生殖器と乳腺の腫瘍|【獣医師国家試験対策】

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生殖器と乳腺の腫瘍は、性ホルモンと深く関わるのが特徴です。ホルモンによって育つ腫瘍、ホルモンをつくって症状を起こす腫瘍、避妊や去勢で発生が変わる腫瘍があり、国家試験では病理像や症例から腫瘍名と性質を問う形で出題されています。

本記事では、犬と猫の乳腺腫瘍、精巣の腫瘍、卵巣の腫瘍、そして交尾で広がる可移植性性器肉腫を、「ホルモンとどう関わるか」を軸に整理しました。

過去問分析

過去の出題では、次の形式が問われています。

  • 乳腺:犬の乳腺の良性混合腫瘍の病理像、早期の避妊手術と発生予防の関係
  • 精巣:セルトリ細胞腫の雌性化、前立腺への影響
  • 卵巣:顆粒膜細胞腫、未分化胚細胞腫
  • 可移植性性器肉腫:交尾によって雌雄のあいだで伝わる腫瘍であること
この記事で押さえること
  • 犬の乳腺腫瘍の半数ほどが良性で、初回発情前の避妊で大きく減ること
  • 猫の乳腺腫瘍の大部分が悪性であることと、腫瘍ではない線維腺腫様過形成
  • 精巣の3つの腫瘍と、潜在精巣との関係
  • 卵巣の腫瘍の由来と、馬の顆粒膜細胞腫の特徴
  • 可移植性性器肉腫が腫瘍細胞そのものの移植で広がること

1. 犬の乳腺腫瘍

  • 位置づけ:未避妊の雌犬で最も多い腫瘍。中高齢に多い
  • 良性と悪性:およそ半数が良性。良性で多いのは、乳腺の上皮、筋上皮、さらに軟骨や骨を含む良性混合腫瘍
  • 部位:乳腺組織の多い後方の乳腺(第4・第5乳腺)に多く、複数できることも多い
  • ホルモンとの関係:発生に卵巣のホルモンが関わる。初回発情の前に避妊手術をすると発生が大きく減り、発情を重ねるごとにその予防効果は薄れていく
  • 悪性の場合の広がり方:所属リンパ節(腋窩・浅鼠径)を経て、肺へ転移する
  • 炎症性乳癌:皮膚が赤く腫れて熱をもち、乳腺炎と見分けにくい、きわめて悪性度の高い型

2. 猫の乳腺腫瘍

  • 良性と悪性:大部分が悪性(腺癌)。犬とは逆である
  • 広がり方:リンパ節や肺へ早く転移しやすい
  • 予防:犬と同じく、早い時期の避妊手術で発生が減る
若い猫の乳腺の腫れは腫瘍とは限らない

若い猫や妊娠中の猫、黄体ホルモン製剤を与えた猫では、乳腺が急に大きく腫れる線維腺腫様過形成が起こります。黄体ホルモン(プロジェステロン)による腫瘍ではない変化で、原因がなくなれば小さくなります。「犬は半数が良性、猫は大部分が悪性、ただし若い猫の急な腫れは過形成」と整理してください。

3. 精巣の腫瘍

犬の精巣の腫瘍は、由来の違う3つが代表です。

  • セルトリ細胞腫:精子の形成を支えるセルトリ細胞の腫瘍。エストロジェンをつくり、乳頭の発達や包皮の下垂などの雌性化、左右対称性の脱毛、骨髄の抑制、前立腺の扁平上皮化生を起こす(腫瘍随伴症候群の解説)
  • 精上皮腫(セミノーマ):精子になる生殖細胞の腫瘍。犬では転移は少ない
  • 間細胞腫(ライディッヒ細胞腫):テストステロンをつくる間細胞の腫瘍。小さく、ほかの目的の検査や去勢のときに偶然見つかることが多い

3-1. 潜在精巣との関係

精巣が陰嚢に下りずに腹腔や鼠径部に残る潜在精巣では、精巣の腫瘍の発生が大きく増えます。とくにセルトリ細胞腫と精上皮腫が多く、体温の高い腹腔内にあることが関わると考えられています。

4. 卵巣の腫瘍

卵巣の腫瘍は、どの細胞から生まれたかで3つに分けられます。

  • 性索間質性腫瘍(顆粒膜細胞腫など):卵胞を包む顆粒膜細胞などの腫瘍。性ホルモンをつくるため、犬では発情の持続や、嚢胞性子宮内膜過形成・子宮蓄膿症の原因になる
  • 胚細胞性腫瘍:卵子になる生殖細胞の腫瘍。精上皮腫にあたる未分化胚細胞腫と、3胚葉の成分を含む奇形腫がある
  • 上皮性腫瘍:卵巣の表面の上皮の腫瘍(乳頭状の腺癌など)。腹腔に種をまくように広がり(播種)、腹水をためる

