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腎泌尿器分野は、基礎生理と臨床が直結しているという特徴があります。ネフロンのどこで何が再吸収されるかを知らなければ尿検査は読めず、尿検査が読めなければ症例問題は解けません。
逆に言えば、ネフロンの構造と機能をひととおり押さえるだけで、必須問題から実地試験まで一気に見通しがよくなる分野でもあります。本ページでは分野全体の出題傾向を整理したうえで、ネフロンの部位別機能、尿検査データの読み方、そして各テーマ記事では扱っていないネフローゼ症候群・猫の特発性膀胱炎・異所性尿管・大動物の泌尿器疾患を解説します。
内科学の主要領域のひとつとして、基礎的な生理学から画像診断を伴う実地問題まで、各試験区分にバランスよく出題されます。とくに尿検査データの解釈と超音波画像の読影が実地試験での得点に直結します。
本ページの出題傾向は、第73回〜第77回獣医師国家試験を編集部が分野別に分類集計したものです。
1. 試験区分別の出題傾向
| 試験区分 | 出題数の目安 | 問われる内容 |
|---|---|---|
| 必須問題 (50問中) | 1〜2問 | 尿濃縮能(比重)の評価、近位尿細管での再吸収(水・グルコース・Na⁺・アミノ酸は再吸収され、クレアチニンはされない)、血中カルシウム調節における腎臓の役割 |
| 学説試験A・B (160問中) | 4〜6問 | 学説A:腎臓の解剖(腎盤、腎乳頭、エリスロポエチンの合成部位)、生理(アクアポリン2、ビタミンD₃の水酸化)、薬剤の腎毒性 学説B:CKDのステージ分類、ネフローゼ症候群、尿石症、猫の特発性膀胱炎、牛の腎盂腎炎 |
| 実地試験C・D (120問中) | 5〜9問 | 超音波・造影CT・尿沈渣に基づく症例問題。尿管・尿道結石(逆行性尿道水圧推進法を含む)、猫の多発性嚢胞腎、CKDに続発する高血圧と網膜剥離、犬の異所性尿管 |
2. ネフロンの構造と機能
図:ネフロンの構造。糸球体で濾過された原尿は、近位尿細管・ヘンレのループ・遠位尿細管を経て集合管に至る。ヘンレのループは対向流増幅系により髄質の浸透圧勾配をつくり、集合管ではADHの作用下でアクアポリン2を介して水が再吸収される。
2-1. 部位別の機能
| 部位 | 主な働き | 要点 |
|---|---|---|
| 糸球体 | 血漿の濾過 | 分子サイズと電荷による選択。アルブミンは通常ほとんど濾過されない |
| 近位尿細管 | 水・Na⁺・グルコース・アミノ酸・HCO₃⁻・リンの再吸収、H⁺と薬物の分泌(※薬物やPAH・PSPの能動分泌を担う) | クレアチニンは再吸収・分泌をほとんど受けないため、『糸球体濾過量(GFR)』の指標として用いられる。グルコースはほぼ全量が再吸収される |
| ヘンレのループ | 髄質の浸透圧勾配の形成 | 下行脚は水を透過、太い上行脚は溶質を再吸収して水を透過しない。この組み合わせが対向流増幅系となり尿濃縮を可能にする |
| 遠位尿細管 | Na⁺・Cl⁻の再吸収、Ca²⁺の再吸収 | Ca²⁺再吸収は上皮小体ホルモンにより促進される |
| 集合管 | ADHによる水の再吸収、アルドステロンによるNa⁺再吸収とK⁺排泄、H⁺の分泌 | ADHがアクアポリン2を管腔側の膜に発現させることで水が再吸収される |
2-2. 腎臓の内分泌機能
| 物質 | 産生部位 | 働きと臨床的意義 |
|---|---|---|
| エリスロポエチン | 腎の尿細管間質細胞 | 低酸素で分泌が増加し赤血球産生を促す。CKDで非再生性貧血となる理由 |
| レニン | 糸球体の傍糸球体細胞 | レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の起点 |
