臨床獣医学 > 内科 > 皮膚 > 疥癬・毛包虫症と皮膚糸状菌症
脱毛や痒みを示す犬の写真と、皮膚掻爬で見つかった虫体の顕微鏡像を示して、病名や薬を問う問題は、実地試験の定番です。疥癬、毛包虫症(ニキビダニ症)、皮膚糸状菌症は、どれも脱毛を起こしますが、病原体がすむ場所が違うため、検査のしかた、痒みの強さ、人への感染が異なります。
本記事は、この3つを「どこにすむか」から比べる形で整理しました。
過去の出題では、次の形式が繰り返し問われています。
- 疥癬:角質層内のトンネル、激しい痒み、皮膚掻爬検査
- 毛包虫症:皮膚掻爬物の直接鏡検像からの同定と、治療薬(イベルメクチン、アミトラズ、イソキサゾリン系)
- 皮膚糸状菌症:牛(Trichophyton verrucosum)や犬猫の頭頸部の脱毛と顕微鏡像
- 疥癬のダニは角質層、ニキビダニは毛包の中、糸状菌は被毛と角質にすむこと
- その違いが掻爬の深さと痒みの強さを決めること
- 成犬の全身性の毛包虫症では基礎疾患を探すこと
- ウッド灯、被毛の鏡検、真菌培養の使い分け
- 殺ダニ薬がダニの神経のどこに作用するか
- 人に感染するものと、しないもの
1. 疥癬 — 角質層にトンネルを掘るダニ
- 病原体:イヌセンコウヒゼンダニ(Sarcoptes scabiei)。丸い体に短い脚をもつ
- すむ場所:雌が角質層にトンネルを掘り、その中で産卵する
- 痒み:ダニとその排泄物に対する過敏反応で、非常に強い痒みが出る
- 好発部位:耳介の縁、肘、かかと、腹。耳介の縁をこすると後肢で掻こうとする反応(耳介後肢反射)がみられることが多い
- 検査:角質層にいるため、浅く広く掻爬する。ただしダニの数が少なく、見つからないことが多い。検査が陰性でも否定できない
- 感染力:接触でほかの犬に強くうつる。人にも一時的な痒みのある皮膚炎を起こす人獣共通感染症
家畜の疥癬の一部は届出伝染病に指定されています(家畜伝染病予防法と届出伝染病の解説)。
2. 毛包虫症 — 毛包の中で増えるダニ
- 病原体:イヌニキビダニ(Demodex canis)。細長い葉巻のような形で、短い脚が前のほうに集まる
- すむ場所:毛包の中。健康な犬の皮膚にも少数が常にすんでいる
- うつり方:生まれてすぐの授乳の時期に、母犬から子犬へうつる
- 発症:皮膚の免疫のバランスが崩れると、ダニが増えて病気になる
- 症状:脱毛、毛包の詰まり(面皰)、赤み。痒みは少ないが、細菌の二次感染(膿皮症)が加わると痒くなる
- 検査:毛包の奥にいるため、皮膚をつまんで毛包から押し出しながら深く掻爬する。毛を抜いて毛根を見る抜毛検査でも見つかる
- 人への感染:ニキビダニは動物種ごとに決まっており、犬のニキビダニは人に感染しない
2-1. 若齢発症と成犬発症
- 若齢の犬:局所に数か所の脱毛ができる型が多く、免疫が育つにつれて自然に治ることが多い
- 成犬で全身に広がった場合:免疫を下げる基礎疾患が隠れていることが多い。副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)、甲状腺機能低下症、腫瘍、免疫抑制薬の使用などを探す(犬のクッシング症候群の解説)
3. 皮膚糸状菌症 — 被毛と角質を侵す真菌
- 病原体:犬と猫ではMicrosporum canisが最も多く、猫が症状を出さずに菌を持っていることがある。げっ歯類などとの接触でTrichophyton mentagrophytesも。牛ではTrichophyton verrucosum
- すむ場所:ケラチンを栄養にして、被毛と角質層を侵す
- 症状:円形の脱毛と鱗屑、痂皮。痒みは少ないことが多い。犬猫では頭部や四肢、子牛では頭部や頸部の灰白色の円形の痂皮が典型
- 人への感染:人にも感染する人獣共通感染症(人では円形の赤い輪状の皮疹)
3-1. 検査
- ウッド灯検査:紫外線を当てると、Microsporum canisに感染した被毛の一部が黄緑色に光る。光らない菌種や株もあるため、光らなくても否定できない
- 被毛の鏡検:感染した毛の表面や内部に、菌の胞子(分節分生子)や菌糸が見える
- 真菌培養:皮膚糸状菌用の培地(DTM培地)では、菌が育つと同時に培地が赤く変わる。菌の形を見て種類を決める
