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緑内障は、眼の中の水(房水)がうまく出ていかずに眼圧が上がり、視神経が傷んで失明に至る病気です。国家試験では、治療に使うラタノプロストと、禁忌のアトロピンの関係が、薬理学と眼科学の両方で繰り返し問われています。
この2つの薬の関係は、房水がどこでつくられ、どこから出ていくかがわかれば丸暗記せずに理解できます。本記事は房水の流れを出発点に構成しました。
過去の出題では、次の形式が繰り返し問われています。
- 病態と好発:房水の排出障害、アメリカン・コッカー・スパニエルなどの好発犬種、慢性期の牛眼(眼球の拡大)
- 薬理:房水の排出を促すラタノプロストの点眼と、散瞳で隅角を閉じるため禁忌となるアトロピン
- 房水は毛様体でつくられ、隅角とぶどう膜強膜流出路から出ていくこと
- 眼圧は産生と排出のバランスで決まること
- 原発緑内障と続発緑内障の違い
- 急性期と慢性期(牛眼)の所見
- 薬を「産生を減らす」「排出を増やす」で分けること
- アトロピンが緑内障で禁忌、ぶどう膜炎では使われる理由
1. 房水の流れと眼圧
房水は、毛様体の上皮でつくられて後房に出て、瞳孔を通って前房へ流れ、2つの経路で眼の外へ出ていきます(図1)。
図1 房水の流れと、緑内障で使う薬の作用点。薬は「産生を減らす」か「排出を増やす」かに分けられる。散瞳させるアトロピンは隅角をふさぐため禁忌。
- 隅角(線維柱帯):角膜と虹彩の付け根のあいだの角。房水の主な出口
- ぶどう膜強膜流出路:毛様体の筋のすきまから強膜の外へしみ出していく、もうひとつの出口
眼圧は、房水の産生と排出のバランスで決まります。犬や猫の正常な眼圧はおおむね10〜25mmHgです。排出が妨げられると房水が眼の中にたまり、眼圧が上がります。
2. 原発緑内障と続発緑内障
- 原発緑内障:ほかの眼の病気がないのに、生まれつきの隅角の形の異常などで排出が悪くなる。柴犬、アメリカン・コッカー・スパニエル、ビーグル、シー・ズーなどに多く、片眼に起こると、もう片眼にも起こりやすい
- 続発緑内障:ほかの眼の病気が隅角をふさぐ。ぶどう膜炎(炎症の産物や虹彩の癒着)、水晶体の脱臼、眼の中の出血、腫瘍などが原因。猫の緑内障の多くは続発性
3. 病態と症状
眼圧が上がると、網膜の神経節細胞と視神経が圧迫されて傷み、視覚が失われます。急に眼圧が大きく上がった場合は、数日のうちに失明することもあります。
3-1. 急性期
- 白目の充血:強膜の表面の血管が太くなる
- 角膜の浮腫:角膜が青白く濁る
- 散瞳:瞳孔が開いたままで、光への反応がなくなる
- 痛み:眼をしょぼしょぼさせる、元気がなくなる
- 視覚の喪失
3-2. 慢性期
- 牛眼:高い眼圧が続いて眼球が引き伸ばされ、眼球全体が大きくなる
- デスメ膜の線状の断裂:眼球が伸ばされて角膜の奥の膜が裂け、角膜に線状の濁りができる
- 水晶体の脱臼:眼球が大きくなって水晶体を支える線維が切れる
- 視神経乳頭の陥凹と網膜の萎縮:眼底で、視神経乳頭がへこみ、網膜が薄くなる
4. 緑内障の検査
- 眼圧測定:眼圧計(トノメーター)で眼圧を測る。診断の中心
- 隅角検査:特殊なレンズで隅角の形を見る。原発緑内障の素因の評価に使う
- 眼底検査:視神経乳頭と網膜の傷み具合を見る
5. 薬の作用機序 — 産生を減らすか、排出を増やすか
本記事では作用機序までを扱い、用量や使い分けは扱いません。
- ラタノプロスト(プロスタグランジンF2α誘導体):ぶどう膜強膜流出路からの房水の排出を増やす。犬では強い縮瞳も起こす。縮瞳が問題になる水晶体の前方への脱臼や、炎症を強めるおそれのあるぶどう膜炎には向かない
