負のフィードバック)、鎮静・鎮痛
β1心臓、腎の傍糸球体細胞心拍数の増加、収縮力の増強、レニン分泌
β2気管支平滑筋、骨格筋の血管、子宮、肝気管支の拡張、血管拡張、子宮弛緩、糖新生
β3脂肪組織、膀胱平滑筋脂肪分解
覚え方

β1は心臓(心臓は1つ)、β2は肺(肺は2つ)。この対応さえ間違えなければ、β遮断薬の選択も理解できます。

非選択的なβ遮断薬はβ2も遮断するため気管支が収縮します。喘息のある個体に使えないのはこのためです。β1選択的な遮断薬であればこのリスクを避けられます。

2-2. コリン受容体

受容体分布特徴
ニコチン受容体
(神経節型)
自律神経節(交感・副交感の両方)イオンチャネル型。すみやかに反応する
ニコチン受容体
(筋型)
神経筋接合部(骨格筋)イオンチャネル型。筋弛緩薬の標的
ムスカリン受容体
M2
心臓心拍数を低下させる
ムスカリン受容体
M3
平滑筋、外分泌腺平滑筋の収縮、分泌の促進

3. 効果器における作用の対比

器官交感神経副交感神経
心臓β1:心拍数↑・収縮力↑M2:心拍数↓
気管支β2:拡張M3:収縮
瞳孔α1:散瞳(瞳孔散大筋)M3:縮瞳(瞳孔括約筋)
消化管運動・分泌の抑制運動・分泌の促進
膀胱α1で括約筋収縮、β3で排尿筋弛緩 → 蓄尿M3で排尿筋収縮 → 排尿
血管α1:収縮/β2:拡張支配はほとんどない
唾液腺粘稠な唾液多量で漿液性の唾液
汗腺ムスカリン受容体(例外)
2つの状況で覚える

交感神経は「闘争と逃走」の神経です。走って逃げるために必要なことを考えれば作用が導けます。心拍数を上げ、気管支を広げて酸素を取り込み、瞳孔を開いて視野を確保し、骨格筋へ血液を送る。逆に消化や排尿は後回しになります。

副交感神経は「休息と消化」の神経です。心拍数を下げ、消化管の運動と分泌を高め、排尿を促す。すべてが逆になります。

4. 主要な薬物と作用点

4-1. 交感神経系に作用する薬物

薬物作用臨床での用途
アドレナリンα・βの両方に作用アナフィラキシーの第一選択血管収縮による昇圧と気管支拡張を同時に得られる
メデトミジン
デクスメデトミジン
α2作動鎮静・鎮痛。アチパメゾールにより拮抗できる
ドブタミンβ1作動心収縮力の増強
β2作動薬β2作動気管支拡張
β遮断薬β遮断頻脈性不整脈、心筋症。非選択的なものは気管支収縮に注意

4-2. 副交感神経系に作用する薬物

薬物作用臨床での用途
アトロピンムスカリン受容体の拮抗徐脈の改善、分泌の抑制、散瞳。有機リン中毒の解毒イミドカルブ投与時の前投薬
ピロカルピンムスカリン作動縮瞳、分泌の促進
コリンエステラーゼ
阻害薬
アセチルコリンの分解を阻害し作用を増強重症筋無力症の治療、非脱分極性筋弛緩薬の拮抗

4-3. 有機リン中毒とSLUDGE

中毒学と直結する

有機リン系やカーバメート系の薬剤はコリンエステラーゼを阻害します。アセチルコリンが分解されずに蓄積するため、副交感神経が過剰に刺激された状態となります。

現れる症状はムスカリン様症状と呼ばれ、頭文字をとってSLUDGEとまとめられます。

  • Salivation:流涎
  • Lacrimation:流涙
  • Urination:排尿
  • Defecation:排便
  • Gastrointestinal upset:消化器症状
  • Emesis:嘔吐

