臨床獣医学 > 麻酔
麻酔学は苦手な人が多い分野ですが、国家試験で問われているのは、麻酔薬がどこに作用するか(薬理)と、麻酔中に体で何が起きているか(生理)という基礎です。この2つがわかれば、確実に得点できる分野です。
本ページでは、全身麻酔を4つの要素に分け、それぞれをどの薬が担うかを軸に整理します。そこに、モニタリングと動物種による違いを重ね、重要テーマの詳細へ案内します。
出題数は多くありませんが、必須問題と学説Aに集中しています。吸入麻酔薬のMAC、注射麻酔薬と鎮静薬の作用点、オピオイドの受容体、局所麻酔薬の性質、硬膜外麻酔の部位、換気のモニタリングが問われています。
本ページの出題傾向は、第73回〜第77回(全1,650問)を編集部が分類集計したものです。
1. 麻酔学の出題傾向
- 必須問題:MACの意味と数値、フェンタニル、チオペンタールなど、麻酔薬の基本
- 学説試験A:プロポフォール・ケタミン・アセプロマジン・メデトミジンの作用、局所麻酔薬の性質、硬膜外麻酔の部位(L7–S1)、神経ブロックの範囲、換気の指標としてのPaCO₂
- 学説試験B:鎮痛薬(ブプレノルフィンとブトルファノール)、大動物の手術時の輸液
- 実地試験:麻酔器の二酸化炭素吸収装置、気管チューブによる気道の損傷
2. 全身麻酔の4つの要素
全身麻酔は、次の4つの要素がそろった状態です。1つの薬ですべてをまかなうと量が多くなり、心臓や呼吸への負担が大きくなるため、役割の違う薬を組み合わせてそれぞれの量を減らします(バランス麻酔)。
- 意識の消失:吸入麻酔薬、プロポフォール、アルファキサロン、チオペンタールなど
- 鎮痛:オピオイド、α2作動薬、ケタミン、局所麻酔薬、NSAID
- 筋弛緩:ベンゾジアゼピン、α2作動薬、筋弛緩薬
- 有害な反射の抑制:手術の刺激による心拍や血圧の急な変化を抑える。抗コリン薬は迷走神経による徐脈を防ぐ
麻酔薬は名前ではなく、「4つの要素のどれを担うか」と「どの受容体に作用するか」の2点で覚えてください。たとえば、プロポフォールは意識を失わせるが鎮痛作用はほとんどなく、オピオイドは強い鎮痛をもたらすが単独では意識を失わせません。だから組み合わせて使うのです。
3. 学説A対策 — 麻酔薬と鎮静薬
- 吸入麻酔薬:強さはMAC(50%の動物が皮膚の切開に体動で反応しなくなる肺胞の濃度)で表し、MACが小さいほど強力。犬のイソフルランのMACは約1.3%。血液/ガス分配係数が小さいほど血液に溶けにくく、導入と覚醒が速い(セボフルランはイソフルランより速い)
- 注射麻酔薬:プロポフォール・チオペンタール・アルファキサロンはGABAA受容体の働きを強めて意識を失わせる。ケタミンはNMDA受容体を遮断する解離性麻酔薬
- 鎮静薬:α2作動薬(メデトミジン、キシラジン)、ベンゾジアゼピン(ミダゾラム)、フェノチアジン(アセプロマジン)。それぞれに作用点と注意点がある
くわしくは麻酔薬と鎮静薬の作用機序の詳細解説で扱っています。
4. 学説A対策 — 鎮痛と局所麻酔
- オピオイド:μ受容体の完全作動薬(フェンタニル、モルヒネ)、部分作動薬(ブプレノルフィン)、κ作動・μ拮抗薬(ブトルファノール)で、鎮痛の強さと性質が違う
- 局所麻酔薬:神経のNaチャネルを遮断して興奮の伝導を止める。よく興奮している神経ほど効きやすく、細い神経線維から先に効く
- 硬膜外麻酔:犬と猫では腰仙椎間(L7–S1)から、牛では尾椎の間から注入する
- NSAID:シクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害する。猫は代謝が弱く中毒を起こしやすい
くわしくは鎮痛と局所麻酔の詳細解説で扱っています。
5. モニタリングと合併症
- SpO₂(パルスオキシメーター)は酸素化、EtCO₂(カプノグラフィ)とPaCO₂は換気の指標。この区別が最も問われる
- 麻酔の深さ:眼瞼反射、眼球の位置、顎の緊張、呼吸と心拍で判断する
- 術前の評価:全身状態をASA分類で5段階に分ける
- 合併症:低血圧、低換気、低体温、誤挿管、気管チューブによる気道の損傷、悪性高熱症
くわしくは麻酔のモニタリングと合併症の詳細解説で扱っています。
6. 動物種による違い
馬体の大きさと覚醒
体重が重いため、長時間横に寝かせると、体の下になった筋や神経が圧迫されて傷み、麻酔後の筋障害や神経麻痺が起こることがあります。覚醒して立ち上がるときに転倒し、骨折する危険もあります。また、横になると肺の下側に血液が集まり空気が入りにくくなるため、低酸素血症になりやすい動物です。
牛反芻動物の消化管と感受性
麻酔や鎮静で反芻とあい気が止まり、第一胃にガスがたまって鼓脹します。第一胃の内容が逆流して誤嚥する危険もあります。唾液の量も多く、キシラジンへの感受性が馬よりずっと高いため、少ない量で強く効きます。そのため、牛の手術の多くは、全身麻酔ではなく立ったままの局所麻酔(傍腰椎神経ブロックや尾椎の硬膜外麻酔)で行われます。
猫代謝と気道
猫は肝臓のグルクロン酸抱合の働きが弱く、NSAIDやアセトアミノフェンなどで中毒を起こしやすい動物です(超簡単まとめ「薬物代謝と生体関門」)。喉頭が刺激でけいれんしやすく、気管が細いため、気管チューブのカフの膨らませすぎで気管が裂けることがあります。
犬短頭種
短頭種は、麻酔の導入時と抜管後に上部気道がふさがりやすく、陰圧性肺水腫の危険があります(短頭種気道症候群の解説)。
7. 学習教材
理解度チェックと詳細な解説
- ふつう:フローチャート — 薬理学フローチャート。鎮静薬や鎮痛薬を、系統・受容体・作用の順にたどれます
- 解説ブック:犬と猫の鎮痛薬・鎮静薬・麻酔薬 — 痛みの生理から作用機序までを体系的に扱います
- 超簡単まとめ:自律神経系 — α2受容体や抗コリン薬のしくみ
- 分野別まとめ:外科学 — 手術に関わる組織の治り方と原理
8. 麻酔学の勉強法 ― おすすめの学習順序
- 4つの要素:本ページ第2章で、どの薬が何を担うかをつかむ
- 麻酔薬と鎮静薬:受容体と作用点、拮抗薬を押さえる
- 鎮痛と局所麻酔:オピオイドの受容体と、局所麻酔薬・硬膜外麻酔の部位を覚える
- モニタリング:酸素化と換気の指標を区別し、合併症を理解する
- 動物種差:本ページ第6章で、馬・牛・猫の注意点を確認する
手術の基礎は外科学の分野別まとめから、臓器ごとの病気は臨床獣医学 > 内科のページから進めます。
参考文献
- 家畜外科学 金原出版
- 新編 家畜薬理学 養賢堂
- CAP 緑書房
- SA Medicine インターズー
- 犬と猫の治療ガイド インターズー
- 農林水産省 獣医師国家試験(公式)