伝染病学 > 豚の主要な感染症
豚の感染症は、繁殖(流産・死産)、呼吸器、消化器、全身と皮膚の4つに症状が分かれ、農場の生産性に大きく影響します。国家試験では、豚流行性下痢、豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)、萎縮性鼻炎、オーエスキー病、豚丹毒が繰り返し出題されています。
本記事では、豚の感染症を症状の出る場所ごとに整理しました。豚熱とアフリカ豚熱は豚熱とアフリカ豚熱の解説で扱っています。
第73回〜第77回では、次のような形で出題されています。
- 豚流行性下痢:原因ウイルスと症状(選択肢を含めて9問)
- PRRS・萎縮性鼻炎・オーエスキー病:原因、病変、豚以外の動物での症状
- 豚丹毒:皮膚の菱形の発疹と人への感染
- 繁殖障害を起こす感染症(PRRS、日本脳炎、豚パルボウイルス感染症、オーエスキー病)
- PRRSがマクロファージで増えて免疫を弱めること
- 萎縮性鼻炎で鼻が曲がるしくみ
- 豚流行性下痢が哺乳中の子豚で重くなる理由
- 豚丹毒の3つの型と、オーエスキー病の豚以外での症状
1. 繁殖障害を起こす感染症
- 豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)(アルテリウイルス科、届出伝染病):妊娠後期の流産・死産・弱い子豚と、子豚の呼吸器の病気を起こす。マクロファージ(細菌を食べて体を守る細胞)の中で増えて壊すため、免疫が弱まり、ほかの細菌やウイルスの感染が重なりやすい
- 日本脳炎(フラビウイルス科):蚊が運ぶ。妊娠豚では死産やミイラ化した胎子、雄豚では精巣の炎症を起こす。豚の体内でウイルスが大量に増えるため、人や馬への感染源(増幅動物)にもなる
- 豚パルボウイルス感染症(パルボウイルス科):初めて妊娠した雌豚で、胎子の死亡、ミイラ化した胎子、死産を起こす。母豚にはほとんど症状がない
- オーエスキー病(ヘルペスウイルス科、届出伝染病):妊娠豚の流産(くわしくは第5章)
繁殖のしくみと障害は、馬・豚・めん羊と山羊の繁殖の解説でも扱っています。
2. 呼吸器の感染症
- 萎縮性鼻炎(届出伝染病):気管支敗血症菌(ボルデテラ)と、毒素をつくるパスツレラが関わる。鼻の中の薄い骨(鼻甲介)が萎縮して、鼻が短くなったり左右に曲がったりする。涙の流れが悪くなり、目の下に黒い涙のあと(涙斑)ができる
- 豚マイコプラズマ肺炎:ゆっくり進む肺炎で、咳が続き、発育が遅れる。細胞壁がないためペニシリンなどは効かない
- 豚胸膜肺炎(Actinobacillus pleuropneumoniae):急に発症して、肺の出血と壊死、胸膜の炎症を起こし、短時間で死亡することもある
3. 消化器の感染症
- 豚流行性下痢(コロナウイルス科、届出伝染病):どの日齢の豚にも、激しい水のような下痢と嘔吐を起こす。ウイルスが小腸の絨毛を壊すため、栄養と水分を吸収できなくなる。体の蓄えが少ない哺乳中の子豚では脱水が進み、死亡率がとても高い
- 豚伝染性胃腸炎(コロナウイルス科、届出伝染病):豚流行性下痢とよく似た症状を起こす
- 豚赤痢(ブラキスピラ、届出伝染病):大腸に炎症を起こし、粘液と血がまじった下痢をする
- 浮腫病:離乳後の子豚で、毒素をつくる大腸菌によって起こる。まぶたのむくみと、ふらつきなどの神経の症状が特徴
4. 全身と皮膚の感染症
4-1. 豚丹毒
- 原因:豚丹毒菌(Erysipelothrix rhusiopathiae)(届出伝染病)
