伝染病学 > 犬と猫のウイルス感染症
犬と猫のウイルス感染症は、ワクチンで防ぐものが多く、日々の診療と深く関わります。国家試験では、犬ジステンパー、犬パルボウイルス感染症、犬伝染性肝炎、猫カリシウイルス感染症、猫伝染性腹膜炎などが、原因ウイルスの科と特徴的な症状・病変とあわせて問われています。
本記事では、犬と猫に分けて、それぞれ「原因ウイルス → どこを侵すか → 特徴的な症状」の順に整理しました。
第73回〜第77回では、次のような形で出題されています。
- 犬ジステンパー:症状、封入体、ハードパッド(選択肢を含めて9問)
- 犬伝染性肝炎・猫カリシウイルス感染症・猫伝染性腹膜炎:原因ウイルスと特徴的な所見
- 猫汎白血球減少症:胎子期の感染による小脳の形成不全
- 犬ジステンパーが呼吸器・消化器・神経・皮膚に症状を出すこと
- パルボウイルスが分裂中の細胞を狙うこと(犬と猫)
- 犬伝染性肝炎のブルーアイと、ケンネルコフ
- 猫の上部気道の2つのウイルス(ヘルペスとカリシ)の違い
- 猫伝染性腹膜炎が猫の体の中で生まれることと、2つの型
- 猫免疫不全ウイルスと猫白血病ウイルスのうつり方
1. 犬のウイルス感染症
1-1. 犬ジステンパー
- 原因:パラミクソウイルス科のウイルス。フェレットでもほぼ死亡する
- 症状:発熱に続いて、目やにと鼻水、咳などの呼吸器、嘔吐と下痢の消化器、けいれんや筋肉のぴくつきなどの神経の症状が、時期をずらして現れる
- 皮膚:肉球や鼻の皮膚が厚く硬くなる(ハードパッド)
- 目:涙腺が侵されて、目が乾く(乾性角結膜炎)
- 病理:細胞の核の中にも細胞質の中にも封入体ができる
1-2. 犬パルボウイルス感染症
- 原因:パルボウイルス科のウイルス。環境の中で長く生き、アルコールは効きにくい
- しくみ:分裂中の細胞でしか増えないため、腸の陰窩(腸の細胞を生み出す場所)と骨髄を侵す(DNAウイルスの解説)
- 症状:激しい嘔吐と血便、白血球の減少。生まれて間もない子犬では心筋炎を起こし、急死することがある
1-3. 犬伝染性肝炎
- 原因:アデノウイルス科の犬アデノウイルス1型
- 症状:発熱、腹痛、肝炎。肝細胞に大きな核内封入体ができる
- ブルーアイ:回復期に、免疫の反応で目の中に炎症が起き、角膜がむくんで青白く濁る
1-4. ケンネルコフ
犬の集まる場所で広がる、乾いた咳が続く伝染性の気管・気管支炎です。犬アデノウイルス2型(犬伝染性喉頭気管炎)、犬パラインフルエンザウイルス、気管支敗血症菌(ボルデテラ)など、複数の病原体が重なって起こります。
犬の狂犬病は狂犬病の解説で扱っています。
2. 猫のウイルス感染症
2-1. 猫汎白血球減少症
- 原因:パルボウイルス科の猫パルボウイルス
- 症状:嘔吐、下痢、白血球の著しい減少
- 胎子期の感染:妊娠中に感染すると、発育中の小脳の分裂している細胞が侵され、生まれた子猫に小脳の形成不全(ふらつき)が起こる
2-2. 上部気道の2つのウイルス
- 猫ウイルス性鼻気管炎(ヘルペスウイルス科):くしゃみ、鼻水、結膜炎。角膜に木の枝のような形の潰瘍ができることがある。回復しても潜伏感染し、ストレスで再発する
- 猫カリシウイルス感染症(カリシウイルス科):口の中や舌の潰瘍が特徴。発熱とともに一時的に足を引きずることもある。まれに全身に重い症状を起こす強い株がある。エンベロープがなく、環境に強い
どちらも猫のかぜの原因ですが、角膜の潰瘍と結膜炎が目立てばヘルペス、口の中の潰瘍が目立てばカリシと覚えると、写真の問題でも見分けやすくなります。
2-3. 猫伝染性腹膜炎
