細菌は、親から子へだけでなく、となりの菌にも遺伝子を渡せる。だから「薬が効かない力」が、あっという間に広がるにゃん!
薬が効かない細菌(薬剤耐性菌)は、どうやって生まれ、どうやって広がるのでしょうか。このページでは、細菌の設計図のしくみから始めて、「生まれる → 渡される → 薬に負けない → 選ばれて増える」という一連の流れを、図を使って順番にたどります。
1細菌の設計図は2種類ある
細菌の中には、性質を決める設計図(DNA)が入っています。設計図には2つの種類があります。
- 本体の設計図(染色体):生きるために必要なことが全部書いてある、大きな設計図
- 付録の小さな輪(プラスミド):なくても生きられるけれど、あると便利な能力(薬に負けない力、毒をつくる力など)が書いてある小さな設計図。自分でコピーでき、ほかの菌にも渡せるのが特徴
図1 細菌の中の2種類の設計図。付録の小さな輪(プラスミド)は、コピーしてほかの菌に渡すことができる。
付録の輪は、菌どうしで回し読みできる「おまけの冊子」みたいなものにゃ。ここに薬に負けない力が書いてあると、それが回し読みで広がってしまうにゃん。
2「薬に負けない力」が生まれる2つの道
- 自分の設計図が書き変わる(突然変異):菌は増えるたびに設計図をコピーします。そのとき、ごくまれに写し間違いが起こり、たまたま薬に負けない性質になることがあります。この性質は、分裂してできた子孫に受け継がれます(親から子への「縦の広がり」)
- ほかの菌からもらう:すでに薬に負けない力をもつ菌から、設計図を分けてもらいます。同じ世代の、となりの菌へ広がるので「横の広がり」と呼ばれます。種類の違う菌のあいだでも起こるのが大きな特徴です
写し間違いはめったに起こりませんが、分けてもらう方法なら、一度に多くの菌が力を手に入れられます。耐性が速く広がるのは、主にこの「横の広がり」のためです。
3設計図を受け渡す3つの方法
図2 細菌が設計図を受け渡す3つの方法。拾う、ウイルスに運んでもらう、菌どうしで直接手渡す。
① 拾う(形質転換)
死んで壊れた菌から出てきた設計図のかけらを、近くの菌が拾って取り込み、自分の設計図に組み込みます。
② 運んでもらう(形質導入)
細菌にだけ感染するウイルス(バクテリオファージ)がいます。このウイルスが菌の中で増えるとき、うっかりその菌の設計図のかけらを包んでしまうことがあります。そのウイルスが次の菌に感染すると、前の菌の設計図が配達されることになります。
③ 手渡す(接合)
菌どうしが細い管(性線毛)でつながり、付録の輪(プラスミド)のコピーを直接手渡します。渡した菌も自分の輪を持ち続けるので、渡すたびに持っている菌が増えていく一方です。種類の違う菌にも渡せます。
+ 設計図の中を飛び移る遺伝子
設計図の中には、本体と付録の輪のあいだを飛び移る遺伝子(トランスポゾン)もあります。本体にあった薬に負けない力が付録の輪に飛び移ると、それが手渡しで広がるようになります。
4薬に負けない4つの作戦
抗菌薬は、細菌の中の決まった「的」にくっついて働きます。薬に負けない菌は、次の作戦のどれかで薬をかわします。
- 薬を壊す:薬を切ってしまうはさみ(β-ラクタマーゼ)をつくる。ペニシリンなどが効かなくなる
- 的の形を変える:薬がくっつく的の形を変えて、薬がくっつけないようにする。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は、細胞の壁をつくる道具の形を変えて、ペニシリンの仲間を効かなくしている
- 薬を追い出す:入ってきた薬をくみ出すポンプをもつ
- 薬を入れない:薬の入口を減らして、中に入れないようにする
薬を「鍵」、的を「鍵穴」と考えるとわかりやすいにゃ。鍵を壊す、鍵穴の形を変える、鍵を外に投げ返す、ドアを閉めておく。この4つの作戦にゃん!
5薬を使うと、なぜ耐性菌が増えるの?
