免疫グロブリンと補体|【獣医師国家試験対策】

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免疫グロブリン(抗体)と補体は、いずれも液性免疫の実行部隊です。抗体が標的を指し示し、補体がそれを破壊する——この分業を理解すると、両者の関係が整理されます。

国家試験では、パパイン・ペプシンによる抗体の切断が模式図とともに問われます。これは単なる知識問題ではなく、抗体のどの部分が何を担っているかを理解しているかを試すものです。切断される位置と、その結果できる断片に何ができて何ができないのかまで押さえてください。

過去問分析

第73回〜第77回の試験問題を分析したところ、補体および抗体構造に関する設問として、「補体に関する記述」を選ばせる問題や、消化酵素(パパイン・ペプシン)による免疫グロブリンの切断(Fc断片・Fab断片)を模式図で問う問題が出題されています。

また必須問題では、血漿中で最も多い免疫グロブリン(IgG)を問う設問が出題されています。
「免疫グロブリン(抗体・B細胞)」および「補体」は第73〜77回の試験問題を分析したところ、主なテーマとした設問、または正解の鍵となる知識を問う設問は、合計で11問出題されています。

1. 免疫グロブリン(抗体・B細胞関連):9問
免疫グロブリンの種類(クラス)、構造、担当細胞、および臨床的な異常に関する問題が幅広く出題されています。
第77回必須:「血漿中で最も多い免疫グロブリン」としてIgGを選択させる問題。
実地C:免疫グロブリンを消化酵素(パパインやペプシン)で切断した際の断片(Fab、Fcなど)を模式図から特定させる構造の問題。
学説A:ウイルス感染初期の自然免疫応答に「含まれない」ものとして、獲得免疫である「形質細胞による抗体産生」を選択させる区別の問題。
第76回必須:「抗体産生能をもつ細胞」として形質細胞を選択させる基礎知識の問題。
学説A:獲得免疫を担う「犬のB細胞」に発現する表面分子(CD20)を問う問題。
実地D:慢性リンパ球性白血病の症例に関連し、「単クローン性γグロブリン増加症」がみられることがあるという知識を問う問題。
第75回必須:肥満細胞に結合して「I型アレルギー」に関与する免疫グロブリン(IgE)を問う問題。
学説A:特定の血液型に対して「自然抗体」を持つ動物(馬や猫など)を選択させる問題。
第74回必須:牛のIgGに関する記述(初乳中に含まれる主要なクラスであること等)の正誤を問う問題。

2. 補体関連:2問
補体の機能や、動物種による免疫系の違いに関する知識が問われています。
第75回学説B:真骨魚類の生体防御に関する記述で、補体(古典経路の有無など)に関する知識が問われています。
第74回学説A:補体の機能(標的細胞の表面を覆って食作用を亢進させるオプソニン作用など)に関する正しい記述を選択させる問題。

試験対策としては、以下のポイントをセットで整理しておくことが重要です。
免疫グロブリン:各クラス(IgG, IgM, IgA, IgE)の役割、形質細胞による産生、酵素による切断構造(Fab/Fc)。
補体:オプソニン作用や溶細胞作用などの機能。
臨床応用:血液型に伴う自然抗体や、腫瘍に伴う単クローン性高グロブリン血症の病態。


このように、単なる用語の暗記だけでなく、抗体の構造から具体的な疾患での現れ方まで多角的に問われる傾向があります。

この記事で押さえること
  • 免疫グロブリンのクラスはH鎖の定常領域で決まること
  • パパインは3断片、ペプシンはF(ab’)₂ という切断の違い
  • Fabは1価で凝集を起こさず、F(ab’)₂は2価で起こす理由
  • 犬猫牛馬では初乳からの抗体吸収が主体であること
  • 補体の3経路がすべてC3で合流すること
  • C3b=オプソニン、C5a=走化性、C5b-9=膜侵襲複合体という役割分担

1. 免疫グロブリンの基本構造

免疫グロブリンはH鎖(重鎖)2本とL鎖(軽鎖)2本がジスルフィド結合で結びついたY字型の分子です。

  • 可変領域:N末端側にあり、H鎖とL鎖が組み合わさって抗原結合部位を形成します。1分子に2か所あり、多様性の源となる部分です。
  • 定常領域:C末端側にあり、補体の結合やFc受容体との結合を担います。
  • ヒンジ部:H鎖の中ほどにある柔軟な部分で、2本の腕の角度を変えられるようにしています。
クラスを決めるのはH鎖

免疫グロブリンのクラス(IgG・IgM・IgA・IgE・IgD)は、H鎖の定常領域の種類によって決まります。γ鎖ならIgG、μ鎖ならIgM、α鎖ならIgA、ε鎖ならIgE、δ鎖ならIgDです。

