臨床獣医学 > 麻酔 > 麻酔薬と鎮静薬の作用機序
麻酔薬と鎮静薬の問題は、必須問題と学説Aで繰り返し出題されています。問われるのは、「どの受容体に作用し、その結果として体に何が起きるか」です。副作用も、この作用点から導けます。
本記事では、吸入麻酔薬、注射麻酔薬、鎮静薬の順に、作用点と特徴、そして拮抗薬を整理しました。
過去の出題では、次の形式が問われています。
- 吸入麻酔薬:MACの意味と数値(1.3%)
- 注射麻酔薬:チオペンタール、プロポフォール、ケタミン
- 鎮静薬:メデトミジンのα2アドレナリン受容体への作用、アセプロマジン
- MACと血液/ガス分配係数の意味
- GABAA受容体に働く注射麻酔薬と、それぞれの特徴
- NMDA受容体を遮断するケタミンの特殊な麻酔
- α2作動薬の鎮静・鎮痛と、徐脈・嘔吐・高血糖などの副作用
- ベンゾジアゼピンとフェノチアジンの違い
- それぞれの拮抗薬
1. 吸入麻酔薬
1-1. MAC — 麻酔の強さの物差し
MAC(最小肺胞濃度)は、50%の動物が皮膚の切開などの痛みの刺激に体を動かさなくなる肺胞の濃度です。MACが小さいほど、少ない濃度で効く強力な薬です。犬のイソフルランのMACは約1.3%、セボフルランは約2%余りです。手術はおおむねMACの1.2〜1.5倍の濃度で行います。
MACは、年齢が高いほど、また体温が低いほど小さくなり、鎮静薬やオピオイドを併用すると小さくなります。つまり併用すれば吸入麻酔薬の濃度を下げられるということで、これがバランス麻酔の考え方につながります。
1-2. 血液/ガス分配係数 — 導入と覚醒の速さ
血液/ガス分配係数は、吸入麻酔薬が血液にどれだけ溶けやすいかを表します。小さいほど血液に溶けにくく、肺胞の濃度がすぐに上がって脳の濃度も早く上がるため、導入と覚醒が速くなります。セボフルランはイソフルランより分配係数が小さく、導入と覚醒が速い薬です。
MACは強さ(小さいほど強い)、血液/ガス分配係数は速さ(小さいほど速い)を表します。どちらも「小さいほうが〜」なので、何の物差しかを取り違えないよう注意してください。
1-3. 吸入麻酔薬に共通する作用
濃度に応じて血管を広げ、心臓の収縮を弱めるため血圧が下がり、呼吸を抑えます。ほとんど代謝されずに肺から出ていくため、肝臓や腎臓の悪い動物にも使いやすいのが特徴です。
2. 注射麻酔薬
2-1. GABAA受容体に働く薬
GABAA受容体は、神経を抑える塩化物イオンのチャネルです。次の薬は、この受容体の働きを強めて意識を失わせます。
- プロポフォール:導入も覚醒も速い。呼吸の抑制(無呼吸)と血圧の低下が起こりやすい。鎮痛作用はほとんどない。猫では繰り返し使うと、赤血球にハインツ小体ができることがある
- チオペンタール(超短時間作用型のバルビツール酸):効きめがすぐ切れるのは、脳から脂肪などへ移っていく(再分布)ためで、代謝されて消えたからではない。そのため繰り返し使うと体にたまって覚醒が遅れる。体脂肪の少ないグレイハウンドでは覚醒が遅れやすい。血管の外へ漏れると組織が壊死する
- アルファキサロン:神経ステロイドの麻酔薬。心臓や血管への影響が比較的少ない
2-2. ケタミン — NMDA受容体の遮断
ケタミンは、興奮性の神経伝達を担うNMDA受容体を遮断します。脳の一部の働きを切り離すような解離性麻酔で、次の特徴があります。
- 眼を開けたままで、眼瞼反射や咽頭反射が残る
- 筋の緊張が高まる(こわばる)。そのため、筋を弛緩させる鎮静薬と組み合わせて使う
- 交感神経を刺激して、心拍と血圧を上げる
- 体の表面の痛みに対する鎮痛作用がある
- 唾液が増える
3. 鎮静薬
3-1. α2作動薬(メデトミジン、キシラジン)
脳のα2アドレナリン受容体を刺激してノルアドレナリンの放出を抑え、鎮静・鎮痛・筋弛緩をもたらします。1つの薬で3つの作用をもつ便利な薬ですが、副作用も作用点から導けます。
- 徐脈と血圧の変化:末梢の血管が収縮して一時的に血圧が上がり、それに反応して心拍が下がる。中枢の作用でも心拍が下がる
- 嘔吐:とくに猫で多い
- 高血糖:膵臓からのインスリンの分泌を抑える
- 尿量の増加
- 動物種差:牛はキシラジンへの感受性が非常に高く、馬よりずっと少ない量で効く
