臨床獣医学 > 内科 > 眼と耳 > 網膜と眼底の疾患
眼底写真を示して、網膜の病気を見分けさせる問題は、実地試験で繰り返し出題されています。眼底写真は一見むずかしそうですが、「タペタムの反射の強さ」「血管の太さ」「出血や剥離の有無」の3点を順に見れば、代表的な病気は見分けられます。
本記事では、まず正常な眼底の見方を押さえ、次に試験によく出る進行性網膜萎縮症と高血圧性網膜症・網膜剥離を整理しました。
過去の出題では、次の形式が繰り返し問われています。
- 進行性網膜萎縮症:遺伝性疾患であること、視細胞の変性、眼底検査でのタペタム領域の反射の亢進
- 高血圧性網膜症と網膜剥離:猫の慢性腎臓病(収縮期血圧220mmHgなど)に多い、網膜出血や網膜剥離の眼底写真の読影
- 眼底のタペタム領域とノンタペタム領域、視神経乳頭、網膜の血管
- 網膜が薄くなるとタペタムの反射が強く見える理由
- 進行性網膜萎縮症が夜盲から始まる理由と、眼底の3つの所見
- 高血圧で網膜の出血、浮腫、剥離が起こる理由と、その原因の病気
- 猫のタウリン欠乏による網膜の変性
1. 正常な眼底の見方
- タペタム領域:眼底の上半分。光を反射するタペタム(輝板)があり、黄色〜緑〜青色に光って見える。網膜はこの上を覆う、ほぼ透明な膜
- ノンタペタム領域:眼底の下半分。色素があり、暗い茶色〜黒に見える
- 視神経乳頭:視神経が眼から出ていく部分。犬ではタペタムとの境目付近にある
- 網膜の血管:視神経乳頭から放射状に出ていく動脈と静脈
動物種によって違いがあり、豚にはタペタムがなく、馬の網膜の血管は視神経乳頭のまわりにしか見えません。
タペタムの反射は、その上の網膜を通して見ています。網膜が薄くなればカーテンが薄くなって反射が強く、網膜がむくんだり剥がれたりすればカーテンが厚くなって反射が弱く見えます。反射の強さは、網膜の厚さの手がかりです。
2. 進行性網膜萎縮症(PRA)
2-1. どんな病気か
視細胞(光を感じる細胞)が遺伝的に少しずつ変性していく病気で、両眼に左右対称に、痛みなく進みます。トイ・プードル、ミニチュア・ダックスフンド、ラブラドール・レトリーバーなど多くの犬種で知られており、犬種ごとに原因の遺伝子が異なります。
2-2. 夜盲から始まる理由
視細胞には、暗い所で働く杆体と、明るい所で色を見る錐体があります。多くの型では杆体が先に変性するため、まず暗い所で見えにくくなる(夜盲)ことから始まり、その後に錐体も失われて明るい所でも見えなくなり、最終的に失明します。
2-3. 眼底の3つの所見
- タペタム領域の反射の亢進:網膜が薄くなり、タペタムの反射が強く、ぎらぎらと見える
- 網膜の血管の細まり:網膜が萎縮して血管が細くなり、数も減る
- 視神経乳頭の萎縮:乳頭が小さく、色が淡くなる
進行すると白内障を伴い、眼底が見えにくくなることがあります。
2-4. 猫のタウリン欠乏
猫はタウリンを体内で十分につくれないため、欠乏すると網膜が変性します。網膜の中心部から変性が始まり、同じく欠乏で起こる拡張型心筋症とあわせて知られています。
3. 高血圧性網膜症と網膜剥離
3-1. 原因の病気
網膜は、全身性の高血圧で傷つく標的臓器のひとつです(循環器疾患の分野別まとめ)。
- 猫:慢性腎臓病(慢性腎臓病の解説)、甲状腺機能亢進症(猫の甲状腺機能亢進症の解説)
- 犬:慢性腎臓病、副腎皮質機能亢進症
- そのほか:原発性アルドステロン症、褐色細胞腫
3-2. なぜ網膜が傷つくのか
高い血圧が続くと、網膜と脈絡膜の細い血管の壁が傷み、血液や液が血管の外へ漏れ出します。漏れた血液は網膜出血に、漏れた液は網膜の浮腫になり、網膜の下に液がたまると網膜が持ち上げられて網膜剥離が起こります。
3-3. 所見と症状
