公衆衛生学 > 疫学指標と検査の評価
疫学・統計の設問は、公衆衛生学のなかでもっとも確実に得点できる領域です。暗記量が少なく、2×2表という一つの型さえ掴めば、あとは計算するだけだからです。
鍵になるのは「どの方向に見るか」です。感度と特異度は表を縦に、的中度は横に見ます。オッズ比は斜めに掛けます。この見る方向が定まれば、公式を丸暗記する必要はありません。
第73回〜第77回の試験問題を分析したところ、疫学・統計に関する設問は実地試験で毎回2〜4問程度、学説試験でも数問出題されています。
公衆衛生学は、法律の対象動物や基準数値を問う暗記中心の問題と、図表から数字を読み取って計算する疫学統計の問題に二分されます。とくにオッズ比・相対リスクの計算と感度・特異度の計算は、パターンさえ掴めば確実に満点を狙える得点源です。
「疫学指標(オッズ比、相対リスク、有病率、発生率など)」および「検査の評価(敏感度、特異度、ROC曲線など)」を主なテーマとした設問は、合計で16問出題されています。
内訳は、計算や図表読解をともなう実地試験で11問、用語の定義や基本知識を問う学説・必須問題で5問となっています。
1. 実地試験(計算・図表読解・連問)
配点の高い実地試験では、分割表(2×2等)からの計算問題やグラフ読解問題として毎回確実に出題されています。
第73回 実地C:40頭の検査結果の分割表から、「敏感度」と「特異度」の値の組み合わせを計算して選択させる問題。
第74回 実地D:農場規模と病原体分離状況のデータから、この研究手法(横断研究)を特定させる問題。
分割表から、関連の度合いを示す「オッズ比」の正しい計算式を選択させる問題。
第75回 実地C:つの農場の一時点での罹患状況データから、得られる疫学指標(有病率)と、農場間の違いを判定する統計手法(カイ二乗検定)の組み合わせを選択させる問題。
第75回 実地D:50頭の検査結果の分割表から、「特異度」と「陰性反応的中度」の正しい算出方法(式)を選択させる問題。
第76回 実地D:抗体保有有病率を調べるための研究手法(横断研究)を特定させる問題。分割表から、山間部に位置することと抗体保有状況との関連の度合いを示す疫学指標(オッズ比)とその計算値を選択させる問題。
第77回 実地D:2つの検査法の精度を示したグラフの名称(ROC曲線)を特定させる問題。ROC曲線における「1-特異度」の意味や、検査の妥当性評価に用いる AUC(曲線下面積)についての正しい解釈を答えさせる問題。
第77回 実地D:予防薬の効果を評価する無作為割り付け臨床試験(介入研究)に関する解釈の正誤を問う問題。二群の発生割合の差を検定するのに用いた正しい統計手法(カイ二乗検定)を選択させる問題。
2. 学説試験・必須問題(定義・知識)
基本的な用語の定義や概念について、単発の知識問題として出題されています。
第73回 必須:有病率を調べるための疫学研究手法(横断研究)を直接選ばせる問題。
第73回 学説A:集団における「ある一時点での」罹患個体の割合を示す指標(有病率)を問う問題。
第75回 学説A:観察集団において「一定期間内に新たに」疾病が発生する率を表す指標(発生率)を問う問題。
第76回 必須:罹患個体のうち検査で正しく陽性となる個体の割合を示す用語(敏感度)を問う問題。
第76回 学説A:発生率に関する記述(累積罹患率との違い、人-年法を用いた計算など)の正しい組み合わせを問う問題。
- オッズ比は症例対照研究、リスク比はコホート研究で用いること
- 症例対照研究でリスク比を算出できない理由
- 感度・特異度は縦、的中度は横に見ること
- 感度・特異度は有病率に影響されないが、的中度は影響されること
- 感度が高い検査は除外に、特異度が高い検査は確定に強いこと
- ROC曲線とAUCの読み方
1. 疫学研究のデザイン
| デザイン | 方法 | 算出できる指標 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 生態学的研究 | 集団単位で曝露と疾病の関連をみる | 相関 | 手軽だが、集団の傾向を個人に当てはめる生態学的誤謬に注意 |
| 横断研究 | ある一時点で曝露と疾病を同時に調査 | 有病率 | 実施しやすいが、曝露と疾病の前後関係がわからない |
| 症例対照研究 | 患者群と対照群をそろえ、過去の曝露を比較 | オッズ比 | まれな疾患に有効。短期間・低コスト。想起バイアスを受けやすい |
| コホート研究 | 曝露群と非曝露群を将来へ向けて追跡 | 罹患率・リスク比・寄与リスク | 時間的前後関係が明確。まれな疾患には不向き。長期間・高コスト |
