基礎獣医学 > 染色法と細胞の同定
染色法は学説試験Aと実地試験C・Dの両方に効く数少ない領域です。学説では「何を染めるか」が、実地では「この像は何か」が問われます。
染色は魔法ではありません。色素と組織成分の化学的な親和性を利用しているだけです。どの成分がどの色素に引き寄せられるのかという一点を理解すれば、個々の染色法は「その応用」として整理できます。丸暗記の量が大きく減ります。
第73回〜第77回の試験問題を分析したところ、必須問題ではトルイジンブルー染色で異調染色性を示す細胞を問う設問が出題されています。
また実地試験では、血液塗抹(IMHAの球状赤血球、バベシア原虫の同定)、病理組織像、寄生虫卵や細菌の鏡検(犬鞭虫卵、繊毛虫、セロハンテープ法による虫卵、球菌の配列)といった顕微鏡写真の読影が繰り返し出題されています。
「染色法」の知識を直接問う設問、あるいは「特定の染色が施された写真(顕微鏡写真)」や「染色性の特徴」から細胞・病原体を同定し、疾患名や病態、治療法を答えさせる設問は、合計で54問出題されています。
1. 必須問題・学説試験(基礎知識・定義を問う問題)
特殊染色の選択や、染色された特定細胞・封入体の特徴を問う知識問題です。
組織染色の特徴と適応を問う問題
第73回 必須:真菌の検出に用いられる組織染色法として、適切なもの(グロコット染色)を選択させる問題。
第74回 学説A:墨汁染色により莢膜を明瞭に検出できる病原体(Cryptococcus neoformans )を選択させる問題。
第75回 学説A:アポトーシスを検出・可視化する方法(TUNEL法)を選択させる問題。
染色性や細胞内封入体からの細胞・器官同定
第76回 必須:トルイジンブルー染色で異調染色性(メタクロマジー)を示す細胞(肥満細胞)を選択させる問題。
第76回 必須:ネグリ小体(狂犬病ウイルスによる細胞質内封入体)がみられる疾患を問う問題。
第77回 必須:神経細胞においてニッスル小体として観察される細胞小器官(粗面小胞体)を選択させる問題。
第77回 必須:ラッセル小体(免疫グロブリンの過剰蓄積)を有する細胞(モット細胞)を問う問題。
2. 実地試験(スライド画像や鏡検像から細胞・病原体を同定する問題)
配点が高い実地試験(1問2点)では、染色写真を見て細胞や原虫などを正しく判定する「ビジュアル読解力」が毎回4〜6つの症例(8〜12問)にわたって出題されます。
① 血液塗抹検査(ライトギムザ、ギムザ、ニューメチレンブルー染色など)
第74回実地D:重度貧血の犬。血液塗抹標本(ライトギムザ染色)における球状赤血球の出現などから、免疫介在性溶血性貧血(IMHA)を同定させる問題。
第74回実地D:貧血を呈した放牧子牛の末梢血液塗抹(ギムザ染色)から、赤血球上の病原体(Theileria orientalis )を同定させる問題。
第74回実地D:去勢雄犬。血液塗抹像(ライトギムザ染色)から慢性リンパ球性白血病を同定させ、γグロブリン増加症等の病態を答えさせる問題。
第75回実地D:貧血を呈した猫。末梢血液塗抹標本(A:ライトギムザ、B:ニューメチレンブルー染色)から、赤血球にみられる変性ヘモグロビン(ハインツ小体)と、その誘因物質(アセトアミノフェン)を同定させる問題。
第77回実地D:貧血を呈したチワワ。血液塗抹像(ライトギムザ染色)にみられる赤血球形態異常(球状赤血球など)を同定させる問題。
第77回実地D:脾腫を認める犬。血液塗抹標本(ギムザ染色)における赤血球内のナシ状・対をなす虫体から、Babesia gibsoni 感染症を同定させる問題。
② 細針吸引細胞診(ライトギムザ、ギムザ、スタンプ標本)
第73回実地C:リンパ節の細針吸引細胞診像(ライトギムザ染色)から、未分化な巨大リンパ球の均一な増殖を認め、リンパ腫を同定させる問題。
第73回実地C:重度貧血・白血球減少を示す犬。骨髄および末梢血の塗抹標本(ライトギムザ、ペルオキシダーゼ染色)から、急性骨髄性白血病を同定させる問題。
