牛ウイルス性下痢・粘膜病|【獣医師国家試験対策】

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牛ウイルス性下痢・粘膜病(BVD-MD)は、「感染したのに抗体をつくらない牛」が生涯にわたってウイルスを排出し続けるという、他に類のない構造をもつ疾病です。この牛を持続感染牛(PI牛)と呼びます。

PI牛が成立するのは、妊娠のある限られた時期に、特定のバイオタイプのウイルスが感染した場合だけです。そして致死率ほぼ100%の粘膜病を発症するのも、PI牛だけです。つまりこの疾病は、PI牛という一点を理解すれば全体像がつながります。

過去問分析

第73回〜第77回の試験問題を分析したところ、ウイルス病の分野において牛ウイルス性下痢(BVD)の持続感染(PI)牛が重要な出題テーマとなっています。

ウイルスのゲノム構造やエンベロープの有無とあわせて、疫学的な状況を問う形式が中心です。本疾病は届出伝染病に指定されています。

この記事で押さえること
  • BVDVが豚熱ウイルスと同じペスチウイルス属であること
  • 非細胞病原性(ncp)株だけが持続感染を成立させること
  • PI牛が抗体陰性・ウイルス陽性という逆転した所見を示す理由
  • 妊娠時期によって転帰が変わること
  • 粘膜病を発症するのはPI牛だけである理由
  • PI牛と一過性感染を3週間以上あけた再検査で鑑別すること

1. 病原体

牛ウイルス性下痢ウイルス(BVDV)はフラビウイルス科ペスチウイルス属に属する一本鎖RNAウイルスで、エンベロープをもちます。

豚熱ウイルスとの関係

同じペスチウイルス属には豚熱ウイルスとボーダー病ウイルスが含まれ、互いに抗原交差性があります。そのため豚熱の血清学的診断において、BVDVに対する抗体が偽陽性の原因となることがあります。

2. 2つのバイオタイプ

BVDVには、培養細胞に対する性質の違いによって2つのバイオタイプが存在します。この区別が病態のすべてを決めます。

バイオタイプ培養細胞での性質役割
非細胞病原性
(ncp)
細胞変性効果を示さない 持続感染(PI牛)を成立させられるのはこのバイオタイプのみ。自然界で優勢
細胞病原性
(cp)
細胞変性効果を示す ncp株からの遺伝子変異により生じる粘膜病の発症に関与する
名称のひっかけ

「細胞病原性」という名前は培養細胞に対する性質を指すものであり、生体に対する病原性の強さを意味しません。むしろ持続感染という長期的な被害をもたらすのは、細胞変性効果を示さない非細胞病原性株のほうです。

3. 持続感染牛(PI牛)

3-1. 成立の条件

PI牛が生まれるには、3つの条件がすべてそろう必要があります。

  1. 感染するのが非細胞病原性(ncp)株であること
  2. 経胎盤感染であること
  3. 感染時期が胎子の免疫系が未成熟な妊娠初期であること
妊娠時期と牛ウイルス性下痢ウイルス感染による胎子の転帰の関係を示す模式図 受胎障害・早期胚死滅 持続感染牛(PI牛)の成立 奇形(小脳低形成など) 正常に出生・抗体陽性 0日 40日 125日 150日 分娩 免疫寛容が成立する時期に非細胞病原性株が感染した場合にPI牛となる。

図:妊娠時期と胎子の転帰。ごく初期の感染は受胎障害や胚死滅を招く。胎子の免疫系が未成熟な時期に非細胞病原性株が感染すると免疫寛容が成立し、持続感染牛となる。その後の時期では奇形が生じ、免疫応答が可能となる時期以降では抗体を産生して正常に出生する。日数は目安であり、時期は重なり合う。

3-2. なぜ抗体をつくらないのか

免疫寛容の実例

胎子の免疫系は、発生の過程で「自己」と「非自己」を学習します。免疫寛容が形成されるこの時期にウイルスが存在していると、免疫系はそのウイルスを自己の一部として認識してしまいます

その結果、生まれた子牛はBVDVに対する抗体を一切産生しません。ウイルスを排除しようとしないため、生涯にわたって体内で増殖させ続けることになります。

3-3. PI牛の特徴

最重要

PI牛は「抗体陰性・ウイルス陽性」を示します。通常の感染では抗体が陽性になるため、これは逆転した所見です。

  • 外見上は正常なことが多い。発育不良を示す個体もあるが、健康に見えるPI牛も少なくない
  • 生涯にわたり大量のウイルスを排出し、群内で最大の感染源となる
  • PI牛の雌が妊娠すると、その胎子も必ずPI牛となる
  • 粘膜病を発症する唯一の個体である

4. 粘膜病 — PI牛だけが発症する

発症の機序

粘膜病は、ncp株を保有するPI牛に、細胞病原性(cp)株が重感染したときに発症します。cp株は外部から侵入する場合と、体内のncp株が変異して生じる場合があります。

PI牛はncp株に対して免疫寛容が成立しているため、抗原的に類似したcp株に対しても免疫応答ができません。その結果、cp株が全身の消化管上皮とリンパ組織を破壊し、致死率はほぼ100%となります。

症状としては高熱、大量の水様性下痢、著しい脱水に加え、口腔・鼻鏡・食道・趾間のびらんと潰瘍が特徴的です。流涎と削痩が進み、発症から数日から数週間で死亡します。組織学的には、陰窩上皮細胞とパイエル板の選択的壊死、それによる小腸絨毛の萎縮消失、大腸粘膜の『虎斑状充血』、および血管の『フィブリノイド壊死(壊死性血管炎)』を特徴とします。

