バベシア症|【獣医師国家試験対策】

臨床獣医学 > 内科 > 血液・免疫 > バベシア症

犬のバベシア症は、マダニによって媒介される赤血球内寄生原虫による溶血性疾患です。日本では西日本を中心に発生し、Babesia gibsoni が主要な原因種となっています。

この疾患を学ぶうえで決定的に重要なのは、バベシア症が免疫介在性溶血性貧血(IMHA)と区別のつかない検査所見を示すという点です。球状赤血球も自己凝集もクームス試験陽性も、バベシア症で起こりえます。つまり免疫学的な所見をいくら調べても鑑別できず、原虫そのものを探すしかありません。そして鑑別を誤って免疫抑制療法を行えば、病態は悪化します。

過去問分析

「バベシア(またはバベシアを原因とするピロプラズマ症)」は第73〜77回の試験問題を分析したところ合計で8問出題されています。
主に犬と牛での病態、顕微鏡写真による診断、媒介するダニの種類、および治療薬に関する知識が問われています。

1. 疾患の知識・病態(4問)
第73回 学説A:「溶血性黄疸のみられる疾患」の組み合わせを問う問題。正解の選択肢として犬のバベシア症が含まれています。
第73回 学説B:日本においてフタトゲチマダニが主要なベクター(媒介者)となる原虫として、Babesia ovata (牛バベシア)を選択させる問題。
第77回 実地D:貧血、黄疸、血色素尿に加え、興奮や麻痺といった神経症状を呈して死亡した牛の症例。脳の押捺標本(毛細血管内に原虫)の画像から、最も疑われる疾患として「ピロプラズマ症」を選択させる問題。
第77回 実地D:上記疾患に関する知識問題で、「我が国に常在する」といった特徴が問われています。

2. 症例・実地試験問題(4問)
第73回 実地D:放牧後に元気消失と可視粘膜の蒼白を呈した牛の症例。末梢血液塗抹標本の画像から、赤血球内に存在する病原体Babesia ovataを特定させる問題。
第73回 実地D:上記症例の治療法として、適切な薬剤(ジミナゼン製剤)を選択させる問題。
第76回 実地D:重度の貧血と網状赤血球の増加(再生性貧血)を呈した犬の症例。血液塗抹標本に認められる赤血球内の小さな寄生体から、最も疑われる疾患としてBabesia gibsoni 感染症」を選択させる問題。
第76回 実地D:上記症例に対する最も適当な治療薬として、「アトバコン」を選択させる問題。

バベシア症は血液・伝染病分野の重要トピックです。
診断:末梢血塗抹での赤血球内原虫(梨状体など)の確認。
臨床徴候:溶血性貧血、黄疸、血色素尿。
治療:牛ではジミナゼン、犬(B. gibsoni )ではアトバコンがポイントです。
媒介:マダニ(特にフタトゲチマダニ)による媒介が重要です。


このように、単なる知識だけでなく、顕微鏡写真の読影とそれに基づいた治療薬の選択が実地試験で繰り返し問われています。

この記事で押さえること
  • 日本で主要なのは小型バベシア(B. gibsoniで、西日本に多いこと
  • マダニ以外に咬傷・輸血でも伝播すること
  • 溶血の主体が免疫介在性であるため、IMHAと同じ所見を示すこと
  • 小型は単一のリング状、大型は洋梨形2個という塗抹像の違い
  • イミドカルブは B. gibsoni に効果が乏しいこと
  • 治療後も保虫犬となり再発しうること

1. 病原体と日本の疫学

バベシアはアピコンプレックス門に属する赤血球内寄生原虫です。形態的な大きさによって大型と小型に分けられます。

分類代表的な種大きさ日本での位置づけ
大型バベシア Babesia canis 群(B. vogeliB. rossi など) 2.5〜5 µm B. vogeli の報告はあるが多くはない
小型バベシア Babesia gibsoni 1〜2 µm 日本の主要種。近畿以西、とくに中国・四国・九州・沖縄に多い

もともと B. gibsoni の分布は限られた地域でしたが、犬の移動にともなって分布が拡大しています。「西日本の疾患だから関係ない」と切り捨てられなくなっている点は、問診上も重要です。

2. 感染経路

2-1. マダニによる媒介

主要な感染経路はマダニの吸血です。日本において B. gibsoni の媒介種として重要なのはフタトゲチマダニです。

マダニが吸血する際、唾液とともにスポロゾイトが犬の体内へ注入されます。スポロゾイトは赤血球に侵入してメロゾイトとなり、二分裂で増殖します。赤血球が破壊されると放出されたメロゾイトが次の赤血球へ感染し、これを繰り返します。一部は配偶子母細胞となり、吸血したマダニの体内で有性生殖を行って生活環が完結します。