第74回実地D:ラブラドール・レトリーバー。指の病変の吸引細胞診像(ライトギムザ染色)から、角化傾向のある奇異な上皮細胞を認め、扁平上皮癌を同定させる問題。
第74回実地D:肩頭側腫瘤の吸引細胞診像(ライトギムザ染色)から、好塩基性の大型異型リンパ球の増殖を認め、牛伝染性リンパ腫を同定させる問題。
第77回実地C:皮膚しこりの吸引細胞診像(ライトギムザ染色)から、異調染色性(紫赤色)を示す豊富な顆粒を持った細胞を認め、肥満細胞腫を同定させる問題。
第77回実地C:猫の口腔内腫瘤。細胞診像(ライトギムザ染色)から、多核で奇怪な細胞質を示す上皮系悪性腫瘍細胞(扁平上皮癌)を同定させる問題。
③ 病理組織検査(HE染色・免疫組織化学等)および特殊染色
第74回実地D:突然死した牛の血液塗抹。加温しつつマラカイトグリーンで芽胞染色を施し、サフラニンで後染色した鏡検像から、炭疽菌の芽胞(緑色)と菌体(赤色)を同定させ、炭疽と診断させる問題。
第75回実地C:猫の皮膚病変スタンプ標本。赤く美しく染まる抗酸菌を認めるチール・ネルゼン染色像から、病原体(抗酸菌)および疾患(猫ハンセン病など)を同定させる問題。
第75回実地C:死亡したヌードマウス。肺胞内を埋める泡沫状の滲出物。メテナミン銀染色像(黒染されるシスト)から、Pneumocystis 症を特定させる問題。
第76回実地C:食中毒患者の食品から分離したグラム陽性桿菌。卵黄反応陽性の発育像と、熱処理・芽胞形成を確認するグラム染色像から、原因菌(セレウス菌など)の性状を同定させる問題。
第77回実地D:肥育豚。排出された糞便の鍍銀染色(銀で黒染された特有のらせん菌)から、原因微生物(Brachyspira hyodysenteriae (豚赤痢))を特定させる問題。
第77回実地D:養殖ブリ筋肉。体側筋の塗抹標本(Uvitex 2B染色像で蛍光を発するシスト)から、胞子虫による疾患(ミクロスポリジウム症など)を同定させる問題。
染色法と細胞・病原体の同定問題は、「染色法の名称 ⇄ ターゲットとなる細胞や構造 ⇄ 鏡検時の視覚的特徴(色)」がきわめて論理的・画一的に結びついて出題されます。
グロコット染色 / メテナミン銀染色 ➡ 真菌(酵母・菌糸)やニューモシスチスを黒染する。
チール・ネルゼン(抗酸)染色 ➡ ヨーネ菌、結核菌、クリプトスポリジウムを赤染する。
トルイジンブルー染色 ➡ 肥満細胞を赤紫色(メタクロマジー)に染める。
鍍銀染色 ➡ スピロヘータ(豚赤痢菌など)を黒染する。
芽胞染色(マラカイトグリーン・サフラニン) ➡ 炭疽菌、ボツリヌス菌、ウェルシュ菌などの芽胞を緑、菌体を赤に染め分ける。
- 好塩基性と好酸性が何を意味しているか
- 異調染色性を示すのは肥満細胞であること、その理由
- PAS陽性物質がグリコーゲンかどうかの判別法
- コンゴレッドの決め手は偏光顕微鏡であること
- グラム染色で陽性菌が脱色されない理由
- 浮遊法と沈殿法の使い分け
1. 染色の原理
色素には塩基性色素と酸性色素があり、それぞれ電荷が逆です。
- 塩基性色素は陽性に荷電しており、負に荷電した成分に結合します。細胞内で最も強く負に荷電しているのは核酸(DNAとRNA)です。これに染まる性質を好塩基性といいます。
- 酸性色素は負に荷電しており、正に荷電した成分(多くの細胞質蛋白)に結合します。これに染まる性質を好酸性といいます。
つまり「好塩基性=塩基性色素に染まりやすい=核酸に富む」ということです。名称が指しているのは色素の性質であって、染まる側の性質ではありません。ここを取り違えると設問を落とします。
この原理をそのまま使ったのがHE染色です。塩基性色素のヘマトキシリンが核を青紫色に、酸性色素のエオジンが細胞質を赤桃色に染めます。病理組織の基本染色であり、まずこれで全体像を把握します。
2. 異調染色性とトルイジンブルー
異調染色性(メタクロマジー)とは、色素本来の色とは異なる色に染まる現象です。青色の色素であるトルイジンブルーを用いたとき、赤紫色に染まるのがこれにあたります。
異調染色性を示す代表が肥満細胞(マスト細胞)の顆粒です。