免疫寛容が成立しているという「PI牛の成立条件」が、そのまま「PI牛だけが粘膜病で死ぬ理由」になっている——この因果を押さえてください。

5. 一過性感染(急性感染)

免疫をもたない成牛が感染した場合は一過性の感染となり、多くは不顕性か軽度の症状(発熱、下痢、白血球減少)にとどまります。数週間でウイルスは排除され、抗体が産生されます。

見逃されやすい影響

BVDVには免疫抑制作用があり、一過性感染であっても他の感染症(呼吸器病、下痢症)を助長します。「BVDそのものより、BVDが招く二次的な被害のほうが大きい」という点が、この疾病の経済的重要性を支えています。

また妊娠牛が一過性感染した場合、胎子への影響(PI牛の出生を含む)が生じます。

6. 診断

検査内容
抗原検査・遺伝子検査耳片(イヤーノッチ)、血液、バルク乳などを検体として、抗原ELISAやRT-PCRでウイルスを検出する
抗体検査PI牛では陰性となる。移行抗体が残る子牛では判定に使えない
再検査3週間以上の間隔をあけて再度抗原検査を行い、なお陽性であればPI牛と判定する
なぜ再検査が必要か

一過性感染の個体も一時的には抗原陽性となります。しかし一過性感染では数週間でウイルスが排除されるのに対し、PI牛は生涯陽性が続きます

したがって時間をあけて再検査し、陽性が持続するかどうかで両者を区別します。1回の検査で陽性だからといってPI牛と断定してはいけません。

7. 防疫

  1. PI牛の摘発と淘汰:最大の感染源を群から除くことが防疫の中心です。全頭検査やバルク乳のモニタリングが用いられます。
  2. 導入牛の検査:新たに導入する牛がPI牛でないことを確認します。妊娠牛を導入する場合は、胎子がPI牛である可能性にも注意が必要です。
  3. ワクチン接種:生ワクチンと不活化ワクチンがあります。妊娠牛への生ワクチン接種には注意を要します。
  4. バイオセキュリティ:農場間の人・車両・器具を介した伝播の防止。

8. 国家試験で狙われるポイントの整理

ひっかけ注意
  1. BVDVはフラビウイルス科ペスチウイルス属。豚熱ウイルスと同属で抗原交差性がある。
  2. 持続感染を成立させられるのは非細胞病原性(ncp)株のみ。
  3. 「細胞病原性」は培養細胞に対する性質であり、生体での病原性の強さを意味しない。
  4. PI牛は抗体陰性・ウイルス陽性。通常の感染とは逆の所見。
  5. PI牛の成立は、胎子の免疫系が未成熟な妊娠初期の感染による免疫寛容。
  6. 妊娠時期により転帰が異なる(受胎障害/PI牛/奇形/正常出生かつ抗体陽性)。
  7. 小脳低形成により運動失調を示す子牛が生まれることがある。
  8. 粘膜病を発症するのはPI牛のみ。cp株の重感染により起こり、致死率はほぼ100%。
  9. 一過性感染は免疫抑制を起こし、他の感染症を助長する。
  10. PI牛と一過性感染の鑑別は3週間以上あけた再検査による。
  11. 本疾病は届出伝染病である。

9. 確認問題

Q1. 持続感染牛(PI牛)が成立する条件を3つ挙げよ。

A. ①感染するウイルスが非細胞病原性(ncp)バイオタイプであること、②経胎盤感染であること、③胎子の免疫系が未成熟な妊娠初期に感染することの3つ。これらがそろうと胎子はウイルスを自己と認識して免疫寛容が成立し、抗体を産生しないまま生涯ウイルスを排出し続ける。

Q2. PI牛が抗体陰性・ウイルス陽性を示す理由を述べよ。

A. 胎子期に免疫寛容が成立し、免疫系がBVDVを自己の一部として認識するため、生後もBVDVに対する抗体を産生しない。一方でウイルスを排除しないため体内で増殖が続き、ウイルス検査では陽性となる。

Q3. 粘膜病を発症するのがPI牛に限られる理由を述べよ。

A. 粘膜病はncp株を保有するPI牛に細胞病原性(cp)株が重感染することで発症する。PI牛はncp株に免疫寛容が成立しているため、抗原的に類似したcp株に対しても免疫応答ができず、全身の消化管上皮とリンパ組織が破壊される。免疫応答が可能な非PI牛ではこの機序が成立しない。

Q4. 抗原検査で陽性であった子牛について、PI牛と断定する前に必要な手続きを述べよ。

A. 3週間以上の間隔をあけて再度抗原検査を実施し、なお陽性であることを確認する。一過性感染でも一時的に抗原陽性となるが数週間でウイルスが排除されるのに対し、PI牛は生涯陽性が持続するため、この違いにより鑑別できる。

Q5. BVDVの一過性感染が群にもたらす経済的影響について述べよ。

A. 一過性感染そのものは不顕性か軽度にとどまることが多いが、BVDVには免疫抑制作用があるため、呼吸器病や下痢症など他の感染症を助長する。また妊娠牛が感染すると胎子に影響が及び、PI牛の出生や奇形、受胎障害を招く。

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参考文献

執筆・編集:Vet Study Library 編集部
監修:獣医師(農林水産省 獣医師名簿第44733号登録)/小動物臨床13年、環境衛生監視員としての実務経験、獣医療系出版社での獣医学情報誌・獣医学書籍の編集経験、医療系情報サイトでの執筆経験
公開日:2026年8月20日/最終更新日:2026年8月25日
本記事は獣医学生および獣医療従事者の学習支援を目的とした教育用コンテンツです。疾病の指定および防疫方針は改正される場合があるため、最新の情報は農林水産省の公表資料をご確認ください。