公衆衛生学 > 食品衛生の法規と制度
食品衛生の法規は、獣医師国家試験において獣医師という職業そのものと直結する領域です。と畜検査員も食品衛生監視員も獣医師が担う公務であり、受験者自身の将来の進路に関わる知識でもあります。
この分野は「誰が、どの法律に基づき、どこに所属して、何をするのか」という4点セットで問われます。名称が似た職名が多いため、国の職か自治体の職かを含めて整理しておくことが不可欠です。
第73回〜第77回の試験問題を分析したところ、食品衛生の法規・制度としてHACCPの7原則・12手順、食品表示法に基づくアレルギー特定原材料の表示義務、乳等省令に基づく牛乳の規格基準(細菌数測定や大腸菌群試験)が出題されています。
あわせてと畜場法や食鳥検査法に基づく検査制度、およびと畜検査員や食品衛生監視員といった獣医職の役割と採用行政機関が問われています。
「食品衛生の法規と制度」(食品衛生法、と畜場法、食鳥検査法、食品表示法、食品安全基本法、乳等省令など)に関する設問は、5年間で合計34問出題されています。
1. 食品衛生法
食品の安全基準や規格、添加物、残留農薬の規制など、最も出題頻度が高い法律です。
HACCPの制度化:2018年の食品衛生法改正にともなう「HACCPに沿った衛生管理の義務化」や「営業届出制度の創設」が繰り返し問われています(第73回学説B、第74回必須)。
ポジティブリスト制度:残留基準が設定されていない農薬等に対する「一律基準(0.01 ppm)」の数値がストレートに問われます(第74回学説A、第75回学説B)。
成分規格・添加物:玄米や精米におけるカドミウムの成分規格(第76回学説B)や、表示義務のある食品添加物・酸化防止剤などの用途(第73回学説B、第74回学説B)が出題されています。
その他:食品衛生監視員の採用行政機関(厚生労働省)を問う問題(第73回必須、第77回学説A)などもあります。
2. と畜場法・食鳥検査法
獣医師の主要な職務である「食肉検査」に直結する法規です。
獣畜の定義:と畜場法が定める獣畜は「牛、馬、豚、めん羊、山羊」の5種のみであり、鶏(食鳥検査法の対象)やシカ・イノシシ(野生鳥獣)は含まれないという区別が頻出です(第73回必須、第75回必須)。
と畜場外とさつの特例:口蹄疫などの伝染病や、不慮の災害・負傷などの緊急時に認められる特例要件が問われました(第74回学説A)。
ジビエ(野生鳥獣肉)の扱い:ジビエ処理施設にはと畜場法が適用されないことや、HACCPの考え方を取り入れた衛生管理ガイドラインが厚生労働省によって策定されている点などが問われています(第76回学説A)。
3. 食品表示法
アレルギー物質の表示基準に関する出題が中心です。
特定原材料(義務表示):法改正により表示義務(特定原材料)に指定された「くるみ」や、定番の「落花生」などを選択させる問題がよく狙われます(第73回必須、第76回学説B)。
保健機能食品:特定保健用食品(トクホ)マークが表示された食品の許可制度や表示ルールが実地試験で出題されました(第77回実地C)。
4. 乳等省令
生乳や乳製品の成分規格を定める「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」からの出題です。
牛乳の成分規格項目(比重、乳脂肪分、無脂乳固形分、酸度など)の正誤判定(第75回学説B)や、牛乳中の細菌数測定で用いられる標準寒天培地の知識(第76回学説B)が問われています。
5. 食品安全基本法・関連制度
リスク分析(評価と管理の分離)の体制や、BSE対策などの国全体の制度に関する問題です。
リスク評価機関:内閣府の「食品安全委員会」が科学的知見に基づき客観的にリスク評価を行うこと、また農林水産省や厚生労働省がリスク管理を担うという役割分担が頻出です(第73回必須、第74回必須、第74回学説A)。
BSE関連措置:我が国のBSE発生(2001年)にともなう、特定危険部位(SRM)の除去・焼却、肉骨粉の飼料利用禁止、トレーサビリティ法(牛の個体識別情報管理特別措置法)の導入などの歴史的経緯と管理措置が問われています(第76回必須、第77回学説B)。
「どの法律で規定されているか」「どの行政機関が管轄しているか」の組み合わせが最大の引っかけポイントになります。
本ページで扱う規格基準や品目数は法令改正により変更されます。学習および実務にあたっては、必ず厚生労働省・消費者庁の最新の公表資料をご確認ください。
- 防疫員は自治体、防疫官は国という職名の区別
- と畜検査員は獣医師でなければならないこと、検査が3段階であること
- HACCPが最終製品の抜取検査ではなく工程管理である本質
- 手順番号から5を引くと原則番号になるという構造
- 消費期限と賞味期限の違い
- 牛乳の殺菌方法とホスファターゼ試験の意味
1. 食品衛生の法体系
| 法律 | 所管 | 要点 |
|---|---|---|
