臨床獣医学 > 内科 > 循環器
循環器疾患は、「病態・心音・画像・心電図・薬理」の5つが一本の線でつながる分野です。ひとつの疾患を5つの角度から問う連問や症例問題が多く、丸暗記よりもつながりを持った理解がそのまま得点になります。
本ページでは、この5つのつながりを軸に、心臓の生理、循環器薬の作用機序、心雑音・画像・心電図の読み方を整理し、重要テーマの詳細へ案内します。
循環器は、小動物内科・大動物内科だけでなく、生理学・薬理学・画像診断(X線・超音波・心電図)にまたがって出題されます。数字以上に、臨床系の科目の中で存在感の大きい分野です。
本ページの出題傾向は、過去の獣医師国家試験を編集部が分野別に分類集計したものです。
1. 循環器疾患の出題傾向(試験区分別)
- 必須問題:心臓の生理の基本(刺激伝導系の順番、スターリングの法則、交感神経と副交感神経の作用)を一問一答で問う形式
- 学説試験A:心周期と心音、刺激伝導系、胎子循環など、生理と解剖の理解
- 学説試験B:強心薬・利尿薬・RAAS抑制薬・抗不整脈薬・抗血栓薬の作用機序と、代表的疾患の病態
- 実地試験C・D:心電図波形、胸部X線、心エコー画像の読影を含む症例問題。犬の僧帽弁閉鎖不全症、猫の肥大型心筋症と大動脈血栓塞栓症、牛の創傷性心膜炎、馬の心房細動が、角度を変えて繰り返し出題されています
注目すべきは、実地試験で画像と波形そのものを読ませる問題が多いことです。疾患名を覚えるだけでは足りず、「この雑音ならこの疾患」「この心電図ならこの不整脈」という変換ができる状態まで持っていく必要があります。
2. なぜ循環器は「5つの要素」でつながるのか
犬の僧帽弁閉鎖不全症(MMVD)を例に、ひとつの病態が5つの所見にどう現れるかをたどります。
- 病態:僧帽弁の粘液腫様変性で弁が閉じきらなくなり、収縮期に血液が左心房へ逆流する
- 心音・心雑音:逆流は収縮期のあいだ続くため、左側心尖部で収縮期雑音が聴こえる。心電図に重ねると、QRS群の直後(I音)からT波の終わり頃(II音)までにあたる
- 画像:逆流を受け止める左心房が拡大する。左心房の圧が肺静脈に及ぶと、心原性肺水腫として胸部X線に現れる
- 心電図:左心房が拡大するとP波の幅が広がる(僧帽性P波)ことがあり、進行すると心房性の不整脈が出やすくなる
- 薬理:循環血液量を減らして前負荷を下げる利尿薬、心収縮力を高めて血管を広げる強心薬、RAASを抑える薬が、それぞれ病態のどこに作用するか
疾患ごとに、この5つを横に並べて覚えてください。猫の肥大型心筋症なら、左室の求心性肥大 → 拡張障害 → 左心房の拡大 → 血流のうっ滞 → 左心房内の血栓 → 大動脈血栓塞栓症という一本の線になります。どの所見から問われても、線の上のどこにいるかがわかれば答えを導けます。
3. 学説A対策 — 心臓の生理
3-1. 刺激伝導系
興奮は洞房結節 → 結節間伝導路 → 房室結節 → ヒス束 → 右脚・左脚 → プルキンエ線維の順に伝わります。房室結節で伝導があえて遅れるのは、心房の収縮で心室へ血液を送り込み終えてから心室が収縮するための時間稼ぎです。順番は超簡単まとめのゴロ合わせで覚えられます。
3-2. 心周期と心音
- I音:房室弁(僧帽弁・三尖弁)の閉鎖。収縮期の始まりで、心電図ではQRS群の直後
- II音:動脈弁(大動脈弁・肺動脈弁)の閉鎖。拡張期の始まりで、T波の終わり頃
- III音:拡張早期、心室へ血液が急速に流れ込むときの振動
- IV音:拡張末期、心房の収縮で血液が押し込まれるときの振動
健康な犬猫ではIII音・IV音はふつう聴こえません。聴こえると3拍子のギャロップリズムとなり、心室が硬くなった猫の肥大型心筋症でよくみられます。
3-3. スターリングの心臓の法則
