VET STUDY LIBRARY / 解説ブック
犬と猫の緑内障
房水の流れから読み解く
病態・併発症・薬の作用機序
- 生理学
- 発症のしくみ
- 併発症
- 薬理
この本の読み方
緑内障は、眼圧が上がって視神経と網膜が傷み、見えなくなる病気です。犬では激しい痛みとともに数時間から数日で失明することもある緊急の病気で、猫ではほかの眼の病気に続いてゆっくり進み、気づかれにくいのが特徴です。
病名や薬の名前は多いものの、すべては「房水がつくられ、流れ、出ていく」という一本の流れで説明できます。この本では、まず正常な流れを押さえ、どこが詰まると緑内障になるのか、眼圧が上がると眼に何が起こるのか、そして薬が流れのどこに働くのかを、順に読み解きます。
- 第1章 生理学房水をつくる・流す・出す
- 第2章 発症のしくみ出口が詰まる理由と視神経の障害
- 第3章 併発症眼圧の上昇が眼に残すもの
- 第4章 薬の作用機序流れのどこに働くか
CHAPTER 1 PHYSIOLOGY
眼圧を決める生理学 ― 房水をつくる・流す・出す
眼の中は、透明な液体である房水で満たされ、一定の圧(眼圧)で丸い形を保っています。眼圧は、房水がつくられる量と出ていく量の釣り合いで決まります。
1-1 房水の役割
角膜と水晶体には、透明であるために血管がありません。房水は、これらの組織に酸素と栄養を届け、老廃物を運び去る、血液の代わりの役目を担っています。同時に、眼球の中から一定の圧をかけて眼の形を保ち、光が正しく網膜に像を結ぶようにしています。
図1 眼球の断面と房水の流れ
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房水は毛様体でつくられ、虹彩の後ろ(後房)から瞳孔を通って前房に入り、角膜と虹彩の境目である隅角から眼の外へ出ていく。
1-2 房水をつくる ― 毛様体の上皮
房水は、虹彩の根もとの奥にある毛様体の、ひだ状の突起(毛様体突起)でつくられます。突起の表面は2層の上皮でおおわれ、内側の色素のない上皮(無色素上皮)が房水をつくる主役です。つくり方には3つのしくみがあります。
- 拡散:濃いほうから薄いほうへ、物質が自然に移る
- 限外濾過:毛様体の血管から、血漿の水分が圧で押し出される
- 能動分泌(主役):無色素上皮のNa⁺/K⁺-ATPaseがナトリウムをくみ出し、炭酸脱水酵素が重炭酸イオン(HCO₃⁻)をつくる。これらのイオンを追いかけて、水が浸透圧で移動し、房水になる
能動分泌は自律神経の調節も受けます。毛様体上皮のβ受容体(主にβ2)が刺激されると房水の産生が増え、α2受容体が刺激されると減ります。この「炭酸脱水酵素」「β受容体」「α2受容体」が、第4章で解説する薬の標的になります。
無色素上皮の細胞どうしは固く結合していて、血液中のタンパク質や細胞が房水に入らないよう守っています(血液房水関門)。ぶどう膜炎でこの関門が壊れると、タンパク質やフィブリン、炎症細胞が房水に入り、隅角を詰まらせる原因になります(第2章)。
1-3 房水が流れる道すじ
- 毛様体でつくられた房水は、まず虹彩と水晶体のあいだの後房に出る
- 虹彩と水晶体のすき間を通り、瞳孔から前に出る
- 角膜と虹彩のあいだの前房を満たし、角膜の内側を栄養する
- 角膜と虹彩の根もとがつくる角、隅角から眼の外へ出ていく
この道すじのどこか1か所でも流れが止まると、房水が出ていけずにたまり、眼圧が上がります。瞳孔のところで止まる場合(瞳孔ブロック)と、隅角で止まる場合が代表です。
1-4 房水が出ていく2つの道
図2 隅角の拡大図と2つの排出路
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①従来路:櫛状靱帯のすき間から毛様体裂の線維柱帯を通り、房水静脈叢から強膜の静脈へ。②ぶどう膜強膜路:毛様体筋のすき間を通り、脈絡膜の上の隙間から強膜の外へ。
