免疫介在性溶血性貧血(IMHA)|【獣医師国家試験対策】

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免疫介在性溶血性貧血(IMHA)は、自己抗体が赤血球膜に結合し、赤血球が破壊される疾患です。犬でもっとも一般的な免疫介在性疾患のひとつであり、実地試験では末梢血塗抹標本の読影を通じて繰り返し出題されます。

読影のポイントは球状赤血球自己凝集の2つです。とくに自己凝集は、生理的にも起こる連銭形成とよく似た像を示すため、両者を区別する方法まで含めて理解しておく必要があります。また治療面では、続発性の原因を除外せずに免疫抑制を行うと病態が悪化しうるという点が問われます。

過去問分析

「免疫介在性溶血性貧血(IMHA)」は第73〜77回の試験問題を分析したところ、5問出題されています。
主に犬での症例に基づいた診断(球状赤血球、自己凝集)や合併症(DIC)、治療薬(免疫抑制薬)に関する知識が問われています。

1. 症例・実地試験問題(4問)
第74回 実地D:元気食欲の低下、Ht値 11%の重度貧血を呈した5歳齢の犬の症例。末梢血塗抹標本の画像所見から、最も疑われる疾患として「免疫介在性溶血性貧血」を選択させる問題。
第74回 実地D:上記症例に関連し、本疾患で注意すべき記述として「播種性血管内凝固(DIC)を併発することがある」という知識を問う問題。
第77回 実地D:可視粘膜の蒼白を呈した7歳齢の犬の症例。血液を滴下した際の自己凝集像(画像)から、最も疑われる疾患として「免疫介在性溶血性貧血」を選択させる問題。
第77回 実地D:上記症例の治療薬として、適切な免疫抑制薬(アザチオプリンなど)を選択させる問題。

2. 疾患の知識・検査所見を問う問題(1問)
第73回 学説B:「免疫介在性溶血性貧血を示唆する検査所見」を選択する問題で、正解肢として「球状赤血球」と「赤血球凝集」の組み合わせを選ばせる設問。

3. 関連知識・選択肢として登場する設問
直接のメインテーマではありませんが、以下の設問において重要な鑑別疾患や選択肢として登場しています。
第76回 実地D:バベシア症(Babesia gibsoni 感染症)の症例における重要な鑑別疾患として「原発性免疫介在性溶血性貧血」が挙げられています。
第75回 学説B:犬の「非再生性貧血」の原因を問う問題の選択肢(IMHAは通常、再生性貧血を呈するため誤答肢)。
第77回 学説B:犬の血栓塞栓症の原因となる疾患の選択肢として登場。

IMHAについては以下の事項が繰り返し出題される最重要ポイントです。
診断の鍵:末梢血塗抹での球状赤血球、血液の自己凝集、クームス試験陽性。
合併症:血栓塞栓症やDIC(播種性血管内凝固)。
治療:ステロイドやアザチオプリンなどの免疫抑制療法。


血液疾患の中でも、バベシア症と並んで非常に高い頻度で実地試験に登場する分野です。

この記事で押さえること
  • 血管外溶血(IgG)と血管内溶血(IgM+補体)の違いと予後への影響
  • 球状赤血球が形成される機序と、猫では判定が困難な理由
  • 自己凝集と連銭形成を生理食塩水で鑑別する方法
  • 自己凝集が明らかならクームス試験は不要である理由
  • バベシア症を除外せずに免疫抑制してはいけない理由
  • 主要死因である血栓塞栓症への対応

1. 原発性と続発性

分類頻度内容
原発性
(特発性)
およそ6〜7割 明らかな基礎疾患をともなわない。中年のに多く、コッカースパニエル、イングリッシュスプリンガースパニエル、プードル、ミニチュアシュナウザー、オールドイングリッシュシープドッグなどに好発する
続発性 残り 感染症(バベシア、ヘモプラズマ、エールリヒア、猫のFeLV)、腫瘍(リンパ腫、血管肉腫)、薬剤(セファロスポリン、スルホンアミドなど)、蜂刺傷、輸血反応
分類が治療を左右する

続発性を見逃したまま免疫抑制療法を行うと、治療が奏効しないばかりか病態が悪化します。とくにバベシア症では、免疫抑制により原虫の増殖を助長することになります。免疫抑制薬を投与する前に、必ず続発性の原因を検索してください。