| 介入研究 | 曝露を人為的に割り付けて追跡 | リスク比など | エビデンスレベルが最も高い。倫理的な制約を受ける |
エビデンスの強さは介入研究 > コホート研究 > 症例対照研究 > 横断研究 > 生態学的研究の順に弱くなります。
2. 2×2表の見方
図:2×2表からの指標の算出。疫学ではリスク比を行ごとの割合の比として、オッズ比を対角の積の比として求める。検査の評価では、感度・特異度が列(疾病の有無を基準)から、的中度が行(検査結果を基準)から算出される。
2-1. リスク比と寄与リスク
- リスク(罹患率):曝露群は a/(a+b)、非曝露群は c/(c+d)
- リスク比(相対リスク)= 曝露群のリスク ÷ 非曝露群のリスク。曝露によってリスクが何倍になるかを示します
- 寄与リスク(リスク差)= 曝露群のリスク − 非曝露群のリスク。曝露によって増えた分の絶対量を示します
2-2. なぜ症例対照研究ではリスク比が出せないのか
症例対照研究では、研究者が症例群と対照群の人数を自分で決めて集めます。対照を症例の2倍集めることも、5倍集めることもできます。
つまり表の a+b や c+d は母集団の実態を反映していません。分母が任意である以上、リスク(罹患率)そのものを計算できないのです。
ところがオッズ比は ad/bc という比の形をとるため、この任意性が分子と分母で相殺されます。だから症例対照研究でも算出できるのです。
なおまれな疾患ではオッズ比がリスク比の近似値となります。a が a+b に比べて十分小さいとき、a/(a+b) ≒ a/b となるためです。
2-3. 計算例
例:ある飼料への曝露と疾病の関係を調べた。曝露群100頭のうち40頭が発症、非曝露群100頭のうち10頭が発症した。
a=40、b=60、c=10、d=90
曝露群のリスク= 40 ÷ 100 = 0.4
非曝露群のリスク= 10 ÷ 100 = 0.1
リスク比= 0.4 ÷ 0.1 = 4(曝露によりリスクは4倍)
寄与リスク= 0.4 − 0.1 = 0.3
オッズ比= (40×90) ÷ (60×10) = 3600 ÷ 600 = 6
この例ではリスク比が4なのにオッズ比は6となりました。疾病がまれでない(発症率が40%と高い)ため、オッズ比がリスク比から大きく離れています。「オッズ比はリスク比の近似」という関係が成り立つのは、あくまで疾病がまれな場合に限られることがわかります。
3. 検査の評価
3-1. 感度と特異度
| 指標 | 計算式 | 意味 | 高い検査の使いどころ |
|---|---|---|---|
| 感度 | a/(a+c) | 疾病のある個体を正しく陽性と判定する割合 | 除外に強い。陰性であれば疾病を否定できる |
| 特異度 | d/(b+d) | 疾病のない個体を正しく陰性と判定する割合 | 確定に強い。陽性であれば疾病を確定できる |
感度が高い検査は見逃しが少ないため、陰性なら否定できるという使い方をします。特異度が高い検査は偽陽性が少ないため、陽性なら確定できるという使い方をします。
この原則は臨床各科でそのまま用いられています。たとえばクッシング症候群のUCCRは感度が高く特異度が低いため除外に、甲状腺機能低下症の総T4も同様に除外に用いられます。
3-2. 的中度と有病率
感度と特異度は有病率に影響されません。これらは検査そのものの性能を表す値だからです。
これに対し陽性反応的中度と陰性反応的中度は有病率に強く依存します。同じ検査でも、有病率の低い集団に使うと陽性的中度は下がります。
例:感度90%、特異度90%の検査を、有病率10%の集団1,000頭に実施した。
疾病あり100頭、疾病なし900頭
a(真陽性)= 100 × 0.9 = 90、c(偽陰性)= 10
d(真陰性)= 900 × 0.9 = 810、b(偽陽性)= 90
陽性反応的中度= 90 ÷ (90+90) = 50%
陰性反応的中度= 810 ÷ (810+10) = 約99%
感度も特異度も90%という優秀な検査であるにもかかわらず、陽性と出た個体のうち本当に疾病があるのは半分にすぎません。疾病のない個体が9倍多いため、そこから出る偽陽性の数が真陽性に匹敵してしまうからです。
これが有病率の低い集団でのスクリーニングが難しい理由であり、陽性であっても確認検査が必要になる根拠でもあります。
3-3. ROC曲線
検査値には多くの場合カットオフ値を設定します。カットオフを下げれば感度は上がりますが特異度は下がり、上げればその逆になります。このトレードオフの全体像を描いたものがROC曲線です。
