馬の心房細動|【獣医師国家試験対策】

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馬の心房細動は、馬でもっとも問題になる不整脈です。国家試験では、「調教やレースの途中で急に失速した馬」の症例に心電図を添えて、病名と治療薬の作用を問う形で出題されています。

馬が心房細動を起こしやすいのは、心房が大きく、安静時の迷走神経の緊張が高いという馬ならではの性質によるものです。そして、この性質が「安静時には何ともないのに、走ると失速する」という症状にもつながります。本記事はこの2点を軸に構成しました。

過去問分析

過去の出題では、次の形式が繰り返し問われています。

  • 症状:調教中・レース中の急激な失速
  • 心電図:A-B誘導でのP波の消失とf波の出現
  • 薬理:治療薬キニジン(またはフレカイニド)の作用
この記事で押さえること
  • 馬が心房細動を起こしやすい2つの理由(大きな心房と高い迷走神経緊張)
  • 馬の安静時にみられる生理的な不整脈との見分け方
  • 安静時は無症状なのに、運動時に失速する理由
  • 心房音(IV音)の消失と、絶対性不整脈
  • A-B誘導の心電図でP波の消失・f波・不規則なRR間隔を読むこと
  • キニジンがIa群の抗不整脈薬として働く仕組み

1. なぜ馬は心房細動を起こしやすいのか

心房細動は、心房の中で興奮が不規則に旋回し続け(リエントリー)、心房が1分間に数百回の細かい興奮を起こしている状態です。心房は規則正しく収縮できなくなり、細かく震えるだけになります。馬には、この状態が起こりやすく、続きやすい条件がそろっています。

  • 心房が大きい:心房の面積が大きいほど、不規則な興奮の波が消えずに旋回を続けられる
  • 安静時の迷走神経の緊張が高い:迷走神経から放出されるアセチルコリンは、心房筋の不応期を短くする。不応期が短く、しかも部位によってばらつくと、興奮が旋回しやすくなる

そのため馬では、ほかに心臓の病気がないのに起こる心房細動が多く、とくに競走馬でよくみられます。一方、僧帽弁の逆流などで心房が拡大した馬や、血中カリウムの低下などの電解質異常がある馬にも起こります。

馬の安静時の不整脈は、多くが生理的

迷走神経の緊張が高い馬では、健康でも安静時に第2度房室ブロックや洞不整脈がよくみられます。これらは運動して交感神経が優位になると消えるのが特徴で、病的ではありません。心房細動は、運動しても消えない病的な不整脈です。症例問題では、この区別がそのまま問われます。

2. 病態生理 — 安静時は平気で、走ると失速する理由

心室は、拡張期のあいだに血液を受け入れ、最後に心房の収縮で一押しされて満たされます。心房細動では、この心房による最後の一押しが失われます。

  • 安静時:馬の安静時の心拍数は低く、拡張期が長いため、心房の一押しがなくても心室は十分に満たされる。そのため症状はほとんど出ない
  • 運動時:心拍数が上がって拡張期が短くなると、心室が満たされる時間が足りなくなり、心房の一押しがないことが拍出量の不足として表れる。さらに心室の拍動が不規則に、過剰に速くなるため、心拍出量を運動に見合うだけ増やせなくなる

こうして、安静時には気づかれず、調教やレースの途中で急に失速するという、この病気に特徴的な現れ方になります。

3. 馬の心房細動の臨床症状と身体検査

  • 症状:安静時は無症状のことが多い。高強度の運動中に急に失速し、運動後の呼吸の回復が遅れることがある
  • 脈と心音:脈の間隔も強さもばらばらで、規則性がまったくない(絶対性不整脈)。心音の強さも拍動ごとに変わる
  • 心房音(IV音)の消失:馬は健康でも心房の収縮に伴う心房音(IV音)が聴こえるが、心房細動では心房が収縮しないため心房音が消える

「健康な馬では心房音が聴こえる」という点は、犬や猫と大きく違うところです。犬や猫でIV音が聴こえればギャロップ(異常)ですが、馬では聴こえるのが正常で、消えることが異常です。

4. 心電図 — A-B誘導で読む

馬の不整脈の判定には、心基底部と心尖部を結ぶ向きに電極を置くA-B誘導(基底部-心尖部誘導)がよく用いられます。波形が大きく明瞭で、P波とQRS群の関係を読み取りやすい誘導です。心房細動では次の3つがそろいます(図1)。

  • P波の消失:心房が規則正しく興奮しないため、P波がなくなる
  • f波:心房の細かい興奮が、基線の細かい揺れとして現れる
  • RR間隔の不規則:房室結節が不規則な興奮の一部だけを心室へ伝えるため、QRS群の間隔がばらばらになる。QRS群の形そのものは正常
洞調律 P波があり、RR間隔が一定 P QRS T 心房細動 P波が消え、基線が揺れる(f波)。RR間隔が不規則 QRS群の間隔がばらばら(絶対性不整脈)