なぜ肥満細胞なのかというと、その顆粒にヘパリンという強く硫酸化された多糖が高濃度で含まれているためです。密に並んだ負電荷に色素分子が高密度で結合すると、色素どうしが重合して吸収する光の波長が変化し、本来と異なる色に見えます。
肥満細胞のほかに、軟骨基質や粘液も異調染色性を示します。いずれも硫酸化された多糖を含むという共通点があります。
3. 主要な特殊染色
| 染色法 | 染まるもの | 所見 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| HE染色 | 核と細胞質 | 核は青紫、細胞質は赤桃 | 病理組織の基本 |
| ギムザ染色 | 血球、原虫 | — | 血液塗抹、バベシア、ヘモプラズマ |
| トルイジンブルー | 肥満細胞の顆粒、軟骨基質、粘液 | 異調染色性(赤紫) | 肥満細胞の同定 |
| PAS染色 | 多糖類(グリコーゲン、糖蛋白、真菌の細胞壁、基底膜) | 赤紫色 | 糖原蓄積病、真菌、基底膜の評価 |
| コンゴレッド | アミロイド | 橙赤色。偏光下で緑色の複屈折 | アミロイドーシスの確定 |
| チール・ネールゼン (抗酸菌染色) | 抗酸菌 | 赤色(背景は青) | 結核菌、ヨーネ菌の同定 |
| グラム染色 | 細菌の細胞壁 | 陽性は紫、陰性は赤 | 細菌の大分類 |
| 新メチレンブルー | 網赤血球のRNA、ハインツ小体 | 青色の顆粒 | 再生性の評価 |
| ズダンⅢ | 脂肪 | 赤〜橙 | 脂肪の証明。凍結切片が必要 |
| ベルリンブルー (鉄染色) | ヘモジデリン | 青色 | 鉄代謝の評価 |
- PAS陽性物質がグリコーゲンかどうか:ジアスターゼで処理するとグリコーゲンは分解されて消失します。処理前後で比較し、消えればグリコーゲン、残れば糖蛋白などと判別できます。
- アミロイドの確定:コンゴレッドで橙赤色に染まるだけでは不十分です。偏光顕微鏡下で緑色の複屈折を示すことが確定の決め手となります。
4. グラム染色の原理
図:グラム染色の4段階。クリスタルバイオレットとヨウ素で複合体を形成させるところまでは両者とも同じである。分かれるのはアルコールによる脱色の段階で、厚いペプチドグリカン層をもつ陽性菌は色素を保持し、薄い層に外膜をもつ陰性菌は脱色される。最後にサフラニンで後染色すると、脱色された陰性菌だけが赤く染まる。
第1段階と第2段階では、陽性菌も陰性菌も同じように紫色に染まります。差がつくのはアルコールによる脱色の段階です。
- グラム陽性菌は厚いペプチドグリカン層が色素とヨウ素の複合体を内部に保持するため、脱色されずに紫色のまま残ります。
- グラム陰性菌はペプチドグリカン層が薄く、外側に脂質に富む外膜があります。アルコールがこの外膜を溶かすため色素が流出して脱色されます。
最後にサフラニンで後染色すると、脱色された陰性菌だけが赤く染まるという結果になります。
なおマイコプラズマは細胞壁そのものをもたないため、グラム染色では染まりません。β-ラクタム系抗菌薬が無効である理由と同じ根拠から導けます。
5. 血液塗抹で用いる染色
| 目的 | 染色 | 所見 |
|---|---|---|
| 血球の一般的な観察 | ギムザ染色、ライト染色など | 核と細胞質の性状から細胞を分類する |
| 網赤血球の算定 | 新メチレンブルー染色 | 残存するRNAが青い顆粒として見える。通常の染色では多染性赤血球として観察される |
| ハインツ小体 | 新メチレンブルー染色 | 変性ヘモグロビンの凝集が明瞭に見える |
| 原虫の検出 | ギムザ染色 | 赤血球内のバベシア原虫、ヘモプラズマ |
球状赤血球のように、特殊染色を必要とせず通常の染色で形態から判断する所見もあります。何を見たいかによって染色を選ぶという発想が必要です。
6. 寄生虫検査法
| 方法 | 原理 | 対象 |
|---|---|---|
| 直接塗抹法 | 糞便をそのまま鏡検する | 原虫の栄養型、繊毛虫。運動性を見るため新鮮便が必須 |