① 従来路(線維柱帯の道)
犬や猫の隅角には、虹彩の根もとから角膜の周辺へ向かって細い線維が櫛の歯のように並んでいます。これが櫛状靱帯です。房水は櫛状靱帯のすき間を通り、その奥の毛様体裂に入ります。毛様体裂の中には、スポンジのような網目の組織(線維柱帯)があり、房水はここで濾されながら、人のシュレム管にあたる房水静脈叢に集められ、強膜の静脈へ流れていきます。
線維柱帯は毛様体筋とつながっていて、毛様体筋が縮むと網目が引き広げられ、房水が流れやすくなります。縮瞳薬が従来路の流れをよくするのはこのためです。
② ぶどう膜強膜路(毛様体筋のすき間の道)
房水の一部は、線維柱帯を通らずに、毛様体筋の筋線維のあいだを抜けて、脈絡膜と強膜のあいだの隙間に入り、強膜を通り抜けて眼の外へ出ていきます。圧にあまり左右されない、もう一つの出口です。
犬では房水のおよそ85%が従来路、15%がぶどう膜強膜路から出ていきます。一方、猫ではぶどう膜強膜路はわずか3%ほどで、ほとんどを従来路に頼っています。ぶどう膜強膜路を広げる薬(プロスタグランジン関連薬)が、犬ではよく効くのに猫ではほとんど効かない理由の一つがここにあります(第4章)。
1-5 眼圧の測り方と隅角の見方
犬と猫の正常な眼圧は、およそ10〜25 mmHgです。眼圧計(反跳式や圧平式)で角膜に軽く触れて測ります。眼圧は時刻によって変動し、興奮や保定の力、首の圧迫でも高く出るため、落ち着いた状態で左右を比べることが大切です。
隅角は角膜の陰に隠れていて、そのままでは見えません。隅角鏡というレンズを角膜にのせると、櫛状靱帯の形や隅角の広さを観察できます。犬の原発緑内障の診断や、反対側の眼の危険度を見積もるのに使われます。
- 眼圧は「房水がつくられる量」と「出ていく量」の釣り合いで決まる
- 房水は毛様体の無色素上皮で、Na⁺/K⁺-ATPaseと炭酸脱水酵素の働きでつくられ、β受容体で増え、α2受容体で減る
- 流れ:毛様体 → 後房 → 瞳孔 → 前房 → 隅角
- 出口は従来路(櫛状靱帯・線維柱帯・房水静脈叢)とぶどう膜強膜路。猫はぶどう膜強膜路がとても少ない
CHAPTER 2 PATHOGENESIS
緑内障が起きるしくみ ― 出口が詰まる理由と視神経の障害
緑内障のほとんどは、房水がつくられすぎるのではなく、出ていけなくなることで起こります。どこで、なぜ詰まるのかによって、原発緑内障と続発緑内障に分けられます。
2-1 緑内障の分け方
- 原発緑内障:眼にほかの病気がないのに、生まれつきの隅角の異常などで起こる。遺伝が関わり、いずれ両眼に起こることが多い。犬に多い
- 続発緑内障:ぶどう膜炎、水晶体の脱臼、眼の中の腫瘍、出血など、ほかの眼の病気が出口をふさいで起こる。犬にも多く、猫ではほとんどがこれ
- 先天緑内障:隅角そのものが正しく発生しなかったために、若いうちから起こる。まれ
2-2 犬の原発緑内障
原発閉塞隅角緑内障 ― 櫛状靱帯の形成異常
犬の原発緑内障で最も多い型です。本来は細い線維が並ぶ櫛状靱帯が、太い帯や板のようにつながってしまい(櫛状靱帯の形成異常)、房水の通り道がほとんどありません。年齢とともに毛様体裂も狭くなり、あるとき隅角がふさがって、眼圧が一気に跳ね上がる急性発作を起こします。
図3 隅角の3つの状態
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正常では細い櫛状靱帯のすき間を房水が通る。形成異常では靱帯が板状になり、すき間がほとんどない。閉塞では虹彩の根もとが角膜側に押しつけられ、出口がふさがる。
- 好発犬種:アメリカン・コッカー・スパニエル、柴犬、秋田犬、シーズー、バセット・ハウンドなど
- 引き金:暗い場所で瞳孔が開いたとき、興奮、眼の中の炎症など。瞳孔が開くと、虹彩の根もとが厚くなって隅角に寄り、狭い隅角が閉じやすくなる
