免疫学|【獣医師国家試験対策】

免疫学

免疫学は、配点こそ大きくないものの範囲が明確で、覚えた分がそのまま得点になる分野です。しかも免疫の考え方は伝染病学・公衆衛生学・臨床各科に横断的に効いてくるため、投じた時間に対する見返りが大きい領域でもあります。

本ページでは分野全体の出題傾向を整理したうえで、リンパ系器官の構成サイトカイン免疫寛容と自己免疫移植免疫と血液型免疫不全免疫抑制薬という、各テーマ記事では扱いきれない横断的な内容を解説します。

過去問分析に基づく出題傾向
出題割合約3〜5%
学説A・B各回2〜4問
実地C・D毎回1〜2症例

第73回〜第77回の試験問題を分析したところ、学説試験A・Bでは免疫の基礎的な仕組み(細胞・分子・アレルギーの型)が各回2〜4問程度出題されています。

また実地試験C・Dでは、疾患としての免疫(とくにIMHA)が毎回1〜2症例(2〜4問)出題されており、血液塗抹や自己凝集像を用いた臨床的判断が重視されます。配点の高い実地試験での重要度は非常に高いといえます。

1. 免疫学をどう分けて学ぶか

免疫学は次の4つのテーマに大別できます。

テーマ内容主な出題区分
基礎免疫学免疫応答、免疫担当細胞、表面分子、抗体構造、補体学説A・必須
アレルギーⅠ〜Ⅳ型の機序と代表疾患学説A・B
ワクチン学ワクチンの種類と作用機序、防疫への応用学説A・B
免疫介在性疾患IMHA、ITP、免疫介在性多発性関節炎など実地C・D
臨床免疫について

4つ目の免疫介在性疾患は、本サイトでは臨床獣医学 > 内科 > 血液・免疫のページで扱っています。塗抹の読影、クームス試験、免疫抑制療法といった臨床的な内容はそちらをご覧ください。

本ページは免疫の基礎を担当します。

2. リンパ系器官

免疫担当細胞がどこで生まれ、どこで成熟し、どこで抗原と出会うのか。この流れがリンパ系器官の分類そのものです。

一次リンパ器官と二次リンパ器官におけるリンパ球の分化と抗原との遭遇を示す模式図 一次リンパ器官 リンパ球が分化・成熟する場 胸腺 T細胞の成熟 骨髄 造血幹細胞・B細胞の成熟 ※鳥類ではファブリキウス嚢 T細胞前駆細胞 二次リンパ器官 リンパ節 脾臓 パイエル板 扁桃 抗原と出会う場 一次リンパ器官で成熟し、二次リンパ器官で抗原と出会って免疫応答が始まる。

図:リンパ系器官の分類。骨髄で生じた造血幹細胞のうち、T細胞前駆細胞は胸腺へ移動して成熟し、B細胞は骨髄で成熟する(鳥類ではファブリキウス嚢)。成熟したリンパ球は二次リンパ器官へ移動し、そこで抗原と遭遇して免疫応答が始まる。

分類のひっかけ
  • 一次リンパ器官=骨髄と胸腺。リンパ球が抗原と出会う前に分化・成熟する場です。
  • 二次リンパ器官=リンパ節・脾臓・パイエル板・扁桃。抗原と遭遇して免疫応答が開始される場です。
  • 【超重要】反芻類(牛・羊など)の回腸にある『連続性パイエル板』は、若齢期においてB細胞の成熟を担う『一次リンパ器官相同(ファブリキウス嚢相同)』として機能します。一方、通常の『孤在性パイエル板』は抗原に出会う『二次リンパ器官』であり、同じパイエル板でも二面性があります。
  • 脾臓は二次リンパ器官であり、一次ではありません。血液中の抗原を捕捉する役割を担います。
  • 鳥類ではB細胞がファブリキウス嚢で成熟します。B細胞の「B」の由来でもあります。

