基礎獣医学 > 動物行動学と動物福祉
犬や猫の問題行動は、飼い主が手放す理由の上位にあり、獣医師が相談を受けることの多い分野です。国家試験では、必須問題を中心に、社会化期、分離不安、攻撃行動、動物福祉の考え方が繰り返し出題されています。
本記事では、「行動はどう身につくか → なぜ問題行動が起こるか → 動物の福祉をどう考えるか」の順に整理しました。
第73回〜第77回では、次のような形で出題されています。
- 発達:犬の社会化期(3〜12週齢)
- 問題行動:分離不安(トイレ以外での排泄、ビデオでの確認)、攻撃行動(主従関係の考え方の誤り)
- 動物福祉:5つの自由、家畜の輸送や積込みへの配慮、補助犬、実験動物の福祉
- 行動が身につくしくみ(慣れ、条件づけ)
- 犬と猫の社会化期と、その大切さ
- 分離不安の特徴と確かめ方
- 攻撃行動を「主従関係」で説明するのが誤りである理由
- 家畜や動物園の動物の常同行動
- 問題行動を改善する考え方と、罰を使わない理由
1. 行動はどう身につくか
- 慣れ:害のない刺激に何度もさらされると、反応しなくなる
- 古典的条件づけ:もともと関係のない刺激が、ある出来事と結びつく。たとえば、動物病院のにおいが痛い注射と結びつくと、そのにおいだけで怖がるようになる
- オペラント条件づけ:行動の結果によって、その行動が増えたり減ったりする。良いことが起こる行動は増え、嫌なことが起こる行動は減る
- 刷り込み:鳥のひなが、生まれてすぐ目にした動くものを親として覚える
2. 社会化期
社会化期は、人やほかの動物、音や場所などに慣れやすい特別な時期です。犬ではおよそ3〜12週齢、猫ではおよそ2〜7週齢とされます。この時期に、いろいろな人や動物、環境に怖くない形でふれさせておくと、成長してからの恐怖や攻撃の問題が起こりにくくなります。この時期を逃すと、知らないものを怖がりやすくなります。
3. 犬と猫の問題行動
3-1. 分離不安(犬)
- 特徴:飼い主と離れたときにだけ、吠え続ける、物を壊す、トイレ以外の場所で排泄するなどの行動がみられる。飼い主がいるときには起こらない
- 起こるタイミング:飼い主が出かけてすぐ(多くは30分以内)に始まることが多い
- 確かめ方:飼い主がいないときの様子は直接見られないため、ビデオで撮影して確かめるのが役に立つ
3-2. 攻撃行動
攻撃行動には、恐怖から身を守るもの、食べ物やおもちゃを守ろうとするもの、縄張りを守るもの、痛みによるものなど、さまざまな原因があります。痛みが原因のこともあるため、まず体の病気がないかを確かめます。
以前は、犬の攻撃行動を「犬が飼い主より上に立とうとしている」という主従関係(順位)で説明することがありましたが、現在の行動学ではこの考え方は支持されていません。多くの攻撃は恐怖や不安から起こります。主従関係を理由に力で押さえつけると、恐怖が強まって攻撃が悪化します。この点は過去問で問われています。
3-3. 猫の問題行動
- トイレ以外での排泄:トイレの汚れ、場所、砂の好みなど、トイレの環境が合わないことが多い。膀胱炎などの病気がないかも確かめる
- 尿のマーキング(スプレー):立ったまま壁などに少量の尿をかける。未去勢の雄に多い
- 過剰なグルーミング:ストレスで同じ場所をなめ続け、毛が抜ける
3-4. 常同行動
同じ動作を、目的なく繰り返し続ける行動です。狭く刺激の少ない環境で起こりやすく、動物の福祉が損なわれているサインとされます。
- 犬:自分の尾を追い回す、前肢をなめ続けて皮膚炎になる
- 馬:柵などに歯をかけて空気を飲み込む(さく癖)、体を左右に揺らし続ける(ゆう癖)
- 豚:ほかの豚の尾をかじる
- 牛:舌をくるくる回し続ける
4. 問題行動の改善の考え方
- 体の病気を除く:痛み、甲状腺の病気、膀胱炎などが行動を変えていないかを確かめる
- 環境を整える:原因となる刺激を減らし、その動物らしい行動ができる環境をつくる