- 反対側の眼:片眼に発作が起きた犬では、もう片方の眼も数か月のうちに発作を起こすことが多い。そのため、発作が起きていない眼にも予防の治療を考える
原発開放隅角緑内障
隅角は開いているのに、線維柱帯の流れが悪いために、眼圧がゆっくり上がっていく型です。ビーグルでは遺伝子の変異が知られています。急な発作は起こさず、徐々に視覚が失われていきます。
2-3 犬の続発緑内障
図4 続発緑内障の3つのしくみ
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ぶどう膜炎で虹彩が水晶体にくっつくと、後房の房水が前へ出られず虹彩が前に膨らむ(虹彩膨隆)。水晶体が前に外れると、瞳孔と隅角をふさぐ。猫では房水が硝子体に流れ込み、水晶体と虹彩が前へ押し出される。
- ぶどう膜炎:炎症で血液房水関門が壊れ、炎症細胞やフィブリンが隅角を詰まらせる。虹彩が水晶体にくっつく後癒着が瞳孔の全周に起きると、房水が瞳孔を通れなくなり、虹彩が前に膨らんで隅角をふさぐ(虹彩膨隆)。虹彩の根もとが角膜にくっつく周辺虹彩前癒着も出口を閉じる
- 水晶体の脱臼:水晶体を支えるチン小帯が切れて、水晶体が外れる。テリア種(ジャック・ラッセル・テリアなど)には遺伝性の原発水晶体脱臼がある。前方に外れると瞳孔と隅角を直接ふさぎ、後方に外れても硝子体が前に出て瞳孔をふさぐことがある
- 眼の中の腫瘍:前部ぶどう膜の黒色腫、リンパ腫などが隅角に入り込んだり、出口を物理的にふさいだりする
- 前房出血:外傷、高血圧、血が固まりにくい病気などで、血液が隅角を詰まらせる
- そのほか:ケアーン・テリアの色素が隅角にたまる型、白内障(とくに水晶体の成分が漏れて起こるぶどう膜炎)や白内障の手術のあと
2-4 猫の緑内障
猫の緑内障は、ほとんどが続発緑内障です。原発緑内障はシャムやバーミーズなどでまれにみられる程度です。
- 慢性のぶどう膜炎:最も多い原因。猫伝染性腹膜炎、猫白血病ウイルス、猫免疫不全ウイルス、トキソプラズマ症などの感染症や、原因のはっきりしない炎症が背景にある
- 眼の中の腫瘍:猫で最も多い眼内腫瘍である虹彩のびまん性黒色腫や、リンパ腫
- 房水の誤流:高齢の猫で、房水が前ではなく硝子体のほうへ流れ込み、ふくらんだ硝子体が水晶体と虹彩を前に押し出す。前房がとても浅くなり、両眼にゆっくり進む
猫は痛みを隠すうえ、眼圧の上がり方がゆっくりなことが多いため、瞳孔が開いたまま、眼が大きくなった、元気がないといった変化で初めて気づかれることが少なくありません。慢性のぶどう膜炎がある猫では、定期的に眼圧を測ることが早期発見につながります。
2-5 眼圧が上がると視神経が傷むしくみ
緑内障で失明するのは、網膜の神経節細胞と、その軸索が束になった視神経が傷むためです。眼の奥で視神経が眼球を出ていく部分(視神経乳頭)には、軸索が通り抜けるふるいのような板、篩状板があります。
図5 視神経乳頭の障害
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眼圧が高いと篩状板が後ろへ押されて曲がり、そこを通る神経節細胞の軸索が締めつけられる。乳頭はえぐれたように深くなる(陥凹)。
- 押しつぶされる:高い眼圧で篩状板が後ろへ曲がり、軸索が締めつけられる。軸索の中で栄養や物質を運ぶ流れ(軸索輸送)が止まる
- 血が届かなくなる:眼の中の圧が血管の圧に近づくと、視神経乳頭と網膜の血流が落ち、組織が酸素不足になる
- 神経細胞が死ぬ:栄養の不足と酸素不足に、興奮性の神経伝達物質(グルタミン酸)の過剰や活性酸素が加わり、神経節細胞がアポトーシスで死ぬ。死んだ細胞から出た物質が、周りの細胞の死を広げる
犬の急性発作では、眼圧が正常の数倍に跳ね上がることがあり、数時間から数日で、元に戻らない失明に至ります。死んだ神経節細胞は再生しないため、視覚を守るには、できるだけ早く眼圧を下げることが何より重要です。