| 浮遊法 | 比重の高い液(飽和食塩水、ショ糖液)に浮かせる | 線虫卵、原虫のオーシスト。比重の軽いもの |
| 沈殿法 | 遠心して沈める | 吸虫卵、条虫卵。比重の重いもの |
| セロハンテープ法 | 肛門周囲に貼付して虫卵を採取する | 肛門周囲に産卵する虫種 |
| ベールマン法 | 幼虫が水中へ移動する性質を利用する | 幼虫(糞線虫、肺虫) |
虫卵の比重で決まります。軽いものは浮かせて集め(浮遊法)、重いものは沈めて集める(沈殿法)という単純な原理です。
一般に線虫卵は軽く、吸虫卵と条虫卵は重いため、この対応で覚えられます。
7. 細菌の形態と配列
| 形態・配列 | 代表的な菌 |
|---|---|
| ブドウの房状の球菌 | 黄色ブドウ球菌 |
| 連鎖状の球菌 | レンサ球菌 |
| らせん状(S字・カモメ翼状) | カンピロバクター |
| 大型の桿菌が連鎖し莢膜をもつ | 炭疽菌 |
| 抗酸性を示す細長い桿菌 | 結核菌、ヨーネ菌 |
8. 国家試験で狙われるポイントの整理
- 「好塩基性」は塩基性色素に染まる性質。核酸に富むことを意味する。
- HE染色は核が青紫、細胞質が赤桃。
- 異調染色性を示す代表は肥満細胞の顆粒。ヘパリンによる。
- トルイジンブルーは青い色素だが、異調染色性では赤紫に染まる。
- PAS陽性物質がグリコーゲンかはジアスターゼ処理で判別する。
- アミロイドの確定は偏光顕微鏡下の緑色の複屈折。
- 抗酸菌はチール・ネールゼン染色で赤色に染まる。
- グラム染色で差がつくのはアルコール脱色の段階。
- 陽性菌は厚いペプチドグリカン層が色素を保持する。
- マイコプラズマは細胞壁がないためグラム染色されない。
- 網赤血球とハインツ小体は新メチレンブルー染色で観察する。
- ズダンⅢによる脂肪染色には凍結切片が必要。
- 線虫卵は浮遊法、吸虫卵・条虫卵は沈殿法。
9. 確認問題
Q1. トルイジンブルー染色で異調染色性を示す細胞を挙げ、その理由を述べよ。
A. 肥満細胞(マスト細胞)。顆粒に強く硫酸化された多糖であるヘパリンが高濃度に含まれ、密に並んだ負電荷に色素分子が高密度で結合する。結合した色素が重合することで吸収波長が変化し、青い色素であるトルイジンブルーによって赤紫色に染まる。
Q2. グラム染色において陽性菌と陰性菌で結果が分かれる段階と、その仕組みを述べよ。
A. アルコールによる脱色の段階。グラム陽性菌は厚いペプチドグリカン層が色素とヨウ素の複合体を保持するため脱色されず紫色のまま残る。グラム陰性菌はペプチドグリカン層が薄く外側に脂質に富む外膜をもち、アルコールが外膜を溶かすため色素が流出して脱色される。その後サフラニンで後染色すると陰性菌のみが赤く染まる。
Q3. PAS染色で陽性を示した物質がグリコーゲンであるかを確認する方法を述べよ。
A. ジアスターゼによる処理を行い、処理前後の標本を比較する。グリコーゲンはジアスターゼにより分解されるため陽性所見が消失する。消失しなければ糖蛋白など他の多糖類と判断される。
Q4. アミロイドの証明において、コンゴレッド染色だけでは不十分な理由を述べよ。
A. コンゴレッドで橙赤色に染まる物質はアミロイド以外にも存在しうるため。アミロイドの確定には、コンゴレッド染色標本を偏光顕微鏡下で観察し、緑色の複屈折を示すことを確認する必要がある。
Q5. 糞便検査における浮遊法と沈殿法の使い分けを、原理とともに述べよ。
A. 虫卵の比重の違いを利用する。比重の軽い線虫卵や原虫のオーシストは、比重の高い飽和食塩水やショ糖液に浮かせて集める浮遊法が適する。比重の重い吸虫卵や条虫卵は浮かばないため、遠心して沈める沈殿法を用いる。
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参考文献
- 新編 家畜薬理学 養賢堂
- 動物病理学各論 文永堂出版
- 動物病理学総論 文永堂出版
- 獣医微生物学 文永堂出版
- 犬と猫の血液アトラス 緑書房
- 獣医寄生虫学・寄生虫病学 講談社サイエンティフィク
- 農林水産省 獣医師国家試験(公式)