基礎獣医学 > 実験動物
動物実験の結果が信頼できるものになるかどうかは、使う動物の遺伝的な性質と微生物の状態がそろっているかにかかっています。国家試験では、系統の種類、SPF動物、実験動物の感染症、3Rの考え方、動物ごとの特徴が、必須問題と学説試験Bで出題されています。
本記事では、「遺伝をそろえる → 微生物をそろえる → 動物の福祉を守る」の順に整理し、最後に動物ごとの特徴をまとめました。
第73回〜第77回では、次のような形で出題されています。
- 品質:SPF動物、実験動物の感染症(ティザー病の Clostridium piliforme、ニューモシスチス症)
- 倫理:3R(代替・削減・苦痛の軽減)、実験動物の福祉と安楽殺
- 動物の特徴:モルモットの妊娠期間(68日)、実験動物の形態の特徴、アフリカツメガエル
- 近交系とクローズドコロニーの違い
- 遺伝子の異常や改変をもつ動物(ヌードマウス、SCIDマウス、ノックアウトマウス)
- 無菌動物・ノトバイオート・SPF動物・コンベンショナル動物の違い
- 実験動物で問題になる感染症
- 3Rと人道的エンドポイント
- マウス、ラット、モルモット、ウサギの特徴
1. 遺伝をそろえる — 系統
- 近交系:兄妹交配を20世代以上続けた系統。遺伝的にほぼ同じ個体の集まりになるため、個体差が小さく、結果がそろいやすい(マウスのC57BL/6、BALB/cなど)
- クローズドコロニー:外から新しい個体を入れずに、5年以上集団の中だけで繁殖を続けた群。遺伝的にある程度のばらつきをもち、丈夫で繁殖力が高い(マウスのICR、ラットのウィスターなど)
- 交雑群(F1):2つの近交系をかけ合わせた一代目。遺伝的にそろっていて、しかも丈夫
1-1. 遺伝子に特徴のある動物
- ヌードマウス:毛がなく、胸腺がないためT細胞をもたない。人の腫瘍を移植しても拒絶しない
- SCIDマウス:T細胞とB細胞の両方をもたない
- ノックアウトマウス:特定の遺伝子を働かなくしたマウス。その遺伝子の役割を調べるのに使う
- トランスジェニック動物:外から遺伝子を組み込んだ動物
2. 微生物をそろえる — 微生物学的な品質
- 無菌動物:調べられる限りの微生物をまったくもたない動物。帝王切開で取り出し、外の空気と遮断した装置(アイソレーター)の中で飼う
- ノトバイオート:無菌動物に、わかっている微生物だけを定着させた動物
- SPF動物:特定の病原体をもたないことが確かめられた動物。病原体の侵入を防ぐ施設(バリア施設)で飼う
- コンベンショナル動物:微生物の管理をしていない、ふつうの環境の動物
2-1. 実験動物で問題になる感染症
- ティザー病(Clostridium piliforme):肝臓の壊死や腸炎を起こす。人工の培地では育たない細菌
- ニューモシスチス症:免疫の弱い動物(ヌードマウスなど)に肺炎を起こす真菌
- センダイウイルス感染症、マウス肝炎ウイルス感染症:症状が目立たなくても、実験の結果を狂わせる
症状がなくても、感染していると免疫などの状態が変わり、実験の結果がそろわなくなるため、定期的な検査で微生物の状態を確かめます。
3. 動物の福祉を守る
3-1. 3R
- Replacement(代替):できる限り動物を使わない方法(培養細胞など)に代える
- Reduction(削減):使う動物の数をできる限り減らす
- Refinement(苦痛の軽減):麻酔や鎮痛を使い、できる限り苦痛を与えない方法で行う
動物愛護管理法では、代替と削減は「配慮するもの」、苦痛の軽減は「しなければならない」と定められています(動物愛護管理法と動物福祉の解説)。
3-2. 実験の管理
- 動物実験委員会:実験の計画が3Rに沿っているかを、実施の前に施設の中で審査する
- 人道的エンドポイント:動物が死ぬまで待たず、苦痛が強くなる前に実験を終えるための基準を、あらかじめ決めておく
- 安楽殺:苦痛を最小限にする方法で行い、麻酔薬を使う場合は、動物の状態に応じて十分な量で確実に行う
- 飼育環境:温度、湿度、明暗の周期、換気を一定に保つ。巣材などで、その動物らしい行動ができる環境をつくる(環境エンリッチメント)
4. 動物ごとの特徴
- マウス:妊娠期間は約19〜20日。性周期は約4〜5日
- ラット:胆嚢がない。妊娠期間は約21〜22日。マウスとラットは吐くことができない
- モルモット:ビタミンCを体内でつくれないため、飼料から与えないと壊血病になる。妊娠期間は約68日と長く、子は毛が生えて目が開いた状態で生まれる
- ウサギ:夜に出す柔らかい便(盲腸便)を自分で食べて、ビタミンやタンパク質を取り込む。交尾の刺激で排卵する
- げっ歯類とウサギに共通:前歯(切歯)が一生伸び続ける
- アフリカツメガエル:大きな卵を産むため、発生の研究に使われる
5. 実験動物で国家試験に狙われるポイント
- 近交系:兄妹交配20世代以上、個体差が小さい。クローズドコロニー:外から入れずに5年以上、ある程度のばらつき
- ヌードマウス:胸腺がなくT細胞がない。SCID:T細胞とB細胞がない
- 微生物:無菌動物(微生物なし)、ノトバイオート(既知の微生物のみ)、SPF(特定の病原体なし)、コンベンショナル
- 感染症:ティザー病(C. piliforme)、ニューモシスチス症
- 3R:代替・削減は配慮、苦痛の軽減は義務。人道的エンドポイント
- 特徴:ラットに胆嚢なし、マウスとラットは吐けない、モルモットはビタミンCが必要で妊娠約68日、ウサギの盲腸便
6. 実験動物の確認問題
Q1. 近交系とクローズドコロニーの違いを述べよ。
A. 近交系は兄妹交配を20世代以上続けた系統で、遺伝的にほぼ同じ個体の集まり。クローズドコロニーは外から新しい個体を入れずに5年以上繁殖を続けた集団で、遺伝的にある程度のばらつきをもつ。
Q2. ヌードマウスに人の腫瘍を移植しても拒絶されない理由を述べよ。
A. 胸腺がなくT細胞をもたないため、移植された異物を攻撃する免疫の反応が起こらないから。
Q3. SPF動物とはどのような動物か。無菌動物との違いとあわせて述べよ。
A. 特定の病原体をもたないことが確かめられた動物。無菌動物は、調べられる限りの微生物をまったくもたない動物である。
Q4. 動物愛護管理法で「しなければならない」と定められている3Rはどれか。
A. Refinement(苦痛の軽減)。代替と削減は「配慮するもの」とされている。
Q5. モルモットの飼育で、飼料にビタミンCを加える必要がある理由を答えよ。
A. モルモットはビタミンCを体内でつくれず、不足すると壊血病になるため。
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詳細な解説
- 分野別まとめ:基礎獣医学 — 学説試験Aの科目の配置と、基礎獣医学全体の出題傾向を整理しています。
- 動物愛護管理法と動物福祉 — 3Rの法律上の位置づけを扱います。
- 自然免疫と獲得免疫 — ヌードマウスやSCIDマウスで欠けている免疫のしくみを扱います。
- 動物行動学と動物福祉 — 動物福祉の考え方と、環境が行動に与える影響を扱います。
参考文献
- 動物愛護管理法
- 研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針
- 農林水産省 獣医師国家試験(公式)