- 縮瞳薬(ピロカルピンなど、ムスカリン受容体作動薬):瞳孔を縮めて虹彩を中央へ引き、隅角を開いて排出を増やす
- 炭酸脱水酵素阻害薬:毛様体で房水をつくる反応に必要な酵素を阻害し、房水の産生を減らす
- β遮断薬の点眼:毛様体の上皮に作用して房水の産生を減らす
5-1. アトロピンが禁忌になる理由
アトロピンはムスカリン受容体を遮断して瞳孔を開かせます(散瞳)。瞳孔が開くと、虹彩は付け根のほうへ寄って厚くなり、隅角をふさぎます。主な出口がふさがれるので、眼圧はさらに上がります。これが緑内障でアトロピンが禁忌とされる理由です。
アトロピンは、ぶどう膜炎では使われる薬です。毛様体の筋のけいれんをゆるめて痛みを和らげ、瞳孔を開いておくことで虹彩が水晶体にくっつくのを防ぎます。同じ薬がぶどう膜炎では使われ、緑内障では禁忌になる対比は、選択肢のひっかけとして問われます。ぶどう膜炎から続発緑内障になった眼では、眼圧を確認してから判断する必要があります。
6. 緑内障で国家試験に狙われるポイント
- 房水:毛様体で産生 → 後房 → 瞳孔 → 前房 → 隅角(主)とぶどう膜強膜流出路から排出
- 原発緑内障:隅角の異常。柴犬、アメリカン・コッカー・スパニエルなど。両眼に起こりやすい
- 続発緑内障:ぶどう膜炎、水晶体の脱臼、出血、腫瘍。猫では多くが続発性
- 急性期:充血、角膜浮腫、散瞳、痛み、視覚喪失
- 慢性期:牛眼、デスメ膜の線状の断裂、水晶体の脱臼、視神経乳頭の陥凹
- 薬:排出を増やす(ラタノプロスト、縮瞳薬)、産生を減らす(炭酸脱水酵素阻害薬、β遮断薬)
- 禁忌:アトロピン(散瞳で隅角をふさぐ)。ぶどう膜炎では使われる
7. 緑内障の確認問題
Q1. 房水がつくられる場所と、眼の外へ出ていく2つの経路を答えよ。
A. 毛様体でつくられる。後房から瞳孔を通って前房へ流れ、隅角(線維柱帯)から出る主な経路と、ぶどう膜強膜流出路から出る経路の2つで排出される。
Q2. ラタノプロストが眼圧を下げる仕組みを述べよ。
A. プロスタグランジンF2α誘導体で、ぶどう膜強膜流出路からの房水の排出を増やすことで眼圧を下げる。
Q3. 緑内障でアトロピンが禁忌とされる理由を述べよ。
A. アトロピンはムスカリン受容体を遮断して散瞳させる。散瞳すると虹彩の付け根が寄って厚くなり、房水の主な出口である隅角をふさぐため、眼圧がさらに上がる。
Q4. 慢性の緑内障でみられる牛眼とはどのような状態か。
A. 高い眼圧が続いて眼球が引き伸ばされ、眼球全体が大きくなった状態。デスメ膜の線状の断裂や水晶体の脱臼を伴うことがある。
Q5. 緑内障の薬を、房水の「産生を減らす薬」と「排出を増やす薬」に分けて答えよ。
A. 産生を減らす薬は、炭酸脱水酵素阻害薬とβ遮断薬の点眼。排出を増やす薬は、ぶどう膜強膜流出路からの排出を増やすラタノプロストと、隅角を開くピロカルピンなどの縮瞳薬。
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理解度チェック
- ふつう:薬理学フローチャート — 緑内障で使う薬を、系統・受容体・作用の順にたどれます。
詳細な解説
- 分野別まとめ:眼と耳の疾患 — 眼と耳を外から奥への層で整理し、出題傾向と重要テーマをまとめています。
- 流れでたどる:視覚が伝わるしくみ — 角膜から後頭葉までの視覚の流れと、対光反射を図で確認できます。
- 網膜と眼底の疾患 — 緑内障で傷む網膜と視神経乳頭の見え方を扱います。
- 超簡単まとめ:自律神経系 — ムスカリン受容体と瞳孔の動きのしくみを図解で確認できます。
参考文献
- 新獣医内科学 文永堂出版
- CAP 緑書房
- SA Medicine インターズー
- 新編 家畜薬理学 養賢堂
- 獣医生理学第二版 文永堂出版
- 農林水産省 獣医師国家試験(公式)