神経疾患|【獣医師国家試験対策】

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神経疾患は、「どこが悪いか(病変の局在)」を決めてから「何が起きているか(原因)」を絞るという2段階で解く分野です。神経学的検査の結果から脊髄の部位を答えさせる問題や、MRI像から脳の病変を見分ける問題が、実地試験の画像・症例問題として毎年多数出題されています。

本ページでは、この2段階の考え方を軸に、UMN徴候とLMN徴候、脊髄の4区分、脳の部位ごとの徴候、MRIの読み方、神経症状を起こす感染症と中毒を整理し、重要テーマの詳細へ案内します。

過去問分析に基づく出題傾向
出題割合約8〜10%
出題数の目安18〜25問
主な出題動物種犬・猫・牛・馬

神経は、小動物臨床(内科・外科・画像診断)で循環器・消化器と並ぶ最重要分野のひとつです。とくに配点の高い実地試験で、画像と症例の問題が毎年必ず出題されています。

本ページの出題傾向は、第73回〜第77回(全1,650問)を編集部が分野別に分類集計したものです。

1. 出題傾向 — 4つのカテゴリー

  • 脊髄疾患と病変の局在(年6〜8問):神経学的検査の結果から脊髄の部位を特定させる問題が毎年出る。椎間板ヘルニア、進行性脊髄軟化症、環椎軸椎不安定症、ウォブラー症候群、馬尾症候群、線維軟骨塞栓症
  • 脳疾患・脳神経障害と画像(年6〜8問):MRIとCTによる脳腫瘍・脳炎の見分け、前庭障害、ホルネル症候群、三叉神経障害、肝性脳症
  • 感染症と中毒(年4〜5問):狂犬病、牛のリステリア症、ボツリヌス症、破傷風、スクレイピー・BSE、イベルメクチン中毒
  • 解剖・生理と神経学的検査(年3〜4問):脳の発生、脳脊髄液の産生、大脳徴候と小脳徴候の区別、検査の手技

とくに、検査結果の表から局在を読み取る問題は、判定のパターンを1つ身につければ確実に得点できる問題です。

2. 神経学は「どこか → なにか」の2段階で解く

2-1. 第1段階:どこか(局在)

  • 脳:大脳、脳幹、小脳、前庭系。部位ごとに特徴的な徴候がある(第3章)
  • 脊髄:C1–C5、C6–T2、T3–L3、L4–S3の4区分。前肢と後肢がUMN徴候かLMN徴候かで決まる
  • 末梢:末梢神経、神経筋接合部、筋。全身の筋力低下やLMN徴候が広く出る

2-2. 第2段階:なにか(原因)

局在が決まったら、原因をDAMNIT-V(変性、奇形、代謝、腫瘍、炎症・感染、外傷、中毒、血管)の枠で洗い出し、発症の速さと進行のしかたを掛け合わせて絞ります。

  • 急性に起こって進行しない:線維軟骨塞栓症などの血管性の病気、外傷
  • 急性に起こって進行する:椎間板ヘルニア(ハンセンI型)、炎症
  • 慢性に進行する:腫瘍、変性性疾患、椎間板ヘルニア(ハンセンII型)

この枠組みは超簡単まとめ「DAMNIT-V」で、実際の絞り込みは神経局在推理ラボで練習できます。

3. 学説A対策 — 神経解剖と生理

3-1. UMN徴候とLMN徴候

  • UMN徴候(上位運動ニューロンの障害):脳から脊髄の運動ニューロンへ指令を送る経路の障害。障害部位より後ろの肢で、脊髄反射は正常〜亢進、筋の緊張は正常〜亢進し、筋萎縮は軽い
  • LMN徴候(下位運動ニューロンの障害):脊髄の運動ニューロンから末梢神経、筋までの障害。脊髄反射は低下〜消失、筋の緊張は低下し、筋萎縮が早く強く現れる

3-2. 脊髄の4区分

  • C1–C5:前肢・後肢ともにUMN徴候
  • C6–T2:前肢はLMN徴候、後肢はUMN徴候(前肢の神経が出る頸膨大)
  • T3–L3:前肢は正常、後肢はUMN徴候
  • L4–S3:前肢は正常、後肢はLMN徴候(後肢の神経が出る腰膨大)

判定のしかたは脊髄の病変局在の詳細解説で、反射の種類とあわせて整理しています。

3-3. 脳の部位ごとの徴候

  • 大脳:てんかん発作、旋回、行動の変化、障害と反対側の視覚障害と姿勢反応の低下。歩行そのものはおおむね保たれる
  • 脳幹:意識レベルの低下、複数の脳神経障害、四肢の不全麻痺
  • 小脳:企図振戦(動こうとすると頭がふるえる)、測定障害(足を高く上げすぎる)、幅の広い歩様。筋力は保たれる
  • 前庭系:捻転斜頸、眼振、旋回と転倒、左右差のある運動失調

