免疫学
免疫学は、配点こそ大きくないものの範囲が明確で、覚えた分がそのまま得点になる分野です。しかも免疫の考え方は伝染病学・公衆衛生学・臨床各科に横断的に効いてくるため、投じた時間に対する見返りが大きい領域でもあります。
本ページでは分野全体の出題傾向を整理したうえで、リンパ系器官の構成、サイトカイン、免疫寛容と自己免疫、移植免疫と血液型、免疫不全、免疫抑制薬という、各テーマ記事では扱いきれない横断的な内容を解説します。
第73回〜第77回の試験問題を分析したところ、学説試験A・Bでは免疫の基礎的な仕組み(細胞・分子・アレルギーの型)が各回2〜4問程度出題されています。
また実地試験C・Dでは、疾患としての免疫(とくにIMHA)が毎回1〜2症例(2〜4問)出題されており、血液塗抹や自己凝集像を用いた臨床的判断が重視されます。配点の高い実地試験での重要度は非常に高いといえます。
1. 免疫学をどう分けて学ぶか
免疫学は次の4つのテーマに大別できます。
| テーマ | 内容 | 主な出題区分 |
|---|---|---|
| 基礎免疫学 | 免疫応答、免疫担当細胞、表面分子、抗体構造、補体 | 学説A・必須 |
| アレルギー | Ⅰ〜Ⅳ型の機序と代表疾患 | 学説A・B |
| ワクチン学 | ワクチンの種類と作用機序、防疫への応用 | 学説A・B |
| 免疫介在性疾患 | IMHA、ITP、免疫介在性多発性関節炎など | 実地C・D |
4つ目の免疫介在性疾患は、本サイトでは臨床獣医学 > 内科 > 血液・免疫のページで扱っています。塗抹の読影、クームス試験、免疫抑制療法といった臨床的な内容はそちらをご覧ください。
本ページは免疫の基礎を担当します。
2. リンパ系器官
免疫担当細胞がどこで生まれ、どこで成熟し、どこで抗原と出会うのか。この流れがリンパ系器官の分類そのものです。
図:リンパ系器官の分類。骨髄で生じた造血幹細胞のうち、T細胞前駆細胞は胸腺へ移動して成熟し、B細胞は骨髄で成熟する(鳥類ではファブリキウス嚢)。成熟したリンパ球は二次リンパ器官へ移動し、そこで抗原と遭遇して免疫応答が始まる。
- 一次リンパ器官=骨髄と胸腺。リンパ球が抗原と出会う前に分化・成熟する場です。
- 二次リンパ器官=リンパ節・脾臓・パイエル板・扁桃。抗原と遭遇して免疫応答が開始される場です。
- 【超重要】反芻類(牛・羊など)の回腸にある『連続性パイエル板』は、若齢期においてB細胞の成熟を担う『一次リンパ器官相同(ファブリキウス嚢相同)』として機能します。一方、通常の『孤在性パイエル板』は抗原に出会う『二次リンパ器官』であり、同じパイエル板でも二面性があります。
- 脾臓は二次リンパ器官であり、一次ではありません。血液中の抗原を捕捉する役割を担います。
- 鳥類ではB細胞がファブリキウス嚢で成熟します。B細胞の「B」の由来でもあります。
3. サイトカイン
サイトカインは免疫細胞どうしの伝達物質です。「誰が出して、誰に何をさせるか」で整理してください。
| サイトカイン | 主な産生細胞 | 主な作用 |
|---|---|---|
| IL-1 | マクロファージ | 発熱、炎症、T細胞の活性化 |
| IL-2 | T細胞 | T細胞の増殖。シクロスポリンが抑制する標的 |
| IL-4 | Th2細胞 | B細胞の抗体産生を促進、IgEへのクラススイッチ |
| IL-5 | Th2細胞 | 好酸球の分化・活性化 |
| IL-6 | マクロファージなど | 急性期蛋白の産生、発熱 |
| TNF-α | マクロファージ | 炎症、エンドトキシンショック、悪液質 |
| IFN-γ | Th1細胞・NK細胞 | マクロファージの活性化、MHC発現の増強 |
| TGF-β | 制御性T細胞など | 免疫の抑制、線維化 |
サイトカインや造血因子は医薬品としても用いられます。
- 顆粒球コロニー刺激因子:好中球減少症に対して造血を刺激する
- エリスロポエチン製剤:慢性腎臓病に伴う腎性貧血に対して用いる
- インターフェロン製剤:ウイルス感染症や腫瘍に対する補助療法として用いられる
4. 免疫寛容と自己免疫
免疫系が自己の成分を攻撃しないのは、自己に反応するリンパ球が積極的に排除・抑制されているからです。この仕組みを免疫寛容といいます。
| 種類 | 場所 | 仕組み |
|---|---|---|
| 中枢性寛容 | 胸腺・骨髄 | 自己抗原に強く反応するリンパ球を、成熟の過程で除去する(負の選択) |
| 末梢性寛容 | 末梢のリンパ組織 | 制御性T細胞による抑制、反応性を失わせるアナジーなど |
この仕組みが破綻すると自己免疫疾患が生じます。破綻の引き金として、病原体と自己成分の構造が似ていること(分子相同性)、外傷などにより通常は免疫系に触れない隔絶抗原が露出すること、薬剤、遺伝的素因などが挙げられます。
自己免疫疾患の多くはⅡ型またはⅢ型アレルギーの機序で組織を傷害します。
5. 移植免疫と血液型
5-1. 移植拒絶
