慢性腎臓病(CKD)|【獣医師国家試験対策】

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慢性腎臓病(CKD)は、3か月以上持続する腎臓の構造的または機能的異常と定義され、不可逆的かつ進行性に経過します。とくに高齢猫では日常的に遭遇する疾患です。

この疾患を理解するうえで決定的に重要なのは、検査値に異常が現れる頃には、腎臓の大部分がすでに失われているという事実です。BUNとクレアチニンが上がるのはネフロンの約4分の3が失われてからであり、それより前に尿濃縮能の低下が現れます。「まず尿を見る」という順序が、この疾患では臨床的にも試験的にも決め手になります。

過去問分析

「慢性腎臓病(CKD)」は第73〜77回の試験問題を分析したところ、主なテーマとした設問、または診断や病態の重要な要素として扱われている設問は、合計で5問出題されています。
また、関連する「ネフローゼ症候群」や遺伝性疾患である「多発性嚢胞腎(PKD)」を含めると、さらに数問の出題があります。

1. 慢性腎臓病(CKD)に関する直接的な設問(5問)
第73回 学説B:猫の慢性腎臓病末期における検査所見として、適切でないもの(低リン血症など)を選択させる問題(通常は高リン血症を呈します)。
第76回 学説B:全身性高血圧の原因疾患として、「慢性腎臓病」が正しい選択肢のひとつとして挙げられています。
第76回 学説B:犬の過粘稠度症候群の原因疾患として、「慢性腎臓病」が選択肢に含まれています。
第76回 実地C:慢性腎臓病の既往歴がある猫が「目が見えない」と来院した症例。高血圧にともなう網膜剥離を特定させる実地問題。
第77回 学説B:犬猫の慢性腎臓病におけるIRISステージ分類の基準に含まれない項目(BUNなど)を問う、非常に重要な知識問題。

2. 関連する腎疾患の設問
直接「慢性腎臓病」という名称ではありませんが、臨床的に深く関連する出題です。
第75回 学説B:犬のネフローゼ症候群でみられる異常(低アルブミン血症、高コレステロール血症)を問う問題。
第77回 実地D:猫の多発性嚢胞腎(PKD)の症例。慢性腎不全を引き起こす遺伝性疾患であり、PKD1遺伝子の変異が問われています。

腎泌尿器分野において慢性腎臓病は最頻出トピックのひとつです。合格のためには以下のポイントを整理しておくことが重要です。
ステージ分類:クレアチニン値だけでなく、SDMAやUPC(尿タンパク/クレアチニン比)、血圧による国際的な分類基準(IRIS)。
合併症:CKDに続発する全身性高血圧や、それにともなう網膜剥離(失明)、非再生性貧血の病態。
電解質異常:末期にみられる高リン血症や、代謝性アシドーシス。


このように、単なる病名の特定だけでなく、「早期診断指標(SDMA)」「合併症(高血圧)」の管理といった臨床的な判断が重視されています。

この記事で押さえること
  • SDMA → 尿濃縮能 → クレアチニンという異常出現の順序
  • SDMAが筋肉量の影響を受けにくい理由
  • 等張尿が意味するもの
  • 猫では低カリウム血症となる点(犬の末期とは逆)
  • リン吸着剤を食事と一緒に投与する理由
  • 猫の高血圧にはアムロジピンが第一選択である点と、網膜剥離のリスク

1. なぜ発見が遅れるのか

腎臓には大きな予備能があり、ネフロンが失われても残ったネフロンが代償的に過剰濾過することで全体の機能を保ちます。この代償があるかぎり血液検査は正常のままです。

しかしこの代償自体が糸球体内圧を高め、残存ネフロンをさらに傷害するという悪循環を生みます。CKDが不可逆的かつ進行性である理由はここにあります。

ネフロンの喪失率と各検査指標が異常となる時期を示す模式図 0% 100% SDMA上昇 約40%喪失 BUN・クレアチニン上昇 約75%喪失 尿濃縮能の低下(等張尿) 約2/3喪失 ネフロンの喪失率(→ 進行)

図:ネフロンの喪失と各指標が異常となる時期。SDMAがもっとも早く上昇し、次いで尿濃縮能が失われて等張尿となり、BUN・クレアチニンの上昇はもっとも遅れて現れる。血液検査が正常であっても腎障害を否定できない。

順序が問われる

SDMAの上昇 → 尿濃縮能の低下(等張尿)→ BUN・クレアチニンの上昇の順に異常が現れます。

したがって「血液検査が正常だから腎臓は大丈夫」とは言えません。尿比重を確認せずに腎疾患を除外するのは誤りです。

2. 原因

診断される時点では組織が終末像に至っており、原因を特定できないことが多いのが実情です。

  • :慢性尿細管間質性腎炎がもっとも一般的な組織像です。ほかに腎リンパ腫、多発性嚢胞腎、尿路閉塞後の変化。
  • :糸球体腎炎(免疫複合体性)、アミロイドーシス、遺伝性腎症、腎盂腎炎、レプトスピラ症の後遺症など。