- 緑内障の多くは房水が「出ていけない」ことで起こる
- 犬の原発緑内障は櫛状靱帯の形成異常による閉塞隅角型が多く、急性発作を起こし、反対側の眼にも起こりやすい。ビーグルには開放隅角型がある
- 続発緑内障の原因は、ぶどう膜炎(虹彩膨隆・前癒着)、水晶体脱臼(テリア種)、眼内腫瘍、前房出血
- 猫はほとんどが続発性(慢性ぶどう膜炎、虹彩の黒色腫、房水の誤流)
- 視神経は、篩状板での圧迫・血流の低下・神経節細胞のアポトーシスで傷む
CHAPTER 3 COMPLICATIONS
併発症 ― 眼圧の上昇が眼に残すもの
高い眼圧は、視神経だけでなく、角膜、虹彩、水晶体、眼球そのものにも変化を起こします。どの変化も、「圧がかかると何が起こるか」から説明できます。
| 併発症 | 見え方 | なぜ起こるか |
|---|---|---|
| 角膜の浮腫 | 角膜が青白く濁る | 角膜の内側の細胞(角膜内皮)は、水をくみ出して角膜を透明に保っている。高い眼圧に負けて水が角膜に入り込み、むくむ |
| 上強膜血管の充血 | 白目の太い血管が赤く浮き出る | 房水の出口の先にある静脈の圧が上がり、血液が滞る |
| 散瞳と対光反射の消失 | 瞳孔が開いたまま、光に反応しない | 瞳孔を縮める筋(瞳孔括約筋)が圧と血流の低下で働かなくなる。網膜と視神経が傷むと、光の信号も届かない |
| 牛眼(眼球の拡大) | 片眼だけが大きく見える | 高い眼圧が続くと、強膜が引き伸ばされて眼球が大きくなる。強膜が柔らかい若い動物や猫で起こりやすい |
| ハーブ線 | 角膜に線状の白い筋 | 眼球が大きくなるときに角膜も引き伸ばされ、角膜の内側の膜(デスメ膜)が裂ける |
| 水晶体の亜脱臼・脱臼 | 水晶体の縁が見える、水晶体が揺れる | 眼球が大きくなると、水晶体を支えるチン小帯が引き伸ばされて切れる。脱臼は緑内障の原因にも結果にもなる |
| 露出性角膜炎・角膜潰瘍 | 角膜の乾燥、傷 | 大きくなった眼球をまぶたが覆いきれず、角膜が乾く |
| 網膜の変性と視神経の萎縮 | 失明、眼底でタペタムの反射が強くなる | 神経節細胞が死んで網膜が薄くなり、視神経乳頭がえぐれて萎縮する |
| 眼球癆 | 眼が小さく縮む(末期) | 長く続いた障害で毛様体が壊れ、房水がつくられなくなる |
3-1 痛み
眼圧の急な上昇は強い痛みを起こします。犬は眼をしょぼつかせる(眼瞼痙攣)、頭を触られるのを嫌がる、元気や食欲がなくなる、じっと動かない、といった様子を見せます。慢性の緑内障や猫では、痛みのサインがはっきりしないことが多く、「年のせい」と見過ごされがちです。失明した眼でも痛みは続くため、痛みを取ることは治療の大切な目標になります。
3-2 急性と慢性での見え方の違い
- 急性(犬の発作など):強い痛み、角膜の浮腫、上強膜血管の充血、散瞳が急に現れる。眼球の大きさはまだ変わらない
- 慢性:牛眼、ハーブ線、水晶体の脱臼、視神経乳頭の陥凹と萎縮、網膜の変性が加わる。痛みはむしろ目立たないことがある
- 角膜の浮腫・上強膜の充血・散瞳は、圧が急に上がったときのサイン
- 牛眼・ハーブ線・水晶体の脱臼は、圧が長く続いて眼球が伸びたサイン
- 失明した眼でも痛みは残る。猫や慢性例では痛みが見過ごされやすい
CHAPTER 4 PHARMACOLOGY
薬の作用機序 ― 房水の流れのどこに働くか
眼圧を下げる方法は、「つくる量を減らす」「出口を広げる」「眼の中の水を引き出す」の3つしかありません。どの薬も、第1章で見た房水の流れのどこかに働いています。
4-1 薬が働く場所の地図
下のボタンを押すと、それぞれの薬が働く場所が図の中で強調されます。
図6 眼圧を下げる薬が働く場所
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A〜Dのボタンを押すと、その場所に働く薬と、眼圧を下げるしくみが表示されます。