- 原因:コロナウイルス科の猫コロナウイルス。多くの猫は、腸で増える弱いウイルス(猫腸コロナウイルス)にかかっても軽い下痢程度ですむ。ところが、猫の体の中でウイルスが変異してマクロファージの中で増えるようになると、猫伝染性腹膜炎を起こす
- 起こりやすい猫:2歳未満の若い猫、多頭飼育の猫
- ウェット型:血管の炎症で、腹や胸に黄色く粘り気のある、タンパク質の多い液がたまる。血液検査ではグロブリンが増え、アルブミンとグロブリンの比が下がる
- ドライ型:腎臓、肝臓、目、脳などに肉芽腫ができ、目の炎症や神経の症状が出る
2-4. 猫免疫不全ウイルスと猫白血病ウイルス
- 猫免疫不全ウイルス(FIV)(レトロウイルス科、レンチウイルス属):主にけんかの咬み傷でうつる。外に出る雄猫に多い。長い無症状の時期のあと、免疫不全になり、口内炎や治りにくい感染症を起こす
- 猫白血病ウイルス(FeLV)(レトロウイルス科):主に唾液を介して、グルーミングや食器の共用でうつる。リンパ腫、白血病、貧血、免疫の低下を起こす(解説ブック「猫のFeLV」)
3. 犬と猫のウイルス感染症で国家試験に狙われるポイント
- 犬ジステンパー:パラミクソ、呼吸器・消化器・神経、ハードパッド、乾性角結膜炎、核内と細胞質内の封入体
- 犬パルボ:分裂中の細胞(腸の陰窩・骨髄)、血便と白血球の減少、子犬の心筋炎
- 犬伝染性肝炎:犬アデノウイルス1型、肝炎と核内封入体、回復期のブルーアイ
- ケンネルコフ:犬アデノウイルス2型、パラインフルエンザ、ボルデテラなどの複合感染
- 猫汎白血球減少症:猫パルボ、白血球の減少、胎子期の感染で小脳の形成不全
- 猫の上部気道:ヘルペス(角膜の潰瘍、潜伏感染)とカリシ(口の潰瘍、環境に強い)
- 猫伝染性腹膜炎:猫腸コロナウイルスの体内での変異、若い猫、ウェット型(タンパク質の多い体腔液、グロブリン増加)とドライ型(肉芽腫)
- FIV:咬み傷、免疫不全。FeLV:唾液、リンパ腫・貧血
4. 犬と猫のウイルス感染症の確認問題
Q1. 犬ジステンパーで、肉球や鼻の皮膚にみられる変化を答えよ。
A. 皮膚が厚く硬くなるハードパッド。
Q2. 犬伝染性肝炎の回復期にみられる「ブルーアイ」とはどのような状態か。
A. 免疫の反応で目の中に炎症が起き、角膜がむくんで青白く濁った状態。
Q3. 妊娠中の猫が猫パルボウイルスに感染したとき、生まれた子猫に起こる異常と、その理由を述べよ。
A. 小脳の形成不全によるふらつき。ウイルスは分裂中の細胞でしか増えないため、発育中の小脳の細胞が侵されるから。
Q4. 猫のかぜで、口の中の潰瘍が目立つ場合と、角膜の潰瘍が目立つ場合に考える原因ウイルスをそれぞれ答えよ。
A. 口の中の潰瘍が目立つ場合は猫カリシウイルス、角膜の潰瘍が目立つ場合は猫ヘルペスウイルス(猫ウイルス性鼻気管炎)。
Q5. 猫伝染性腹膜炎のウェット型で、体腔液と血液検査にみられる特徴を述べよ。
A. 腹や胸に黄色く粘り気のあるタンパク質の多い液がたまり、血液ではグロブリンが増えて、アルブミンとグロブリンの比が下がる。
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詳細な解説
- 分野別まとめ:伝染病学 — 病原体の分類、消毒薬の選び方、疫学の基礎と、伝染病学全体の出題傾向を整理しています。
- ワクチン — 犬と猫のワクチンのしくみを扱います。
- DNAウイルスの科と代表的な病気 — パルボウイルスとアデノウイルスの性状を扱います。
- 解説ブック:猫のFeLV(猫白血病ウイルス感染症) — 猫白血病ウイルスを体系的に扱います。
参考文献
- 獣医伝染病学 近代出版
- 獣医微生物学 文永堂出版
- 犬と猫の治療ガイド インターズー
- CAP 緑書房
- 農林水産省 獣医師国家試験(公式)