原因が何であれ、蛋白尿と高血圧は進行を加速させるため、治療上の重要な標的となります。

3. 臨床症状

  • 多飲多尿:尿濃縮能の低下により早期から現れる主要徴候です。
  • 体重減少、食欲不振、削痩、被毛の粗剛
  • 嘔吐・口腔潰瘍・アンモニア様の口臭:尿毒素の蓄積による
  • 脱水
  • 非再生性貧血による粘膜蒼白:エリスロポエチンの産生低下による
  • 高血圧による網膜剥離・眼底出血・急性の失明
  • 末期には尿毒症性脳症、痙攣
実地試験で出やすい

「高齢猫が急に見えなくなった」という症例は、CKDに続発した高血圧による網膜剥離を疑います。眼科疾患として処理せず、血圧測定と腎機能評価を行ってください。

4. 検査所見

4-1. 腎機能マーカー

指標上昇する時期特徴と注意点
SDMA ネフロンの約40%喪失 もっとも早期に上昇する。筋肉量の影響を受けにくいため、削痩した動物でも信頼性が高い
クレアチニン ネフロンの約75%喪失 筋肉由来のため筋肉量に依存する。削痩した猫では腎機能を過小評価しやすい
BUN クレアチニンとほぼ同時期 食事中の蛋白量、消化管出血、脱水の影響を受けるため単独では信頼性が低い

4-2. 尿検査

尿比重は腎機能評価の要です。尿を濃縮する能力が失われると、糸球体濾液とほぼ同じ浸透圧の尿しか作れなくなります。この状態が等張尿(およそ1.008〜1.012)で、濃縮も希釈もできていないことを意味します。

あわせて尿蛋白/クレアチニン比(UPC)を測定します。蛋白尿は進行と予後を悪化させる独立した因子であり、治療の標的にもなります。

4-3. 電解質と合併症

所見機序
高リン血症リンの排泄低下。進行に伴い増悪し、予後と直結する
低カリウム血症(猫)多尿による喪失と食欲不振。猫のCKDに特徴的。犬では末期に高カリウム血症を示すことがある
代謝性アシドーシス腎における酸排泄能の低下
非再生性貧血エリスロポエチンの産生低下
腎性二次性
上皮小体機能亢進症
高リン血症と活性型ビタミンDの産生低下により低カルシウム血症が生じ、PTH分泌が亢進する

4-4. 血圧測定と画像診断

血圧測定はCKDの評価に必須です。高血圧は網膜・脳・心臓・腎臓を標的臓器として傷害するため、定期的な測定と治療が求められます。

超音波検査では腎の萎縮、皮質エコー輝度の上昇、皮髄境界の不明瞭化がみられます。嚢胞や腎盂の拡張が確認されれば、多発性嚢胞腎や尿路閉塞の関与を検討します。

5. IRISステージ分類

国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)による分類が国際的に用いられています。

分類の構造
  1. ステージ1〜4安定期の血清クレアチニン(またはSDMA)により分類します。ステージ1は高窒素血症を伴わないが他の腎異常(蛋白尿、画像異常など)が存在する段階です。
  2. サブステージ蛋白尿(UPC)血圧によりさらに細分します。

重要なのは「安定期に評価する」という条件です。脱水や急性の増悪がある状態で測定した値では分類できません。補液により脱水を補正し、時期を変えて2回以上測定して判定します。

6. 治療

6-1. 食事療法

もっとも効果が実証されている治療

腎臓病用療法食は、生存期間の延長が示されている数少ない介入です。その中心はリンの制限にあります。

あわせて適度な蛋白制限(尿毒症症状の軽減)、ナトリウム制限、オメガ3脂肪酸の添加、猫向けのカリウム添加、アルカリ化などが設計されています。

6-2. 高リン血症の管理

食事のリン制限で目標に達しない場合、リン吸着剤を用います。

投与法のひっかけ

リン吸着剤は食事と一緒に投与します。この薬は血中のリンを下げるのではなく、腸管内で食物由来のリンと結合して吸収を阻害するものだからです。食事から離して投与しても意味がありません。

6-3. 蛋白尿と高血圧の管理

  • 蛋白尿ACE阻害薬またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(テルミサルタンなど)を用います。輸出細動脈を拡張して糸球体内圧を下げることで蛋白尿を減らします。
  • 高血圧猫ではアムロジピン(カルシウム拮抗薬)が第一選択です。犬ではACE阻害薬やARBを先に用い、不十分な場合にアムロジピンを追加します。網膜剥離の予防という観点からも、降圧は重要な治療目標です。

