基礎獣医学 > 放射線の基礎と被ばくの管理
放射線は、動物病院でもX線撮影、CT、核医学検査、放射線治療などで毎日のように使われています。国家試験では、必須問題を中心に、単位、体への影響、線量の限度、測定器が毎年出題されています。
本記事では、「放射線とは何か → どう測るか → 体にどう影響するか → どう身を守るか」の順に整理しました。
第73回〜第77回では、次のような形で出題されています。
- 単位:ベクレル、グレイ、シーベルトの意味
- 体への影響:放射線に弱い組織(リンパ節など)、脱毛や白血病などの影響の分け方、細胞周期と感受性
- 管理:線量の限度(皮膚の500 mSv/年など)、GM計数管や液体シンチレーションカウンターなどの測定器、半減期の計算、X線撮影時の散乱線
- α線・β線・γ線(X線)・中性子線の通り抜ける力の違い
- ベクレル・グレイ・シーベルトの違いと、半減期の計算
- 放射線に弱い組織と、細胞周期の中で弱い時期
- 確定的影響(しきい値がある)と確率的影響(しきい値がないと考える)
- 外部被ばくを減らす3つの原則と、主な線量の限度
- 目的に応じた測定器の使い分け
1. 放射線の種類と通り抜ける力
- α線:ヘリウムの原子核の流れ。紙1枚で止まるが、体の中に取り込まれると近くの細胞に強い影響を与える(内部被ばくで問題になる)
- β線:電子の流れ。アルミニウムの板やプラスチックで止まる
- γ線・X線:光の仲間(電磁波)。通り抜ける力が強く、止めるには鉛や厚いコンクリートが必要
- 中性子線:通り抜ける力がとても強く、水やコンクリートで止める
α線や中性子線は、通り道に沿って細胞に与えるエネルギーが大きく(高LET)、同じ吸収線量でも体への影響が大きくなります。
2. 放射線の単位
- ベクレル(Bq):放射性物質が1秒間に何個壊れて放射線を出すか。放射能の強さを表す
- グレイ(Gy):物質1 kgが吸収したエネルギーの量(吸収線量)
- シーベルト(Sv):吸収線量に、放射線の種類や組織による影響の違いを加味した、人体への影響の大きさ(等価線量・実効線量)
ベクレルはたき火の火の強さ、グレイは体が受け取った熱の量、シーベルトは受け取った熱でどのくらいやけどしたかにあたります。何を測っているかの違いで区別してください。
2-1. 半減期
放射性物質の量が半分になるまでの時間を半減期といいます。核医学検査で使うテクネチウム99m(99mTc)の半減期は約6時間なので、120 MBqあった線源は、6時間後に60 MBq、12時間後に30 MBqになります。半減期の回数だけ半分にすれば計算できます。
3. 体への影響
3-1. 放射線に弱い組織
放射線は、主に細胞の設計図(DNA)を傷つけます。分裂が盛んで、まだ成熟していない細胞ほど影響を受けやすくなります。
- 弱い:リンパ球とリンパ組織(リンパ節)、骨髄の血液をつくる細胞、精巣や卵巣、腸の上皮、皮膚の基底の細胞、目の水晶体
- 強い:神経、筋肉、骨など、分裂の少ない組織
3-2. 細胞周期と感受性
1つの細胞でも、時期によって放射線への弱さが違います。分裂の時期(M期)とその直前(G2期の終わり頃)が最も弱く、設計図をコピーしている時期の後半(S期の後半)は強くなります。また、酸素がある細胞ほど放射線の影響を受けやすくなります(酸素効果)。
3-3. 確定的影響と確率的影響
- 確定的影響:ある量(しきい線量)を超えると現れ、線量が多いほど症状が重くなる。脱毛、皮膚の紅斑、白内障、不妊、骨髄の障害など
- 確率的影響:しきい線量がないと考え、線量が多いほど起こる確率が上がる(起こったときの重さは線量によらない)。がん、白血病、遺伝的な影響
脱毛や白内障は、たくさん浴びるほど重くなる確定的影響です。白血病やがんは、たくさん浴びるほど起こりやすくなる確率的影響です。どちらに分類されるかが繰り返し問われます。
4. 被ばくを減らす
4-1. 外部被ばくを減らす3つの原則
- 時間:放射線を浴びる時間を短くする
- 距離:線源から離れる。放射線の強さは距離の2乗に反比例するので、距離を2倍にすれば4分の1になる
- 遮蔽:鉛の入った防護衣や手袋、ついたてで放射線をさえぎる
4-2. X線撮影のときの注意
X線は、動物の体に当たったあと、四方へ散乱線として散らばります。動物を押さえる人は、この散乱線で被ばくするため、防護衣と防護手袋を着け、X線の当たる範囲(照射野)を必要な大きさまで絞り、手を照射野に入れないようにします。