4-1. 馬の顆粒膜細胞腫

馬の卵巣の腫瘍で最も多いのが顆粒膜細胞腫です。腫瘍がつくるホルモンによって、次の変化が起こります。

  • 行動の変化:テストステロンによる雄のような行動(攻撃性、乗駕)や、持続する発情、発情が来ない状態
  • 反対側の卵巣の萎縮:腫瘍がつくるインヒビンが下垂体のFSHを抑え、反対側の卵巣が小さく働かなくなる

直腸検査で片側の卵巣が大きく、反対側が小さいことが手がかりになります。

5. 可移植性性器肉腫

  • 広がり方:交尾などの接触のときに、腫瘍細胞そのものが相手の粘膜に移植されて育つ。ウイルスが原因ではない
  • 証拠:腫瘍細胞の染色体の数や構成が正常な犬と異なり、世界中の腫瘍が同じ起源の細胞に由来する
  • 部位:外陰部、膣、陰茎。なめたり嗅いだりして、口や鼻に移ることもある
  • 細胞診:独立円形細胞で、細胞質に小さな空胞が並ぶのが特徴
  • 地域:放し飼いの犬が多い地域でみられる

6. 前立腺の癌

犬の前立腺の癌は、未去勢の犬だけでなく去勢した犬にも起こり、むしろ去勢犬で多いとされます。アンドロゲンに依存しない腫瘍のためです。腰椎や骨盤の骨に転移しやすく、排尿や排便の困難、後肢の痛みを起こします。

7. 生殖器と乳腺の腫瘍で国家試験に狙われるポイント

  • 犬の乳腺腫瘍:未避妊雌で最多。約半数が良性(良性混合腫瘍)。後方の乳腺に多い。初回発情前の避妊で大きく減る。悪性はリンパ節から肺へ
  • 猫の乳腺腫瘍:大部分が悪性。若い猫の急な腫れは黄体ホルモンによる線維腺腫様過形成
  • 精巣:セルトリ細胞腫(エストロジェン、雌性化、骨髄の抑制)、精上皮腫、間細胞腫。潜在精巣で増える
  • 卵巣:性索間質性(顆粒膜細胞腫、ホルモン産生)、胚細胞性(未分化胚細胞腫、奇形腫)、上皮性(播種と腹水)
  • 馬の顆粒膜細胞腫:馬の卵巣腫瘍で最多。雄のような行動、インヒビンによる反対側の卵巣の萎縮
  • 可移植性性器肉腫:交尾で腫瘍細胞そのものが移植される。独立円形細胞で細胞質に空胞
  • 前立腺の癌:去勢犬にも起こる。骨転移

8. 生殖器と乳腺の腫瘍の確認問題

Q1. 10歳の未避妊の雌犬の乳腺腫瘍の病理組織で、上皮、筋上皮、軟骨の成分がみられた。考えられる腫瘍名を答えよ。

A. 良性混合腫瘍。犬の乳腺腫瘍で多い良性の腫瘍で、2種類以上の組織成分からなる。

Q2. 犬の乳腺腫瘍の発生と避妊手術の時期の関係を述べよ。

A. 発生には卵巣のホルモンが関わるため、初回発情の前に避妊手術をすると発生が大きく減り、発情を重ねるごとにその予防効果は薄れていく。

Q3. 犬と猫の乳腺腫瘍で、良性と悪性の割合はどう違うか。

A. 犬ではおよそ半数が良性だが、猫では大部分が悪性(腺癌)である。

Q4. 馬の顆粒膜細胞腫で、反対側の卵巣が萎縮する理由を述べよ。

A. 腫瘍がインヒビンをつくり、下垂体からのFSHの分泌を抑えるため、反対側の卵巣で卵胞が育たず、卵巣が小さく働かなくなる。

Q5. 可移植性性器肉腫が犬のあいだで広がる仕組みを述べよ。

A. 交尾などの接触のときに、腫瘍細胞そのものが相手の粘膜に移植されて育つ。ウイルスによるものではなく、腫瘍細胞の染色体の構成が正常な犬と異なることから、同じ起源の細胞に由来することがわかっている。

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詳細な解説

参考文献

執筆・編集:Vet Study Library 編集部
監修:獣医師(農林水産省 獣医師名簿第44733号登録)/小動物臨床、環境衛生監視員としての実務経験、獣医療系出版社での獣医学情報誌・獣医学書籍の編集経験、医療系情報サイトでの執筆経験
公開日:2026年9月25日/最終更新日:2026年9月25日
本記事は獣医学生および獣医療従事者の学習支援を目的とした教育用コンテンツです。実際の診療上の判断は担当獣医師の責任において行ってください。