一方L鎖にはκ鎖とλ鎖の2種類がありますが、これはクラスとは無関係です。「L鎖でクラスが決まる」という記述は誤りです。

2. パパインとペプシンによる切断

免疫グロブリンの構造とパパイン・ペプシンによる切断産物を示す模式図 免疫グロブリンの構造 可変領域(抗原と結合) パパイン ペプシン L鎖 H鎖 ヒンジ部 パパイン → 3断片に分かれる Fab Fab Fc Fabは1価のため凝集反応を起こさない ペプシン → F(ab’)₂ 1個 F(ab’)₂ Fcは分解される F(ab’)₂は2価のため凝集反応を起こす

図:パパインとペプシンによる免疫グロブリンの切断。パパインはヒンジ部のジスルフィド結合より上(N末端側)を切断するため、抗原結合部位が1つずつのFab断片2個とFc断片1個に分かれる。ペプシンはジスルフィド結合より下(C末端側)を切断するため、2つの抗原結合部位がつながったF(ab’)₂断片が生じ、Fc部分は細かく分解される。

酵素切断位置生じる断片抗原結合の価数凝集反応
パパイン ヒンジ部のジスルフィド結合より上(N末端側) Fab × 2 + Fc × 1(計3断片) 1価 起こさない
ペプシン ヒンジ部のジスルフィド結合より下(C末端側) F(ab’)₂ × 1(Fc部分は分解) 2価 起こす
なぜ凝集の有無が分かれるのか

凝集反応は1つの抗体が2つ以上の抗原を架橋することで起こります。

Fabは抗原結合部位を1つしかもたない(1価)ため、抗原に結合はできても橋渡しができず、凝集を起こせません。これに対しF(ab’)₂は結合部位を2つ保っている(2価)ため、抗原どうしをつないで凝集させることができます。

この違いは「断片の名前」ではなく「腕が何本残っているか」から導けます。

なおF(ab’)₂はFc部分をもたないため、補体の活性化やFc受容体を介した反応は起こしません。この性質を利用して、Fcに起因する副反応を避けたい治療用抗体に応用されることがあります。

3. 免疫グロブリンの5つのクラス

クラス構造血中での量主な特徴
IgG 単量体 最も多い 二次応答の主体。オプソニン化、補体活性化、毒素の中和。初乳中の主要免疫グロブリン(※反芻獣における初乳中の主要なIgGは、特に『IgG₁』サブクラスであり、これが総量の80〜90%を占める)
IgM 五量体 2番目に多い 一次応答で最初に産生される。分子が大きく血管外へ出にくい。補体活性化能が最も強い
IgA 分泌型は二量体 3番目 唾液・涙液・腸管分泌液・乳汁に多い。分泌成分が結合し消化酵素に抵抗する。粘膜局所免疫の主役
IgE 単量体 きわめて微量 肥満細胞・好塩基球のFc受容体に結合。Ⅰ型アレルギーと寄生虫感染防御
IgD 単量体 微量 B細胞表面の抗原受容体として存在する

4. 移行抗体 — 獣医領域で最も重要な点

種差のひっかけ

犬・猫・牛・馬では、胎盤を介した母体から胎子への抗体移行がほとんど、あるいはまったく起こりません。胎盤の構造が、ヒトのような血絨毛胎盤とは異なるためです。

そのため新生子は初乳からIgGを吸収することで受動免疫を獲得します。新生子の腸管上皮が免疫グロブリンをそのままの形で吸収できるのは生後のごく短い期間に限られるため、この時期に十分な初乳を摂取できなければ受動免疫の獲得不全となり、感染症のリスクが著しく高まります。

移行抗体には負の側面もあります。母体由来の抗体が残っている時期にワクチンを接種すると、抗体がワクチン抗原を中和してしまい、十分な免疫が成立しません(移行抗体による干渉)。子犬・子猫のワクチンを複数回接種する理由がここにあります。

また、移行抗体が新生子自身の赤血球を攻撃することで新生子溶血が起こることがあります。これはⅡ型アレルギーに分類される病態です。

5. 補体

5-1. 3つの活性化経路

経路開始のきっかけ抗体の要否所属
古典経路 抗原抗体複合体がC1に結合する。活性化能はIgM > IgG 必要 獲得免疫と連動
レクチン経路 マンノース結合レクチンが病原体表面の糖鎖を認識する 不要 自然免疫
第二経路(副経路) C3が微生物表面で自発的に活性化する 不要 自然免疫
補体系の要

3つの経路はすべてC3で合流します。入口は3つあっても、そこから先はC3 → C5 → C6 → C7 → C8 → C9 という共通の道をたどり、最終的に膜侵襲複合体を形成します。