図1 馬のA-B誘導心電図の模式図。上は洞調律、下は心房細動。心房細動ではP波が消えて基線が細かく揺れ(f波)、QRS群の間隔が不規則になる。

心電図で心房細動と診断したら、心エコーで弁膜症や心房の拡大といった基礎疾患の有無を、血液検査で電解質の異常などを確認します。基礎疾患のない心房細動かどうかが、予後を左右するためです。

5. 治療薬の作用機序

本記事では作用機序までを扱い、用量や使い分けは扱いません。

  • キニジン(Ia群抗不整脈薬):Naチャネルを遮断して興奮の伝導を遅らせ、さらにKチャネルを遮断して活動電位の持続時間と不応期を延ばす。不応期が延びると、旋回していた興奮が次に進む先を失ってリエントリーが途切れ、洞調律に戻る
  • キニジンの性質:迷走神経の作用を弱める抗コリン作用をもち、房室結節の伝導を促して、洞調律に戻る前に心室の拍動が速くなることがある。副作用として下痢などの消化器症状、鼻粘膜の腫れ、じんま疹、低血圧、心室性不整脈が知られている
  • フレカイニド(Ic群抗不整脈薬):強いNaチャネル遮断作用をもち、心房内の伝導を大きく遅らせて旋回を断ち切る
第1章とつなげて覚える

迷走神経は不応期を短くして心房細動を起こしやすくし、キニジンは不応期を延ばして心房細動を止めます。原因と治療薬が、不応期という同じ物差しの逆向きに働いていると理解すると、両方を一度に覚えられます。

6. 予後

基礎疾患のない心房細動では、洞調律に戻ると競走能力が回復することが多く、予後はおおむね良好です。ただし再発することがあります。弁膜症などの基礎疾患に伴う心房細動では、洞調律に戻りにくく、予後は基礎疾患の重さに左右されます。

7. 馬の心房細動で国家試験に狙われるポイント

  • 起こりやすい理由:大きな心房と、安静時の高い迷走神経緊張(不応期の短縮)
  • 生理的な不整脈との区別:安静時の第2度房室ブロックは運動で消える生理的なもの。心房細動は運動でも消えない
  • 症状:安静時は無症状。調教・レース中の急な失速
  • 身体検査:絶対性不整脈、心音の強さの変動、心房音(IV音)の消失
  • 心電図(A-B誘導):P波の消失、f波、不規則なRR間隔。QRS群の形は正常
  • 薬理:キニジンはIa群(Na・Kチャネル遮断で不応期を延長)。抗コリン作用で心室の拍動が速くなることがある。フレカイニドはIc群
  • 予後:基礎疾患がなければ、洞調律に戻ると競走能力が回復することが多い

8. 馬の心房細動の確認問題

Q1. 馬が心房細動を起こしやすい理由を2つ挙げ、それぞれ説明せよ。

A. ひとつは心房が大きいことで、不規則な興奮の波が消えずに旋回を続けやすい。もうひとつは安静時の迷走神経の緊張が高いことで、アセチルコリンが心房筋の不応期を短くし、そのばらつきによって興奮の旋回(リエントリー)が起こりやすくなる。

Q2. 安静時に第2度房室ブロックを示した健康な馬の心電図の所見は、運動によってどう変化するか。心房細動との違いとあわせて述べよ。

A. 迷走神経の緊張による生理的な房室ブロックであるため、運動して交感神経が優位になると消える。心房細動は運動しても消えない病的な不整脈である点が異なる。

Q3. 心房細動の馬が、安静時には無症状であるのに運動中に失速する理由を述べよ。

A. 安静時は心拍数が低く拡張期が長いため、心房の収縮による一押しがなくても心室は十分に満たされる。運動で心拍数が上がって拡張期が短くなると、心房の一押しがないことが拍出量の不足として表れ、さらに心室の拍動が不規則に速くなるため、運動に見合う心拍出量を確保できなくなる。

Q4. 心房細動の馬の聴診で、健康な馬と比べて聴こえなくなる心音は何か。その理由を述べよ。

A. 心房音(IV音)。健康な馬では心房の収縮に伴う心房音が聴こえるが、心房細動では心房が規則正しく収縮しないため、心房音が消える。

Q5. キニジンが心房細動を洞調律に戻す仕組みを、抗不整脈薬の分類とあわせて述べよ。

A. キニジンはIa群の抗不整脈薬で、Naチャネルを遮断して伝導を遅らせ、Kチャネルを遮断して活動電位の持続時間と不応期を延ばす。不応期が延びることで、心房内を旋回していた興奮が進む先を失い、リエントリーが途切れて洞調律に戻る。

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詳細な解説

参考文献

執筆・編集:Vet Study Library 編集部
監修:獣医師(農林水産省 獣医師名簿第44733号登録)/小動物臨床、環境衛生監視員としての実務経験、獣医療系出版社での獣医学情報誌・獣医学書籍の編集経験、医療系情報サイトでの執筆経験
公開日:2026年9月24日/最終更新日:2026年9月24日
本記事は獣医学生および獣医療従事者の学習支援を目的とした教育用コンテンツです。実際の診療上の判断は担当獣医師の責任において行ってください。