臨床獣医学 > 内科
内科学は、獣医師国家試験において単独で最大の配点をもつ分野です。とくに実地試験C・Dでは、血液検査データ・X線・超音波・心電図を提示して疾患を特定させる症例問題が集中します。
この形式で問われる以上、疾患名を覚えているだけでは1点も取れません。必要なのは「疾患名」と「検査値」と「画像所見」と「治療薬」を相互に変換できる状態です。本ページでは、内科学全体の出題傾向を整理したうえで、この変換を可能にする検査値の読み方と、器官系を横断する症候からの絞り込みを解説します。
内科学は「臨床獣医学」という大きな括りに含まれ、この括り全体では試験の約35〜40%を占めます。内科学はそのなかで最も配分が多い中核分野です。
「疾患名」-「特徴的な臨床検査値(血液・尿)」-「画像診断」-「治療薬」の組み合わせを整理しておくことが、合格への最短経路となります。
本ページの出題傾向は、第73回〜第77回獣医師国家試験を編集部が分野別に分類集計したものです。
1. 試験区分別の出題傾向
| 試験区分 | 出題数の目安 | 問われる内容 |
|---|---|---|
| 必須問題 (50問中) | 約5問前後 | 各器官系の代表的疾患の徴候、尿検査・血液検査の基本的な解釈 |
| 学説試験A (80問中) | 数問程度 | 基礎・応用系が中心だが、内科学に関わる生理機能や病態生理の基礎知識が出題される |
| 学説試験B (80問中) | 約10〜15問 | 疾患の定義・原因・治療薬の選択。外科学・繁殖学などの臨床科目と同一セクション |
| 実地試験C・D (120問中) | 約35〜45問 | 内科学の配分が最も高いセクション。血液検査、X線・超音波画像、心電図を用いた症例問題 |
臨床分野(内科・外科・繁殖・伝染病)だけで実地試験の約7〜8割を占め、そのなかでも内科学の比重が最大です。実地試験の対策は、そのまま内科学の対策とほぼ同義と考えて差し支えありません。
2. 内科は「4点セット」で問われる
実地試験の症例問題は、次の4つの要素のうちいくつかを提示して、残りを答えさせるという構造をしています。
疾患名 ← → 特徴的な検査値 ← → 画像所見 ← → 治療
疾患を一つ覚えるときは、必ずこの4点をセットで押さえてください。「第四胃変位」だけを覚えても、「低Cl・低K血症と代謝性アルカローシスを呈する牛」という設問には答えられません。逆に4点が結びついていれば、どこから提示されても残りを導けます。
3. 主要疾患の4点セット一覧
各器官系の代表的疾患を、4点セットの形式で整理しました。縦に読めば疾患の理解、横に読めば検査値からの逆引きができます。
| 疾患 | 特徴的な検査値 | 画像・身体所見 | 治療の要点 |
|---|---|---|---|
| 消化器 | |||
| 牛の第四胃変位 | 低Cl・低K血症、代謝性アルカローシス、奇異性酸性尿 | 左第9〜12肋間の金属音、超音波で第一胃と左腹壁の間に第四胃 | 生理食塩水+KCl、外科的整復と固定 |
| 牛の第一胃アシドーシス | 代謝性アシドーシス、D-乳酸上昇、ルーメン液pH 5.0未満・原虫消失 | ルーメン内容の液状化、後の鼻出血(後大静脈血栓症) | 重炭酸ナトリウム、ルーメン洗浄 |
| 犬のGDV | 血中乳酸上昇(変化率が予後を反映) | 右側横臥位X線でコンパートメント化 | 前肢からの輸液、減圧、整復と胃固定術 |
| 犬のEPI | cTLI著明低値、コバラミン低下・葉酸上昇 | 特異的所見に乏しい。多食にもかかわらず削痩 | 膵酵素補充+コバラミン補充 |
| 猫の巨大結腸症 | 脱水、電解質異常(低K・高Ca が誘因にも) | X線で結腸拡張(L5椎体長との比)、硬い糞塊の触知 | 摘便、ラクツロース、モサプリド、結腸亜全摘 |
| 内分泌・代謝 | |||
| クッシング症候群 | ALP著明上昇、ストレスリューコグラム、高コレステロール | 超音波で両側副腎腫大(PDH)/片側腫大+対側萎縮(ADH) | トリロスタン(3β-HSD の可逆的阻害) |
| アジソン病 | 高K・低Na、Na/K比低下、ストレスリューコグラムの欠如 | X線で小心臓、超音波で両側副腎萎縮。ショックなのに徐脈 | 生理食塩水、フルドロコルチゾン/DOCP |
| 糖尿病 | 持続的高血糖、尿糖、フルクトサミン上昇 | 犬では白内障、猫では蹠行姿勢 | インスリン、食事療法。ソモジー効果では減量 |
| 猫の甲状腺機能亢進症 | T4上昇、ALT・ALP上昇、BUN・Cre は見かけ上正常 | 頸部腹側に甲状腺腫を触知、頻脈・奔馬調律 | 抗甲状腺薬、放射性ヨウ素、手術 |