拮抗薬は、α2受容体を遮断するアチパメゾールです。
3-2. ベンゾジアゼピン(ミダゾラム、ジアゼパム)
GABAA受容体のベンゾジアゼピン結合部位に作用して、鎮静、抗けいれん、筋弛緩をもたらします。心臓や呼吸への影響が少ないのが特徴で、ケタミンと組み合わせて筋のこわばりを抑えるのに使われます。拮抗薬はフルマゼニルです。
3-3. フェノチアジン(アセプロマジン)
ドパミンD2受容体を遮断して鎮静と吐き気の抑制をもたらし、α1受容体を遮断して血管を広げます。
- 血圧の低下:α1受容体の遮断による
- 鎮痛作用はない
- 体温の低下
- 拮抗薬がない
- 雄の馬では、陰茎が出たまま戻らなくなることがある
3-4. 抗コリン薬(アトロピン)
ムスカリン受容体を遮断して、迷走神経による徐脈を防ぎ、唾液や気道の分泌を減らします。
4. 拮抗薬のまとめ
- α2作動薬(メデトミジン、キシラジン)→ アチパメゾール
- ベンゾジアゼピン(ミダゾラム)→ フルマゼニル
- オピオイド(フェンタニル、モルヒネ)→ ナロキソン
- フェノチアジン(アセプロマジン)、プロポフォール、吸入麻酔薬 → 拮抗薬なし
5. 麻酔薬と鎮静薬で国家試験に狙われるポイント
- MAC:50%の動物が切開に反応しない肺胞の濃度。小さいほど強力。犬のイソフルランは約1.3%
- 血液/ガス分配係数:小さいほど導入と覚醒が速い(セボフルラン<イソフルラン)
- GABAA:プロポフォール(呼吸抑制、猫のハインツ小体)、チオペンタール(再分布、グレイハウンド)、アルファキサロン
- ケタミン:NMDA受容体の遮断、解離性麻酔、反射が残る、筋のこわばり、心拍と血圧の上昇
- α2作動薬:鎮静・鎮痛・筋弛緩。徐脈、嘔吐(猫)、高血糖。牛はキシラジンに感受性が高い。拮抗はアチパメゾール
- ベンゾジアゼピン:鎮静・抗けいれん・筋弛緩、循環への影響が少ない。拮抗はフルマゼニル
- アセプロマジン:D2とα1の遮断。低血圧、鎮痛作用なし、拮抗薬なし
6. 麻酔薬と鎮静薬の確認問題
Q1. 吸入麻酔薬のMACとは何か。また、MACの値と麻酔薬の強さの関係を述べよ。
A. 50%の動物が皮膚の切開などの痛みの刺激に体を動かさなくなる肺胞の濃度。MACが小さいほど、少ない濃度で効く強力な麻酔薬である。
Q2. セボフルランがイソフルランより導入と覚醒が速い理由を述べよ。
A. セボフルランは血液/ガス分配係数が小さく血液に溶けにくいため、肺胞と脳の濃度が早く上がり、また早く下がるから。
Q3. チオペンタールの効きめが短いのに、繰り返し投与すると覚醒が遅れる理由を述べよ。
A. 効きめが切れるのは代謝ではなく、脳から脂肪などへ移っていく再分布によるため。繰り返し投与すると脂肪などにたまって移る先がなくなり、血中の濃度が下がりにくくなるから。
Q4. メデトミジンの作用点と、副作用として起こる徐脈・高血糖のしくみを述べよ。
A. α2アドレナリン受容体を刺激する。末梢の血管が収縮して血圧が一時的に上がり、それに反応して心拍が下がる(中枢の作用でも心拍が下がる)。また、膵臓からのインスリンの分泌を抑えるため高血糖になる。
Q5. アセプロマジンで血圧が下がる理由と、この薬の拮抗薬について述べよ。
A. α1受容体を遮断して血管を広げるため血圧が下がる。アセプロマジンには拮抗薬がない。
関連コンテンツ
理解度チェック
- ふつう:薬理学フローチャート — 麻酔・鎮静・鎮痛に使う薬を、系統・受容体・作用の順にたどれます。
詳細な解説
- 分野別まとめ:麻酔学 — 全身麻酔の4つの要素と、動物種による違いを整理しています。
- 流れでたどる:痛みと鎮痛薬 — 侵害受容器から脳までの痛みの流れと、鎮痛薬の作用点を図で確認できます。
- 鎮痛と局所麻酔 — オピオイドと局所麻酔薬、神経ブロックを扱います。
- 解説ブック:犬と猫の鎮痛薬・鎮静薬・麻酔薬 — 作用機序から臨床での位置づけまでを体系的に扱います。
- 超簡単まとめ:自律神経系 — α2受容体や抗コリン薬のしくみを図解で確認できます。
参考文献
- 新編 家畜薬理学 養賢堂
- CAP 緑書房
- SA Medicine インターズー
- 農林水産省 獣医師国家試験(公式)