心室に戻る血液量(前負荷)が増えて心筋線維が引き伸ばされるほど、収縮力が増して1回拍出量が増えます。一方、心室が血液を送り出すときの抵抗が後負荷です。心不全では、この「伸ばされるほど強く縮む」予備能が使い果たされ、前負荷の増加がうっ血として現れます。利尿薬と血管拡張薬の効き方は、この2つの負荷で理解できます。
3-4. 自律神経の作用
- 交感神経(β1受容体):心拍数の増加、収縮力の増強、房室伝導の促進
- 副交感神経(迷走神経・M2受容体):心拍数の低下、房室伝導の抑制
受容体の分布と作用は自律神経系と受容体の解説で整理しています。
3-5. 胎子循環と先天性心疾患の成り立ち
胎子期の肺は働いていないため、血液は2つの近道で肺を迂回します。動脈管(肺動脈から大動脈へ)と卵円孔(右心房から左心房へ)です。これらは生後に閉じますが、閉じずに残ると先天性心疾患になります。
- 動脈管開存症(PDA):大動脈から肺動脈へ血液が流れ続け、収縮期から拡張期まで途切れない連続性雑音が生じる
- 心室中隔欠損症(VSD):心室の壁の穴を通る短絡で、収縮期雑音が生じる
- 右大動脈弓遺残:本来は消えるはずの右第4大動脈弓が残り、動脈管索とともに食道を締めつける。離乳して固形食を始める頃に吐出が始まり、心基底部より頭側の食道が拡張する
4. 学説B対策 — 循環器薬の作用機序
薬は名前ではなく作用点で覚えると、第2章の病態のどこに効くのかが自然につながります。本ページでは作用機序までを扱い、用量や薬の選び方は扱いません。
- 強心薬(ピモベンダン):ホスホジエステラーゼ3(PDE3)を阻害してcAMPを増やし、心筋の収縮力を高めると同時に血管を広げる。さらに心筋のカルシウム感受性を高める(カルシウムセンシタイザー)
- ループ利尿薬(フロセミド):ヘンレのループの太い上行脚でNa⁺-K⁺-2Cl⁻共輸送体を阻害し、大量のNaと水を排泄させて前負荷を下げる。低カリウム血症や脱水はこの機序の裏返し(尿生成と利尿薬の超簡単まとめ)
- ACE阻害薬(ベナゼプリル、エナラプリル):アンジオテンシンIからIIへの変換を阻害し、血管収縮とアルドステロンによるNa・水の貯留を抑える
- アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB):AT1受容体を遮断し、アンジオテンシンIIの作用そのものを抑える
- 硝酸薬(硝酸イソソルビド):一酸化窒素(NO)を供給してcGMPを増やし、主に静脈を広げて前負荷を下げる
- PDE5阻害薬(シルデナフィル):肺血管でcGMPの分解を抑え、肺血管を広げて肺動脈圧を下げる
- 抗不整脈薬(Vaughan Williams分類):I群はNaチャネル遮断(Ia群のキニジン、Ib群のリドカインなど)、II群はβ遮断(アテノロール)、III群はKチャネル遮断、IV群はCaチャネル遮断。β遮断薬は心拍数とともに収縮力も下げる(陰性変力作用)ため、心筋の収縮力が落ちた病態では心拍出量をさらに減らしうる
- 抗血栓薬:ヘパリンはアンチトロンビンの働きを強めてトロンビンや活性化第X因子を阻害する。クロピドグレルは血小板のADP受容体(P2Y12)を遮断して血小板の凝集を抑える(止血凝固系の超簡単まとめ)
5. 実地C・D対策 — 所見の横断整理
5-1. 心雑音の時相と代表疾患
- 収縮期雑音:MMVD(左側心尖部)、VSD、大動脈狭窄・肺動脈狭窄
- 連続性雑音:PDA。収縮期から拡張期まで途切れず続く
- ギャロップリズム:III音・IV音の出現。猫の肥大型心筋症
- 心膜摩擦音と拍水音:牛の創傷性心膜炎。初期は心膜どうしがこすれる摩擦音、液がたまると拍水音に変わり、心音は弱くなる
5-2. 胸部X線
