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内分泌・代謝疾患は、覚えるべきホルモンと検査が多く、断片的に暗記すると混乱しやすい分野です。しかし実際には、ほとんどすべての疾患が「フィードバック機構のどこが壊れたか」という一つの枠組みで説明できます。
クッシング症候群とアジソン病、甲状腺機能亢進症と低下症、糖尿病とインスリノーマ——これらはいずれも過剰と不足という対になっています。片方を理解すれば、もう片方は裏返すだけです。本ページでは分野全体の出題傾向を整理したうえで、6疾患を貫く原理と、それを検査に応用する考え方を解説します。
内科学全体(消化器・循環器・皮膚などを含む)が試験の約15〜20%を占めるなか、内分泌・代謝疾患は重要な一角を成しています。「ホルモンの過剰または不足」が引き起こす特徴的な臨床徴候(多飲多尿、左右対称性脱毛など)と、それに対する診断試験(負荷試験)および治療薬の組み合わせを整理しておくことが得点の鍵となります。
【要記入】本ページの出題傾向は、第○回〜第○回獣医師国家試験(計○,○○○問)を編集部が分野別に分類集計したものです。
1. 試験区分別の出題傾向
| 試験区分 | 出題数の目安 | 問われる内容 |
|---|---|---|
| 必須問題 (50問中) |
1〜2問 | ホルモンの産生部位(下垂体前葉、甲状腺など)、血中カルシウム濃度を調節するホルモン(カルシトニン、上皮小体ホルモン)といった基礎知識 |
| 学説試験A・B (160問中) |
3〜5問 | 学説A:内分泌器官の解剖・組織構造(副腎皮質の層構造など)とフィードバック機構 学説B:アジソン病の治療薬(フルドロコルチゾン)、糖尿病治療薬(インスリン、アカルボースなど)の作用機序 |
| 実地試験C・D (120問中) |
6〜10問 | 糖尿病の血糖曲線を用いたインスリン管理、クッシング症候群やアジソン病の診断(ACTH刺激試験)、猫の甲状腺機能亢進症、インスリノーマによる低血糖など、検査データに基づく症例問題 |
2. 内分泌疾患を貫く原理 — フィードバック機構
内分泌系の多くは視床下部 → 下垂体前葉 → 標的内分泌腺という三層構造をとります。最終的に分泌された末梢ホルモンが上流へ負のフィードバックをかけることで、分泌量が一定の範囲に保たれています。
図:内分泌系の三層構造と負のフィードバック。末梢ホルモンが視床下部と下垂体を抑制することで分泌量が保たれる。障害が標的腺にあれば刺激ホルモンは上昇し、下垂体にあれば低下する。
- 原発性(標的腺の障害)では、末梢ホルモンが減る(または自律的に増える)ことでフィードバックが変化し、刺激ホルモンが逆向きに動きます。アジソン病で内因性ACTHが高値になるのはこのためです。
- 続発性(下垂体の障害)では、刺激ホルモンと末梢ホルモンが同じ向きに低下します。
- 副腎腫瘍性クッシング症候群で対側副腎が萎縮するのも、外因性ステロイドで両側副腎が萎縮するのも、すべてこの抑制の帰結です。
上記のフィードバックの原則からすると、猫の甲状腺機能亢進症では下垂体のTSHが抑制されているはずであり、実際にそのとおりです。
しかし猫ではTSHを測定することができません。犬用に確立されたcTSHのアッセイが猫では使用できず、検査会社の受託項目にも猫のTSHは存在しないためです。
したがって猫の甲状腺機能亢進症の診断とモニタリングには、総T4および遊離T4を用います。理論上成立することと、実際に測定できることは別である——この分野では、その区別が問われます。
3. 負荷試験の設計原理
内分泌検査には多くの負荷試験がありますが、その設計思想は単純です。
足りないと疑うなら押してみる(刺激試験)。多すぎると疑うなら止めてみる(抑制試験)。
刺激試験は外から刺激ホルモンを与え、標的腺が反応できるかを見ます。反応しなければ機能低下です。抑制試験は外からホルモンを与えて負のフィードバックが働くかを見ます。抑制されなければ自律分泌、すなわち機能亢進です。
| 試験 | 種類 | 目的 | 判定 |
|---|---|---|---|
| ACTH刺激試験 | 刺激 | アジソン病の確定診断、医原性クッシングの診断、治療モニタリング | 低反応なら機能低下 |