4. 3つの比較
- すむ場所:疥癬は角質層のトンネル、ニキビダニは毛包の中、糸状菌は被毛と角質層
- 掻爬の深さ:疥癬は浅く広く、ニキビダニは毛包から押し出しながら深く。糸状菌は被毛を採る
- 痒み:疥癬は非常に強い。ニキビダニと糸状菌は少ない(二次感染で強くなる)
- ほかの動物・人へ:疥癬は強い感染力があり人にも一時的にうつる。ニキビダニは人にうつらない。糸状菌は人にもうつる
5. 薬の作用機序
本記事では作用機序までを扱い、用量や使い分けは扱いません。
- イベルメクチン:ダニのグルタミン酸作動性のClチャネルを開き、神経と筋を過分極させて麻痺させる。哺乳類の脳では、血液脳関門のP糖タンパク質が薬を汲み出して守っている。MDR1遺伝子に変異のある犬(コリーなど)ではこの汲み出しができず、脳にたまって中毒を起こす(神経疾患の分野別まとめ)
- イソキサゾリン系:ダニや昆虫のGABA作動性・グルタミン酸作動性のClチャネルをふさぎ、神経を過剰に興奮させて殺す。イベルメクチンとは逆向きの作用で、どちらもダニの抑制性のチャネルを標的にしている
- アミトラズ:ダニのオクトパミン受容体を刺激する。哺乳類ではα2受容体に作用するため、鎮静、徐脈、高血糖などを起こすことがある
- 抗真菌薬:アゾール系は真菌の細胞膜のエルゴステロールの合成を、グリセオフルビンは真菌の細胞分裂を阻害する。グリセオフルビンは催奇形性がある
6. 疥癬・毛包虫症・皮膚糸状菌症で国家試験に狙われるポイント
- 疥癬:角質層のトンネル、激しい痒み、耳介の縁・肘・かかと、耳介後肢反射、浅く広い掻爬(検出率が低い)、人にも一時的に感染
- 毛包虫症:葉巻形のダニ、毛包内、母犬から新生子へ、痒みは少ない、深い掻爬と抜毛検査。成犬の全身型ではクッシング症候群などの基礎疾患を探す。人にはうつらない
- 皮膚糸状菌症:犬猫はMicrosporum canis、牛はTrichophyton verrucosum。円形の脱毛と痂皮。ウッド灯で一部が黄緑色に光る。DTM培地が赤くなる。人にもうつる
- 薬:イベルメクチンはClチャネルを開く(MDR1変異の犬で中毒)、イソキサゾリン系はClチャネルをふさぐ、アミトラズはオクトパミン受容体(哺乳類ではα2作用)
7. 疥癬・毛包虫症・皮膚糸状菌症の確認問題
Q1. 疥癬とニキビダニ症で、皮膚掻爬のしかたが異なる理由を述べよ。
A. 疥癬のダニは角質層にトンネルを掘ってすむため、浅く広く掻爬する。ニキビダニは毛包の中にすむため、皮膚をつまんで毛包から押し出しながら深く掻爬する。
Q2. 疥癬を強く疑う犬で、皮膚掻爬検査でダニが見つからなかった。疥癬を否定してよいか。理由とともに答えよ。
A. 否定できない。疥癬ではダニの数が少なく、掻爬検査で見つからないことが多いため、臨床症状や耳介後肢反射などを含めて判断する。
Q3. 7歳の犬に全身性の毛包虫症がみられた。まず探すべきことは何か。
A. 免疫を低下させる基礎疾患。副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)、甲状腺機能低下症、腫瘍、免疫抑制薬の使用などを探す。
Q4. 子猫の円形脱毛で、皮膚糸状菌症を確認するための検査を3つ挙げよ。
A. ウッド灯検査(Microsporum canisに感染した被毛の一部が黄緑色に光る)、被毛の鏡検(菌の胞子や菌糸を確認する)、真菌培養(DTM培地が赤く変わり、菌の形で種類を決める)。
Q5. イベルメクチンがコリーなどの一部の犬で中毒を起こしやすい理由を述べよ。
A. 通常は血液脳関門のP糖タンパク質がイベルメクチンを脳から汲み出しているが、MDR1遺伝子に変異のある犬ではP糖タンパク質がつくられず、薬が脳にたまって神経症状を起こすため。
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- 分野別まとめ:神経疾患 — イベルメクチン中毒などの神経症状を起こす中毒を整理しています。
参考文献
- 新獣医内科学 文永堂出版
- 犬と猫の治療ガイド インターズー
- CAP 緑書房
- SA Medicine インターズー
- 新編 家畜薬理学 養賢堂
- 農林水産省 獣医師国家試験(公式)