家畜伝染病予防法と届出伝染病|【獣医師国家試験対策】

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伝染病学の学習で最初に固めるべきは、個々の病原体ではなく法律の枠組みです。国家試験では「この疾病は家畜伝染病か、届出伝染病か」「発見した獣医師は何をすべきか」という形で、疾病の知識と法規の知識が一体で問われます

この枠組みを先に押さえておくと、以後に学ぶすべての疾病が「どの箱に入るか」という形で整理されていきます。逆に枠組みがないまま病原体を覚えても、設問の問い方に対応できません。

過去問分析

第73回〜第77回の試験問題を分析したところ、伝染病学に関連する設問は試験全体(330問)のうち約15〜20%(50〜60問程度)を占めています。

このうち必須問題では各回5〜8問程度が出題され、感染症法や家畜伝染病予防法に基づく基礎知識(届出義務、指定動物)や微生物の基本性状が問われています。

1. 家畜伝染病予防法(家畜伝染病・届出伝染病)
この法律に基づく分類や義務、具体的な疾患名を問う問題は、例年各回で数問出題される最重要トピックです。
① 家畜伝染病(いわゆる法定伝染病)に関する設問
分類・指定疾患の知識:「家畜伝染病に指定されているもの(アフリカ豚熱など)」を選択させる問題(第73回必須、第74回必須)。
防疫措置と義務:疑似患畜のとさつ(殺処分)義務の対象を問う問題(第76回学説A、第77回学説B)や、移動制限区域・搬出制限区域の設定基準(第77回実地D)。
法規全般:「家畜伝染病予防法」の目的や飼養衛生管理基準に関する知識問題(第77回必須)。

② 届出伝染病に関する設問
指定疾患の知識:ウイルス性疾患の届出伝染病を選択させる問題(第73回学説B)や、特定の届出伝染病(馬の仮性皮疽)の法的位置づけ(第77回学説B)。
病原体の特定:届出伝染病の病原体(オウシマダニなど)を問う問題(第77回学説B)。

③ 監視伝染病(家畜+届出)の各論
特定の疾患が監視伝染病(家畜・届出の総称)であることを前提に、その発生状況や対策を問う実地問題です。
第77回 実地C:ブルータング(届出)の発生頭数グラフを用いた問題。
第77回 実地C:ヨーネ病(家畜)の感染・発症過程に関する問題。

2. 感染症法(人獣共通感染症の届出・輸入禁止)
動物からヒトへの感染を防ぐための「感染症法」に基づく届出義務や輸入規制も頻出です。

届出義務:獣医師が診断した際に保健所等へ届け出る義務がある感染症(オウム病、サルの細菌性赤痢、M痘など)を問う問題(第76回必須、第77回実地D)。
輸入禁止動物:感染症法により輸入が禁止されている動物(コウモリ、プレーリードッグ、ハクビシン等と関連疾患)に関する知識(第76回必須、第77回実地D)。
バイオセーフティ:特定病原体の取り扱い基準(BSL-4など)に関する問題(第77回学説B)。

以下の整理が合格の鍵となります。

1. 家畜伝染病予防法
家畜伝染病:口蹄疫、豚熱、炭疽など(殺処分命令などの強い措置)。
届出伝染病:牛ウイルス性下痢、馬インフルエンザ、ひな白痢など(発生時の届出が主)。
2. 感染症法
獣医師の届出義務がある疾患(とくにサルの感染症に注意)。
特定の動物(コウモリ、プレーリードッグ等)の輸入規制。


単なる病名の暗記ではなく、「診断した際にどの法律に基づき、どのような義務(届出、殺処分、移動制限)が生じるか」という行政的・公衆衛生的な判断が多角的に問われています。

この記事で押さえること
  • 家畜伝染病(法定伝染病)と届出伝染病という2階層の構造
  • 患畜・疑似患畜を発見した獣医師の届出義務
  • 発生時のまん延防止措置と手当金
  • 家畜伝染病予防法・狂犬病予防法・感染症法の守備範囲の違い
  • 同じ病原体が複数の法律にまたがること

1. 法の目的と2階層構造

家畜伝染病予防法は、家畜の伝染性疾病の発生を予防し、まん延を防止することにより畜産の振興を図ることを目的としています。この法律の対象となる疾病は、重大性に応じて2つの階層に分かれます。