| 低用量デキサメタゾン 抑制試験(LDDST) | 抑制 | クッシング症候群の確定診断 | 抑制されないなら機能亢進 |
| 高用量デキサメタゾン 抑制試験(HDDST) | 抑制 | 下垂体依存性と副腎腫瘍性の鑑別 | 抑制されるなら下垂体依存性 |
| T3抑制試験 | 抑制 | 猫の甲状腺機能亢進症(境界域の症例) | 抑制されないなら機能亢進 |
4. ホルモンの産生部位
必須問題で直接問われる範囲です。取り違えやすい2点にとくに注意してください。
| 器官 | 産生されるホルモン |
|---|---|
| 下垂体前葉 | ACTH、TSH、成長ホルモン、プロラクチン、LH、FSH |
| 下垂体後葉 | 抗利尿ホルモン(バソプレシン)、オキシトシン ※産生は視床下部。後葉は貯蔵・放出の場 |
| 甲状腺 | 濾胞細胞:T4・T3 傍濾胞細胞(C細胞):カルシトニン |
| 上皮小体 (副甲状腺) | 上皮小体ホルモン(PTH) |
| 副腎皮質 | 球状帯:アルドステロン/束状帯:コルチゾール/網状帯:アンドロゲン |
| 副腎髄質 | カテコールアミン(アドレナリン、ノルアドレナリン) |
| 膵ランゲルハンス島 | α細胞:グルカゴン/β細胞:インスリン/δ細胞:ソマトスタチン |
- カルシトニンは甲状腺のC細胞から分泌されます。上皮小体ではありません。
- 下垂体後葉のホルモンは視床下部で産生されます。後葉は軸索終末からの放出部位にすぎません。
5. カルシウム調節と高カルシウム血症
| 因子 | 産生部位 | 血中Caへの作用 | 主な機序 |
|---|---|---|---|
| PTH | 上皮小体 | 上昇 | 骨吸収の促進、腎でのCa再吸収↑・リン排泄↑、活性型ビタミンD産生の促進 |
| カルシトニン | 甲状腺C細胞 | 低下 | 破骨細胞による骨吸収の抑制 |
| 活性型ビタミンD | 腎で活性化 | 上昇 | 腸管からのカルシウム・リン吸収の促進 |
臨床で重要なのが腫瘍随伴性高カルシウム血症です。腫瘍細胞がPTH関連蛋白(PTHrP)を産生し、PTHと同様に作用することで血中カルシウムが上昇します。
代表的な原因腫瘍はリンパ腫と肛門嚢アポクリン腺癌で、ほかに多発性骨髄腫、胸腺腫などが挙げられます。高カルシウム血症を見たら、まず腫瘍を疑って全身検索を行うという手順が基本です。腫瘍以外では原発性上皮小体機能亢進症、慢性腎臓病、アジソン病、ビタミンD中毒などが鑑別に挙がります。
6. 症候から疾患を絞る
内分泌疾患は複数の疾患が同じ症候を共有します。症候を入口にした鑑別リストを持っておくと、症例問題での絞り込みが速くなります。
6-1. 多飲多尿
| 疾患 | 機序 |
|---|---|
| 糖尿病 | 尿糖による浸透圧利尿 |
| クッシング症候群 | コルチゾールによる抗利尿ホルモン作用の拮抗 |
| 猫の甲状腺機能亢進症 | 腎血流量とGFRの増加 |
| 高カルシウム血症 | 腎尿細管の濃縮能障害(腎性尿崩症様) |
| 尿崩症 | ADHの分泌不全(中枢性)または腎の反応低下(腎性) |
| アジソン病 | ナトリウム喪失による腎髄質洗い出し |
6-2. 左右対称性・非掻痒性の脱毛
クッシング症候群と甲状腺機能低下症は、脱毛の性状だけでは鑑別できません。いずれも痒みを伴わず左右対称に脱毛します。以下の検査所見で切り分けます。
| 項目 | クッシング症候群 | 甲状腺機能低下症 |
|---|---|---|
| 活動性 | 多食・多飲多尿、腹囲膨満 | 嗜眠、寒がり、体重増加 |
| ALP | 著明上昇 | 上昇しない |
| コレステロール | 上昇 | 著明上昇 |
| 白血球像 | ストレスリューコグラム | 特徴的な変化なし |
| 貧血 | まれ | 非再生性貧血 |
このほか、性ホルモン失調(セルトリ細胞腫、卵巣嚢腫)や脱毛症Xも鑑別に含まれます。
7. 牛のケトーシス
代謝疾患として国家試験に登場するのが牛のケトーシスです。分娩後の高泌乳牛が負のエネルギーバランスに陥り、糖新生の前駆物質が不足することで発症します。
体脂肪の動員が進み、肝臓でケトン体(アセト酢酸、β-ヒドロキシ酪酸、アセトン)が過剰に産生されます。低血糖、ケトン尿、呼気のケトン臭、食欲不振、乳量低下が現れ、神経型では旋回や過敏などの症状を伴います。