2. 病態生理

2-1. 血管外溶血と血管内溶血

項目血管外溶血血管内溶血
頻度大部分少数
主な抗体IgGIgM(補体を強く活性化)
破壊の場脾臓・肝臓のマクロファージがFc受容体を介して捕捉・貪食する膜侵襲複合体により血管内で直接破壊される
特徴的所見球状赤血球、脾腫、黄疸ヘモグロビン血症・ヘモグロビン尿(赤褐色尿)
予後比較的良好不良

球状赤血球が生じる理由は血管外溶血の機序そのものにあります。マクロファージが抗体の結合した赤血球膜を部分的に削り取ると、表面積を失った赤血球は円盤状を維持できず球形になります。これが球状赤血球です。

2-2. 血栓塞栓症

主要死因

IMHAの死因としてもっとも重要なのが血栓塞栓症、とくに肺血栓塞栓症です。全身性の炎症、組織因子の発現、血小板の活性化、留置カテーテル、グルココルチコイド投与などが重なり、強い凝固亢進状態が生じます。

このため診断された時点から抗血栓療法を開始することが推奨されています。「貧血の治療」だけを考えていると見落とす部分です。

なお、IMHAに免疫介在性血小板減少症(ITP)を併発した状態をエバンス症候群と呼びます。

3. 臨床症状

  • 粘膜蒼白、虚弱、運動不耐、失神
  • 黄疸(溶血性)
  • 頻脈、頻呼吸、収縮期心雑音(血液粘度の低下による貧血性の雑音)
  • 発熱、脾腫・肝腫大
  • 血管内溶血ではヘモグロビン尿
  • 血栓塞栓症による突然の呼吸困難

4. 末梢血塗抹の読影

実地試験でもっとも問われる部分です。次の4つの像を区別できるようにしてください。

正常赤血球、球状赤血球、連銭形成、自己凝集の血液塗抹像を比較した模式図 正常赤血球 中心蒼白部がある 球状赤血球 小型・濃染・中心蒼白部がない 連銭形成 硬貨を重ねたように直線的に並ぶ 自己凝集 房状に不規則な塊をつくる 生理食塩水を加えると連銭形成は分散するが、自己凝集は分散しない。

図:末梢血塗抹における4つの像。正常赤血球は中心に蒼白部をもつが、球状赤血球は膜を失って球形となるため小型で濃染し蒼白部を欠く。連銭形成は硬貨を重ねたように直線的に並ぶのに対し、自己凝集は不規則な房状の塊をつくる。

4-1. 球状赤血球

正常な赤血球は中央がくぼんだ円盤状のため、塗抹上では中心蒼白部が観察されます。球状赤血球はこれを欠き、小型で濃く染まるのが特徴です。IMHAに対する特異度が高い所見です。

種差のひっかけ

猫では球状赤血球の判定が困難です。猫の正常赤血球はもともと中心蒼白部が不明瞭であるため、球状赤血球との区別がつきにくいのです。「猫で球状赤血球を認めた」という記述には注意が必要です。

4-2. 自己凝集と連銭形成

自己凝集は、IgM(または高濃度のIgG)が複数の赤血球を架橋することで生じます。塗抹上では不規則な房状の塊として、また試験管内では肉眼的な凝集として観察されます。

これに対し連銭形成は、血漿蛋白(フィブリノーゲンやグロブリン)の増加により赤血球が硬貨を重ねたように並ぶ現象で、炎症などでも生理的に起こります。両者は像が似ているため、必ず次の方法で区別します。

生理食塩水希釈試験

スライド上で血液1滴に生理食塩水を数滴加えて混和し、鏡検します。

  • 連銭形成:希釈により血漿蛋白の濃度が下がるため分散する
  • 自己凝集:抗体が赤血球どうしを直接架橋しているため分散しない

5. 診断

5-1. 溶血が免疫介在性であることの証明

貧血と溶血を確認したうえで、次の3つのうち少なくとも1つを示すことで免疫介在性と判断します。

  1. 球状赤血球の存在
  2. 自己凝集(生理食塩水で分散しないこと)
  3. クームス試験(直接抗グロブリン試験)陽性
実務上の要点

自己凝集が明らかであれば、クームス試験は不要です。クームス試験は「赤血球に抗体が結合していること」を証明する検査ですが、自己凝集はその事実を直接示しているからです。すでに証明されているものを、あらためて調べる必要はありません。