- 左心房の拡大:MMVDで、側面像では心陰影の後背側が膨らみ、気管が背側へ持ち上げられる
- 心原性肺水腫:左心不全のサイン。犬では肺門部から後背側に広がりやすい
- 球状(フラスコ型)の心陰影:心膜液貯留。輪郭がなめらかで、全体が丸く大きくなる
- 両心房の拡大:猫の肥大型心筋症で、背腹像の心陰影がハート形になることがある
5-3. 心エコー
- 左室内径短縮率(FS)の低下:FSは拡張末期と収縮末期の左室内径の差を拡張末期で割った割合。低下は収縮不全を示し、拡張型心筋症(DCM)で代表的
- 左室壁の肥厚と左心房の拡大:猫の肥大型心筋症。左心房内にもやもやしたエコー(血流のうっ滞)や血栓がみられることがある
- 心臓を取り囲む無エコー域:心膜液貯留。右心房が拡張期につぶれていれば心タンポナーデ
5-4. 心電図
- 心房細動:P波が消え、基線が細かく揺れる(f波)。RR間隔がまったく不規則になる
- 第2度房室ブロック:P波のあとに続くはずのQRS群がときどき脱落する
- 第3度(完全)房室ブロック:P波とQRS群が互いに無関係に出現し、遅い補充調律になる
- 洞停止と洞房ブロック:どちらもP-QRS-Tが一時的に消える。休止が基本の周期のちょうど整数倍なら洞房ブロック、そうでなければ洞停止
- 心室期外収縮:先行するP波のない、幅の広い変形したQRS群
- 低電位と電気的交互脈:心膜液貯留。QRS群が小さくなり、心臓が液の中で揺れるため波高が1拍ごとに変わることがある
5-5. 右心不全のサイン
頸静脈の怒張と拍動、腹水・胸水、肝腫大は、右心系に血液がうっ滞しているサインです。牛では胸垂(胸前)の浮腫としても現れます。心タンポナーデ、牛の創傷性心膜炎、肺高血圧症など、原因が違っても同じサインに行き着く点を押さえてください。
6. 重要テーマ別の詳細解説
実地試験で繰り返し出題されている疾患を中心に整理しました。4大パターンは、それぞれ個別の記事でくわしく解説しています。
犬僧帽弁閉鎖不全症(MMVD)
高齢の小型犬に多い、犬でもっとも多い心疾患です。収縮期雑音 → 左心房の拡大 → 心原性肺水腫という流れと、利尿薬・強心薬・RAAS抑制薬がそれぞれどこに作用するかを、第2章の5要素で整理します。
猫肥大型心筋症(HCM)と大動脈血栓塞栓症(ATE)
左室壁の肥厚と心筋線維の錯綜配列、拡張障害による左心房の拡大、ギャロップリズムが特徴です。拡大した左心房で血流がよどむと血栓ができ、大動脈の分岐部に詰まると突然の後肢麻痺、麻痺肢の冷感、股動脈の拍動消失、肉球や爪床の蒼白が起こります。血栓ができる3条件(血流のうっ滞・血管内皮の障害・凝固の亢進)は止血凝固系の超簡単まとめとあわせて確認してください。
犬拡張型心筋症(DCM)
大型犬に多く、心室が拡大して収縮力が落ちる病態です。心エコーでのFSの低下が決め手で、心房細動を伴いやすい点も問われます。猫ではタウリン欠乏による心筋症が古くから知られ、犬でも一部の犬種や食事との関連が指摘されています。
犬先天性心疾患(PDA・VSD・右大動脈弓遺残)
第3章の胎子循環から成り立ちを理解すると、雑音と症状が自然に導けます。PDAの連続性雑音、右大動脈弓遺残の離乳期からの吐出と食道拡張が頻出です。
犬心膜液貯留と心タンポナーデ
心膜腔に液がたまって心臓が十分に広がれなくなる病態です。心音の減弱、頸静脈の怒張、球状の心陰影、低電位と電気的交互脈という、X線・心電図・心エコーにまたがる所見の組み合わせで問われます。
牛創傷性心膜炎
飲み込んだ針金や釘が第2胃の壁を貫き、横隔膜を越えて心膜に達することで起こります。心膜摩擦音から拍水音への変化、心音の減弱、頸静脈の怒張、胸垂の浮腫と、右心不全の所見がそろうのが特徴です。予防として磁石を投与する理由も、この発生の仕組みから説明できます。