| 食品衛生法 | 厚生労働省 | 食品の安全確保の基本法。営業許可、規格基準、HACCPに沿った衛生管理の制度化 |
| 食品安全基本法 | 内閣府 | 食品安全委員会によるリスク評価の根拠法 |
| 食品表示法 | 消費者庁 | アレルギー表示、期限表示、栄養成分表示などを一元化 |
| と畜場法 | 厚生労働省 | と畜場の設置とと畜検査を規定 |
| 食鳥検査法 | 厚生労働省 | 食鳥処理場と食鳥検査を規定 |
| 乳等省令 | 厚生労働省 | 乳・乳製品の成分規格と製造基準 |
食品安全行政はリスク分析という枠組みで運用されています。
- リスク評価:科学的にリスクの大きさを見積もる。食品安全委員会(内閣府)が担当
- リスク管理:基準を定め、規制を実施する。厚生労働省・農林水産省・消費者庁が担当
- リスクコミュニケーション:関係者間で情報と意見を交換する
評価と管理を別の機関が担うことで、科学的判断が行政的な都合から独立するように設計されています。
2. 獣医職の役割と所属
| 職名 | 根拠法 | 所属 | 主な業務 |
|---|---|---|---|
| と畜検査員 | と畜場法 | 都道府県等 | と畜場における食用獣畜の検査。獣医師でなければならない |
| 食鳥検査員 | 食鳥検査法 | 都道府県等 | 食鳥処理場における検査 |
| 食品衛生監視員 | 食品衛生法 | 国(検疫所)または都道府県等(保健所) | 食品営業施設の監視指導、輸入食品の監視 |
| 家畜防疫員 | 家畜伝染病予防法 | 都道府県(家畜保健衛生所) | 家畜伝染病の検査と防疫措置 |
| 家畜防疫官 | 家畜伝染病予防法 | 国(動物検疫所) | 動物・畜産物の輸出入検疫 |
| 狂犬病予防員 | 狂犬病予防法 | 都道府県等(保健所) | 犬の抑留、狂犬病の防疫 |
家畜防疫員は都道府県の職員、家畜防疫官は国の職員です。一字違いで所属が変わります。
覚え方としては、「官」は国の官吏、「員」は自治体の職員と捉えると混乱しません。家畜伝染病の発生時に検査を行うのは家畜防疫員、空港や港で輸出入検疫を行うのは家畜防疫官です。
なお食品衛生監視員は国と自治体の双方に置かれます。輸入食品を扱う検疫所の職員も、保健所で営業施設を監視する職員も、いずれも食品衛生監視員です。
3. と畜検査と食鳥検査
3-1. と畜検査
と畜場法に基づき、食用に供する獣畜について1頭ごとに検査が行われます。抜き取りではなく全数検査である点が重要です。
| 段階 | 時期 | 内容 |
|---|---|---|
| 生体検査 | と殺前 | 生きている状態で外貌、栄養状態、行動、体温などを観察し、異常の有無を確認する |
| 解体前検査 | と殺・放血後、剥皮前 | 放血の状態や体表の異常を確認する |
| 解体後検査 | 解体後 | 枝肉、内臓、頭部などを検査する。リンパ節の切開を含む |
検査の結果、食用に適さないと判断された場合は全部廃棄または一部廃棄となります。
生きているときにしか分からないこと(行動の異常、神経症状、起立不能)と、解体しなければ分からないこと(内臓の病変、リンパ節の腫大)があるからです。
たとえば神経症状は生体検査でしか捉えられませんし、肝臓の病変や結核による病変は解体後検査ではじめて見つかります。段階ごとに見えるものが違うという点を押さえてください。
3-2. 食鳥検査
食鳥検査法に基づき、鶏、あひる、七面鳥について検査が行われます。と畜検査と同様に生体検査・脱羽後検査・内臓摘出後検査という段階を踏みます。
なお、処理羽数が一定以下の認定小規模食鳥処理業者については、確認規程に基づく事業者自身による確認が認められています。
4. HACCP
従来の食品衛生管理は最終製品の抜き取り検査が中心でした。しかし抜き取りである以上、調べていない製品に問題があっても分かりません。
HACCPは発想を転換し、製造工程のどこに危害が生じうるかを分析し、そこを継続的に管理することで安全を確保します。結果を調べるのではなく、過程を管理するという考え方です。
図:HACCPの12手順と7原則の対応。手順1から5までは準備段階であり原則には含まれない。手順6から12までが原則1から7に対応する。危害要因分析から始まり、記録の作成と保存で終わるという流れになっている。
手順は12、原則は7です。差の5は準備段階にあたる手順1〜5です。手順番号から5を引けば原則番号になると覚えておけば、どちらを問われても答えられます。
たとえば「重要管理点の決定」は手順7であり原則2、「危害要因分析」は手順6であり原則1です。
HACCPが機能するためには、施設設備の衛生管理や従事者の教育といった一般衛生管理(前提条件プログラム)が整っていることが前提となります。土台がないところにHACCPだけを導入しても機能しません。
5. 食品表示法
5-1. アレルギー表示
アレルギー物質を含む食品については、表示が義務づけられる「特定原材料」と、表示が推奨される「特定原材料に準ずるもの」に分かれます。