5-2. クームス試験

赤血球表面に結合した抗体や補体に対して、抗イヌグロブリン抗体を作用させて架橋し、凝集の有無を見る検査です。

  • 直接クームス試験:赤血球にすでに結合している抗体を検出します。IMHAの診断に用いるのはこちらです。
  • 間接クームス試験:血清中の遊離した抗体を検出します。

グルココルチコイド投与後や抗体量が少ない場合には偽陰性となることがあり、逆に他疾患で偽陽性を示すこともあります。陰性であってもIMHAを否定できない点に注意してください。

5-3. 再生性の評価

溶血性貧血は本来再生性ですが、発症から2〜4日以内は骨髄がまだ反応しておらず、非再生性に見えます。網赤血球が増えていないことを理由にIMHAを否定してはいけません。

5-4. 続発性の原因と鑑別疾患の検索

  • 血液塗抹での病原体検索:バベシア原虫、ヘモプラズマ
  • PCR検査:バベシア、ヘモプラズマ、エールリヒア
  • 画像診断:胸部X線・腹部超音波による腫瘍検索
  • 投薬歴・ワクチン歴の聴取
機序の異なる溶血

ハインツ小体性溶血は免疫介在性ではなく、酸化的損傷によるものです。タマネギ・ニンニク、猫のアセトアミノフェン中毒、亜鉛中毒などで生じ、変性したヘモグロビンが赤血球内に凝集してハインツ小体を形成します。新メチレンブルー染色で明瞭に観察されます。

なお猫は正常でも少数のハインツ小体をもつため、その存在だけでは異常と判断できません。

6. 治療

6-1. 免疫抑制療法

  • グルココルチコイド(プレドニゾロン):第一選択です。マクロファージのFc受容体機能を抑制し、抗体産生も抑えます。効果発現までに数日を要します。
  • 二次免疫抑制薬:重症例、ステロイド反応不良例、ステロイドの減量を図る場合に併用します。
    • ミコフェノール酸モフェチル:イノシン一リン酸脱水素酵素を阻害し、リンパ球の増殖を抑制
    • シクロスポリン:カルシニューリンを阻害してIL-2産生を抑え、T細胞の活性化を抑制
    • アザチオプリン猫では骨髄抑制が強く用いない
  • ヒト免疫グロブリン製剤:Fc受容体を飽和させることで急性期を乗り切る目的で用いられます。

6-2. 抗血栓療法

主要死因が血栓塞栓症であることから、診断時から開始します。クロピドグレル(血小板のP2Y12受容体を拮抗して凝集を抑制)や低分子ヘパリンが用いられます。

6-3. 輸血

重度の貧血では輸血が必要になりますが、自己凝集があると交差適合試験の判定が困難になるという問題があります。

犬と猫の決定的な違い

犬は初回の輸血であれば比較的安全です。臨床的に問題となる自然抗体をほとんど持たないためで、2回目以降に感作による反応が問題となります。

これに対し猫は初回輸血から重篤な反応が起こりえます。AB血液型系においてB型の猫は抗A抗体を高力価で保有しているため、B型猫にA型血を輸血すると急性溶血性輸血反応を起こします。猫では必ず血液型判定を行ってから輸血します。

6-4. 続発性への対応

基礎疾患の治療が優先されます。バベシア症が原因であれば抗原虫薬(ジミナゼン、イミドカルブなど)を用います。免疫抑制のみでは改善せず、かえって悪化します。

7. 予後

死亡率は高く、報告により幅がありますが決して低くありません。予後を悪化させる因子として、血管内溶血、自己凝集、高ビリルビン血症、血栓塞栓症の併発、重度の白血球増多が挙げられます。寛解後も再発しうるため、長期の経過観察が必要です。