4-2 つくる量を減らす薬(A 毛様体)
炭酸脱水酵素阻害薬(ドルゾラミド・ブリンゾラミド:点眼/メタゾラミドなど:内服)
毛様体の無色素上皮で重炭酸イオンをつくる炭酸脱水酵素を阻害します。重炭酸イオンがつくられないと、それに伴うナトリウムと水の移動が減り、房水の産生が減ります。点眼は局所の刺激感が主な副作用です。内服では全身の炭酸脱水酵素も止まるため、代謝性アシドーシス(呼吸が速くなる)、低カリウム血症、食欲の低下が起こることがあり、猫で出やすいとされます。猫でも効果が期待できる、数少ない薬の一つです。
β遮断薬(チモロール)
毛様体上皮のβ受容体を遮断し、細胞の中のcAMPを減らして房水の産生を抑えます。犬では単独の効果は控えめで、炭酸脱水酵素阻害薬と組み合わせて使われることが多い薬です。点眼でも鼻の粘膜から吸収されて全身に回るため、徐脈や、β2受容体の遮断による気管支の収縮が起こることがあります。体の小さい猫や小型犬、喘息のある猫では注意が必要です。
α2作動薬(ブリモニジンなど)
毛様体のα2受容体を刺激して房水の産生を減らし、ぶどう膜強膜路の流れも増やします。ただし犬では効果が限られ、猫では嘔吐や徐脈などの全身の副作用が出やすいため、獣医療で使われる場面は多くありません。
4-3 出口を広げる薬(B 従来路・C ぶどう膜強膜路)
プロスタグランジン関連薬(ラタノプロスト・トラボプロストなど)― C ぶどう膜強膜路
毛様体筋のプロスタグランジンF(FP)受容体に働き、筋線維のあいだの組織(細胞外基質)を分解する酵素を増やして、筋のすき間を広げます。これによりぶどう膜強膜路の流れが増え、眼圧が下がります。犬では強い縮瞳も起こり、虹彩の根もとが薄くなって隅角が開きやすくなります。犬の原発閉塞隅角緑内障の急性発作で、眼圧をすばやく下げる中心的な薬です。
- ぶどう膜炎:プロスタグランジンは炎症を起こす物質でもあり、血液房水関門の破綻と炎症を悪化させる。縮瞳で虹彩の後癒着も起こりやすくなる
- 水晶体の前方脱臼:強い縮瞳で、前房に出た水晶体が瞳孔の前に閉じ込められ、瞳孔ブロックが悪化する
- 猫:ぶどう膜強膜路がもともと少なく(約3%)、FP受容体の分布も異なるため、眼圧を下げる効果がほとんどない(縮瞳は起こる)
副交感神経作動薬(ピロカルピン:直接作用/デメカリウム:コリンエステラーゼ阻害)― B 従来路
毛様体筋のムスカリン受容体を刺激して筋を縮めます。毛様体筋が縮むと、つながっている線維柱帯の網目が引き広げられ、従来路の流れがよくなります。同時に縮瞳も起こります。ピロカルピンは受容体を直接刺激し、デメカリウムはアセチルコリンを分解する酵素を止めて間接的に働きます。犬の原発閉塞隅角緑内障では、発作の起きていない反対側の眼の発症を遅らせる目的で使われることがあります。炎症と刺激を起こすため、ぶどう膜炎では使いません。
人の医療では、線維柱帯の細胞の「こわばり」をゆるめて従来路の流れをよくするRhoキナーゼ阻害薬も使われています。房水の出口に直接働く薬として、作用点の理解に役立ちます。
4-4 眼の中の水を引き出す薬(D 硝子体)
浸透圧利尿薬(マンニトール:静脈内/グリセリン:経口)
血液の浸透圧を高めて、硝子体の水を血管の中へ引き出します。眼の中で最も大きな体積を占める硝子体が縮むことで、眼圧がすばやく下がります。急性発作の救急で使われる薬です。全身の水分のバランスを大きく動かすため、心不全や腎不全、脱水のある動物では注意が必要です。投与のあとにすぐ水を飲むと血液の浸透圧が下がって効果が落ちるため、しばらく飲水を控えます。
4-5 緑内障で使ってはいけない薬・注意する薬
- アトロピンなどの散瞳薬:瞳孔が開くと虹彩の根もとが厚くなって隅角に寄り、狭い隅角が閉じる。とくに閉塞隅角の犬では発作の引き金になる
- ステロイドの長期の点眼:ぶどう膜炎の炎症を抑えるうえでは重要だが、猫などでは長く使うと眼圧が上がることがある