- 縦軸は感度、横軸は 1 − 特異度
- 曲線が左上に近いほど優れた検査
- AUC(曲線下面積)が1に近いほど精度が高い。0.5は判別能がまったくないことを意味する
4. 統計学的検定
| 用語 | 内容 |
|---|---|
| 帰無仮説 | 「差がない」「関連がない」とする仮説。検定はこれを棄却できるかを判断する |
| 有意水準 | 帰無仮説を棄却する基準。通常は5%(0.05) |
| P値 | 帰無仮説が正しいと仮定したときに、観察された結果以上に極端な値が得られる確率。有意水準を下回れば帰無仮説を棄却する |
| 第一種の過誤 | 差がないのに「ある」と判定してしまう誤り(偽陽性) |
| 第二種の過誤 | 差があるのに「ない」と判定してしまう誤り(偽陰性) |
| 検出力 | 差があるときに正しく「ある」と判定できる確率。1 − 第二種の過誤の確率 |
| カイ二乗検定 | 分割表における独立性の検定。質的データの関連を調べる |
5. 国家試験で狙われるポイントの整理
- リスク比はコホート研究、オッズ比は症例対照研究。
- 症例対照研究ではリスク比を直接算出できない。分母が任意だから。
- オッズ比がリスク比の近似となるのは、疾病がまれな場合に限る。
- オッズ比=ad/bc(対角の積の比)。
- 感度=a/(a+c)、特異度=d/(b+d)。いずれも縦に見る。
- 的中度は横に見る。陽性的中度=a/(a+b)。
- 感度・特異度は有病率に影響されない。的中度は影響される。
- 感度が高い検査は除外に、特異度が高い検査は確定に用いる。
- ROC曲線は縦軸が感度、横軸が1−特異度。AUCが1に近いほど優秀。
- P値が有意水準を下回れば帰無仮説を棄却する。
- 第一種の過誤は偽陽性、第二種の過誤は偽陰性。
- エビデンスレベルは介入研究が最も高い。
6. 確認問題
Q1. 症例対照研究においてリスク比を算出できない理由を述べよ。
A. 症例対照研究では研究者が症例群と対照群の人数を任意に設定して対象を集めるため、2×2表の各行の合計が母集団の実態を反映しない。したがって罹患率(リスク)そのものを求めることができない。一方オッズ比は対角の積の比であり、対象数の任意性が相殺されるため算出できる。
Q2. 曝露群100頭中40頭、非曝露群100頭中10頭が発症した。リスク比とオッズ比を求め、両者が一致しない理由を述べよ。
A. リスク比は (40/100) ÷ (10/100) = 4。オッズ比は (40×90) ÷ (60×10) = 6。オッズ比がリスク比の近似となるのは疾病がまれな場合に限られるが、本例では発症率が40%と高いため両者が乖離する。
Q3. 感度90%、特異度90%の検査を有病率10%の集団1,000頭に実施した場合の陽性反応的中度を求め、その値の意味を説明せよ。
A. 疾病あり100頭のうち真陽性90頭、疾病なし900頭のうち偽陽性90頭。陽性反応的中度は 90 ÷ (90+90) = 50%。検査自体の性能が高くても、有病率が低い集団では疾病のない個体から生じる偽陽性が真陽性に匹敵するため、陽性であっても確認検査が必要となる。
Q4. 感度が高い検査と特異度が高い検査は、それぞれどのような場面で用いるか述べよ。
A. 感度が高い検査は疾病のある個体を見逃しにくいため、陰性であれば疾病を否定できる。すなわち除外診断に用いる。特異度が高い検査は偽陽性が少ないため、陽性であれば疾病を確定できる。すなわち確定診断に用いる。
Q5. 第一種の過誤と第二種の過誤の違いを述べよ。
A. 第一種の過誤は、実際には差がないにもかかわらず帰無仮説を棄却して「差がある」と判定してしまう誤りであり、偽陽性に相当する。第二種の過誤は、実際には差があるにもかかわらず帰無仮説を棄却できず「差がない」と判定してしまう誤りであり、偽陰性に相当する。
関連コンテンツ
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- 伝染病学 — 流行曲線の読み方と感染成立の3要素を扱います。
- 解説記事:人獣共通寄生虫 — 公衆衛生と直結する寄生虫を扱います。
参考文献
- CAP 緑書房
- SA Medicine インターズー
- 伴侶動物治療指針 緑書房
- 獣医公衆衛生学 文永堂出版
- 農林水産省 獣医師国家試験 https://www.maff.go.jp/j/syouan/tikusui/zyui/shiken/shiken.html