6-4. そのほかの支持療法

  • 水分管理:常に新鮮な飲水を確保し、ウェットフードを活用します。在宅での皮下輸液も有用です。
  • 低カリウム血症(猫):グルコン酸カリウムなどを経口補給します。
  • 貧血:赤血球造血刺激因子製剤を用います。鉄の充足を確認したうえで使用し、投与量の過剰は避けます。
  • 代謝性アシドーシス:重炭酸ナトリウムによる補正。
  • 食欲不振・嘔吐:制吐薬、食欲増進薬、制酸薬を状況に応じて用います。

7. 甲状腺機能亢進症との関係

高齢猫では必ず考える

猫の甲状腺機能亢進症は、甲状腺ホルモンがGFRを押し上げることでCKDを覆い隠します。治療により甲状腺機能が正常化するとGFRが低下し、隠れていたCKDが顕在化します。

そのため、根治療法の前にまず可逆的な抗甲状腺薬で腎機能を試すという手順が取られます。両疾患は高齢猫で高頻度に併発するため、常にセットで考えてください。

8. 国家試験で狙われるポイントの整理

ひっかけ注意
  1. BUN・クレアチニンはネフロンの約75%が失われるまで上昇しない。
  2. 尿濃縮能の低下(等張尿)はクレアチニン上昇より先に現れる。
  3. SDMAは約40%喪失で上昇し、もっとも早期の指標となる。
  4. SDMAは筋肉量の影響を受けにくい(クレアチニンは受ける)。
  5. 等張尿はおよそ1.008〜1.012。濃縮も希釈もできていない状態。
  6. 猫のCKDでは低カリウム血症を示す。犬の末期では高カリウム血症となりうる。
  7. 貧血は非再生性で、エリスロポエチンの産生低下による。
  8. リン吸着剤は食事と一緒に投与する。
  9. 食事療法(リン制限)がもっともエビデンスのある治療。
  10. 猫の高血圧の第一選択はアムロジピン。
  11. 高血圧により網膜剥離・失明をきたす。
  12. IRISステージ分類は安定期に2回以上測定して判定する。
  13. 甲状腺機能亢進症はCKDを覆い隠す。

9. 確認問題

Q1. 血清クレアチニンが正常範囲であっても慢性腎臓病を否定できない理由を述べよ。

A. クレアチニンが上昇するのはネフロンの約75%が失われてからであり、それ以前は残存ネフロンの代償的な過剰濾過により正常範囲に保たれるため。より早期にはSDMAの上昇や尿濃縮能の低下(等張尿)が現れるので、尿比重の評価を含めた判断が必要である。

Q2. 削痩の著しい高齢猫において、クレアチニンよりSDMAが有用とされる理由を述べよ。

A. クレアチニンは筋肉に由来するため筋肉量の影響を受け、削痩した個体では腎機能を過小評価しやすい。SDMAは筋肉量の影響を受けにくく、より正確に腎機能を反映するため。

Q3. リン吸着剤を食事と一緒に投与すべき理由を述べよ。

A. リン吸着剤は血中のリンを直接下げる薬ではなく、腸管内で食物中のリンと結合してその吸収を阻害することで作用するため。食事から離して投与しても目的の効果は得られない。

Q4. 慢性腎臓病の高齢猫が急性に失明した。考えられる病態と対応を述べよ。

A. CKDに続発した全身性高血圧による網膜剥離または眼底出血が疑われる。血圧測定を行い、高血圧が確認されればアムロジピンなどによる降圧治療を開始する。眼科的疾患として扱うのではなく、全身の評価が必要である。

Q5. 猫の慢性腎臓病で低カリウム血症が生じる機序を述べよ。

A. 尿濃縮能の低下による多尿でカリウムが尿中に喪失し、加えて食欲不振により摂取量が減少するため。低カリウム血症は筋力低下や頸部腹屈を招き、それ自体が腎機能をさらに悪化させるため補正が必要である。

関連コンテンツ

参考文献

  • 新獣医内科学 文永堂出版
  • 伴侶動物治療指針 緑書房
  • 犬と猫の治療ガイド インターズー
  • CAP 緑書房
  • SA Medicine インターズー
  • 獣医生理学第二版 文永堂出版
  • 動物病理学各論 文永堂出版
  • 農林水産省 獣医師国家試験(公式)

執筆・編集:Vet Study Library 編集部
監修:獣医師(農林水産省 獣医師名簿第44733号登録)/小動物臨床13年、環境衛生監視員としての実務経験、獣医療系出版社での獣医学情報誌・獣医学書籍の編集経験、医療系情報サイトでの執筆経験
公開日:2026年8月15日/最終更新日:2026年8月15日
本記事は獣医学生および獣医療従事者の学習支援を目的とした教育用コンテンツです。実際の診療上の判断は担当獣医師の責任において行ってください。