- 行動を少しずつ変える:怖いものに、反応しない程度の弱さから少しずつ慣らす(系統的脱感作)。同時に、その刺激と良いこと(おやつなど)を結びつける(拮抗条件づけ)
- 罰を使わない:たたく、どなるなどの罰は、恐怖と不安を強め、攻撃を悪化させる
必要に応じて、不安を和らげる薬が補助として使われることもあります。
5. 動物福祉の考え方
- 5つの自由:飢えと渇きからの自由、不快からの自由、痛み・負傷・病気からの自由、恐怖と苦悩からの自由、正常な行動を示す自由。国際獣疫事務局(WOAH)も、動物福祉を考える指針としている(動物愛護管理法と動物福祉の解説)
- 家畜のアニマルウェルフェア:飼う場所の広さや環境だけでなく、輸送、積込みと積下ろし、と畜のときにも、恐怖や苦痛を減らす配慮が求められる
- 動物介在活動・動物介在療法:動物とのふれあいを、人の心身の健康や治療に役立てる。参加する動物自身の福祉と健康、衛生にも配慮する
- 補助犬:盲導犬、介助犬、聴導犬。身体障害者補助犬法で、施設や交通機関は同伴を原則として拒めない
- 実験動物:3R(代替・削減・苦痛の軽減)で福祉を守る(実験動物の解説)
6. 動物行動学と動物福祉で国家試験に狙われるポイント
- 学習:慣れ、古典的条件づけ(刺激の結びつき)、オペラント条件づけ(行動の結果で増減)、刷り込み
- 社会化期:犬はおよそ3〜12週齢、猫はおよそ2〜7週齢
- 分離不安:飼い主の不在時だけ、吠え・破壊・トイレ以外での排泄、ビデオで確認
- 攻撃行動:恐怖・所有・縄張り・痛みなど。主従関係で説明するのは誤り、罰は悪化させる
- 猫:トイレの環境、未去勢雄のスプレー、過剰なグルーミング
- 常同行動:福祉が損なわれているサイン(馬のさく癖・ゆう癖、豚の尾かじり、牛の舌遊び)
- 改善:病気を除く、環境を整える、系統的脱感作と拮抗条件づけ、罰を使わない
- 福祉:5つの自由、家畜の輸送・積込みへの配慮、動物介在活動、補助犬、3R
7. 動物行動学と動物福祉の確認問題
Q1. 犬の社会化期はおよそ何週齢か。また、この時期が大切な理由を述べよ。
A. およそ3〜12週齢。人や動物、音や場所などに慣れやすい時期で、ここで怖くない形でいろいろなものにふれさせておくと、成長してからの恐怖や攻撃の問題が起こりにくくなるため。
Q2. 分離不安が疑われる犬で、症状を確かめるのに役立つ方法を答えよ。
A. 飼い主が不在のときの様子をビデオで撮影して確かめる。分離不安の症状は、飼い主がいないときにだけ起こるため。
Q3. 犬の攻撃行動を「飼い主との主従関係が崩れているから」と説明することの問題点を述べよ。
A. 現在の行動学では支持されておらず、多くの攻撃は恐怖や不安から起こる。主従関係を理由に力で押さえつけると、恐怖が強まって攻撃が悪化する。
Q4. 常同行動とは何か。馬の例を1つ挙げて説明せよ。
A. 同じ動作を目的なく繰り返し続ける行動で、動物の福祉が損なわれているサインとされる。馬では、柵に歯をかけて空気を飲み込むさく癖や、体を左右に揺らし続けるゆう癖がある。
Q5. 動物福祉の「5つの自由」をすべて挙げよ。
A. 飢えと渇きからの自由、不快からの自由、痛み・負傷・病気からの自由、恐怖と苦悩からの自由、正常な行動を示す自由。
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詳細な解説
- 分野別まとめ:基礎獣医学 — 学説試験Aの科目の配置と、基礎獣医学全体の出題傾向を整理しています。
- 動物愛護管理法と動物福祉 — 5つの自由と、動物の虐待・遺棄の禁止を扱います。
- 実験動物 — 実験動物の福祉と3Rを扱います。
- 分野別まとめ:獣医事法規 — 職業倫理と事例問題の考え方を整理しています。
参考文献
- 犬と猫の治療ガイド インターズー
- 農林水産省 獣医師国家試験(公式)