臨床獣医学 > 繁殖 > 牛の泌乳と乳房炎
乳房炎は、乳牛で最も多く、経済的な損失も大きい病気です。国家試験では、乳房炎の原因菌と病型、牛乳の検査、乳房炎を防ぐための搾乳の衛生が、必須問題から実地試験まで出題されています。
本記事では、まず乳がつくられて出てくる仕組みを押さえ、その仕組みのどこに細菌が入り込むかという流れで、乳房炎を整理しました。
過去の出題では、次の形式が問われています。
- 乳房炎:原因菌の種類、酵母様真菌による乳房炎、搾乳の衛生の指導
- 泌乳と乾乳:乾乳期の管理、エネルギー不足で上がる血液の項目
- 乳房の構造と、乳頭管が細菌の侵入を防ぐ関門であること
- 泌乳のプロラクチンと、射乳のオキシトシン
- 乾乳期の意味
- 乳房炎の臨床型と潜在性、体細胞数
- 伝染性と環境性の原因菌の違い
- 大腸菌による乳房炎が重くなる理由
1. 乳房の構造
牛の乳房は4つの分房に分かれ、それぞれが独立しています。乳は、乳腺胞でつくられ、乳管を通って乳腺槽にたまり、乳頭槽から乳頭管を通って外へ出ます。
乳頭管は、ふだんは括約筋で閉じられ、内側をケラチンがふさいでいて、細菌の侵入を防ぐ関門になっています。搾乳の直後はこの乳頭管がしばらく開いているため、細菌が入り込みやすくなります。
2. 乳がつくられて出てくる仕組み
- 乳腺の発達:妊娠中に、エストロジェンが乳管を、プロジェステロンが乳腺胞を発達させる
- 泌乳の開始:分娩のときにプロジェステロンが下がり、プロラクチンなどの働きで乳がつくられ始める
- 泌乳の維持:搾乳の刺激がプロラクチンの分泌を保ち、乳がつくられ続ける
- 射乳:乳頭への刺激が下垂体後葉のオキシトシンの分泌を起こし、乳腺胞を取り巻く筋上皮細胞が縮んで乳が押し出される。牛が驚いたり痛みを感じたりすると、アドレナリンで射乳が抑えられる
2-1. 泌乳の経過と乾乳
乳量は分娩後に増えて、おおむね1〜2か月でピークになり、その後ゆっくり減ります。泌乳の初めは乳量の増え方に食べる量が追いつかず、エネルギー不足になりやすい時期です。体の脂肪が分解されて血液中の遊離脂肪酸(非エステル化脂肪酸)が上がり、ケトーシスや脂肪肝の原因になります。
次の分娩のおよそ2か月前に搾乳をやめて、乳腺を休ませ、つくりかえる期間を乾乳期といいます。乾乳を始めた直後と分娩の直前は、乳房炎の新しい感染が起こりやすい時期です。
3. 乳房炎とは
乳房炎は、多くは乳頭管から入り込んだ細菌による乳腺の炎症です。
- 臨床型乳房炎:乳に凝固物(ブツ)が出る、乳房が腫れて熱や痛みをもつなど、目に見える異常がある。重いものでは発熱や食欲の低下など全身の症状が出る
- 潜在性乳房炎:乳も乳房も見た目は正常だが、炎症が起きている。気づかれないまま乳量や乳質が下がるため、損失が大きい
3-1. 体細胞数とCMT変法
乳に含まれる細胞(主に白血球)を体細胞といいます。乳房に炎症があると白血球が集まって体細胞数が増えるため、乳房炎と乳質の指標になります。牛のそばで簡単に調べる方法として、試薬が体細胞のDNAと反応して乳がゲル状に固まる程度を見るCMT変法があります。
4. 原因菌 — 伝染性と環境性
4-1. 伝染性の原因菌
感染した牛の乳房にすみつき、搾乳のときに搾乳機や手を介して、牛から牛へうつります。
- 黄色ブドウ球菌:乳腺の奥に小さな膿瘍をつくり、細胞の中にも入り込むため、治りにくく慢性化しやすい
- 無乳性レンサ球菌(Streptococcus agalactiae):乳房の中でしか長く生きられない
- マイコプラズマ:複数の分房に広がり、抗菌薬が効きにくい。群の中で急速に広がることがある
4-2. 環境性の原因菌
敷料や糞などの牛舎の環境にいて、乳頭が汚れたときに入り込みます。