一次性は高泌乳による純粋なエネルギー不足によるものです。これに対し二次性は、第四胃変位や子宮内膜炎などによって食欲が低下し、その結果として生じます。ケトーシスを見たら、背景に他の疾患がないかを必ず確認してください。
治療はブドウ糖の静脈内投与とプロピレングリコール(糖新生の前駆物質)の経口投与が基本で、グルココルチコイドを併用することもあります。予防は移行期の飼養管理とボディコンディションの適正化に尽きます。
8. 重要テーマ別の詳細解説
各テーマは機序から治療まで踏み込んだ個別記事として解説しています。対になる疾患を並べて読むことで、双方の定着が良くなる構成にしました。
副腎クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)
下垂体依存性・副腎腫瘍性・医原性という3つの病型で、内因性ACTHと副腎の形態がそれぞれ異なる動き方をします。副腎腫瘍性で対側副腎が萎縮する理由、医原性でACTH刺激試験が低反応となる逆転を、負のフィードバックから図解しています。UCCR・LDDST・ACTH刺激試験の使い分けも整理しました。
副腎アジソン病(副腎皮質機能低下症)
副腎皮質の層構造から出発し、球状帯だけがACTH非依存であることを土台に、続発性で電解質異常が出ない理由を導きます。ショックなのに徐脈という循環の逆説、ストレスリューコグラムの欠如という手がかり、フルドロコルチゾンとDOCPの使い分けを扱います。
膵臓糖尿病
犬と猫で性質がまったく異なる疾患です。猫が糖毒性の解除により寛解しうる理由、未避妊雌犬の黄体期によるインスリン抵抗性を解説し、実地試験で頻出の血糖曲線を図解しています。とくにソモジー効果は「血糖が高いのにインスリンを減らす」という直感に反する対応が正解となるため、機序から丁寧に扱いました。
膵臓インスリノーマ
糖尿病と対になる、インスリン過剰の疾患です。低血糖時のインスリンが基準範囲内であっても異常という判定の考え方を図で示しました。ジアゾキサイドがスルホニル尿素薬とちょうど逆にカリウムチャネルへ作用する点も、糖尿病の薬理と対比して解説しています。
甲状腺猫の甲状腺機能亢進症
猫でもっとも多い内分泌疾患です。最大の論点は、甲状腺ホルモンがGFRを押し上げて慢性腎臓病を覆い隠し、治療後に顕在化するという点にあります。この機序を図解したうえで、可逆的な抗甲状腺薬でまず腎機能を試すという治療戦略まで扱いました。
甲状腺犬の甲状腺機能低下症
症状より診断の組み立てが難所となる疾患です。ユウサイロイドシック症候群と薬剤の影響によりT4は容易に低下するため、T4だけで判断すると過剰診断を招きます。診断手順をフローチャートで示し、猫の亢進症との11項目の対比表を添えました。
9. 学習教材
ジグソーパズルクイズ:甲状腺ホルモンのフィードバック
視床下部・下垂体・甲状腺の三層構造とフィードバックの流れを、パズル形式で組み立てながら確認できます。本ページ第2章の内容を体で覚えるのに適しています。
解説ブック
個別疾患の背景にある生理を、より深く扱った電子ブックです。
準備中のコンテンツ
- 問題集:内分泌・代謝30問
- 推理型問題:内分泌疾患
10. 推奨する学習順序
- 原理を押さえる:本ページ第2章のフィードバック機構と第3章の負荷試験の設計原理。ここが分野全体の骨格です
- 基礎知識を固める:第4章(ホルモンの産生部位)と第5章(カルシウム調節)で、必須問題と学説Aに対応します
- 対で読む:クッシング症候群 → アジソン病、糖尿病 → インスリノーマ、猫の亢進症 → 犬の低下症の順に、必ず対で読み進めます
- 横断整理:第6章に戻り、多飲多尿と左右対称性脱毛の鑑別を確認します
- 演習:ジグソーパズルクイズと問題集で定着を確認し、間違えた項目の記事に戻ります
内分泌・代謝は内科学を構成する領域のひとつです。消化器を含む内科学全体の出題傾向は、臨床獣医学 > 内科のページで整理しています。
参考文献
- 新獣医内科学 文永堂出版
- 伴侶動物治療指針 緑書房
- 犬と猫の治療ガイド インターズー
- CAP 緑書房
- SA Medicine インターズー
- 新編 家畜薬理学 養賢堂
- 獣医生理学第二版 文永堂出版
- 動物病理学各論 文永堂出版
- 農林水産省 獣医師国家試験(公式)