区分定め方性格
家畜伝染病
(法定伝染病)
法律および政令で定める 畜産に甚大な被害をもたらす疾病。殺処分命令を含む強い措置の対象となる
届出伝染病 省令で定める まん延の監視が必要な疾病。届出は義務だが、殺処分命令の対象とはならない
学習上の注意

対象疾病の指定は法令改正により変更されます。疾病数や個々の疾病の区分は、必ず農林水産省が公表している最新の一覧で確認してください。本ページの例示は代表的なものにとどめています。

2. 家畜伝染病(法定伝染病)の一覧

出典

本ページの疾病一覧は、農林水産省 動物検疫所が公表する監視伝染病(家畜伝染病)および監視伝染病(届出伝染病)に基づいています。名称は法令上の表記に従いました。

疾病の指定と名称は法令改正により変更されます。学習および実務にあたっては、必ず上記の公式ページで最新の一覧をご確認ください。

疾病対象となる家畜
牛疫牛、めん羊、山羊、豚、水牛、鹿、いのしし
牛肺疫牛、水牛、鹿
口蹄疫牛、めん羊、山羊、豚、水牛、鹿、いのしし
流行性脳炎牛、馬、めん羊、山羊、豚、水牛、鹿、いのしし
狂犬病牛、馬、めん羊、山羊、豚、水牛、鹿、いのしし
水疱性口内炎牛、馬、豚、水牛、鹿、いのしし
リフトバレー熱牛、めん羊、山羊、水牛、鹿
ランピースキン病牛、水牛
炭疽牛、馬、めん羊、山羊、豚、水牛、鹿、いのしし
出血性敗血症牛、めん羊、山羊、豚、水牛、鹿、いのしし
ブルセラ症牛、めん羊、山羊、豚、水牛、鹿、いのしし
結核牛、山羊、水牛、鹿
ヨーネ病牛、めん羊、山羊、水牛、鹿
ピロプラズマ症牛、馬、水牛、鹿
アナプラズマ症牛、水牛、鹿
伝達性海綿状脳症牛、めん羊、山羊、水牛、鹿
鼻疽
馬伝染性貧血
アフリカ馬疫
小反芻獣疫めん羊、山羊、鹿
豚熱豚、いのしし
アフリカ豚熱豚、いのしし
豚水疱病豚、いのしし
家きんコレラ鶏、あひる、うずら、七面鳥
高病原性鳥インフルエンザ鶏、あひる、うずら、きじ、エミュー、だちょう、ほろほろ鳥、七面鳥
低病原性鳥インフルエンザ鶏、あひる、うずら、きじ、エミュー、だちょう、ほろほろ鳥、七面鳥
ニューカッスル病
(病原性が高いものに限る)
鶏、あひる、うずら、七面鳥
家きんサルモネラ症鶏、あひる、うずら、七面鳥
腐蛆病蜜蜂
名称のひっかけ

法令上の名称は、一般に使われる呼称と異なる場合があります。

  • ブルセラ症(ブルセラ病ではない)、結核(結核病ではない)
  • ピロプラズマ症・アナプラズマ症(〜病ではない)
  • 水疱性口内炎(水疱性口炎ではない)
  • 家きんサルモネラ症(家きんサルモネラ感染症ではない)
輸入禁止の対象となる5疾病

監視伝染病のうち、とくに病性が激しく伝播力が強い疾病については、地域を指定して動物や畜産物の輸入そのものが禁止されます。現在その対象となっているのは、牛疫・口蹄疫・豚熱・アフリカ豚熱・高病原性鳥インフルエンザの5疾病です。

