麻酔器は、「酸素と麻酔のガスをちょうどいい濃さで届けて、吐いた息をきちんと片づける」ための機械にゃん!
部品の名前はむずかしそうに見えますが、やっていることは「ガスをつくる → 動物に届ける → 吐いた息を処理する」の3つだけです。このページでは、専門用語はできるだけ使わずに、ガスの通り道をたどりながら順番に説明します。
1麻酔器は何をしているの?
吸入麻酔では、動物は酸素に麻酔薬のガスを混ぜた空気を吸って眠ります。麻酔器の仕事は、次の3つです。
- ガスをつくる:酸素に、決まった濃さの麻酔薬を混ぜる
- 動物に届ける:管(回路)を通して、気管に入れたチューブから肺へ送る
- 吐いた息を片づける:吐いた息に含まれる二酸化炭素を取り除くか、外へ捨てる
3つ目の「吐いた息をどう片づけるか」で、回路は2種類に分かれるにゃ。ここがいちばん大事なポイントにゃん!
2ガスをつくる部分 — 部品を順番に
ガスは、次の順番で流れていきます。
- 酸素の元(ボンベや配管):麻酔中に吸わせる酸素の出どころ。使う前に残りの量を確かめます
- 流量計:1分間にどのくらいの量の酸素を流すかを決める目盛り。中の小さな玉(浮き)の高さで量がわかります
- 気化器:液体の麻酔薬を気体にして、決まった濃さで酸素に混ぜる装置。ダイヤルで「何%混ぜるか」を決めます。麻酔薬ごとに専用の気化器を使います
ここでできた「酸素+麻酔薬」のガスを新しいガスと呼びます。この新しいガスが、次の回路へ送られます。
3回路その1 — 吐いた息を「きれいにして使い回す」回路
1つ目の回路は、吐いた息を捨てずに、二酸化炭素だけを取り除いて、もう一度吸わせる回路です。専門的には「再呼吸回路」や「循環式回路」と呼ばれます。エアコンが部屋の空気をきれいにしながら回しているのと同じイメージです。
図1 吐いた息をきれいにして使い回す回路。一方通行の弁のおかげで、ガスは時計回りにぐるっと一方向に回る。吐いた息はソーダライムで二酸化炭素を取り除かれ、新しいガスと合流して、また吸われる。
部品の役割
- 一方通行の弁(2つ):吸う側と吐く側に1つずつあり、ガスが逆向きに流れないようにします。これで、吐いた息がそのまま吸う側に戻ることを防ぎます
- ソーダライム(二酸化炭素を吸い取る粒):吐いた息の二酸化炭素を吸い取る、石灰でできた粒です。二酸化炭素を吸い取るにつれて色が変わり(製品によって、白から紫などに変わります)、吸い取る力がなくなってきたことを教えてくれます
- 呼吸バッグ:動物の呼吸に合わせてふくらんだり、しぼんだりする袋。呼吸をしているかが目で見えるうえ、手で押せば呼吸を助けることもできます
- 余分なガスの出口(APLバルブ):回路の中にたまった余分なガスを逃がす出口。逃がしたガスは、スタッフが吸わないように建物の外などへ運ばれます
よいところ、気をつけるところ
- よいところ:吐いた息を使い回すので、新しいガスも麻酔薬も少なくてすみます。吐いた息は温かく湿っているので、それをもう一度吸うことで、体が冷えにくく、気道も乾きにくいのも利点です
- 気をつけるところ:弁やソーダライムを通るぶん、息をするのに少し力がいります。体の大きな動物には問題になりませんが、とても小さな動物には負担になります。また、ソーダライムが使い切られると、吐いた二酸化炭素をまた吸ってしまいます
4回路その2 — 吐いた息を「そのまま捨てる」回路
2つ目の回路は、吐いた息を使い回さず、たくさん流した新しいガスで押し流して、外へ捨てる回路です。専門的には「非再呼吸回路」と呼ばれます。窓を開けて、いつも新しい空気を入れ続けているイメージです。
図2 吐いた息をそのまま捨てる回路。弁もソーダライムもない。動物の近くから新しいガスを多めに流し、吐いた息を反対側へ押し流して捨てる。
よいところ、気をつけるところ
- よいところ:弁もソーダライムもないので、息をするのがとても楽です。そのため、体の小さな動物(目安としておよそ5〜7kg未満の犬や猫など)に向いています
- 気をつけるところ:吐いた息を押し流すために、たくさんの新しいガスが必要です(動物が1分間に吸う量の何倍も流します)。流す量が足りないと、吐いた二酸化炭素をまた吸ってしまいます。また、乾いた冷たいガスを吸い続けるので、体が冷えやすいのも弱点です
小さな子猫が重い扉を押して呼吸するのは大変にゃ。だから小さい動物には「扉のない」回路を使うにゃん!