牛後大静脈血栓症
第一胃アシドーシスから始まり、ルーメン炎 → 肝膿瘍 → 後大静脈の血栓 → 肺への塞栓 → 肺動脈瘤の破裂 → 鼻出血へと進む連鎖の終盤にあたります。
馬心房細動
安静時には目立たなくても、調教やレース中の急な失速として現れます。心電図(A-B誘導)でのP波の消失とf波、不規則なRR間隔が読影の要点です。治療薬として問われるキニジンは、第4章のIa群抗不整脈薬にあたります。
豚マルベリー心臓病
ビタミンEやセレンの欠乏で起こる心筋の壊死と出血により、心臓が桑の実(マルベリー)のような外観になり、突然死を起こす疾患です。
横断全身性高血圧と標的臓器障害
高血圧が続くと、眼(網膜剥離・網膜出血)、腎臓(タンパク尿)、脳、心臓(左室の肥大)が障害されます。原因として問われるのは、猫では慢性腎臓病と甲状腺機能亢進症、犬では慢性腎臓病と副腎皮質機能亢進症、そのほか原発性アルドステロン症や褐色細胞腫です。心筋の肥厚は高血圧の原因ではなく結果として起こる点に注意してください。
横断心肺蘇生と呼気終末二酸化炭素濃度(EtCO₂)
胸骨圧迫中のEtCO₂は、肺に届いている血流、つまり圧迫でどれだけ循環が生まれているかの指標になります。低いままなら圧迫が不十分、急に上がれば自己心拍の再開を示します。
7. 学習教材
解説を読んだあとは、理解度チェックで定着を確認してください。
理解度チェック
- かんたん:ジグソーパズル — 心臓の刺激伝導系、心周期の各期。順番と流れを手を動かして確認できます
- ふつう:フローチャート — 薬理学フローチャート。β遮断薬やACE阻害薬を、系統・受容体・作用の順にたどれます
- むずかしい:推理ラボ — 心疾患推理ラボ。発症様式・身体所見・検査所見から、MMVD、心筋症、先天性心疾患、不整脈、心膜疾患を突き止めます
詳細な解説
- 解説ブック:犬と猫の心臓と循環器疾患ガイド — 心臓の構造と機能から主要な心疾患までを体系的に扱います
- 解説ブック:犬と猫の血圧調節メカニズム — 血圧調節の生理と高血圧の病態、降圧薬の作用点
- 解説ブック:犬と猫の輸液療法と輸液剤 — 体液と循環血液量の考え方
超簡単まとめ😸シリーズ・覚え方
- 心臓の刺激伝導系 — 刺激伝導系のゴロ合わせ、房室結節で伝導が遅れる理由、心電図との対応
- 語呂合わせ・覚え方まとめ — β1は心臓・β2は肺など、他分野の覚え方もまとめています
8. 循環器疾患の勉強法 ― おすすめの学習順序
循環器は所見どうしのつながりが得点の鍵になるため、生理から所見へと積み上げる順序をおすすめします。
- 生理の土台:刺激伝導系と心周期をジグソーパズルで確認し、本ページ第3章で心音とスターリングの法則を押さえる
- 5要素の型:第2章でMMVDを例に、病態から薬理までの一本の線をつかむ
- 薬理の整理:第4章で、薬を作用点ごとに病態へ結びつける
- 所見の変換:第5章で、雑音・X線・エコー・心電図から疾患を言い当てる練習をする
- 重要疾患と演習:第6章の4大パターン(MMVD、猫のHCMとATE、牛の創傷性心膜炎、馬の心房細動)を確認し、心疾患推理ラボで総仕上げをする
循環器は内科学を構成する領域のひとつです。ほかの領域を含めた内科学全体の出題傾向は、臨床獣医学 > 内科のページで整理しています。
参考文献
- 新獣医内科学 文永堂出版
- 犬と猫の治療ガイド インターズー
- 伴侶動物治療指針 緑書房
- CAP 緑書房
- SA Medicine インターズー
- 新編 家畜薬理学 養賢堂
- 獣医生理学第二版 文永堂出版
- 動物病理学各論 文永堂出版
- 家畜比較解剖図説 養賢堂
- 農林水産省 獣医師国家試験(公式)