- 急性敗血症型:高い熱を出して急死する
- 蕁麻疹型:皮膚に菱形の赤い発疹が浮き出る
- 慢性型:関節炎と、心臓の弁にいぼのような塊ができる心内膜炎
- 人への感染:豚や魚を扱う人の手の傷からうつり、皮膚が赤く腫れる(類丹毒)
4-2. 豚サーコウイルス2型感染症
サーコウイルス科のウイルスが、離乳後の子豚の発育不良とやせ、リンパ組織の障害を起こします。
5. オーエスキー病 — 豚と豚以外で症状が違う
- 原因:ヘルペスウイルス科のウイルス(届出伝染病)
- 豚:子豚は神経の症状で死亡し、成長した豚では呼吸器の症状、妊娠豚では流産が起こる。回復した豚は潜伏感染し、ウイルスをもち続ける
- 豚以外(犬、猫、牛など):激しいかゆみで体をかきむしり、神経の症状を起こしてほぼ死亡する。狂犬病に似ていることから、仮性狂犬病とも呼ばれる
豚はオーエスキー病ウイルスの本来の宿主で、成長した豚は多くが生き残り、潜伏感染して広げ続けます。豚肉の生肉や内臓を食べた犬や猫は、激しいかゆみと神経症状で死亡します。この対比が問われます。
6. 豚の感染症で国家試験に狙われるポイント
- 繁殖障害:PRRS(アルテリ、マクロファージ、免疫抑制)、日本脳炎(死産・ミイラ胎子、増幅動物)、豚パルボ(初産豚)、オーエスキー病
- 萎縮性鼻炎:ボルデテラと毒素をつくるパスツレラ、鼻甲介の萎縮、鼻の曲がり、涙斑
- 豚流行性下痢:コロナ、絨毛の破壊、水様性下痢、哺乳子豚で死亡率が高い
- 豚赤痢:ブラキスピラ、大腸、粘血便。浮腫病:離乳子豚、まぶたのむくみ、神経症状
- 豚丹毒:急性敗血症型、蕁麻疹型(菱形疹)、慢性型(関節炎・心内膜炎)、人の類丹毒
- オーエスキー病:ヘルペス、豚は潜伏感染、豚以外は激しいかゆみと神経症状で死亡
7. 豚の感染症の確認問題
Q1. PRRSにかかった豚で、ほかの感染症が重なりやすい理由を述べよ。
A. PRRSウイルスは、細菌などを食べて体を守るマクロファージの中で増えて壊すため、免疫が弱まるから。
Q2. 萎縮性鼻炎の豚で鼻が曲がる理由と、関わる細菌を答えよ。
A. 鼻の中の薄い骨(鼻甲介)が萎縮するため、鼻が短くなったり曲がったりする。気管支敗血症菌(ボルデテラ)と、毒素をつくるパスツレラが関わる。
Q3. 豚流行性下痢が哺乳中の子豚で特に重くなる理由を述べよ。
A. ウイルスが小腸の絨毛を壊して水分と栄養を吸収できなくなり、体の蓄えが少ない子豚では脱水が急速に進むため。
Q4. 豚丹毒の3つの型と、それぞれの特徴を答えよ。
A. 急性敗血症型(高熱と急死)、蕁麻疹型(皮膚の菱形の赤い発疹)、慢性型(関節炎と、心臓の弁のいぼ状の心内膜炎)。
Q5. オーエスキー病にかかった犬にみられる症状を述べよ。
A. 激しいかゆみで体をかきむしり、神経の症状を起こして、ほぼ死亡する。
関連コンテンツ
理解度チェック
- 法定伝染病かるた — 家畜伝染病と届出伝染病の区分を覚えられます。
詳細な解説
- 分野別まとめ:伝染病学 — 病原体の分類、消毒薬の選び方、疫学の基礎と、伝染病学全体の出題傾向を整理しています。
- 豚熱とアフリカ豚熱 — 豚の最重要の家畜伝染病を扱います。
- 家畜伝染病予防法と届出伝染病 — 家畜伝染病と届出伝染病の一覧と、発生時の措置を扱います。
- 馬・豚・めん羊と山羊の繁殖 — 豚の繁殖と繁殖障害を扱います。
参考文献
- 獣医伝染病学 近代出版
- 獣医微生物学 文永堂出版
- 動物の感染症 近代出版
- 農林水産省 獣医師国家試験(公式)