たくさんの菌の中には、薬に負けない菌が少しだけまじっていることがあります。そこに薬を使うと、薬が効く菌は死に、負けない菌だけが生き残って増えます。こうして、薬が効かない菌の集団ができあがります。薬が耐性菌を「選び出して」しまうのです。
図3 薬を使うと、薬に負けない菌だけが生き残り、増えて、薬の効かない集団になる。
- 必要のない場面で薬を使うと、選び出しの機会が増える
- 決められた使い方を守らない(量が足りない、途中でやめる)と、中途半端に弱った菌の中から、負けない菌が生き残りやすくなる
- 薬に負けない力は、病気を起こさない腸の菌にも受け渡され、そこにため込まれて、あとで病気を起こす菌に渡ることがある
6薬が効くかどうかを調べる
菌にどの薬が効くかは、薬剤感受性試験で調べます。
- 最小発育阻止濃度(MIC):菌が育たなくなる、薬のいちばん低い濃度。MICが小さいほど、少しの薬で効く(よく効く)
- ディスク法:薬をしみこませた小さな紙を、菌をまいた寒天の上に置く。紙のまわりに菌が育たない丸い輪(阻止円)ができ、輪が大きいほどよく効く
7国家試験ではここが問われる
- 設計図を受け渡す3つの方法(拾う=形質転換、ウイルスが運ぶ=形質導入、菌どうしで手渡す=接合)
- Rプラスミドが接合で、種類の違う菌にも渡されること
- 薬に負けない作戦(β-ラクタマーゼ、MRSAの的の変化など)
- 薬剤感受性試験の読み方(MICは小さいほど効く)
専門用語を含めた解説は、細菌の構造・遺伝・毒素の解説で扱っています。
8ミニテスト(8問)
0 / 8 問正解選ぶとすぐに正解と解説が出ます。迷ったら、図2と図3に戻ってみてください。
Q1.細菌の「付録の小さな輪(プラスミド)」の特徴として正しいのはどれ?
正解:自分でコピーでき、ほかの菌にも渡せる プラスミドは、なくても生きられるけれど便利な能力(薬に負けない力など)をのせた小さな設計図です。
Q2.死んだ菌から出た設計図のかけらを、近くの菌が拾って取り込む方法はどれ?
正解:形質転換 形質導入はウイルスが運ぶ方法、接合は菌どうしが細い管でつながって手渡す方法です。
Q3.細菌にうつるウイルス(バクテリオファージ)が、前の菌の設計図を運ぶ方法はどれ?
正解:形質導入 ウイルスが菌の中で増えるときに、うっかりその菌の設計図のかけらを包み、次の菌へ配達してしまいます。
Q4.接合で耐性が広がりやすい理由として正しいのはどれ?
正解:コピーを渡し、種類の違う菌にも渡せるから 渡した菌も付録の輪を持ち続けるので、手渡しのたびに耐性をもつ菌が増えていきます。
Q5.ペニシリンなどを切ってしまう「はさみ」として働くものはどれ?
正解:β-ラクタマーゼ 薬を壊すのは、薬に負けない4つの作戦のうちの1つです。
Q6.メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が薬に負けない作戦はどれ?
正解:的の形を変える 薬がくっつけない形の道具を使って細胞の壁をつくるため、ペニシリンの仲間が効かなくなります。
Q7.抗菌薬を使うと耐性菌の集団ができてしまう理由はどれ?
正解:負けない菌だけが生き残って増えるから 薬が耐性菌を「選び出して」しまうためです。必要なときに正しく使うことが大切です。
Q8.薬Aと薬Bの最小発育阻止濃度(MIC)を調べたら、薬Aのほうが小さかった。よく効くのはどちら?
正解:薬A MICは菌が育たなくなる薬のいちばん低い濃度なので、小さいほど少しの薬で効きます。ディスク法は逆で、輪が大きいほど効きます。
9もっとくわしく知りたいとき
- 細菌の構造・遺伝・毒素 — 専門用語を含めた詳しい解説と確認問題
- 分野別まとめ:微生物学 — 病原体の5つのグループと、ウイルスの科の見分け方
- 解説ブック:犬と猫の抗菌薬の分類 — 抗菌薬の種類と、どこに効くのか
- 動物用医薬品の法規 — 食用動物への抗菌薬の使用の決まり
- 超簡単まとめ:真菌・リケッチア・クラミジア・マイコプラズマ・プリオンの違い