3. 届出伝染病

届出伝染病は家畜伝染病より数が多く、臨床現場で遭遇する頻度の高い疾病が多く含まれます。国家試験でもこれらは繰り返し出題されています。

対象疾病
牛・水牛ブルータング、アカバネ病、悪性カタル熱、チュウザン病、牛ウイルス性下痢、牛伝染性鼻気管炎、牛伝染性リンパ腫、アイノウイルス感染症、イバラキ病、牛丘疹性口内炎、牛流行熱、牛カンピロバクター症、トリコモナス症、ネオスポラ症、牛バエ幼虫症
複数の家畜に
またがるもの
類鼻疽、破傷風、気腫疽、レプトスピラ症、サルモネラ症、トリパノソーマ症、野兎病、トキソプラズマ症、ニパウイルス感染症
馬インフルエンザ、馬ウイルス性動脈炎、馬鼻肺炎、ヘンドラウイルス感染症、馬痘、馬伝染性子宮炎、馬パラチフス、仮性皮疽
めん羊・山羊・鹿伝染性膿疱性皮膚炎、ナイロビ羊病、羊痘、マエディ・ビスナ、伝染性無乳症、流行性羊流産、疥癬、山羊痘、山羊関節炎・脳炎、山羊伝染性胸膜肺炎
豚・いのししオーエスキー病、伝染性胃腸炎、豚テシオウイルス性脳脊髄炎、豚繁殖・呼吸障害症候群、豚水疱疹、豚流行性下痢、萎縮性鼻炎豚丹毒、豚赤痢
家きん鳥インフルエンザ、低病原性ニューカッスル病、鶏痘、マレック病、鶏伝染性気管支炎、鶏伝染性喉頭気管炎、伝染性ファブリキウス嚢病、鶏白血病、鳥結核、鳥マイコプラズマ症、ロイコチトゾーン症、あひるウイルス性肝炎、あひるウイルス性腸炎
うさぎ兎出血病、兎粘液腫
蜜蜂バロア症、チョーク病、アカリンダニ症、ノゼマ症
境界が問われやすい組み合わせ
  • 家きんコレラは家畜伝染病鳥結核・鳥マイコプラズマ症は届出伝染病
  • 高病原性・低病原性の鳥インフルエンザは家畜伝染病だが、それ以外の鳥インフルエンザは届出伝染病
  • ニューカッスル病は病原性が高いものが家畜伝染病低病原性ニューカッスル病は届出伝染病
  • オーエスキー病と豚繁殖・呼吸障害症候群は届出伝染病であり、家畜伝染病ではない。
  • 流行性脳炎は牛・馬・めん羊・山羊・豚などに共通する家畜伝染病。豚だけを切り分けて届出とする規定はない。

4. 発生時の対応

家畜伝染病の発見から届出、検査、まん延防止措置、手当金交付までの流れを示す模式図 患畜・疑似患畜を発見 獣医師または家畜の所有者 都道府県知事へ届け出る 遅滞なく行うことが義務づけられている 家畜防疫員による検査 患畜・疑似患畜であるかが決定される まん延防止のための措置 殺処分の命令/死体の焼却または埋却 移動制限区域の設定/消毒 手当金の交付 殺処分された家畜の評価額に応じて交付される 届出の相手は都道府県知事。獣医師には法律上の届出義務がある。

図:家畜伝染病発生時の対応の流れ。獣医師や所有者による発見から届出、家畜防疫員の検査を経て、殺処分をはじめとするまん延防止措置がとられる。所有者の損失に対しては手当金が交付される。

4-1. 届出義務

誰が誰に届け出るか

患畜または疑似患畜を発見した獣医師は、遅滞なく都道府県知事に届け出なければなりません。獣医師の診断を受けていない場合は、家畜の所有者が同様に届け出ます。

届出先は都道府県知事です。「農林水産大臣に届け出る」「保健所長に届け出る」といった記述は誤りとなります。

4-2. まん延防止措置

  • 殺処分の命令:家畜伝染病では、都道府県知事が患畜等の殺処分を命じることができます。
  • 死体の焼却または埋却:病原体を環境中に残さないための処理です。
  • 移動制限:発生農場を中心に区域を設定し、家畜や物品の移動を制限します。
  • 消毒:畜舎、器具、車両などの消毒を義務づけます。

所有者が被る損失に対しては手当金が交付されます。これは、損失を恐れて届出をためらう事態を防ぎ、早期の通報を促すという制度的な意味をもちます。

4-3. 輸出入検疫

国外からの病原体侵入を防ぐため、動物検疫所が指定検疫物の輸出入を検査します。輸入時には係留検査が行われ、検疫証明書のない指定検疫物は輸入できません。近年は旅客の携帯品としての畜産物の持込みが重要な侵入経路として問題となっています。