移植された組織が拒絶されるのは、MHC分子の違いを免疫系が非自己として認識するためです。拒絶反応は主に細胞性免疫(Ⅳ型)によって起こります。あらかじめ抗体が存在する場合には、より急激な超急性の拒絶が生じます。
5-2. 血液型と輸血
| 動物種 | 血液型 | 輸血上の要点 |
|---|---|---|
| 犬 | DEA式(DEA 1 が最重要) | 臨床的に問題となる自然抗体をほとんどもたないため、初回輸血は比較的安全。2回目以降は感作による反応が問題となる |
| 猫 | AB式(A型・B型・AB型) | B型は抗A抗体を高力価で保有するため、初回輸血でも重篤な溶血反応を起こす。血液型判定が必須 |
犬は初回輸血が比較的安全、猫は初回から危険。この違いは自然抗体の有無によります。猫のB型が保有する抗A抗体は、新生子溶血の原因にもなります。B型母猫が持つ高力価の自然抗体(抗A抗体)が、初乳を介してA型(またはAB型)の新生子猫の体内に吸収されることで、急性かつ致死的な新生子赤血球溶解症(新生子溶血)が引き起こされます。
6. 免疫不全
| 区分 | 原因 | 例 |
|---|---|---|
| 先天性 | 遺伝子の異常により免疫細胞や補体が欠損する | 重症複合免疫不全、周期性好中球減少症、補体成分の欠損 |
| 後天性 | ウイルス感染 | 猫免疫不全ウイルス(CD4陽性T細胞の減少)、猫白血病ウイルス、犬ジステンパーウイルスによる一過性の免疫抑制 |
| 移行抗体の獲得不全 | 初乳の摂取不足による新生子の感染症リスク上昇 | |
| 栄養不良・ストレス | 低栄養、内因性コルチゾールの上昇 | |
| 医原性 | 免疫抑制薬、抗腫瘍薬 |
7. 免疫抑制薬の作用機序
| 薬剤 | 作用機序 | 注意点 |
|---|---|---|
| グルココルチコイド | サイトカイン産生の抑制、マクロファージのFc受容体機能の抑制、リンパ球のアポトーシス誘導 | 免疫介在性疾患の第一選択 |
| シクロスポリン | カルシニューリンを阻害してIL-2の産生を抑制し、T細胞の活性化を妨げる | 血中濃度の管理が必要 |
| ミコフェノール酸 モフェチル | イノシン一リン酸脱水素酵素を阻害し、リンパ球のプリン合成と増殖を抑制する | 消化器症状 |
| アザチオプリン | プリン代謝を拮抗し、リンパ球の増殖を抑制する | 猫では骨髄抑制が強く用いない※猫はアザチオプリン(6-MP)の代謝酵素である『TPMT(チオプリンメチルトランスフェラーゼ)』の活性が極めて低いため、活性型が蓄積して致死的な骨髄抑制を引き起こす |
8. 重要テーマ別の詳細解説
基礎自然免疫と獲得免疫
免疫系の骨格です。自然免疫が病原体に共通する分子パターンを、獲得免疫が個々の抗原を認識するという違いを軸に、TLR、インターフェロン、NK細胞、抗原提示、MHCとT細胞、B細胞と形質細胞を解説しています。好中球が抗原提示能をもたないこと、抗体を産生するのは形質細胞であることも扱います。
基礎免疫グロブリンと補体
抗体の構造とパパイン・ペプシンによる切断を模式図で解説しています。Fabは1価で凝集を起こさず、F(ab’)₂は2価で起こす理由を、腕の本数から導く形で扱いました。5つのクラスの特徴、獣医領域で重要な移行抗体、補体の3経路と生物活性も解説しています。
頻出アレルギー(Ⅰ〜Ⅳ型)
型と代表疾患の組み合わせが頻出のテーマです。4つの機序を模式図で並置し、Ⅳ型だけが細胞性免疫で抗体が関与しないこと、Ⅱ型とⅢ型は抗原が細胞に固定されているか可溶性かで分かれることを解説しています。アナフィラキシーのショック臓器の種差も扱います。
応用ワクチン
生ワクチンと不活化ワクチンの違いを「体内で増殖するかどうか」という一点から導きます。mRNAワクチンの作用機序を図解し、宿主DNAに組み込まれない点を明示しました。感受性の窓と複数回接種の理由、野生イノシシへの豚熱経口ワクチンも扱います。
9. 学習教材
解説ブック
- 犬と猫のワクチンと抗体 — 抗体のクラスとワクチンプログラム
- 犬のアトピー性皮膚炎 — Ⅰ型アレルギーの代表疾患
準備中のコンテンツ
- 問題集:免疫学30問
10. 推奨する学習順序
- 骨格をつかむ:自然免疫と獲得免疫。すべての土台であり、細胞と分子の役割がここで決まります
- 分子を押さえる:免疫グロブリンと補体。抗体構造の模式図問題はここで対策します
- 異常を学ぶ:アレルギー(Ⅰ〜Ⅳ型)。正常な免疫を知ってから読むと、何が過剰なのかが理解できます
- 応用へ進む:ワクチン。一次応答・二次応答の知識がそのまま活きます
- 横断知識を補う:本ページ第2〜7章でリンパ系器官、サイトカイン、免疫寛容、移植免疫、免疫不全、免疫抑制薬を確認します
- 臨床へつなげる:内科 > 血液・免疫で免疫介在性疾患の実際を学びます
参考文献
- 犬と猫の治療ガイド インターズー
- 動物病理学各論 文永堂出版
- 動物病理学総論 文永堂出版
- 農林水産省 獣医師国家試験(公式)