2-2. マダニ以外の経路

日本で重要

B. gibsoni咬傷による血液の直接伝播で感染します。闘犬など咬み合う機会のある犬での感染が国内で多く報告されており、マダニ曝露歴がなくても感染しうる点が疫学上の特徴です。

そのほか輸血および経胎盤感染による伝播も知られています。

3. 病態生理 — なぜIMHAと似るのか

バベシア症の溶血には2つの機序があり、臨床的に問題となるのは後者です

  1. 直接的な破壊:原虫が赤血球内で増殖し、赤血球を破裂させます(血管内溶血)。
  2. 免疫介在性の溶血:原虫の抗原が赤血球膜に露出したり、免疫複合体が赤血球表面に付着したりすることで自己抗体が結合します。抗体の結合した赤血球は脾臓のマクロファージに捕捉されて破壊されます(血管外溶血)。
この記事の核心

2番目の機序により、バベシア症では IMHA とまったく同じ所見が出現します。すなわち球状赤血球、自己凝集、クームス試験陽性です。

免疫学的な検査では両者を区別できません。鑑別できるのは、血液塗抹やPCRによって原虫そのものを検出したときだけです。

また、血小板減少が高率かつ早期にみられます。免疫介在性の破壊、脾臓での捕捉、DICなどが関与し、貧血が明らかになる前に血小板減少だけが先行することも珍しくありません

4. 臨床症状

4-1. 急性型

  • 発熱、元気消失、食欲不振
  • 粘膜蒼白(貧血)
  • 黄疸、ビリルビン尿
  • 血管内溶血が強い場合はヘモグロビン尿(※日本で主に見られる小型種 B. gibsoni では、溶血は主に血管外で起こるため、肉眼的なヘモグロビン尿は一般的ではありません) 一方、大型種 B. canis(特に B. canis canis )では血管内溶血が強く、ヘモグロビン尿が典型的に観察されます。
  • 脾腫、リンパ節腫大
  • 重症例では低血圧性ショック、DIC、急性腎障害、神経症状

4-2. 保虫犬

治療しても消えない

急性期を治療で乗り切っても、原虫は完全には排除されず保虫犬となることが多いのがこの疾患の特徴です。ストレス、免疫抑制療法、脾臓摘出などを契機に再発します。

保虫犬は感染源にもなるため、輸血ドナーからは除外する必要があります。

5. 血液塗抹の読影

ギムザ染色した血液塗抹で、赤血球内に原虫を確認します。大型と小型では見え方がまったく異なります。

小型バベシアと大型バベシアの赤血球内寄生像を比較した模式図 小型バベシア(B. gibsoni) 単一の小さなリング状・円形 大型バベシア(B. canis 群) 洋梨形が2個、鋭角に接する 各パネル右下は非感染の赤血球。 塗抹は耳介や爪先の毛細血管血のほうが検出率が高い。

図:赤血球内のバベシア。小型バベシアは単一の小さなリング状または円形として観察されるのに対し、大型バベシアは洋梨形(ピリフォーム)の虫体が2個、先端で鋭角に接する像を示す。原虫の形態と大きさを強調するため、赤血球の中心蒼白部は省略している。

6. 診断

検査役割特徴
血液塗抹
(ギムザ染色)
原虫の直接証明耳介や爪先からの毛細血管血のほうが検出率が高い。低原虫血症では感度が低く、陰性でも否定できない
PCR確定診断・種の同定感度が高く、保虫犬の検出にも有用。B. gibsoniB. vogeli の鑑別ができる
血清抗体検査曝露歴の推定感染早期は抗体が産生されておらず陰性となる。現在の感染を証明するものではない

6-1. IMHAとの鑑別

項目原発性IMHAバベシア症
球状赤血球ありありうる
自己凝集ありありうる
クームス試験陽性陽性となりうる
血小板減少エバンス症候群で併発高率かつ早期
発熱・脾腫ありうる高率
生活歴西日本、マダニ曝露、闘犬・咬傷歴、輸血歴
決め手血液塗抹での原虫検出、PCR
治療免疫抑制療法抗原虫薬(免疫抑制単独では悪化)

上4行がすべて「ありうる」である点に注目してください。免疫学的所見では鑑別できないという事実が、この表から読み取れます。手がかりとなるのは血小板減少・発熱・脾腫の頻度生活歴であり、確定するのは病原体の検出だけです。

7. 治療

7-1. 抗原虫薬

薬剤大型バベシアB. gibsoni(小型)
イミドカルブ
ジプロピオネート
有効効果が乏しい
ジミナゼン
アセチュレート
有効効果は限定的
アトバコン+
アジスロマイシン
標準的な併用療法
日本で最重要