- 大腸菌群(大腸菌、クレブシエラなど):分娩前後に多く、甚急性の重い乳房炎を起こす
- 環境性レンサ球菌
- 酵母様真菌などのその他の微生物:汚染された薬剤や器具から入ることがある。抗菌薬が効かない
伝染性の菌はほかの牛の乳房から搾乳を介してうつるので、搾乳の順番や搾乳機の衛生、感染牛の区別が対策の中心です。環境性の菌は牛舎の環境から入るので、敷料を清潔で乾いた状態に保つことが中心になります。
4-3. 大腸菌による乳房炎が重くなる理由
大腸菌が乳房の中で増えると、菌の細胞壁の内毒素(エンドトキシン)が全身に回り、発熱、食欲の廃絶、脱水、起立不能などを起こします。乳房の局所の症状より全身の症状が目立ち、急速に死亡することもあります。免疫が落ちている分娩前後に多いのも特徴です。
5. 乳房炎を防ぐ搾乳の衛生
- 前搾り:最初の乳を捨てて乳の異常を確かめる
- 搾乳前の乳頭の清拭と消毒:乳頭の汚れと細菌を取り除く
- 搾乳後の乳頭の消毒(ディッピング):搾乳の直後は乳頭管が開いているので、その間に細菌が入るのを防ぐ
- 搾乳機の点検と、感染牛を最後に搾る:伝染性の菌の広がりを防ぐ
乳房炎の牛に抗菌薬を使った場合は、乳に薬が残らないよう、決められた期間は乳を出荷できません(動物用医薬品の法規の解説)。
6. 牛の乳房炎で国家試験に狙われるポイント
- 構造:4つの独立した分房、乳頭管が細菌の侵入を防ぐ関門。搾乳の直後は開いている
- ホルモン:泌乳はプロラクチン、射乳はオキシトシン(筋上皮細胞の収縮)。驚きや痛みで射乳が抑えられる
- 泌乳初期:エネルギー不足で遊離脂肪酸(非エステル化脂肪酸)が上がる
- 乾乳:分娩の約2か月前から。乾乳直後と分娩直前は感染しやすい
- 体細胞数:主に白血球。乳房炎と乳質の指標。CMT変法
- 伝染性:黄色ブドウ球菌(慢性化)、無乳性レンサ球菌、マイコプラズマ。搾乳を介して牛から牛へ
- 環境性:大腸菌群(内毒素で甚急性・全身症状)、環境性レンサ球菌、酵母様真菌など
- 予防:前搾り、搾乳前後の乳頭の消毒、搾乳機の衛生、感染牛を最後に搾る
7. 牛の乳房炎の確認問題
Q1. 射乳が起こる仕組みを、関わるホルモンと細胞から述べよ。
A. 乳頭への刺激で下垂体後葉からオキシトシンが分泌され、乳腺胞を取り巻く筋上皮細胞が収縮して乳が押し出される。
Q2. 乳の体細胞数が乳房炎の指標になる理由を述べよ。
A. 体細胞は主に白血球で、乳房に炎症があると白血球が集まって乳の中の数が増えるため。
Q3. 伝染性の乳房炎と環境性の乳房炎の原因菌を、それぞれ2つずつ挙げよ。
A. 伝染性は黄色ブドウ球菌、無乳性レンサ球菌、マイコプラズマから2つ。環境性は大腸菌群(大腸菌、クレブシエラなど)、環境性レンサ球菌から2つ。
Q4. 大腸菌による乳房炎で、発熱や起立不能などの全身の症状が強く出る理由を述べよ。
A. 乳房の中で増えた大腸菌の細胞壁の内毒素(エンドトキシン)が全身に回るため。
Q5. 搾乳後に乳頭を消毒する理由を述べよ。
A. 搾乳の直後は乳頭管がしばらく開いているため、その間に細菌が乳頭管から入り込むのを防ぐため。
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詳細な解説
- 分野別まとめ:繁殖学・産科 — 共通のホルモンの流れと、動物種ごとの繁殖の特徴を整理しています。
- 動物用医薬品の法規 — 抗菌薬を使ったあとの乳の出荷制限と休薬期間を扱います。
- 牛の繁殖(性周期・妊娠・繁殖技術) — 分娩と乾乳の時期を扱います。
参考文献
- 獣医繁殖学 文永堂出版
- 新獣医内科学 文永堂出版
- 獣医微生物学 文永堂出版
- 農林水産省 獣医師国家試験(公式)