C3が補体系の中心に位置するため、C3の欠損はすべての経路に影響します。

5-2. 補体の生物活性

成分働き
C3bオプソニン化。病原体表面に結合し、食細胞の受容体に認識されて貪食を促進する
C3a・C5aアナフィラトキシン。肥満細胞を脱顆粒させ、血管透過性を高める
C5aさらに強力な走化性因子として好中球を炎症部位へ呼び寄せる
C5b〜C9膜侵襲複合体(MAC)を形成し、細胞膜に孔を開けて溶菌・溶血を起こす

5-3. 補体の性質

頻出

補体は熱に弱く、56℃で30分の加熱により失活します(非働化)。血清学的検査において補体の影響を除きたい場合には、この操作を行います。

補体は主に肝臓で産生され、新鮮な血清に含まれます。冷凍保存や長期保存でも活性が低下します。

免疫複合体が大量に生じて補体が消費されると、血中の補体価が低下します。全身性エリテマトーデスなどで補体価が下がるのはこのためです。

6. 国家試験で狙われるポイントの整理

ひっかけ注意
  1. クラスはH鎖の定常領域で決まる。L鎖(κ・λ)では決まらない。
  2. パパインはFab×2+Fcの3断片、ペプシンはF(ab’)₂。
  3. Fabは1価で凝集を起こさず、F(ab’)₂は2価で起こす。
  4. F(ab’)₂はFcをもたないため補体を活性化しない。
  5. 血漿中で最も多いのはIgG。
  6. 一次応答で最初に産生されるのはIgM(五量体、補体活性化能が最強)。
  7. 分泌液・乳汁に多いのはIgA(分泌成分をもつ二量体)。
  8. IgEはⅠ型アレルギーに関与し、肥満細胞のFc受容体に結合する。
  9. 犬猫牛馬では胎盤を介した抗体移行がほとんどなく、初乳からの吸収が主体。
  10. 移行抗体はワクチンを干渉する。子犬・子猫で複数回接種する理由。
  11. 補体の3経路はすべてC3で合流する。
  12. 古典経路は抗体が必要、レクチン経路と第二経路は不要。
  13. C3b=オプソニン、C3a・C5a=アナフィラトキシン、C5a=走化性、C5b-9=膜侵襲複合体。
  14. 補体は56℃30分で失活する(非働化)。

7. 確認問題

Q1. パパインとペプシンによる免疫グロブリンの切断産物の違いを、切断位置とともに述べよ。

A. パパインはヒンジ部のジスルフィド結合より N末端側を切断するため、抗原結合部位を1つずつもつFab断片2個とFc断片1個の計3断片が生じる。ペプシンはジスルフィド結合より C末端側を切断するため、2つの抗原結合部位がつながったF(ab’)₂断片が1個生じ、Fc部分は細かく分解される。

Q2. Fab断片が凝集反応を起こさない理由を述べよ。

A. 凝集反応は1つの抗体分子が2つ以上の抗原を架橋することで生じる。Fab断片は抗原結合部位を1つしかもたない1価の断片であるため、抗原に結合はできても橋渡しができず、凝集を起こせない。2価であるF(ab’)₂は凝集反応を起こす。

Q3. 犬や牛の新生子において初乳の摂取が極めて重要である理由を述べよ。

A. これらの動物種では胎盤を介した母体から胎子への抗体移行がほとんど起こらないため。新生子は初乳中のIgGを腸管から吸収することで受動免疫を獲得する。腸管が免疫グロブリンをそのまま吸収できる期間は生後のごく短い時間に限られるため、この時期に初乳を摂取できないと受動免疫の獲得不全となる。

Q4. 補体の3つの活性化経路を挙げ、それぞれの開始のきっかけと抗体の要否を述べよ。

A. 古典経路は抗原抗体複合体がC1に結合して開始し、抗体を必要とする(IgM>IgG)。レクチン経路はマンノース結合レクチンが病原体表面の糖鎖を認識して開始し、抗体を必要としない。第二経路はC3が微生物表面で自発的に活性化して開始し、抗体を必要としない。3経路はいずれもC3で合流する。

Q5. C3bとC5aの生物活性の違いを述べよ。

A. C3bは病原体表面に結合して食細胞による貪食を促進するオプソニンとして働く。C5aはアナフィラトキシンとして肥満細胞を脱顆粒させるとともに、強力な走化性因子として好中球を炎症部位へ遊走させる。

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参考文献

執筆・編集:Vet Study Library 編集部
監修:獣医師(農林水産省 獣医師名簿第44733号登録)/小動物臨床13年、環境衛生監視員としての実務経験、獣医療系出版社での獣医学情報誌・獣医学書籍の編集経験、医療系情報サイトでの執筆経験
公開日:2026年8月15日/最終更新日:2026年8月26日
本記事は獣医学生および獣医療従事者の学習支援を目的とした教育用コンテンツです。実際の診療上の判断は担当獣医師の責任において行ってください。