えび、かに、くるみ、小麦、そば、卵、乳、落花生
症例数が多い、あるいは重篤な症状に至りやすいものが選ばれています。くるみは比較的近年になって義務化された項目であり、出題される可能性があります。
これに対し「特定原材料に準ずるもの」には、大豆、ごま、カシューナッツ、牛肉、豚肉、鶏肉、ゼラチンなどが含まれ、表示は推奨にとどまります。
5-2. 消費期限と賞味期限
| 区分 | 対象 | 意味 |
|---|---|---|
| 消費期限 | 弁当、生菓子など品質が急速に劣化する食品 | 安全に食べられる期限。過ぎたものは食べるべきでない |
| 賞味期限 | 缶詰、スナック菓子など比較的傷みにくい食品 | 品質が保たれ、おいしく食べられる期限。過ぎても直ちに危険となるわけではない |
6. 乳等省令
乳および乳製品については、乳等省令により成分規格と製造基準が定められています。
6-1. 牛乳の規格
- 無脂乳固形分と乳脂肪分に下限値が定められている
- 細菌数に上限が定められている(標準平板培養法による)
- 大腸菌群は陰性でなければならない
6-2. 殺菌方法
| 方法 | 条件 | 特徴 |
|---|---|---|
| 低温保持殺菌 (LTLT) | 63〜65℃で30分 | 基準となる条件。風味の変化が少ない |
| 高温短時間殺菌 (HTST) | 72〜75℃で15秒以上 | 連続処理が可能 |
| 超高温瞬間殺菌 (UHT) | 120〜130℃で2〜3秒 | 日本の市販牛乳で主流 |
殺菌の基準は「63℃30分と同等以上の効力を有する方法」と定められており、上記はいずれもこれを満たします。
ホスファターゼは生乳に含まれる酵素で、適切な殺菌によって失活します。したがってホスファターゼ試験が陰性であれば、規定の殺菌が行われたことの裏づけになります。
「菌がいないこと」を直接確認するのではなく、「熱がかかったこと」を酵素の失活で確認するという発想です。
なお生乳の受入時にはアルコール試験により酸度の上昇(細菌の増殖)を確認し、体細胞数により乳房炎の有無を推定します。
7. 国家試験で狙われるポイントの整理
- 家畜防疫員は都道府県、家畜防疫官は国(動物検疫所)。
- 食品衛生監視員は国(検疫所)にも自治体(保健所)にも置かれる。
- と畜検査員は獣医師でなければならない。
- と畜検査は1頭ごとの全数検査であり、抜き取りではない。
- と畜検査は生体検査・解体前検査・解体後検査の3段階。
- HACCPは工程管理であり、最終製品の抜取検査ではない。
- 手順は12、原則は7。手順番号−5=原則番号。
- 危害要因分析は手順6かつ原則1、重要管理点の決定は手順7かつ原則2。
- リスク評価は食品安全委員会、リスク管理は厚労省など。評価と管理は分離されている。
- 消費期限は安全の期限、賞味期限はおいしさの期限。
- ホスファターゼ試験は殺菌が適切に行われたことの確認に用いる。
- 牛乳の大腸菌群は陰性でなければならない。
8. 確認問題
Q1. 家畜防疫員と家畜防疫官の違いを述べよ。
A. いずれも家畜伝染病予防法に基づく職であるが、家畜防疫員は都道府県の職員であり、家畜保健衛生所に所属して家畜伝染病の検査や防疫措置を行う。家畜防疫官は国の職員であり、動物検疫所に所属して動物および畜産物の輸出入検疫にあたる。
Q2. と畜検査が3段階に分けて実施される理由を述べよ。
A. 段階ごとに把握できる異常が異なるため。生体検査では行動の異常や神経症状、起立不能など生存中にしか観察できない所見を確認する。解体後検査では内臓の病変やリンパ節の腫大など、解体しなければ確認できない所見を検査する。いずれか一方では見落としが生じる。
Q3. HACCPが従来の衛生管理と本質的に異なる点を述べよ。
A. 従来は最終製品の抜き取り検査により安全性を確認していたが、抜き取りである以上、検査していない製品の異常は把握できない。HACCPは製造工程における危害要因を分析し、重要管理点を継続的に監視することで安全を確保する。結果を検査するのではなく、過程を管理する点が本質的な違いである。
Q4. 「重要管理点の決定」はHACCPの手順および原則の何番にあたるか、その理由とともに述べよ。
A. 手順7であり、原則2にあたる。手順1から5までは準備段階であり原則には含まれないため、手順6以降が原則1から順に対応する。したがって手順番号から5を引いた値が原則番号となる。
Q5. ホスファターゼ試験の目的と原理を述べよ。
A. 牛乳が規定どおりに殺菌されたかを確認することが目的である。ホスファターゼは生乳に含まれる酵素であり、適切な殺菌条件で加熱されると失活する。したがって試験が陰性であれば、必要な加熱が行われたことの裏づけとなる。菌の有無を直接調べるのではなく、熱がかかった事実を酵素の失活によって確認する方法である。
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