3-4. 脳神経の要点

  • 三叉神経(第V脳神経):咀嚼筋(咬筋・側頭筋)を動かし、顔面と角膜の感覚を伝える。障害されると咀嚼筋が萎縮し、角膜の感覚が失われて角膜炎を起こしやすくなる
  • 眼の交感神経:障害されると縮瞳、眼瞼下垂、眼球陥凹、第三眼瞼の突出の4徴候がそろうホルネル症候群になる
  • 反回神経(迷走神経の枝):声門を開く筋を支配する。動脈管の手術で左反回神経を傷つけると喉頭麻痺が起こる(馬の喘鳴症の解説で、犬との比較として扱っています)

3-5. 脳の発生と脳脊髄液

脳は神経管の前端の3つのふくらみ(前脳胞・中脳胞・菱脳胞)から発生します。菱脳からは小脳・橋(後脳)と延髄(髄脳)ができます。脳脊髄液は主に脳室の脈絡叢でつくられ、脳室からくも膜下腔を流れて静脈へ吸収されます。

4. 学説B対策 — 薬理と神経毒

  • イベルメクチン中毒とMDR1遺伝子:血液脳関門の血管内皮にあるP糖タンパク質は、脳に入った薬を汲み出すポンプとして働く。コリーなどでMDR1遺伝子に変異があるとP糖タンパク質がつくられず、イベルメクチンが脳にたまって中毒を起こす(超簡単まとめ「薬物代謝と生体関門」)
  • ボツリヌス毒素と破傷風毒素:どちらもクロストリジウム属菌がつくり、神経伝達物質の放出を止める毒素。ボツリヌス毒素はアセチルコリンの放出を止めて弛緩性麻痺を、破傷風毒素は脊髄で抑制性の伝達物質の放出を止めて強直性けいれんを起こす。同じ仕組みの毒素が正反対の症状になる理由は、ボツリヌス症と破傷風の詳細解説で扱っています

5. 実地C・D対策 — 検査と画像

5-1. 神経学的検査表の読み方

  • 姿勢反応(固有位置感覚、跳び直り反応など):神経系のどこが障害されても低下しやすい。局在を決めるより、異常があるかどうかを見る検査
  • 脊髄反射:正常・亢進ならUMN徴候、低下・消失ならLMN徴候。局在を決める中心の情報
  • 痛覚:深部痛覚は脊髄の圧迫に最も強く、最後まで残る。深部痛覚が消えていれば重度の障害で、予後の判断に使われる

5-2. MRIの基本

  • T1強調像:脳脊髄液は低信号(黒)、脂肪は高信号
  • T2強調像:脳脊髄液と浮腫は高信号(白)。病変の広がりをとらえやすい
  • FLAIR像:T2強調像から脳脊髄液の信号を消した像。脳室や脳溝のそばの病変と浮腫が見やすい
  • 造影T1強調像:血液脳関門が壊れた場所が白く増強される。腫瘍や炎症の評価に使う

髄膜腫などの見え方は脳のMRIと脳腫瘍・脳炎の詳細解説で扱っています。

5-3. X線と脊髄造影

  • 環椎軸椎不安定症:環椎の背弓と軸椎の棘突起のあいだが広がる。軸椎の歯突起の形成不全を伴うことがある
  • ウォブラー症候群:尾側頸椎の脊髄圧迫が首の姿勢で変わるため、牽引・屈曲・伸展位の脊髄造影で動的な圧迫を評価する
  • 椎間板ヘルニア:X線で椎間腔の狭小化や石灰化した椎間板が見えることはあるが、圧迫の部位の確定には脊髄造影・CT・MRIが必要

5-4. 脳脊髄液検査

細胞数とタンパク質の量、細胞の種類を調べます。炎症性の脳疾患(壊死性髄膜脳炎、肉芽腫性髄膜脳脊髄炎など)では単核球が増え、タンパク質が上昇します。

6. 重要テーマ別の詳細解説

犬・猫脊髄の病変局在(UMN・LMNと4区分)