| 活性型ビタミンD | 近位尿細管 | 肝で25位が水酸化されたビタミンDを、腎の1α-水酸化酵素が活性化する。CKDではこれが障害され、腎性二次性上皮小体機能亢進症を招く |
2-3. 腎臓の解剖 — 動物種による違い
- 犬・猫・馬・羊:表面が平滑な単葉腎で、腎乳頭が融合しており腎盤(腎盂)をもちます。
- 牛:表面に葉が明瞭な多葉腎で、複数の腎乳頭をもち、腎盤がありません。腎杯が直接尿管につながります。
- 豚:多葉腎ですが表面は平滑で、腎盤をもちます。
3. 尿検査データの読み方
| 項目 | 読み方 |
|---|---|
| 尿比重 | 等張尿(およそ1.008〜1.012)は濃縮も希釈もできていない状態。脱水があるのに低比重であれば、CKD、アジソン病、クッシング症候群、高カルシウム血症、および子宮蓄膿症(大腸菌のエンドトキシンによる二次性尿崩症)を疑う |
| 尿糖 | 血糖が腎閾値を超えた場合(糖尿病)と、近位尿細管の再吸収障害による場合(腎性糖尿)がある。血糖が正常なのに尿糖が出れば尿細管障害を考える |
| 尿蛋白 | UPC(尿蛋白/クレアチニン比)で定量する。糸球体性では大量、尿細管性では少量、後腎性では炎症や出血を伴う |
| 尿pH | 結石の成分と直結する。アルカリ尿ではストルバイト、酸性尿ではシュウ酸カルシウム・尿酸塩・シスチンが析出しやすい |
| 尿沈渣 | 円柱(顆粒円柱は尿細管障害を示す)、結晶、白血球、細菌、赤血球。新鮮尿で評価する |
4. そのほかの重要疾患
4-1. ネフローゼ症候群
- 重度の蛋白尿(糸球体の障害による)
- 低アルブミン血症
- 高コレステロール血症
- 浮腫・腹水(膠質浸透圧の低下による)
原因は糸球体腎炎やアミロイドーシスなど糸球体の疾患です。重要な合併症として血栓塞栓症があり、これはアンチトロンビンが蛋白として尿中に失われるためです。「蛋白が漏れる病気で血が固まりやすくなる」という一見矛盾した関係を、機序で理解してください。
治療はACE阻害薬やARBによる蛋白尿の抑制、抗血栓療法、基礎疾患への対応が中心となります。
4-2. 猫の特発性膀胱炎
猫が血尿・頻尿・排尿困難を示す下部尿路疾患の原因としてもっとも多いのがこの疾患です。若齢から中年の猫、肥満、室内飼育、多頭飼育、環境ストレスが関与します。
病態にはストレス応答系の異常、膀胱粘膜のグリコサミノグリカン層の障害、神経性の炎症が関与すると考えられており、診断は結石・細菌感染・腫瘍を除外して行う除外診断です。
細菌感染ではないため抗菌薬は必要ありません。治療の中心は環境の改善です。トイレの数と清潔さ、静かな排尿場所、飲水量の増加(ウェットフードの活用)、隠れ場所の確保といった多面的な環境調整が第一選択となります。急性期には鎮痛を行い、反復例では行動学的な薬物療法を検討します。
4-3. 犬の異所性尿管
尿管が正常な膀胱三角部ではなく、膀胱頸部・尿道・膣などに開口する先天異常です。若齢の雌で、生後間もなくからの持続的な尿滴下を主訴に来院します。雄でも起こりますが尿道が長いため症状が出にくくなります。
ゴールデンレトリバー、ラブラドールレトリバー、シベリアンハスキー、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリアなどに多く報告されています。診断には排泄性尿路造影、造影CT、膀胱尿道内視鏡が用いられ、治療は外科的な新尿管口形成術や内視鏡下のレーザー切開です。尿管水腫、水腎症、尿路感染を合併することがあります。
4-4. 薬剤性・中毒性の腎障害
| 原因 | 要点 |
|---|---|
| シスプラチン | 近位尿細管を障害する。猫では致死的な肺水腫を起こすため使用しない |
| アミノグリコシド系 | 近位尿細管に蓄積して障害する。投与間隔の設計が重要 |
| NSAIDs | 脱水や麻酔下では腎血流がプロスタグランジンに依存するため、投与により腎虚血を招く |
