臨床獣医学 > 繁殖 > 牛の繁殖
牛は、繁殖学で最も多く出題されている動物です。乳牛も肉牛も、約1年に1回分娩させることが生産の土台になるため、発情を見逃さず、適期に授精し、早く妊娠を確かめることが重視されます。
本記事では、牛の繁殖を「発情 → 排卵と授精 → 妊娠 → 分娩」の順に一続きで追い、最後に繁殖を人の手で整える技術と、繁殖成績の指標を整理しました。
過去の出題では、次の形式が問われています。
- 性周期:発情から排卵までの時間、発情周期の長さ
- 繁殖技術:過剰排卵処置と胚移植(過剰排卵にはFSHが用いられる)
- 画像:直腸検査や超音波で見える卵巣・子宮の所見
- 牛は周年繁殖で、発情周期は約21日、発情は短いこと
- スタンディング発情と、排卵が発情の終了後に起こること
- 妊娠を知らせるインターフェロンτと、黄体の維持
- 妊娠期間(約280日)と、直腸検査・超音波による妊娠診断
- 発情の同期化、過剰排卵と胚移植
- 分娩間隔や空胎日数などの繁殖成績の指標
1. 発情周期
牛は季節に関係なく一年中繁殖する周年繁殖動物で、発情周期は約21日です。
- 卵胞の発育:1回の発情周期の中で、卵胞は2〜3回の波をつくって育つ。最後の波で最も大きくなった卵胞(主席卵胞)が排卵する
- 黄体期:排卵のあとに黄体ができ、プロジェステロンを出して次の発情を抑える
- 黄体の退行:妊娠しなければ、排卵から16〜17日ごろに子宮内膜がPGF2αを出し、黄体が退行して次の発情が来る
2. 発情と排卵
2-1. 発情の徴候
- スタンディング発情:ほかの牛に乗られてもじっと立って許す。発情の最も確かな徴候
- ほかの牛に乗りかかる、落ち着かず歩き回る(活動量の増加)、鳴く
- 外陰部が腫れ、透明で糸を引く粘液が出る
牛の発情の持続は12〜18時間ほどと短く、夜間に始まることも多いため、見逃しやすいのが特徴です。活動量計などで見つける工夫がされています。発情が終わって1〜3日後に外陰部から少量の血が出ることがありますが、これは発情の後の出血で、妊娠したかどうかとは関係ありません。
2-2. 排卵のタイミングと授精の適期
牛の排卵は、発情の開始からおよそ28〜30時間後、発情が終わってから10〜12時間ほどあとに起こります。精子が受精できる状態になるまでの時間も考えて、発情の後半から終わり頃に授精します。「朝に発情を見つけたらその日の夕方に、夕方に見つけたら翌朝に授精する」という目安が知られています。
3. 妊娠
3-1. 妊娠の認識
受精した胚は子宮の中で育ち、妊娠15〜17日ごろ、胚の外側の細胞(栄養膜)がインターフェロンτを出します。インターフェロンτは子宮内膜からのPGF2αの分泌を抑えるため、黄体が退行せずに残り、プロジェステロンで妊娠が維持されます。これを母体の妊娠認識といいます。
3-2. 胎盤と妊娠期間
牛の胎盤は、子宮の小丘(カルンクル)と胎膜の絨毛叢(コチレドン)が組み合わさった胎盤節が、子宮の中に多数並ぶ叢毛胎盤です。妊娠期間は約280日です。
3-3. 妊娠診断
- 超音波検査:妊娠30日ごろから、子宮の中の胎子と心拍を確認できる
- 直腸検査:妊娠35〜40日ごろ以降、左右の子宮角の大きさの違い、指でつまむと滑る胎膜(胎膜のスリップ)、胎子、胎盤節、子宮に血液を送る中子宮動脈の特有の拍動(妊娠脈)などで判断する
- プロジェステロンの測定:授精から約21日目にプロジェステロンが低ければ、黄体が退行しており妊娠していないと判断できる
4. 分娩と分娩後
- 分娩の兆候:乳房の張り、外陰部の腫れ、尾の付け根の両側の靱帯(仙坐靱帯)のゆるみ、分娩前の体温の低下
- 分娩の3つの時期:子宮頸管が開く開口期、胎子が出てくる産出期、胎盤が出てくる後産期
- 分娩後:子宮はおよそ40日かけてもとの大きさに戻る(子宮修復)。その間に卵巣の働きが再開し、次の発情が来る
5. 繁殖を整える技術
5-1. 発情の同期化