これに加えて縮瞳、徐脈、気管支分泌の増加がみられます。いずれも「副交感神経が効きすぎた状態」と考えれば導けます。

治療は2段構え
  • アトロピン:ムスカリン受容体を拮抗し、症状を抑える。ただし原因そのものは取り除かない
  • プラリドキシム(PAM):阻害されたコリンエステラーゼを再賦活する。原因への対処にあたる。時間が経つと効果が落ちる

対症療法と原因療法を組み合わせるという構造を押さえてください。

5. 国家試験で狙われるポイントの整理

ひっかけ注意
  1. 節前線維は交感・副交感ともアセチルコリンを放出し、ニコチン受容体に作用する。
  2. 交感神経は神経節が脊柱近くにあり節前が短い。副交感神経は逆。
  3. 副腎髄質は節前線維に直接支配され、ホルモンを血中へ放出する。
  4. 汗腺は交感神経支配だがアセチルコリンを放出する。
  5. β1は心臓、β2は気管支。
  6. 非選択的β遮断薬はβ2も遮断して気管支を収縮させる。
  7. α2はシナプス前終末に働き、ノルアドレナリンの放出を抑える。
  8. 交感神経は蓄尿、副交感神経は排尿。
  9. アドレナリンはアナフィラキシーの第一選択。昇圧と気管支拡張を同時に得る。
  10. アトロピンはムスカリン受容体の拮抗薬。
  11. 有機リン中毒はコリンエステラーゼ阻害により副交感神経が過剰に刺激される。
  12. 治療はアトロピン(対症)とプラリドキシム(原因)の2段構え。

6. 確認問題

Q1. 交感神経と副交感神経で共通している点を、伝達物質と受容体の観点から述べよ。

A. 節前線維はいずれもアセチルコリンを放出し、神経節のニコチン受容体に作用する点が共通する。相違が生じるのは節後線維以降であり、交感神経はノルアドレナリンを放出してアドレナリン受容体に、副交感神経はアセチルコリンを放出してムスカリン受容体に作用する。

Q2. 副腎髄質が自律神経系の例外とされる理由を述べよ。

A. 交感神経の節前線維が神経節を介さず直接支配しており、副腎髄質の細胞そのものが節後ニューロンに相当するため。放出されたアドレナリンとノルアドレナリンは神経終末から効果器へ渡されるのではなく、血中へ分泌されてホルモンとして全身に作用する。

Q3. 気管支に喘息の既往がある動物に非選択的β遮断薬を用いるべきでない理由を述べよ。

A. 気管支平滑筋にはβ2受容体が分布し、その刺激により気管支が拡張している。非選択的β遮断薬はβ1に加えてβ2も遮断するため、気管支が収縮して症状を悪化させる。β1選択的な遮断薬であればこのリスクを軽減できる。

Q4. 有機リン中毒でみられるムスカリン様症状を挙げ、その機序を述べよ。

A. 有機リン剤がコリンエステラーゼを阻害することでアセチルコリンが分解されずに蓄積し、副交感神経が過剰に刺激される。流涎、流涙、排尿、排便、消化器症状、嘔吐に加え、縮瞳、徐脈、気管支分泌の増加がみられる。

Q5. 有機リン中毒に対するアトロピンとプラリドキシムの役割の違いを述べよ。

A. アトロピンはムスカリン受容体を拮抗して過剰なアセチルコリンの作用を遮断する対症療法であり、原因そのものは取り除かない。プラリドキシムは有機リン剤により阻害されたコリンエステラーゼを再賦活する原因療法であり、投与が遅れると効果が低下する。両者を組み合わせて用いる。

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参考文献

執筆・編集:Vet Study Library 編集部
監修:獣医師(農林水産省 獣医師名簿第44733号登録)/小動物臨床13年、環境衛生監視員としての実務経験、獣医療系出版社での獣医学情報誌・獣医学書籍の編集経験、医療系情報サイトでの執筆経験
公開日:2026年8月23日/最終更新日:2026年8月23日
本記事は獣医学生および獣医療従事者の学習支援を目的とした教育用コンテンツです。実際の診療上の判断は担当獣医師の責任において行ってください。