発がんのしくみ|【獣医師国家試験対策】

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正常な細胞は、必要なときだけ分裂し、必要がなくなれば分裂を止めます。腫瘍は、この「進める仕組み」と「止める仕組み」が壊れた細胞から生まれます。国家試験では、腫瘍ウイルスによる家畜・家禽の病気や、化学物質による発がんとして、このしくみが問われています。

本記事では、まず遺伝子のレベルで何が起きるかを押さえ、そのうえでウイルス、化学物質、紫外線、ホルモン、慢性炎症という原因ごとに整理しました。

過去問分析

過去の出題では、次の形式が問われています。

  • 腫瘍ウイルス:鶏白血病ウイルス(増殖欠損型のウイルスが宿主のがん遺伝子を取り込むしくみ)、マレック病、牛伝染性リンパ腫
  • 化学発がんと中毒:アフラトキシン、ワラビ、中皮腫を起こす物質(アスベスト)
この記事で押さえること
  • がん遺伝子(アクセル)とがん抑制遺伝子(ブレーキ)の違い
  • 発がんが何段階もの変化の積み重ねであること
  • レトロウイルスが腫瘍をつくる3つの方法
  • マレック病と鶏白血病の見分け方
  • アフラトキシン、ワラビ、アスベストが腫瘍を起こす臓器と理由
  • 紫外線、ホルモン、慢性炎症と腫瘍の関係

1. 遺伝子のレベルで何が起きるか

1-1. がん遺伝子 — 壊れて踏みっぱなしになるアクセル

細胞の増殖を進めるシグナルをつくる遺伝子を原がん遺伝子といいます。これが変異したり、過剰に働いたりして、増殖のシグナルを出し続けるようになったものががん遺伝子です。対になる遺伝子の片方が活性化するだけで働きます。

  • 例:ras、myc、犬の肥満細胞腫でみられるc-kitの変異(増殖シグナルの受容体KITが常に働き続ける)

1-2. がん抑制遺伝子 — 壊れて効かなくなるブレーキ

細胞分裂を止めたり、傷ついたDNAを修復したり、修復できない細胞を死なせたりする遺伝子です。対になる遺伝子の両方が働かなくなってはじめて、ブレーキが失われます。

  • 例:p53(DNAが傷ついた細胞の分裂を止め、修復できなければアポトーシスを起こさせる)、Rb(細胞周期の進行を止める)
アクセルは片方、ブレーキは両方

がん遺伝子は片方が壊れて働きすぎるだけで増殖を進めます。がん抑制遺伝子は両方が壊れてはじめてブレーキが効かなくなります。この違いは「優性に働くか、劣性に働くか」という形で問われることがあります。

1-3. 多段階発がん

腫瘍は、ひとつの変異だけで生まれるわけではありません。

  1. イニシエーション:発がん物質などでDNAに変異が入る
  2. プロモーション:変異をもった細胞の増殖が促される
  3. プログレッション:さらに変異が積み重なり、浸潤や転移をする悪性の性質を獲得する

変異が積み重なるには時間がかかるため、多くの腫瘍は高齢の動物に多くなります。

2. ウイルスによる発がん

2-1. レトロウイルスが腫瘍をつくる3つの方法

レトロウイルスは、自分のRNAをDNAに写し取って宿主の染色体に組み込みます(プロウイルス)。この性質を使って、3通りの方法で腫瘍をつくります。

  • がん遺伝子を持ち込む(急性形質転換型):過去に宿主の原がん遺伝子を取り込んだウイルスが、それをウイルスがん遺伝子として細胞に持ち込む。短期間で腫瘍をつくる。取り込んだ代わりに自分の増殖に必要な遺伝子を失っているものが多く、単独では増えられない(増殖欠損型)ため、ほかのウイルス(ヘルパーウイルス)の助けを必要とする
  • がん遺伝子のそばに組み込まれる(挿入変異):ウイルスがん遺伝子はもたないが、宿主の原がん遺伝子の近くに組み込まれて、その遺伝子を強く働かせる。組み込まれる場所は偶然に左右されるため、腫瘍ができるまでに長い時間がかかる。鶏白血病(リンパ性白血病)や猫白血病ウイルスによるリンパ腫がこの型
  • ウイルスのタンパク質が宿主の遺伝子を働かせる:牛伝染性リンパ腫ウイルス(BLV)は、自分のつくるタンパク質(Tax)で宿主の遺伝子の働きを高め、B細胞を増やす

2-2. 猫白血病ウイルス(FeLV)

FeLVは、挿入変異によってリンパ腫や白血病を起こすとともに、免疫を抑制します。FeLVに関連するリンパ腫は、若い猫の縦隔型が典型です。

2-3. マレック病と鶏白血病

どちらも鶏にリンパ性の腫瘍をつくるため、見分けが繰り返し問われます。

  • マレック病:ヘルペスウイルス(DNAウイルス)による。T細胞の腫瘍。若い鶏(数週齢から)に多い。末梢神経(坐骨神経など)が腫れ、片脚を前に、片脚を後ろに投げ出した特徴的な麻痺が起こる。虹彩の色が抜ける(灰白眼)。ファブリキウス嚢は萎縮する。羽包の上皮でつくられたウイルスが、ふけとともに広がる
  • 鶏白血病(リンパ性白血病):レトロウイルス(RNAウイルス)による。B細胞の腫瘍で、ファブリキウス嚢から発生する。性成熟期以降(おおむね16週齢以降)に多い。末梢神経は腫れない
見分けの決め手

