肝臓は体の「化学工場」。体に入った毒や薬、体の中でできた不要なものを、水に溶ける形に作り変えて、尿や便から捨てるにゃん!
薬が効き終わったあとに体から消えていくのも、食べ物にまぎれた有害なものが体にたまらないのも、肝臓の解毒のおかげです。このページでは、「集める → 2段階で作り変える → 捨てる」という一連の流れを、図を使って順番にたどります。
1解毒の全体の流れ — 肝臓は体の関所
腸から吸収されたものは、すぐに全身へ回るのではなく、門脈という血管を通って、まず肝臓に集まります。肝臓は、全身に回る前に中身を確かめる関所の役目をしているのです。
図1 解毒の全体の流れ。肝臓で2段階の処理を受けて水に溶ける形になったものは、血液に戻って腎臓から尿に、または胆汁に混ざって腸から便に捨てられる。
飲み薬の一部は、全身に回る前にこの関所で処理されて減ってしまうにゃ。これを初回通過効果というにゃん。
2なぜ「水に溶ける形」に変えるの?
体に入る薬や毒の多くは、脂に溶けやすい性質をもっています。脂に溶けやすいものは、細胞の膜をすいすい通り抜けられるので、体の中に入りやすい反面、出ていきにくいのが難点です。
- 尿に捨てにくい:腎臓でいったん尿の側にこし出されても、尿細管の壁をすり抜けて、また血液に戻ってしまう
- 体にたまる:脂肪の多い組織や脳に入り込み、長く残る
そこで肝臓は、これらを水に溶けやすい形に作り変えます。水に溶けやすくなると、膜を通り抜けられなくなるので、尿や胆汁からそのまま捨てられるようになります。
32段階の作り変え
肝臓の細胞(肝細胞)は、2つの段階で物質を作り変えます。
図2 解毒の2段階。第1段階で物質に「取っ手」をつけ、第2段階でその取っ手に「水に溶ける札」をつけて、捨てやすい形にする。
第1段階 — 「取っ手」をつける
肝細胞の中の酵素(代表はシトクロムP450)が、物質に酸素をくっつけるなどして、少しだけ形を変えます。次の段階で札をつけるための取っ手をつける作業です。
第2段階 — 「水に溶ける札」をつける
取っ手に、水に溶けやすい物質をくっつけます(抱合)。くっつける札には、次のような種類があります。
- グルクロン酸:最もよく使われる札。薬や、赤血球が壊れてできるビリルビンにもつける
- 硫酸:小さな物質によく使われる
- グルタチオン:反応しやすい危ない物質を、すばやくつかまえて無害にする
- アセチル基:一部の薬(サルファ剤など)に使われる
札がついて大きく、水に溶けやすくなった物質は、血液に戻って腎臓から尿へ、あるいは胆汁に混ざって腸から便へ捨てられます。
4体の中でできる「毒」も片づける
肝臓が処理するのは、外から入ってくる薬や毒だけではありません。体の中で毎日できる、不要なものも片づけています。
- アンモニア:タンパク質を使ったあとにできる、脳にとって毒のある物質。肝臓は、これを尿素という害の少ない物質に変え、尿に捨てる(尿素をつくる一連の反応を、尿素回路という)。肝臓が働けないとアンモニアがたまり、肝性脳症を起こす
- ビリルビン:古くなった赤血球が壊れてできる黄色い色素。肝臓でグルクロン酸の札をつけて胆汁に出し、便に捨てる。処理が追いつかないと体にたまり、黄疸になる
- 使い終わったホルモン:ステロイドホルモンなども肝臓で作り変えられ、効き目を失って捨てられる
猫は、尿素回路に欠かせないアルギニンを体の中で十分につくれないにゃ。アルギニンが入っていない食事を食べると、数時間でアンモニアがたまってしまうにゃん。
5動物によって得意・不得意がある
第2段階の札のつけ方には、動物による得意・不得意があります。不得意な札を使う薬は、その動物の体に長く残り、中毒を起こしやすくなります。
- 猫:グルクロン酸の札をつける力が弱い。アセトアミノフェン、一部の鎮痛薬、ペルメトリン(犬用のノミ駆除薬)などで中毒を起こしやすい
- 犬:アセチル基の札をつけることができない
- 豚:硫酸の札をつける力が弱い
6たとえば — アセトアミノフェンの分かれ道
解熱鎮痛薬のアセトアミノフェンを例に、解毒の流れがうまくいかないと何が起こるかを見てみましょう。
図3 アセトアミノフェンの処理の分かれ道。ふつうは大部分が太い道で安全に捨てられ、細い道でできた危ない物質もグルタチオンが無害にする。猫は太い道が細いため、危ない物質が多くでき、グルタチオンを使い果たしてしまう。