検査表から局在を答える問題の解き方を、反射の種類、皮筋反射、排尿の異常、シフ・シェリントン姿勢とあわせて整理します。

→ 脊髄の病変局在の詳細解説を読む

犬椎間板ヘルニアと進行性脊髄軟化症

ハンセンI型とII型の違い、胸腰部に多い理由、重症度の分類と深部痛覚、そして重度の脊髄損傷のあとに壊死が頭側へ広がる進行性脊髄軟化症を解説します。

→ 椎間板ヘルニアと進行性脊髄軟化症の詳細解説を読む

犬環椎軸椎不安定症、ウォブラー症候群、馬尾症候群、線維軟骨塞栓症

  • 環椎軸椎不安定症:チワワやトイ・プードルなどの若い小型犬。首の痛みと四肢の不全麻痺(C1–C5)
  • ウォブラー症候群(尾側頸椎脊髄症):ドーベルマンなどの大型犬。前肢は歩幅が短く、後肢は幅広くふらつく歩様
  • 馬尾症候群:L7–S1の馬尾の圧迫。腰仙部の痛み、後肢・尾・会陰のLMN徴候、尿失禁
  • 線維軟骨塞栓症:椎間板の線維軟骨が脊髄の血管に詰まる脊髄梗塞。急性発症で進行せず、痛みを伴わず、左右差があるのが特徴

犬・猫脳のMRIと脳腫瘍・脳炎

髄膜腫、脈絡叢乳頭腫、下垂体腫瘍、神経膠腫の見分けと、パグやマルチーズの壊死性髄膜脳炎(NME)、小型犬の肉芽腫性髄膜脳脊髄炎(GME)を、MRIの見え方から整理します。

→ 脳のMRIと脳腫瘍・脳炎の詳細解説を読む

犬・猫肝性脳症

門脈体循環シャントなどで肝臓がアンモニアを処理できず、脳に届いて神経症状を起こします。食後に悪化する沈うつや旋回、発作が典型で、病理では星状膠細胞のアルツハイマーII型変化がみられます。

犬・猫前庭障害とホルネル症候群

末梢性と中枢性の前庭障害の見分け、小脳徴候との違い、交感神経の3つのニューロンの経路とホルネル症候群の4徴候を解説します。

→ 前庭障害とホルネル症候群の詳細解説を読む

横断神経症状を起こす感染症と中毒

  • 狂犬病:神経細胞の細胞質内の封入体(ネグリ小体)。狂犬病の解説
  • 牛のリステリア症:劣化したサイレージ、脳幹の微小膿瘍、斜頸と旋回
  • ボツリヌス症・破傷風:弛緩性麻痺と強直性けいれん
  • スクレイピー・BSE:プリオン病。神経細胞と神経網の空胞化(海綿状変性)
  • イベルメクチン中毒:MDR1遺伝子の変異をもつコリーなど

→ ボツリヌス症と破傷風(牛のリステリア症との比較つき)の詳細解説を読む

7. 学習教材

理解度チェック

詳細な解説

8. 神経疾患の勉強法 ― おすすめの学習順序

  1. 2段階の考え方:本ページ第2章で「どこか → なにか」の流れをつかむ
  2. 局在の判定:第3章と脊髄の病変局在の記事で、UMN・LMNと4区分を確実にする。ここが最大の得点源
  3. 脊髄の疾患:椎間板ヘルニアと進行性脊髄軟化症、第6章のそのほかの脊髄疾患
  4. 脳と脳神経:MRIの基本から脳腫瘍・脳炎へ進み、前庭障害とホルネル症候群を押さえる
  5. 感染症と中毒:ボツリヌス症と破傷風、リステリア症、狂犬病、イベルメクチン中毒を、推理ラボで仕上げる
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神経は内科学を構成する領域のひとつです。ほかの領域を含めた内科学全体の出題傾向は、臨床獣医学 > 内科のページで整理しています。

参考文献

  • 新獣医内科学 文永堂出版
  • 犬と猫の治療ガイド インターズー
  • 伴侶動物治療指針 緑書房
  • CAP 緑書房
  • SA Medicine インターズー
  • 新編 家畜薬理学 養賢堂
  • 獣医生理学第二版 文永堂出版
  • 動物病理学各論 文永堂出版
  • 家畜比較解剖図説 養賢堂
  • 農林水産省 獣医師国家試験(公式)

執筆・編集:Vet Study Library 編集部
監修:獣医師(農林水産省 獣医師名簿第44733号登録)/小動物臨床、環境衛生監視員としての実務経験、獣医療系出版社での獣医学情報誌・獣医学書籍の編集経験、医療系情報サイトでの執筆経験
公開日:2026年9月24日/最終更新日:2026年9月24日
本ページは獣医学生および獣医療従事者の学習支援を目的とした教育用コンテンツです。実際の診療上の判断は担当獣医師の責任において行ってください。