| 犬の甲状腺機能低下症 | 高コレステロール血症、非再生性貧血、fT4低値+cTSH高値 | 左右対称性・非掻痒性脱毛、粘液水腫、徐脈 | レボチロキシン(T4製剤)の生涯補充 |
| 血液・免疫 | |||
| 免疫介在性溶血性貧血(IMHA) | 再生性貧血、球状赤血球、自己凝集、高ビリルビン血症 | 超音波で脾腫、粘膜蒼白と黄疸の併存 | 免疫抑制療法、診断時からの抗血栓療法 |
| バベシア症 | 再生性貧血、血小板減少。球状赤血球・自己凝集を呈しうる | 発熱、脾腫。塗抹で赤血球内に原虫 | 抗原虫薬。B. gibsoni にはアトバコン+アジスロマイシン |
| 一次止血の異常(vWD・血小板減少症) | 血小板数、BMBT延長、vWF:Ag低下(vWD) | 点状出血、粘膜出血、鼻出血 | vWDはクリオプレシピテート/DDAVP、ITPは免疫抑制療法 |
| 二次止血の異常(血友病A・B) | APTT延長・PT正常。個別の凝固因子活性が低下 | 血腫、関節内出血、体腔内出血 | 新鮮凍結血漿。血友病Aにはクリオプレシピテート |
| 播種性血管内凝固(DIC) | 血小板減少、PT・APTT延長、FDP/Dダイマー上昇、AT低下 | 点状出血、基礎疾患の所見 | 基礎疾患の治療が最優先 |
| 腎泌尿器 | |||
| 慢性腎臓病(CKD) | SDMA上昇が先行、等張尿、BUN・Cre上昇、高リン血症、非再生性貧血 | 超音波で腎の萎縮・エコー輝度上昇。高血圧による網膜剥離 | リン制限食、リン吸着剤、降圧治療、輸液 |
| 尿石症 | 尿pH(ストルバイトはアルカリ性、シュウ酸Caは酸性)、尿沈渣の結晶 | X線で描出(尿酸塩・シスチンは写らない) | ストルバイトは溶解可能、シュウ酸Caは外科的摘出 |
| 猫の多発性嚢胞腎(PKD) | 進行するとCKDの所見。PKD1遺伝子検査で確定 | 超音波で腎実質内に多発する無エコー嚢胞 | 根治療法なし。CKDに準じた管理と繁殖からの除外 |
| 猫の尿道閉塞 | 高K血症、代謝性アシドーシス、高窒素血症 | 膀胱の緊満、心電図でT波尖鋭化・徐脈 | 閉塞解除(逆行性尿道水圧推進法)、輸液、高K血症への対応 |
4. 検査値の読み方
4-1. 単独では読まない — 組み合わせて読む
検査値は単独では意味が確定しません。かならず別の項目と組み合わせて読みます。もっとも典型的なのが高窒素血症と尿比重の組み合わせです。
| BUN・Cre | 尿比重 | 解釈 |
|---|---|---|
| 上昇 | 高比重(濃縮尿) | 腎前性。脱水や循環血液量減少。腎は正常に働いている |
| 上昇 | 等張尿 | 腎性。濃縮能が失われている |
| 上昇 | さまざま | 腎後性。尿路閉塞・破裂。膀胱の触診と画像で確認 |
この原則の応用として、「脱水しているのに尿比重が低い」という所見は強い異常です。慢性腎臓病のほか、アジソン病(髄質洗い出し)、クッシング症候群(ADH作用の拮抗)、高カルシウム血症を疑います。
4-2. 生化学検査 — 上下の意味
| 項目 | 上昇するとき | 低下するとき |
|---|---|---|
| ALP | 犬ではステロイド誘導性が大きい(クッシング、ステロイド投与)。胆汁うっ滞、若齢の骨成長 | — |
| ALT | 肝細胞の傷害 | — |
| BUN | 腎機能低下のほか、消化管出血、高蛋白食、脱水 | 肝不全、門脈体循環シャント、低蛋白食 |
| コレステロール | 甲状腺機能低下症、クッシング、ネフローゼ症候群、胆汁うっ滞 | 肝不全、EPI、消化吸収不良、門脈体循環シャント |
| カリウム | アジソン病、尿路閉塞・破裂、急性腎障害、重度アシドーシス | 第四胃変位、慢性腎臓病(猫)、利尿薬、インスリン投与後 |
| カルシウム | 腫瘍(リンパ腫、肛門嚢アポクリン腺癌)、原発性上皮小体機能亢進症、アジソン病 | 産褥テタニー、上皮小体の損傷、低アルブミン血症 |
4-3. 白血球像 — 2つのパターン
| パターン | 所見 | 意味 |
|---|---|---|
| ストレス リューコグラム | 好中球↑・単球↑・リンパ球↓・好酸球↓ | 内因性コルチゾールの作用。クッシング症候群、あらゆる重篤な疾患 |
| 炎症性の 白血球像 | 好中球↑と核の左方移動。重度では好中球減少に転じる | 感染・炎症 |
| ストレス リューコグラムの欠如 | 重篤なのにリンパ球・好酸球が減っていない | アジソン病を強く示唆 |