- ふつうは、大部分が第2段階でグルクロン酸や硫酸の札をつけられ、安全に捨てられる(太い道)
- 一部は第1段階で、反応しやすい危ない物質に変わる(細い道)
- 危ない物質は、すぐにグルタチオンがつかまえて無害にする
- 猫はグルクロン酸の札をつける力が弱いため、細い道に多く流れ、グルタチオンを使い果たす
- 残った危ない物質が、赤血球のヘモグロビンを傷つけ(メトヘモグロビン、ハインツ小体)、肝臓も傷つける
中毒の治療では、グルタチオンの材料になるアセチルシステインを補って、危ない物質をつかまえる力を取り戻させます。
7解毒の力が変わるとき
- 肝臓の病気:解毒の力が落ち、薬が効きすぎたり、アンモニアがたまったりする
- 生まれたばかりの子・高齢の動物:酵素が未熟だったり、働きが落ちていたりして、薬が体に残りやすい
- 酵素が増えるとき:てんかんの薬のフェノバルビタールなどは、肝臓の酵素を増やす。そのため、一緒に使うほかの薬が速く処理され、効き目が弱くなることがある
- 飲み薬の初回通過効果:飲み薬は全身に回る前に肝臓を通るため、一部が処理されて減る。同じ薬でも、注射と飲み薬で効き方が変わる理由の一つ
8国家試験ではここが問われる
- 肝臓の解毒は、脂に溶けやすい物質を水に溶けやすい形に変えるしくみであること
- 第1段階(シトクロムP450などによる酸化など)と、第2段階(グルクロン酸・硫酸・グルタチオンなどの抱合)
- 猫はグルクロン酸抱合、犬はアセチル化、豚は硫酸抱合が弱い
- アンモニアは尿素に、ビリルビンはグルクロン酸抱合を受けて胆汁へ
- フェノバルビタールなどによる酵素の誘導、飲み薬の初回通過効果
9ミニテスト(8問)
0 / 8 問正解選ぶとすぐに正解と解説が出ます。迷ったら、図に戻って流れをたどってみてください。
Q1.腸から吸収された物質が、全身に回る前にまず肝臓に集まるのはなぜ?
正解:門脈を通って肝臓に入るから 腸からの血液は門脈に集まって肝臓へ向かいます。肝臓は全身に回る前の関所の役目をしています。
Q2.肝臓が薬や毒を「水に溶ける形」に変える目的はどれ?
正解:尿や胆汁から捨てやすくするため 脂に溶けやすいものは尿細管で再び吸収されてしまいます。水に溶けやすくなると、そのまま捨てられます。
Q3.第1段階の作り変えについて正しいのはどれ?
正解:酵素が物質の形を少し変える 第1段階でできた形は反応しやすく、元の物質より危なくなることもあります。
Q4.第2段階でくっつける「札」として、最もよく使われるものはどれ?
正解:グルクロン酸 ほかに硫酸、グルタチオン、アセチル基などがあります。ビリルビンにもグルクロン酸の札がつけられます。
Q5.猫がアセトアミノフェンで中毒を起こしやすい理由はどれ?
正解:グルクロン酸抱合が弱いから 危ない物質ができる細い道に多く流れ、グルタチオンを使い果たして、赤血球や肝臓が傷つきます。
Q6.肝臓がアンモニアを処理してつくる物質はどれ?
正解:尿素 アンモニアは尿素回路で害の少ない尿素に変えられ、尿に捨てられます。肝臓が働けないと肝性脳症を起こします。
Q7.フェノバルビタールを使っている犬で、一緒に使うほかの薬の効き目が弱くなることがある理由はどれ?
正解:肝臓の酵素が増えるから これを酵素の誘導といいます。薬の効き目や血中濃度が変わるため、組み合わせに注意が必要です。
Q8.アセトアミノフェン中毒の治療でアセチルシステインを使う理由はどれ?
正解:グルタチオンの材料を補うため グルタチオンを取り戻すことで、反応しやすい危ない物質を再び無害にできるようになります。
10もっとくわしく知りたいとき
- 超簡単まとめ:薬物代謝と生体関門 — 薬が吸収され、分布し、捨てられるまでの全体
- 流れでたどる:薬が代謝されるまで — 初回通過効果から排泄まで、薬が代謝される流れを図で確認できます。
- 犬と猫の肝臓・胆道・膵臓の疾患 — 肝臓の3つの仕事、肝性脳症、門脈体循環シャント
- 動物の中毒 — タマネギ、アセトアミノフェン、ペルメトリンなど
- 超簡単まとめ:かんたん黄疸 — ビリルビンの処理と黄疸の3つの原因
- 種差ラボ 生理・薬・栄養編 — 薬の処理の弱点を動物ごとに比べる