臨床獣医学 > 繁殖 > 牛の繁殖障害と周産期の異常
牛の繁殖障害は、実地試験で直腸検査や超音波の所見とともに繰り返し出題されています。名前が多くて混乱しやすい分野ですが、「卵巣に黄体があるか、ないか」を先に考えると、症状も、使われるホルモン剤も、自然に整理できます。
本記事の前半では卵巣と子宮の繁殖障害を、後半では妊娠中と分娩前後の異常を、起こる順番に整理しました。
過去の出題では、次の形式が問われています。
- 卵巣:黄体遺残(発情が来ない)、卵胞嚢腫、無発情の原因
- 妊娠中:尿膜水腫(胎盤の機能の異常が原因)、胎子のミイラ変性
- 分娩:難産、胎盤停滞、分娩後の子宮の異常
- 繁殖障害を「黄体があるか、ないか」で分けること
- 卵胞嚢腫と黄体嚢腫の違い
- 黄体遺残が起こる理由(子宮からPGF2αが出ない)
- 牛の子宮蓄膿症と胎子のミイラ変性が黄体遺残を伴うこと
- 尿膜水腫と羊膜水腫の違い
- 胎位・胎向・胎勢と、胎盤停滞
1. 卵巣の繁殖障害 — 黄体があるか、ないか
1-1. 黄体がない(プロジェステロンが低い)
- 卵巣静止(卵巣の発育不全):卵胞が十分に育たず、排卵も起こらない。無発情になる。分娩後のエネルギー不足や低栄養が主な原因
- 卵胞嚢腫:卵胞が排卵せずに大きく(おおむね直径2.5cm以上)なって長く残る。LHサージが十分に起こらないことが原因で、分娩後の高泌乳の牛に多い。エストロジェンの影響で、発情が続く(持続発情)か、逆に無発情になる。GnRH製剤やhCGで嚢腫の壁を黄体化させる
1-2. 黄体がある(プロジェステロンが高い)
- 黄体嚢腫:嚢腫の壁が黄体化して、プロジェステロンを出す。無発情になる。黄体組織なのでPGF2αで退行させられる
- 黄体遺残:妊娠していないのに黄体が退行せずに残る。子宮に異常(子宮蓄膿症、胎子のミイラ変性など)があって子宮からPGF2αが出ないことが原因。無発情になる。発情周期が不規則に来るのではなく、発情が来なくなる点に注意
- 鈍性発情:排卵も黄体の形成も正常に起こるのに、発情の徴候がはっきり出ない。見逃されて「発情が来ない」と訴えられることが多い。直腸検査で機能している黄体が触れる
1-3. 黄体の機能が足りない
- 発育不全黄体:黄体が小さく、プロジェステロンが足りない。受精しても胚が育たずに早い時期に死んでしまい、受胎しにくい
黄体がある病気(黄体嚢腫、黄体遺残、鈍性発情)には、黄体を退行させるPGF2αが効きます。黄体がない卵胞嚢腫には、まずGnRHやhCGで黄体をつくらせます。直腸検査や超音波、プロジェステロンの測定で黄体の有無を確かめることが、診断の出発点です。
2. 子宮の繁殖障害
- 子宮内膜炎:分娩後に子宮に細菌が入り、内膜に炎症が起こる。白く濁った粘液や膿のまじった粘液が出る。受胎しにくくなる
- 子宮蓄膿症:子宮に膿がたまり、子宮からPGF2αが出ないため黄体遺残を伴って無発情になる。牛では犬と違い、全身の症状はあまり目立たない
- リピートブリーダー:発情周期も発情の徴候も正常なのに、3回以上授精しても受胎しない牛。受精の失敗や、ごく早い時期の胚の死滅が原因と考えられている
3. 妊娠中の異常
3-1. 尿膜水腫と羊膜水腫
- 尿膜水腫:胎盤の機能の異常(胎盤節の数が少ないなど)で、尿膜腔に大量の液がたまる。妊娠後期に急に腹部が膨らみ、左右の下腹部が張る。直腸検査では、子宮が張りつめて胎子や胎盤節を触れにくい
- 羊膜水腫:胎子の奇形(羊水を飲み込めないなど)に伴って羊膜腔に液がたまる。ゆっくり進む
3-2. 胎子のミイラ変性と浸漬胎子
- ミイラ変性:妊娠中に胎子が死んだあと、黄体が残って子宮頸管が閉じたまま、細菌が入らない状態で胎子の水分が吸収され、硬い塊になる。黄体遺残のため無発情になる。PGF2αで黄体を退行させると排出される
- 浸漬胎子:死んだ胎子に細菌が感染し、軟らかい組織が溶けて骨だけが残る
3-3. 流産と異常産を起こす感染症
ブルセラ症、ネオスポラ症、牛ウイルス性下痢、アカバネ病(関節の弯曲や水頭症の子牛)、カンピロバクター症などが、流産や異常産の原因になります(伝染病学の分野別まとめ)。