52つの回路をまとめると
- 吐いた息の片づけ方:使い回す回路は「ソーダライムで二酸化炭素を取って使い回す」。捨てる回路は「新しいガスで押し流して捨てる」
- ガスと麻酔薬の量:使い回す回路は少なくてすむ。捨てる回路はたくさん必要
- 息のしやすさ:使い回す回路は弁などのぶん少し重い。捨てる回路はとても軽い
- 体温と気道:使い回す回路は温かく湿った息を吸えるので冷えにくい。捨てる回路は冷えやすい
- 向いている動物:使い回す回路は中型〜大型の動物。捨てる回路は小型の動物
6よくあるトラブルと、気づき方
- ソーダライムが使い切られている:色が変わっていたら交換のサインです。そのまま使うと二酸化炭素をまた吸ってしまい、呼気の二酸化炭素を測るモニター(カプノグラフ)で、吸うときにも二酸化炭素がゼロまで下がらなくなります
- 一方通行の弁がうまく閉じない:吐いた息が吸う側へ戻ってしまい、同じように二酸化炭素をまた吸うことになります
- 余分なガスの出口を閉めたまま:回路の中にガスがたまって圧力が上がり、肺が膨らみすぎて傷つくことがあります。肺が膨らみっぱなしになると、心臓に血液が戻りにくくなり、血圧も下がります
- 回路が外れた・漏れている:呼吸バッグが動かなくなったり、麻酔が浅くなったりします。使う前に、回路の出口をふさいでバッグをふくらませ、圧が保たれるか(漏れがないか)を確かめます
- 酸素のボンベが空・気化器に麻酔薬が入っていない:使う前に、残りの量と薬の量を確かめます
7国家試験ではここが問われる
- 吐いた息を使い回す回路で、二酸化炭素を取り除くのはソーダライム(二酸化炭素吸収装置)であること。実地試験で装置の写真が出たことがあります
- ソーダライムの色の変化が、交換の目安であること
- 体の小さな動物には、吐いた息を捨てる回路を使う理由(息をするのが楽)
- 余分なガスの出口(APLバルブ)と呼吸バッグの役割
- 回路のトラブルが、カプノグラフ(呼気の二酸化炭素のモニター)にどう表れるか
麻酔中のモニターや麻酔薬については、麻酔のモニタリングと合併症の解説でくわしく扱っています。
8ミニテスト(8問)
0 / 8 問正解選ぶとすぐに正解と解説が出ます。まちがえたところは、上の図に戻って確かめてみてください。
Q1.液体の麻酔薬を気体にして、決まった濃さで酸素に混ぜる装置はどれ?
正解:気化器 ダイヤルで「何%混ぜるか」を決めます。流量計は、酸素を1分間にどのくらい流すかという「量」を決める目盛りです。
Q2.吐いた息を使い回す回路で、二酸化炭素を取り除くものはどれ?
正解:ソーダライム 吐いた息の二酸化炭素を吸い取って、残りのガスをもう一度吸えるようにします。
Q3.ソーダライムの色が変わっていた。どうすればよい?
正解:交換する 色の変化は、二酸化炭素を吸い取る力がなくなってきたサインです。そのまま使うと、吐いた二酸化炭素をまた吸ってしまいます。
Q4.体重2kgの子猫の麻酔に、吐いた息を捨てる回路が向いている理由はどれ?
正解:息をするのが楽だから 小さな動物には、弁やソーダライムを通って呼吸する負担が大きすぎます。麻酔薬が少なくてすむ、冷えにくいのは、使い回す回路のほうの利点です。
Q5.吐いた息を捨てる回路の弱点はどれ?
正解:たくさんのガスが必要で、体が冷えやすい 吐いた息を押し流すために多めのガスを流し、乾いた冷たいガスを吸い続けるためです。この回路にはソーダライムはありません。
Q6.余分なガスの出口(APLバルブ)を閉めたままにすると、何が起こるおそれがある?
正解:肺が膨らみすぎて傷つく ガスの逃げ場がなくなって回路の中の圧が上がります。肺が膨らみっぱなしになると、心臓に血液が戻りにくくなり、血圧も下がります。
Q7.呼気の二酸化炭素のモニターで、吸うときにも二酸化炭素がゼロまで下がらなくなった。考えられる原因はどれ?
正解:吐いた息をまた吸っている 本来、吸う空気には二酸化炭素がほとんど含まれないため、吸うときにはゼロまで下がります。下がらないのは、二酸化炭素を含む息を吸い直している合図です。
Q8.酸素を一気に流すボタン(酸素フラッシュ)について、正しいのはどれ?
正解:回路の麻酔薬が薄まる このボタンの酸素は気化器を通らずに回路へ入ります。吐いた息を捨てる回路で押すと、一度に大量のガスで肺を傷つけるおそれもあります。
9もっとくわしく知りたいとき
- 分野別まとめ:麻酔学 — 全身麻酔の4つの要素と、動物種による違い
- 麻酔のモニタリングと合併症 — 酸素化と換気の見分け方、呼気の二酸化炭素のモニター
- 麻酔薬と鎮静薬の作用機序 — 吸入麻酔薬の強さ(MAC)と効く速さ