4-4. 貧血の分類
貧血を見たとき、まず評価するのは赤血球数でも Ht でもなく網赤血球数です。骨髄が反応しているかどうかで、原因の探し方が完全に変わります。
図:貧血の分類。網赤血球の増加があれば骨髄は正常に反応しており、赤血球が体外へ失われたか壊されたかを考える。増加がなければ産生側の問題であり、骨髄・腎臓・慢性疾患・内分泌を探す。
なお、急性出血では発症直後まだ骨髄が反応していないため、一時的に非再生性に見えます。網赤血球が増えるまでには数日を要する点に注意してください。
4-5. 画像診断の使い分け
X線は「位置・大きさ・輪郭・ガス・結石」を見る。超音波は「中身」を見る。
臓器がどこにあり、どんな形をしているかはX線が得意です。一方、実質の内部構造、液体貯留、腫瘤の性状、血流は超音波でなければ評価できません。両者は競合するのではなく、役割が分かれています。
5. 症候から器官系を絞る
症例問題では主訴から入ることが多いため、症候ごとの鑑別リストを持っておくと絞り込みが速くなります。
| 症候 | 鑑別に挙げる疾患 |
|---|---|
| 多飲多尿 | 糖尿病、クッシング症候群、慢性腎臓病、猫の甲状腺機能亢進症、高カルシウム血症、尿崩症、子宮蓄膿症、アジソン病 |
| 食欲があるのに 体重が減る |
糖尿病、猫の甲状腺機能亢進症、EPI、消化吸収不良、寄生虫。摂取したエネルギーを利用できない、または吸収できていない状態 |
| 黄疸 | 溶血性(IMHA、寄生虫)/肝性(肝炎、リピドーシス)/閉塞性(胆管閉塞、膵炎)。網赤血球と肝酵素、超音波で切り分ける |
| 左右対称性・ 非掻痒性の脱毛 |
クッシング症候群、甲状腺機能低下症、性ホルモン失調。脱毛の見た目だけでは鑑別できず、ALP・コレステロール・白血球像で切り分ける |
| 虚脱・脱力 | 低血糖(インスリノーマ)、アジソン病、貧血、心疾患、電解質異常 |
6. 器官系別のページ
消化器
内科のなかで約4〜5%動物種ごとに出題される疾患がまったく異なるのが特徴です。前胃発酵(牛)・後腸発酵(馬)・単胃(犬)・絶対的肉食(猫)という消化管構造の違いから疾患を導く考え方を軸に、牛の第四胃変位と第一胃アシドーシス、犬のGDVとEPI、猫の巨大結腸症を解説しています。消化管ホルモン・栄養素の吸収部位・下痢治療薬の薬理も扱います。
内分泌・代謝
内科のなかで約3〜5%ほぼすべての疾患がフィードバック機構のどこが壊れたかで説明でき、かつ過剰と不足の対になっています。負荷試験の設計原理(足りないなら押す、多すぎるなら止める)を土台に、クッシング症候群とアジソン病、糖尿病とインスリノーマ、猫の亢進症と犬の低下症を対で解説しています。
血液・免疫
内科のなかで約4〜6%顕微鏡での読影と検査数値の解釈が、そのまま得点になる分野です。塗抹所見と病態の対応、MCV・MCHCによる貧血の形態学的分類、免疫学的検査(クームス試験・交差適合試験)を土台に、IMHAとバベシア症、一次止血と二次止血をそれぞれ対で解説しています。造血器腫瘍や免疫介在性多発性関節炎も扱います。
腎泌尿器
内科のなかで約3〜5%基礎生理の理解がそのまま臨床判断につながる分野です。ネフロンの部位別機能と腎臓の内分泌機能を土台に、慢性腎臓病・尿石症・猫の多発性嚢胞腎を解説しています。本ページ第4章で扱った高窒素血症と尿比重の組み合わせが、そのまま入口になります。ネフローゼ症候群、猫の特発性膀胱炎、犬の異所性尿管、牛・馬の泌尿器疾患も扱います。
なお、循環器・神経・皮膚については、トップページの臨床獣医学の項から各解説ブックへ進めます。
7. 推奨する学習順序
- 検査値の読み方を先に固める:本ページ第4章。どの器官系にも共通する土台であり、ここが弱いと症例問題が解けません
- 配点の大きい器官系から着手する:消化器 → 内分泌・代謝の順に、各ページの重要テーマを読み進めます
- 4点セットで覚える:疾患ごとに「検査値・画像・治療」を必ずセットで押さえます
- 横断整理に戻る:本ページ第3章の一覧表と第5章の症候別鑑別で、器官系をまたいだ結びつきを確認します
- 演習で確認する:分野別の問題集で定着を測り、間違えた項目の記事に戻ります
参考文献
- 新獣医内科学 文永堂出版
- 伴侶動物治療指針 緑書房
- 犬と猫の治療ガイド インターズー
- CAP 緑書房
- SA Medicine インターズー
- 獣医生理学第二版 文永堂出版
- 動物病理学各論 文永堂出版
- 動物病理学総論 文永堂出版
- 農林水産省 獣医師国家試験(公式)