4. 分娩と分娩後の異常
4-1. 難産 — 胎位・胎向・胎勢
- 胎位:胎子の体の長い軸と、母体の長い軸の関係。頭から出る頭位と、後肢から出る尾位が縦位で、横向きの横位は自然には出られない
- 胎向:胎子の背中と、母体の背中の関係。胎子の背中が母体の背中側を向く上胎向が正常
- 胎勢:胎子の頭と肢の姿勢。牛では、頭と両前肢を伸ばした姿勢で出てくるのが正常。頭や肢が曲がって引っかかると難産になる
このほか、胎子が大きすぎる、産道が狭い、陣痛が弱い、子宮がねじれている(子宮捻転)といったことも難産の原因になります。
4-2. 胎盤停滞(後産停滞)
分娩後、おおむね12時間以上たっても胎盤が出てこない状態です。難産、双子、分娩前後の低カルシウム血症、ビタミンEやセレンの不足、感染などで起こりやすく、そのあとの子宮内膜炎の原因になります。
4-3. 子宮脱と低カルシウム血症
分娩の直後に、子宮が裏返って外へ出てしまうのが子宮脱です。分娩前後の低カルシウム血症で子宮の筋の張りが弱いことが関わります。低カルシウム血症は、分娩後に牛が立てなくなる乳熱の原因でもあります。
5. 牛の繁殖障害で国家試験に狙われるポイント
- 黄体がない:卵巣静止(無発情)、卵胞嚢腫(持続発情または無発情、GnRH・hCG)
- 黄体がある:黄体嚢腫(無発情、PGF2α)、黄体遺残(子宮からPGF2αが出ない、無発情)、鈍性発情(排卵するが徴候が出ない)
- 発育不全黄体:プロジェステロン不足で早期の胚の死滅
- 子宮:子宮内膜炎、子宮蓄膿症(黄体遺残を伴う)、リピートブリーダー
- 尿膜水腫:胎盤の異常、妊娠後期に急速。羊膜水腫:胎子の奇形、ゆっくり
- ミイラ変性:黄体遺残、無菌的に水分が吸収。浸漬胎子:細菌感染で骨だけが残る
- 難産:胎位(頭位・尾位・横位)、胎向(上胎向が正常)、胎勢(頭と両前肢を伸ばすのが正常)
- 胎盤停滞:分娩後12時間以上、子宮内膜炎の原因
6. 牛の繁殖障害の確認問題
Q1. 卵胞嚢腫と黄体嚢腫の違いを、プロジェステロンと使われるホルモン剤から述べよ。
A. 卵胞嚢腫は排卵しなかった卵胞が大きく残ったもので、黄体がなくプロジェステロンは低い。GnRHやhCGで嚢腫の壁を黄体化させる。黄体嚢腫は嚢腫の壁が黄体化してプロジェステロンを出しており、PGF2αで退行させる。
Q2. 黄体遺残が起こる理由と、そのときにみられる症状を述べよ。
A. 子宮蓄膿症や胎子のミイラ変性などの子宮の異常で、子宮からPGF2αが出ないため、妊娠していないのに黄体が退行せずに残る。プロジェステロンが出続けるため無発情になる。
Q3. 鈍性発情とはどのような状態か。
A. 排卵と黄体の形成は正常に起こっているのに、発情の徴候がはっきり出ない状態。見逃されて発情が来ないと訴えられることが多い。
Q4. 尿膜水腫と羊膜水腫の違いを、原因と進み方から述べよ。
A. 尿膜水腫は胎盤の機能の異常が原因で、妊娠後期に急速に腹部が膨らむ。羊膜水腫は羊水を飲み込めないなどの胎子の奇形に伴って起こり、ゆっくり進む。
Q5. 牛の正常な分娩での、胎子の胎位・胎向・胎勢を答えよ。
A. 胎位は頭から出る頭位(縦位)、胎向は胎子の背中が母体の背中側を向く上胎向、胎勢は頭と両前肢を伸ばした姿勢。
関連コンテンツ
理解度チェック
- 法定伝染病かるた — 流産や異常産を起こす家畜の伝染病を覚えられます。
詳細な解説
- 分野別まとめ:繁殖学・産科 — 共通のホルモンの流れと、動物種ごとの繁殖の特徴を整理しています。
- 流れでたどる:分娩の始まり — 胎子のコルチゾールからオキシトシンまで、分娩が始まる流れを図で確認できます。
- 牛の繁殖(性周期・妊娠・繁殖技術) — 正常な発情周期とホルモン剤の使い方を扱います。
- 分野別まとめ:伝染病学 — 流産や異常産を起こす感染症を整理しています。
参考文献
- 獣医繁殖学 文永堂出版
- 獣医生理学第二版 文永堂出版
- 新獣医内科学 文永堂出版
- 農林水産省 獣医師国家試験(公式)