3. サイトカイン

サイトカインは免疫細胞どうしの伝達物質です。「誰が出して、誰に何をさせるか」で整理してください。

サイトカイン主な産生細胞主な作用
IL-1マクロファージ発熱、炎症、T細胞の活性化
IL-2T細胞T細胞の増殖。シクロスポリンが抑制する標的
IL-4Th2細胞B細胞の抗体産生を促進、IgEへのクラススイッチ
IL-5Th2細胞好酸球の分化・活性化
IL-6マクロファージなど急性期蛋白の産生、発熱
TNF-αマクロファージ炎症、エンドトキシンショック、悪液質
IFN-γTh1細胞・NK細胞マクロファージの活性化、MHC発現の増強
TGF-β制御性T細胞など免疫の抑制、線維化
サイトカインの臨床応用

サイトカインや造血因子は医薬品としても用いられます。

  • 顆粒球コロニー刺激因子:好中球減少症に対して造血を刺激する
  • エリスロポエチン製剤:慢性腎臓病に伴う腎性貧血に対して用いる
  • インターフェロン製剤:ウイルス感染症や腫瘍に対する補助療法として用いられる

4. 免疫寛容と自己免疫

免疫系が自己の成分を攻撃しないのは、自己に反応するリンパ球が積極的に排除・抑制されているからです。この仕組みを免疫寛容といいます。

種類場所仕組み
中枢性寛容胸腺・骨髄自己抗原に強く反応するリンパ球を、成熟の過程で除去する(負の選択)
末梢性寛容末梢のリンパ組織制御性T細胞による抑制、反応性を失わせるアナジーなど

この仕組みが破綻すると自己免疫疾患が生じます。破綻の引き金として、病原体と自己成分の構造が似ていること(分子相同性)、外傷などにより通常は免疫系に触れない隔絶抗原が露出すること、薬剤、遺伝的素因などが挙げられます。

自己免疫疾患の多くはⅡ型またはⅢ型アレルギーの機序で組織を傷害します。

5. 移植免疫と血液型

5-1. 移植拒絶

移植された組織が拒絶されるのは、MHC分子の違いを免疫系が非自己として認識するためです。拒絶反応は主に細胞性免疫(Ⅳ型)によって起こります。あらかじめ抗体が存在する場合には、より急激な超急性の拒絶が生じます。

5-2. 血液型と輸血

動物種血液型輸血上の要点
DEA式(DEA 1 が最重要) 臨床的に問題となる自然抗体をほとんどもたないため、初回輸血は比較的安全。2回目以降は感作による反応が問題となる
AB式(A型・B型・AB型) B型は抗A抗体を高力価で保有するため、初回輸血でも重篤な溶血反応を起こす。血液型判定が必須
頻出の種差

犬は初回輸血が比較的安全、猫は初回から危険。この違いは自然抗体の有無によります。猫のB型が保有する抗A抗体は、新生子溶血の原因にもなります。B型母猫が持つ高力価の自然抗体(抗A抗体)が、初乳を介してA型(またはAB型)の新生子猫の体内に吸収されることで、急性かつ致死的な新生子赤血球溶解症(新生子溶血)が引き起こされます。

6. 免疫不全

区分原因
先天性 遺伝子の異常により免疫細胞や補体が欠損する 重症複合免疫不全、周期性好中球減少症、補体成分の欠損
後天性 ウイルス感染 猫免疫不全ウイルス(CD4陽性T細胞の減少)、猫白血病ウイルス、犬ジステンパーウイルスによる一過性の免疫抑制
移行抗体の獲得不全初乳の摂取不足による新生子の感染症リスク上昇
栄養不良・ストレス低栄養、内因性コルチゾールの上昇
医原性免疫抑制薬、抗腫瘍薬