- 全身に使う薬の影響:散瞳を起こす薬や、β遮断薬の点眼の全身への影響など、ほかの病気の治療薬との組み合わせにも注意する
4-6 原因に合わせた薬の考え方
同じ緑内障でも、どこが詰まっているかで選ぶ薬が変わります。用量や組み合わせの細かい手順ではなく、作用点から導ける原則を押さえておきましょう。
| 状況 | 中心となる考え方 | 避ける薬 |
|---|---|---|
| 犬の原発閉塞隅角緑内障の発作 | プロスタグランジン関連薬でぶどう膜強膜路を広げ、縮瞳で隅角を開く。浸透圧利尿薬で硝子体の水を引く。炭酸脱水酵素阻害薬・β遮断薬で産生を減らす | 散瞳薬 |
| ぶどう膜炎による続発緑内障 | 炎症を抑えながら、炭酸脱水酵素阻害薬・β遮断薬で産生を減らす | プロスタグランジン関連薬、副交感神経作動薬 |
| 水晶体の前方脱臼 | 水晶体を取り除くことが基本。それまでは産生を減らす薬と浸透圧利尿薬で圧を下げる | プロスタグランジン関連薬などの強い縮瞳薬 |
| 猫の緑内障 | 原因(ぶどう膜炎・腫瘍)への対処と、炭酸脱水酵素阻害薬・β遮断薬で産生を減らす | 効果の乏しいプロスタグランジン関連薬に頼らない。β遮断薬は喘息の猫で注意 |
4-7 薬で眼圧を守れないとき
薬だけで眼圧を保てない場合は、手術が考えられます。視覚を残すための手術には、レーザーで毛様体の一部を凝固させて房水の産生を減らす方法や、前房の房水を眼の外へ逃がす管(インプラント)を入れる方法があります。すでに失明して痛みが続く眼では、痛みを取るための手術(眼球の摘出や、強膜の中に義眼を入れる方法など)が選ばれます。
- A 産生を減らす:炭酸脱水酵素阻害薬(HCO₃⁻の産生を阻害)、β遮断薬(β受容体の遮断)、α2作動薬
- B 従来路を広げる:副交感神経作動薬(毛様体筋を縮めて線維柱帯を広げる)
- C ぶどう膜強膜路を広げる:プロスタグランジン関連薬(FP受容体)。ぶどう膜炎・水晶体の前方脱臼では使わず、猫ではほとんど効かない
- D 硝子体の水を引き出す:浸透圧利尿薬(マンニトール)
- 散瞳薬(アトロピンなど)は隅角を閉じるため、緑内障では使わない
CHAPTER 5 REVIEW
まとめ ― 一本の流れで振り返る
最後に、緑内障を房水の流れという一本の線で振り返ります。
- つくる:毛様体の無色素上皮が、Na⁺/K⁺-ATPaseと炭酸脱水酵素で房水をつくる(β受容体で増え、α2受容体で減る)
- 流す:後房 → 瞳孔 → 前房。瞳孔で止まれば瞳孔ブロック(虹彩の後癒着、水晶体の脱臼、猫の房水の誤流)
- 出す:隅角の従来路(櫛状靱帯・線維柱帯)とぶどう膜強膜路。犬の原発緑内障は櫛状靱帯の形成異常で隅角が閉じる
- 圧が上がる:角膜の浮腫、上強膜の充血、散瞳、痛み。長く続けば牛眼、ハーブ線、水晶体の脱臼
- 視神経が傷む:篩状板での圧迫、血流の低下、神経節細胞のアポトーシス → 元に戻らない失明
- 薬で戻す:つくる量を減らす(A)、出口を広げる(B・C)、硝子体の水を引き出す(D)。原因と動物種で避ける薬が変わる
- プロスタグランジン関連薬(ラタノプロスト)はぶどう膜強膜路の流れを増やす。ぶどう膜炎と水晶体の前方脱臼では使わない。猫ではほとんど効かない
- アトロピンは散瞳で隅角を閉じるため、緑内障では禁忌
- 炭酸脱水酵素阻害薬とβ遮断薬は房水の産生を減らす
- 犬の原発緑内障は柴犬やアメリカン・コッカー・スパニエルなどに多く、反対側の眼にも起こりやすい。テリア種の水晶体脱臼は続発緑内障の原因
- 猫の緑内障はほとんどが続発性(慢性ぶどう膜炎、虹彩の黒色腫、房水の誤流)
- 牛眼、ハーブ線は慢性の高眼圧のサイン
眼底の変化(タペタムの反射の亢進や視神経乳頭の陥凹)は、サイトの解説記事「網膜と眼底の疾患」で、試験対策としての要点は「緑内障」の記事で扱っています。