4-3. 線量の限度(放射線を扱う仕事をする人)
- 体全体(実効線量):5年間で100 mSv、かつ1年間で50 mSv
- 目の水晶体(等価線量):5年間で100 mSv、かつ1年間で50 mSv
- 皮膚(等価線量):1年間で500 mSv
- 妊娠中の女性の腹部の表面:妊娠がわかってから出産までに2 mSv
放射線を扱う人は、個人線量計(蛍光ガラス線量計など)を身に着けて、受けた線量を記録します。
5. 測定器の使い分け
- GM計数管:β線やγ線を感度よく数える。床や手などに放射性物質がついていないか(表面の汚染)を調べるのに使う
- 電離箱:その場所の線量率を正確に測る
- NaI(ヨウ化ナトリウム)シンチレーション検出器:γ線を感度よく測る
- 液体シンチレーションカウンター:試料を液体に溶かして測る。トリチウム(3H)や炭素14(14C)など、エネルギーの弱いβ線を出す物質の測定に使う
- 個人線量計(蛍光ガラス線量計など):一人ひとりの被ばく線量を記録する
6. 動物の診療での放射線
- X線撮影とCT:体の中を画像にする
- 核医学検査:99mTcなどを体に入れ、骨や甲状腺に集まる様子を画像にする
- 放射性ヨウ素による治療:猫の甲状腺機能亢進症で、ヨウ素が甲状腺に集まる性質を利用して、腫れた甲状腺の組織だけを壊す(猫の甲状腺機能亢進症の解説)
- 放射線治療:腫瘍に放射線を当てる。何回かに分けて照射し、そのあいだに正常な組織が回復するのを待つ
7. 放射線で国家試験に狙われるポイント
- 通り抜ける力:α線は紙、β線はアルミ・プラスチック、γ線・X線は鉛・コンクリート、中性子線は水・コンクリート
- 単位:Bqは放射能、Gyは吸収線量、Svは人体への影響(等価線量・実効線量)
- 半減期:99mTcは約6時間(12時間で4分の1)
- 弱い組織:リンパ球・リンパ組織、骨髄、生殖腺、腸の上皮、水晶体。細胞周期ではM期とG2期の終わり頃
- 確定的影響:しきい線量あり(脱毛、紅斑、白内障、不妊)。確率的影響:しきい線量なし(がん、白血病、遺伝的影響)
- 防護の3原則:時間、距離(2乗に反比例)、遮蔽。散乱線に注意
- 線量の限度:実効線量は5年100 mSvかつ年50 mSv、皮膚は年500 mSv
- 測定器:GM計数管は表面の汚染、液体シンチレーションは弱いβ線
8. 放射線の確認問題
Q1. ベクレル、グレイ、シーベルトは、それぞれ何を表す単位か。
A. ベクレルは放射性物質が1秒間に壊れる数(放射能の強さ)、グレイは物質1 kgが吸収したエネルギーの量(吸収線量)、シーベルトは放射線の種類や組織の違いを加味した人体への影響の大きさ(等価線量・実効線量)。
Q2. 120 MBqの99mTc(半減期約6時間)は、12時間後に何MBqになるか。
A. 30 MBq。12時間は半減期2回分なので、120 → 60 → 30 MBqとなる。
Q3. 次のうち確率的影響にあたるものを選べ。脱毛、白内障、白血病、不妊。
A. 白血病。確率的影響はしきい線量がないと考え、線量が多いほど起こる確率が上がる。脱毛、白内障、不妊はしきい線量のある確定的影響。
Q4. 線源からの距離を2倍にすると、受ける放射線の強さはどうなるか。
A. 4分の1になる。放射線の強さは距離の2乗に反比例するため。
Q5. トリチウムなどエネルギーの弱いβ線を出す物質の測定に適した測定器と、床の表面の汚染を調べるのに使う測定器をそれぞれ答えよ。
A. 弱いβ線の測定には液体シンチレーションカウンター、表面の汚染の検査にはGM計数管(GMサーベイメーター)を使う。
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詳細な解説
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- 猫の甲状腺機能亢進症 — 放射性ヨウ素による治療の対象となる病気です。
- 発がんのしくみ — 放射線を含む、がんが生まれる原因を扱います。
- 分野別まとめ:腫瘍学 — 放射線治療が使われる腫瘍の全体像を整理しています。
参考文献
- 獣医療法施行規則(エックス線診療室の基準)
- 電離放射線障害防止規則
- 農林水産省 獣医師国家試験(公式)