7. 免疫抑制薬の作用機序

薬剤作用機序注意点
グルココルチコイドサイトカイン産生の抑制、マクロファージのFc受容体機能の抑制、リンパ球のアポトーシス誘導免疫介在性疾患の第一選択
シクロスポリンカルシニューリンを阻害してIL-2の産生を抑制し、T細胞の活性化を妨げる血中濃度の管理が必要
ミコフェノール酸
モフェチル
イノシン一リン酸脱水素酵素を阻害し、リンパ球のプリン合成と増殖を抑制する消化器症状
アザチオプリンプリン代謝を拮抗し、リンパ球の増殖を抑制する猫では骨髄抑制が強く用いない※猫はアザチオプリン(6-MP)の代謝酵素である『TPMT(チオプリンメチルトランスフェラーゼ)』の活性が極めて低いため、活性型が蓄積して致死的な骨髄抑制を引き起こす

8. 重要テーマ別の詳細解説

基礎自然免疫と獲得免疫

免疫系の骨格です。自然免疫が病原体に共通する分子パターンを、獲得免疫が個々の抗原を認識するという違いを軸に、TLR、インターフェロン、NK細胞、抗原提示、MHCとT細胞、B細胞と形質細胞を解説しています。好中球が抗原提示能をもたないこと、抗体を産生するのは形質細胞であることも扱います。

→ 自然免疫と獲得免疫の詳細解説を読む

基礎免疫グロブリンと補体

抗体の構造とパパイン・ペプシンによる切断を模式図で解説しています。Fabは1価で凝集を起こさず、F(ab’)₂は2価で起こす理由を、腕の本数から導く形で扱いました。5つのクラスの特徴、獣医領域で重要な移行抗体、補体の3経路と生物活性も解説しています。

→ 免疫グロブリンと補体の詳細解説を読む

頻出アレルギー(Ⅰ〜Ⅳ型)

型と代表疾患の組み合わせが頻出のテーマです。4つの機序を模式図で並置し、Ⅳ型だけが細胞性免疫で抗体が関与しないこと、Ⅱ型とⅢ型は抗原が細胞に固定されているか可溶性かで分かれることを解説しています。アナフィラキシーのショック臓器の種差も扱います。

→ アレルギーの詳細解説を読む

応用ワクチン

生ワクチンと不活化ワクチンの違いを「体内で増殖するかどうか」という一点から導きます。mRNAワクチンの作用機序を図解し、宿主DNAに組み込まれない点を明示しました。感受性の窓と複数回接種の理由、野生イノシシへの豚熱経口ワクチンも扱います。

→ ワクチンの詳細解説を読む

9. 学習教材

カード式分類問題:アレルギーの型

Ⅰ〜Ⅳ型への振り分けを演習できます。型と代表疾患の組み合わせは頻出であるため、繰り返しの演習が効果的です。

→ カード式分類問題に挑戦する

解説ブック

準備中のコンテンツ

  • 問題集:免疫学30問

10. 推奨する学習順序

  1. 骨格をつかむ:自然免疫と獲得免疫。すべての土台であり、細胞と分子の役割がここで決まります
  2. 分子を押さえる:免疫グロブリンと補体。抗体構造の模式図問題はここで対策します
  3. 異常を学ぶ:アレルギー(Ⅰ〜Ⅳ型)。正常な免疫を知ってから読むと、何が過剰なのかが理解できます
  4. 応用へ進む:ワクチン。一次応答・二次応答の知識がそのまま活きます
  5. 横断知識を補う:本ページ第2〜7章でリンパ系器官、サイトカイン、免疫寛容、移植免疫、免疫不全、免疫抑制薬を確認します
  6. 臨床へつなげる内科 > 血液・免疫で免疫介在性疾患の実際を学びます

参考文献

執筆・編集:Vet Study Library 編集部
監修:獣医師(農林水産省 獣医師名簿第44733号登録)/小動物臨床13年、環境衛生監視員としての実務経験、獣医療系出版社での獣医学情報誌・獣医学書籍の編集経験、医療系情報サイトでの執筆経験
公開日:2026年8月15日/最終更新日:2026年8月26日
本ページは獣医学生および獣医療従事者の学習支援を目的とした教育用コンテンツです。実際の診療上の判断は担当獣医師の責任において行ってください。