複数の牛の発情をそろえ、決まった日にまとめて授精するための技術です。
- PGF2α:黄体を退行させて、数日後に発情を起こす。黄体がある時期でなければ効かないため、間隔をあけて2回投与する方法がある
- プロジェステロン製剤:腟内に入れて黄体期と同じ状態をつくり、取り除くと発情が来る
- GnRHとPGF2αの組み合わせ:GnRHで卵胞の波をそろえ、PGF2αで黄体を退行させ、再びGnRHで排卵を起こして、決まった時刻に授精する(定時人工授精)
5-2. 過剰排卵と胚移植
- 優れた雌牛(供胚牛)にFSHなどを投与して、多数の卵胞を同時に育てて排卵させる(過剰排卵)
- 授精して、発情から約7日後に子宮を洗い流して胚を回収する
- 発情周期をそろえておいた別の雌牛(受胚牛)の子宮に胚を移植する
1頭の優れた雌牛から、多数の子牛を得ることができます。
6. 繁殖成績の指標
- 分娩間隔:前の分娩から次の分娩までの日数。目標はおよそ1年
- 空胎日数:分娩から次に受胎するまでの日数。短いほどよい
- 初回授精日数:分娩から最初に授精するまでの日数
- 受胎率:授精した回数のうち受胎した割合
- 発情発見率:来た発情のうち見つけられた割合
妊娠期間が約280日なので、1年に1回分娩させるには、分娩からおよそ85日以内に次の妊娠を成立させる必要があります。
7. 牛の繁殖で国家試験に狙われるポイント
- 性周期:周年繁殖、約21日。卵胞の波は2〜3回
- 発情:スタンディング発情が最も確か。持続は12〜18時間と短い
- 排卵:発情開始からおよそ28〜30時間後、発情終了後に起こる。授精は発情の後半から終わり頃
- 妊娠認識:妊娠15〜17日ごろのインターフェロンτがPGF2αを抑え、黄体を維持する
- 胎盤と妊娠期間:叢毛胎盤(胎盤節)、約280日
- 妊娠診断:超音波(約30日〜)、直腸検査(胎膜のスリップ、胎盤節、妊娠脈)、授精後21日のプロジェステロン
- 繁殖技術:PGF2α・プロジェステロン・GnRHによる同期化、FSHによる過剰排卵、発情後約7日の胚の回収と移植
- 指標:分娩間隔の目標は約1年
8. 牛の繁殖の確認問題
Q1. 牛の発情の徴候のうち、最も確かなものは何か。
A. スタンディング発情。ほかの牛に乗られてもじっと立って許す状態。
Q2. 牛の排卵は発情に対していつ起こるか。授精の適期とあわせて述べよ。
A. 発情の開始からおよそ28〜30時間後、発情が終わってから10〜12時間ほどあとに起こる。授精は発情の後半から終わり頃が適期である。
Q3. 牛で妊娠すると黄体が退行しない理由を述べよ。
A. 妊娠15〜17日ごろに胚の栄養膜がインターフェロンτを出し、子宮内膜からのPGF2αの分泌を抑えるため、黄体が退行せずに残り、プロジェステロンで妊娠が維持される。
Q4. 過剰排卵処置と胚移植の流れを述べよ。
A. 供胚牛にFSHなどを投与して多数の卵胞を育てて排卵させ、授精したあと、発情から約7日後に子宮を洗い流して胚を回収する。回収した胚を、発情周期をそろえておいた受胚牛の子宮に移植する。
Q5. 直腸検査で牛の妊娠を判断する所見を3つ挙げよ。
A. 左右の子宮角の大きさの違い、指でつまむと滑る胎膜(胎膜のスリップ)、胎子、胎盤節、中子宮動脈の妊娠脈などから3つ。
関連コンテンツ
詳細な解説
- 分野別まとめ:繁殖学・産科 — 共通のホルモンの流れと、動物種ごとの繁殖の特徴を整理しています。
- 流れでたどる:性周期と排卵 — GnRHからLHサージ、黄体の退行までを、図をたどって確認できます。
- 牛の繁殖障害と周産期の異常 — 黄体の有無で整理した卵巣と子宮の繁殖障害、難産を扱います。
- 牛の泌乳と乳房炎 — 分娩後の泌乳と、乳房炎を扱います。
参考文献
- 獣医繁殖学 文永堂出版
- 獣医生理学第二版 文永堂出版
- 新獣医内科学 文永堂出版
- 農林水産省 獣医師国家試験(公式)