8. 国家試験で狙われるポイントの整理

ひっかけ注意
  1. 血管外溶血=IgG+マクロファージ(脾臓)。血管内溶血=IgM+補体。
  2. 血管内溶血ではヘモグロビン尿を呈し、予後が悪い。
  3. 球状赤血球は中心蒼白部を欠き、小型で濃染する。
  4. 猫では球状赤血球の判定が困難(正常でも中心蒼白部が不明瞭)。
  5. 自己凝集と連銭形成は生理食塩水で鑑別する。自己凝集は分散しない。
  6. 自己凝集が明らかならクームス試験は不要。
  7. クームス試験は直接法を用いる。陰性でもIMHAを否定できない。
  8. 発症2〜4日以内は非再生性に見える。
  9. バベシア症を除外せずに免疫抑制すると悪化する。
  10. 血栓塞栓症が主要死因。診断時から抗血栓療法を行う。
  11. アザチオプリンは猫には用いない(骨髄抑制)。
  12. 猫は初回輸血でも重篤な反応が起こりうる(B型猫の抗A抗体)。
  13. エバンス症候群=IMHA+免疫介在性血小板減少症。
  14. ハインツ小体性溶血は酸化的損傷によるもので機序が異なる。

9. 確認問題

Q1. 塗抹標本で赤血球が連なって見えた。自己凝集と連銭形成を区別する方法とその原理を述べよ。

A. スライド上で血液に生理食塩水を加えて希釈し、鏡検する。連銭形成は血漿蛋白の作用によるものであるため希釈により分散するが、自己凝集は抗体が赤血球どうしを直接架橋しているため分散しない。

Q2. IMHAで球状赤血球が形成される機序を述べよ。

A. 抗体(主にIgG)が結合した赤血球が脾臓のマクロファージにFc受容体を介して捕捉され、赤血球膜が部分的に削り取られる。表面積を失った赤血球は円盤状を維持できず球形となる。

Q3. IMHAが疑われる犬で、免疫抑制療法を開始する前に必ず行うべき検査と、その理由を述べよ。

A. 血液塗抹やPCRによるバベシア・ヘモプラズマなどの病原体検索と、画像診断による腫瘍検索。続発性の原因を見逃したまま免疫抑制を行うと治療が奏効せず、とくにバベシア症では原虫の増殖を助長して病態が悪化するため。

Q4. IMHAの犬に対し、診断時から抗血栓療法を行う理由を述べよ。

A. IMHAの主要な死因が血栓塞栓症、とくに肺血栓塞栓症であるため。全身性炎症、組織因子の発現、血小板活性化、グルココルチコイド投与などにより強い凝固亢進状態が生じる。

Q5. 猫では初回の輸血であっても重篤な反応が起こりうる理由を述べよ。

A. 猫のAB血液型系では、B型の個体が抗A抗体を高力価で自然に保有しているため。感作の有無にかかわらず、B型猫にA型血を輸血すると急性溶血性輸血反応を生じる。したがって猫では輸血前の血液型判定が必須である。

関連コンテンツ

参考文献

  • 新獣医内科学 文永堂出版
  • 犬と猫の治療ガイド インターズー
  • 動物病理学各論 文永堂出版
  • 犬と猫の血液アトラス 緑書房
  • Abhijith SP, et al. Immune-mediated hemolytic anemia in dogs and cats: Comparative pathophysiology, diagnosis and management. International Journal of Veterinary Sciences and Animal Husbandry. 2025; 10(11): 201–206.
  • James W. Swann, et al. ACVIM consensus statement on the treatment of immune-mediated hemolytic anemia in dogs. Journal of Veterinary Internal Medicine. 2019.
  • Chiara Agnoli, et al. Methylprednisolone alone or combined with cyclosporine or mycophenolate mofetil for the treatment of immune-mediated hemolytic anemia in dogs, a prospective study. Journal of Veterinary Internal Medicine. 2024.
  • 農林水産省 獣医師国家試験(公式)

執筆・編集:Vet Study Library 編集部
監修:獣医師(農林水産省 獣医師名簿第44733号登録)/小動物臨床13年、環境衛生監視員としての実務経験、獣医療系出版社での獣医学情報誌・獣医学書籍の編集経験、医療系情報サイトでの執筆経験
公開日:2026年8月14日/最終更新日:2026年8月17日
本記事は獣医学生および獣医療従事者の学習支援を目的とした教育用コンテンツです。実際の診療上の判断は担当獣医師の責任において行ってください。