神経が腫れていればマレック病、ファブリキウス嚢から腫瘍ができていれば鶏白血病です。T細胞かB細胞か、DNAウイルスかRNAウイルスか、発症の年齢もあわせて対にして覚えてください。

2-4. パピローマウイルス

皮膚や粘膜に乳頭腫(いぼ)をつくるDNAウイルスです。牛の乳頭腫や犬の口腔の乳頭腫は、免疫が働いて自然に消えることが多い良性の腫瘍です。牛では、ウシパピローマウイルスとワラビの摂取が重なると、膀胱や上部消化管に悪性の腫瘍ができることがあります。

3. 化学物質による発がん

  • アフラトキシンB1:カビ(Aspergillus flavusなど)がつくる毒素。肝臓の代謝酵素で活性化されてからDNAに結合するため、肝細胞癌を起こす。急性では肝臓の壊死を起こす(自然毒とカビ毒の解説)
  • ワラビ:発がん物質プタキロシドを含む。牛では長く食べ続けると膀胱の腫瘍(血尿を繰り返す地方病性血尿症)が起こり、急性の中毒では骨髄が傷んで出血する。馬では、ワラビに含まれるチアミナーゼがビタミンB1を壊し、神経症状を起こす
  • アスベスト(石綿):吸い込んだ繊維が胸膜などに長く残り、中皮腫を起こす

発がん物質の多くは、そのままでは働かず、体内で代謝されてはじめてDNAを傷つける形に変わります。そのため、代謝を担う肝臓や、排泄の通り道である膀胱に腫瘍が起こりやすくなります。

4. そのほかの原因

  • 紫外線:DNAを直接傷つける。白い毛の猫の耳介や鼻平面の扁平上皮癌が代表(皮膚の腫瘍の解説)
  • ホルモン:卵巣のホルモンは犬の乳腺腫瘍の発生にかかわり、初回発情の前に避妊手術をすると発生が大きく減る。アンドロゲンは未去勢の雄犬の肛門周囲腺腫を育てる
  • 慢性の炎症:猫では、ワクチンなどの注射部位に続いた炎症から、線維肉腫などの注射部位肉腫が生まれることがある
  • 放射線:DNAを傷つけ、白血病などの原因になる

5. 発がんで国家試験に狙われるポイント

  • がん遺伝子:原がん遺伝子の活性化。片方で働く。ras、myc、c-kit
  • がん抑制遺伝子:両方が失われて機能を失う。p53、Rb
  • 多段階発がん:イニシエーション → プロモーション → プログレッション
  • レトロウイルス:ウイルスがん遺伝子を持ち込む(増殖欠損型、急性)/挿入変異(遅い)/ウイルスのタンパク質による活性化(BLV)
  • マレック病:ヘルペスウイルス、T細胞、若い鶏、末梢神経の腫大、灰白眼
  • 鶏白血病:レトロウイルス、B細胞、ファブリキウス嚢、16週齢以降
  • 化学発がん:アフラトキシン(肝臓で活性化 → 肝細胞癌)、ワラビ(プタキロシド → 牛の膀胱腫瘍)、アスベスト(中皮腫)
  • そのほか:紫外線と猫の扁平上皮癌、ホルモンと乳腺腫瘍・肛門周囲腺腫、慢性炎症と猫の注射部位肉腫

6. 発がんの確認問題

Q1. がん遺伝子とがん抑制遺伝子の違いを、「対になる遺伝子のいくつが変化すると働くか」に注目して述べよ。

A. がん遺伝子は、対になる遺伝子の片方が活性化するだけで増殖のシグナルを出し続ける。がん抑制遺伝子は、対になる遺伝子の両方が働かなくなってはじめて、増殖を止めるブレーキが失われる。

Q2. ウイルスがん遺伝子をもつレトロウイルスの多くが「増殖欠損型」である理由を述べよ。

A. 宿主の原がん遺伝子を取り込んだ代わりに、自分の増殖に必要な遺伝子の一部を失っているため。単独では増えられず、ほかのウイルス(ヘルパーウイルス)の助けを必要とする。

Q3. マレック病と鶏白血病(リンパ性白血病)の違いを、原因ウイルス・腫瘍細胞の種類・特徴的な病変から述べよ。

A. マレック病はヘルペスウイルスによるT細胞の腫瘍で、若い鶏に多く、末梢神経が腫れて脚の麻痺を起こす。鶏白血病はレトロウイルスによるB細胞の腫瘍で、ファブリキウス嚢から発生し、性成熟期以降に多く、末梢神経は腫れない。

Q4. アフラトキシンB1が肝細胞癌を起こしやすい理由を述べよ。

A. アフラトキシンB1はそのままではDNAを傷つけず、肝臓の代謝酵素で活性化されてからDNAに結合して変異を起こすため、活性化が行われる肝臓に腫瘍が起こりやすい。

Q5. 牛がワラビを長く食べ続けたときに起こる病気と、その原因物質を答えよ。

A. 膀胱の腫瘍による血尿を繰り返す地方病性血尿症。原因物質は発がん物質のプタキロシドである。

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詳細な解説

参考文献

執筆・編集:Vet Study Library 編集部
監修:獣医師(農林水産省 獣医師名簿第44733号登録)/小動物臨床、環境衛生監視員としての実務経験、獣医療系出版社での獣医学情報誌・獣医学書籍の編集経験、医療系情報サイトでの執筆経験
公開日:2026年9月25日/最終更新日:2026年9月25日
本記事は獣医学生および獣医療従事者の学習支援を目的とした教育用コンテンツです。実際の診療上の判断は担当獣医師の責任において行ってください。