5. 他の法律との関係

法律対象所管要点
家畜伝染病予防法 家畜 農林水産省 畜産の振興が目的。届出先は都道府県知事
狂犬病予防法 犬など 厚生労働省 犬の登録と年1回の予防注射を義務づける。届出先は保健所
感染症法 ヒト 厚生労働省 ヒトの感染症を1類〜5類等に分類。動物由来感染症への措置も含む
最も問われる横断ポイント

一つの病原体が複数の法律にまたがることがあります。

  • 狂犬病:家畜伝染病予防法の家畜伝染病であると同時に、狂犬病予防法の対象であり、さらに感染症法でも位置づけられています。
  • 高病原性鳥インフルエンザ:家畜伝染病であると同時に、ヒトへの感染が問題となるため感染症法の対象でもあります。

「どの法律に基づく措置か」を問う設問では、対象が家畜なのかヒトなのかを最初に判断してください。

6. 国家試験で狙われるポイントの整理

ひっかけ注意
  1. 家畜伝染病は法律・政令、届出伝染病は省令で定められる。
  2. 届出先は都道府県知事。農林水産大臣や保健所長ではない。
  3. 届出は「遅滞なく」行う義務がある。
  4. 殺処分命令の対象となるのは家畜伝染病。届出伝染病は届出義務にとどまる。
  5. 手当金は早期の届出を促すための制度である。
  6. 口蹄疫・炭疽・狂犬病・豚熱・高病原性鳥インフルエンザは家畜伝染病。
  7. 豚丹毒・萎縮性鼻炎・オーエスキー病・豚繁殖呼吸障害症候群・マレック病・牛ウイルス性下痢は届出伝染病。
  8. 家きんコレラは家畜伝染病。鳥結核・鳥マイコプラズマ症は届出伝染病。
  9. 法令上の名称に注意。ブルセラ症・結核・ピロプラズマ症・アナプラズマ症・水疱性口内炎・家きんサルモネラ症。
  10. 狂犬病は狂犬病予防法の対象でもあり、届出先が異なる。
  11. 家畜伝染病予防法は農林水産省、狂犬病予防法と感染症法は厚生労働省の所管。
  12. 疾病の指定は改正されるため、最新の一覧を確認する。

7. 確認問題

Q1. 家畜伝染病と届出伝染病の違いを、定め方と措置の観点から述べよ。

A. 家畜伝染病は法律および政令で定められ、殺処分命令や移動制限といった強い措置の対象となる。届出伝染病は省令で定められ、届出の義務は課されるが殺処分命令の対象とはならない。いずれも早期のまん延防止を目的とする点は共通する。

Q2. 患畜を発見した獣医師が行うべき手続きと、その届出先を述べよ。

A. 家畜伝染病予防法に基づき、遅滞なく都道府県知事に届け出なければならない。届出を受けた後、家畜防疫員による検査が行われ、患畜・疑似患畜であるかが決定される。

Q3. 殺処分された家畜の所有者に手当金が交付される制度上の意義を述べよ。

A. 損失を恐れて届出をためらう事態を防ぎ、早期の通報を促すため。届出の遅れはまん延を招くため、所有者の経済的損失を補償することで防疫体制全体の実効性を高める意義がある。

Q4. 狂犬病が複数の法律にまたがって規定されている点について説明せよ。

A. 狂犬病は家畜伝染病予防法における家畜伝染病であると同時に、狂犬病予防法により犬の登録と年1回の予防注射が義務づけられ、さらにヒトの感染症として感染症法にも位置づけられている。どの法律に基づく措置かは、対象が家畜であるかヒトであるかによって判断する。

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参考文献

執筆・編集:Vet Study Library 編集部
監修:獣医師(農林水産省 獣医師名簿第44733号登録)/小動物臨床13年、環境衛生監視員としての実務経験、獣医療系出版社での獣医学情報誌・獣医学書籍の編集経験、医療系情報サイトでの執筆経験
公開日:2026年8月20日/最終更新日:2026年8月20日
本記事は獣医学生および獣医療従事者の学習支援を目的とした教育用コンテンツです。法令の内容は改正される場合があります。実際の手続きにあたっては、必ず最新の法令および所管官庁の公表資料をご確認ください。