- 眼底:網膜の出血、血管の蛇行、網膜のむくみ、網膜が泡のように持ち上がった胞状の網膜剥離。剥がれた部分ではタペタムの反射が弱くなる
- 前眼部:眼の中の出血(前房出血)がみられることもある
- 症状:突然の失明と、光に反応しない散瞳で気づかれることが多い。とくに高齢の猫
- 血圧:収縮期血圧が高いほど、網膜などの標的臓器が傷つく危険が高くなる
突然見えなくなった高齢の猫で、眼底に出血や網膜剥離がみられたら、まず血圧を測り、慢性腎臓病と甲状腺機能亢進症を探す、という流れが症例問題の定番です。眼の病気として終わらせず、全身の病気につなげてください。
4. 進行性網膜萎縮症と高血圧性網膜症の見分け方
- 発症:PRAは夜盲からゆっくり。高血圧性網膜症は突然の失明が多い
- タペタムの反射:PRAは網膜が薄くなって亢進。網膜剥離では剥がれた部分で低下
- 血管:PRAは細く、少なくなる。高血圧では蛇行と出血
- 全身:PRAは遺伝性で全身の異常はない。高血圧性網膜症は慢性腎臓病や甲状腺機能亢進症などの基礎疾患がある
5. 網膜と眼底の疾患で国家試験に狙われるポイント
- 眼底:上半分がタペタム領域、下半分がノンタペタム領域。網膜が薄いと反射が強く、厚い(むくみ・剥離)と弱く見える。豚にはタペタムがない
- PRA:遺伝性、両眼・左右対称・無痛、杆体から変性して夜盲から始まる。タペタム反射の亢進、血管の細まり、視神経乳頭の萎縮
- 猫のタウリン欠乏:網膜の中心部からの変性と拡張型心筋症
- 高血圧性網膜症:猫の慢性腎臓病と甲状腺機能亢進症、犬の慢性腎臓病と副腎皮質機能亢進症。網膜出血、血管の蛇行、胞状の網膜剥離、突然の失明と散瞳
6. 網膜と眼底の疾患の確認問題
Q1. 進行性網膜萎縮症で、眼底のタペタム領域の反射が亢進して見える理由を述べよ。
A. タペタムの反射はその上を覆う網膜を通して見ている。視細胞の変性で網膜が薄くなると、光を遮るものが減るため、反射が強く見える。
Q2. 進行性網膜萎縮症の多くの型で、症状が夜盲から始まる理由を述べよ。
A. 暗い所で働く杆体が先に変性するため。その後に明るい所で働く錐体も失われ、最終的に失明する。
Q3. 進行性網膜萎縮症の眼底でみられる3つの所見を挙げよ。
A. タペタム領域の反射の亢進、網膜の血管の細まり(数の減少)、視神経乳頭の萎縮。
Q4. 突然失明した15歳の猫で、眼底に網膜出血と胞状の網膜剥離がみられた。まず行うべき検査と、原因として考えるべき病気を答えよ。
A. 血圧測定。全身性の高血圧による高血圧性網膜症を考え、その原因として慢性腎臓病と甲状腺機能亢進症を探す。
Q5. 全身性の高血圧で網膜剥離が起こる仕組みを述べよ。
A. 高い血圧が続くと網膜と脈絡膜の細い血管の壁が傷み、血液や液が血管の外へ漏れ出す。網膜の下に液がたまると網膜が持ち上げられ、網膜剥離が起こる。
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詳細な解説
- 分野別まとめ:眼と耳の疾患 — 眼と耳を外から奥への層で整理し、出題傾向と重要テーマをまとめています。
- 流れでたどる:視覚が伝わるしくみ — 角膜から後頭葉までの視覚の流れと、対光反射を図で確認できます。
- 緑内障 — 眼圧の上昇で視神経と網膜が傷む病気です。
- 慢性腎臓病(CKD) — 高血圧性網膜症の原因となる、猫で最も多い病気です。
- 猫の甲状腺機能亢進症 — 高血圧の原因となるもうひとつの猫の病気です。
- 猫の肥大型心筋症と大動脈血栓塞栓症 — 甲状腺機能亢進症や高血圧による二次性の心筋の変化との見分けを扱います。
参考文献
- 新獣医内科学 文永堂出版
- CAP 緑書房
- SA Medicine インターズー
- 獣医生理学第二版 文永堂出版
- 農林水産省 獣医師国家試験(公式)