| エチレングリコール | 代謝産物によりシュウ酸カルシウムが尿細管に沈着し急性腎障害となる。一水和物の亜鈴状結晶が手がかり |
| ユリ(猫) | 少量の摂取でも急性尿細管壊死を起こす。猫に特異的 |
| ブドウ・レーズン(犬) | 機序は未解明だが急性腎障害を起こす |
5. 牛・馬の泌尿器疾患
| 疾患 | 要点 |
|---|---|
| 牛の腎盂腎炎 | 起因菌は Corynebacterium renale が代表的。上行性感染により起こり、尿道が短い雌牛に多い。血尿・頻尿・排尿時の疼痛・発熱・体重減少を示し、直腸検査で肥厚した尿管や腫大した腎臓を触知できる。治療はペニシリン系抗菌薬の長期投与 |
| 牛の尿腟 | 膣内に尿が貯留する状態。分娩後の骨盤傾斜の変化などが背景となり、膣炎・子宮炎・不妊の原因となる |
| 牛の尿膜管膿瘍 | 新生子牛の臍帯感染が尿膜管に及んで膿瘍を形成する。臍部の腫脹や排尿異常を示す |
| 馬の尿石症 | 馬の尿はアルカリ性のため炭酸カルシウムを主成分とする結石が多い。尿道が長い雄で閉塞を起こしやすい |
6. 重要テーマ別の詳細解説
犬・猫慢性腎臓病(CKD)
この疾患の核心は発見が遅れる構造にあります。BUN・クレアチニンが上昇するのはネフロンの約4分の3が失われてからであり、それより先にSDMAの上昇と尿濃縮能の低下が現れます。この順序を図解し、IRISステージ分類、リン吸着剤の投与法、猫の高血圧と網膜剥離までを扱います。
犬・猫尿石症
尿pH・X線透過性・溶解の可否という3つの軸で結石を整理します。ストルバイトは溶解できるがシュウ酸カルシウムは溶解できないという治療上の分岐、犬と猫でストルバイトの成因が異なる点、尿沈渣で見られる結晶の形態を図解しています。逆行性尿道水圧推進法の目的も扱います。
猫多発性嚢胞腎(PKD)
PKD1遺伝子変異による常染色体優性遺伝で、ホモ接合体は胎生致死のため罹患猫はすべてヘテロ接合体です。超音波が若齢で偽陰性となる一方、遺伝子検査は月齢を問わず実施できるという診断法の違いを解説し、正常腎との超音波像の比較を図示しています。
7. 学習教材
ジグソーパズルクイズ:ネフロンにおける尿生成の流れ
糸球体からヘンレのループ、集合管に至る各部位と、そこで起こる再吸収・分泌を並べ替えながら確認できます。本ページ第2章の内容を定着させるのに適しています。
解説ブック
- 犬と猫の腎臓 — 尿生成編 — 糸球体濾過と尿細管の機能を体系的に扱います
- 犬と猫の腎臓 — 赤血球生成編 — エリスロポエチンと腎性貧血
- 犬と猫の尿検査 — 尿比重・尿蛋白・尿沈渣の読み方
準備中のコンテンツ
- 問題集:腎泌尿器30問
- 推理型問題:腎泌尿器疾患の鑑別
8. 推奨する学習順序
- ネフロンを押さえる:本ページ第2章。どこで何が再吸収されるかが分かれば、尿検査も薬理も一気に見通せます
- 尿検査を読めるようにする:第3章。実地試験の得点はここで決まります
- 主要疾患を攻略する:CKD → 尿石症 → 多発性嚢胞腎の順に読みます。PKDはCKDへ進行する疾患なので、CKDを先に読んでください
- 周辺疾患を補う:第4章のネフローゼ症候群・特発性膀胱炎・異所性尿管、第5章の大動物疾患
- 演習する:ジグソーパズルクイズと問題集で定着を確認します
血中カルシウム調節における腎臓の役割(活性型ビタミンD、上皮小体ホルモン)は内分泌・代謝のページでも扱っています。内科学全体の出題傾向と検査値の読み方は臨床獣医学 > 内科のページをご覧ください。
参考文献
- 新獣医内科学 文永堂出版
- 伴侶動物治療指針 緑書房
- 犬と猫の治療ガイド インターズー
- CAP 緑書房
- SA Medicine インターズー
- 新編 家畜薬理学 養賢堂
- 家畜比較解剖図説 養賢堂
- 動物病理学各論 文永堂出版
- 動物病理学総論 文永堂出版
- 農林水産省 獣医師国家試験(公式)