日本で主要な B. gibsoni にはイミドカルブが効きません。「バベシア症=イミドカルブ」と単純に覚えていると、国内でもっとも遭遇する種に対して誤った選択をすることになります。

B. gibsoni に対してはアトバコンとアジスロマイシンの併用が標準的です。ただしアトバコンに対する耐性(原虫のチトクロムb遺伝子変異による)が問題となっており、クリンダマイシン・メトロニダゾール・ドキシサイクリンの3剤併用が用いられることもあります。

なおイミドカルブにはコリン作動性の副作用(流涎、嘔吐、下痢)があり、アトロピンの前投与が行われます。

7-2. 支持療法とステロイドの位置づけ

  • 輸血:重度の貧血に対して
  • 輸液・ショック管理
  • グルココルチコイド:免疫介在性の溶血が強い症例で抗原虫薬に併用することはありますが、単独での投与は原虫の増殖を助長するため行いません

8. 予防

  • マダニ対策が最重要です。外部寄生虫駆除薬の定期投与、散歩後のダニチェック、ダニの多い環境を避けることが基本となります。
  • 咬傷をともなう接触を避けること。B. gibsoni は血液の直接伝播で広がります。
  • 輸血ドナーのスクリーニング:PCRによる保虫犬の除外。

9. 国家試験で狙われるポイントの整理

ひっかけ注意
  1. 媒介するのはマダニ。日本の B. gibsoni ではフタトゲチマダニ。
  2. 咬傷・輸血・経胎盤でも伝播する。マダニ曝露歴がなくても否定できない。
  3. 日本の主要種は小型の B. gibsoniで、西日本に多い。
  4. 小型は単一のリング状、大型は洋梨形2個が鋭角に接する。
  5. 溶血の主体は免疫介在性であり、球状赤血球・自己凝集・クームス陽性を呈しうる。
  6. IMHAとは免疫学的所見で鑑別できない。原虫の検出が唯一の決め手。
  7. 血小板減少が高率かつ早期に出現する。
  8. イミドカルブは B. gibsoni に効果が乏しい。アトバコン+アジスロマイシンを用いる。
  9. グルココルチコイド単独投与は行わない。
  10. 治療後も保虫犬となり再発しうる。輸血ドナーからは除外する。
  11. 塗抹は耳介・爪先の毛細血管血のほうが検出率が高い。
  12. 抗体検査は感染早期には陰性となる。

10. 確認問題

Q1. バベシア症でクームス試験が陽性となり、球状赤血球が出現する理由を述べよ。

A. 原虫の抗原が赤血球膜に露出したり免疫複合体が赤血球表面に付着したりすることで自己抗体が結合し、免疫介在性の血管外溶血が生じるため。脾臓のマクロファージが赤血球膜を部分的に貪食することで球状赤血球が形成される。したがって免疫学的所見だけではIMHAと鑑別できない。

Q2. 溶血性貧血の犬に免疫抑制療法を開始する前にバベシア症を除外すべき理由を述べよ。

A. バベシア症に免疫抑制を単独で行うと原虫の増殖を助長し、病態が悪化するため。バベシア症は球状赤血球・自己凝集・クームス試験陽性というIMHAと同一の所見を示しうるため、血液塗抹やPCRによる原虫の検索が必須である。

Q3. 血液塗抹で大型バベシアと小型バベシアを区別する形態的特徴を述べよ。

A. 大型バベシアは2.5〜5 µm程度で、洋梨形の虫体が2個、先端で鋭角に接する像を示す。小型バベシアは1〜2 µm程度で、赤血球内に単一の小さなリング状または円形として観察される。

Q4. 日本で発生するバベシア症の治療において、イミドカルブが第一選択とならない理由を述べよ。

A. 日本で主要な原因種である Babesia gibsoni に対してイミドカルブの効果が乏しいため。B. gibsoni にはアトバコンとアジスロマイシンの併用が標準的に用いられる。

Q5. マダニの寄生歴がない室内飼育の犬でバベシア症が疑われた。考えられる感染経路を挙げよ。

A. 他の犬との咬傷による血液の直接伝播、輸血による伝播、経胎盤感染。とくに B. gibsoni は咬傷による伝播が国内で多く報告されており、闘犬や犬どうしの咬み合いの既往を確認する必要がある。

関連コンテンツ

参考文献

執筆・編集:Vet Study Library 編集部
監修:獣医師(農林水産省 獣医師名簿第44733号登録)/小動物臨床13年、環境衛生監視員としての実務経験、獣医療系出版社での獣医学情報誌・獣医学書籍の編集経験、医療系情報サイトでの執筆経験
公開日:2026年8月14日/最終更新日:2026年8月24日
本記事は獣医学生および獣医療従事者の学習支援を目的とした教育用コンテンツです。実際の診療上の判断は担当獣医師の責任において行ってください。