伝染病学 > 馬の感染症
馬は、競走や繁殖のために全国、ときには海外とのあいだを移動するため、感染症が広がると大きな影響が出ます。国家試験では、馬伝染性貧血、馬鼻肺炎、馬ウイルス性動脈炎、日本脳炎、馬インフルエンザ、腺疫が、原因ウイルスの科や特徴的な症状とあわせて問われています。
本記事では、馬の感染症を「長く体に残るもの」「呼吸器と流産」「神経」「細菌」に分けて整理しました。
過去問分析
第73回〜第77回では、次のような形で出題されています。
- 馬伝染性貧血:原因ウイルス、伝播、診断(選択肢を含めて9問)
- 馬鼻肺炎・馬ウイルス性動脈炎:流産と、ウイルスの科
- 馬インフルエンザ・腺疫:症状と、流行している亜型
この記事で押さえること
- 馬伝染性貧血が発熱と貧血を繰り返し、生涯ウイルスをもち続ける理由
- 馬鼻肺炎の呼吸器・流産・神経の3つの型
- 馬ウイルス性動脈炎の浮腫と、種牡馬がウイルスを出し続けること
- 蚊が運ぶ日本脳炎・ウエストナイル熱
- 馬インフルエンザと腺疫の症状
1. 長く体に残る感染症 — 馬伝染性貧血
- 原因:レトロウイルス科(レンチウイルス属)のウイルス。家畜伝染病
- 広がり方:アブなどの吸血昆虫が、感染した馬の血を吸った口のまま次の馬を刺すことで、機械的にうつる。注射針の使い回しでもうつる
- 症状:発熱と貧血の発作を繰り返す。発作のたびにやせていく
- 体に残る理由:レトロウイルスは宿主の遺伝子に組み込まれるため、感染した馬は生涯ウイルスをもち続ける。さらに、ウイルスの表面の形が少しずつ変わって免疫をすり抜けるため、発作が繰り返される
- 診断:血清中の抗体を調べる(寒天ゲル内沈降反応、ELISA)。陽性の馬は、ほかの馬への感染源にならないよう淘汰される
2. 呼吸器と流産を起こす感染症
2-1. 馬鼻肺炎
- 原因:ヘルペスウイルス科の馬ヘルペスウイルス1型と4型(届出伝染病)
- 呼吸器の型:若い馬に、発熱と鼻水などのかぜのような症状
- 流産の型:主に1型で、妊娠後期の流産を起こす。同じ厩舎で次々に流産が起こることがある
- 神経の型:1型で、脊髄の血管が傷み、後肢のふらつきや麻痺、尿がうまく出なくなる
- 体に残る理由:ヘルペスウイルスなので潜伏感染し、ストレスで再びウイルスを出す
2-2. 馬ウイルス性動脈炎
- 原因:アルテリウイルス科のウイルス(届出伝染病)
- 症状:発熱、目の充血、四肢や陰嚢のむくみ(血管の炎症による)、妊娠馬の流産
- 特徴:感染した種牡馬の一部は、症状がなくなったあとも精液の中にウイルスを長く出し続け、交配でうつす
2-3. 馬インフルエンザ
- 原因:オルトミクソウイルス科のA型インフルエンザウイルス。近年流行しているのはH3N8亜型(届出伝染病)
- 症状:急な発熱と乾いた咳。伝わる力がとても強く、厩舎全体に一気に広がる
3. 神経の症状を起こす感染症 — 蚊が運ぶ脳炎
- 日本脳炎(フラビウイルス科):蚊が運ぶ。豚の体内で増えたウイルスが、蚊を介して馬にうつり、脳炎(発熱、ふらつき、興奮やまひ)を起こす
- ウエストナイル熱(フラビウイルス科):蚊が運び、鳥の体内で増える。馬に脳炎を起こす
日本脳炎などの脳炎は、家畜伝染病の「流行性脳炎」にあたります(家畜伝染病予防法の解説)。
4. 細菌による感染症
4-1. 腺疫
- 原因:レンサ球菌(Streptococcus equi subsp. equi)
- 症状:主に若い馬に、発熱、鼻水、下あごのリンパ節の腫れと膿瘍が起こる。膿瘍はやがて破れて膿が出る
- 合併症:のどの奥のリンパ節の膿瘍が喉嚢に破れて、喉嚢に膿がたまることがある(眼と耳の疾患の分野別まとめ)
4-2. そのほかの細菌の感染症
- 子馬のロドコッカス肺炎:子馬のロドコッカス肺炎の解説
- 馬伝染性子宮炎:交配でうつる子宮の炎症(馬・豚・めん羊と山羊の繁殖の解説)
- 破傷風:馬は特に感受性が高い(ボツリヌス症と破傷風の解説)
5. 馬の感染症で国家試験に狙われるポイント
- 馬伝染性貧血:レトロ(レンチ)、家畜伝染病、アブなどが機械的に伝播、発熱と貧血を繰り返す、生涯持続感染、抗体検査で診断
- 馬鼻肺炎:ヘルペス(1型・4型)、呼吸器・妊娠後期の流産・神経の型、潜伏感染
- 馬ウイルス性動脈炎:アルテリ、四肢や陰嚢の浮腫、流産、種牡馬の精液から長く排出
- 馬インフルエンザ:オルトミクソ、H3N8、急な発熱と乾いた咳、強い伝播力
- 日本脳炎・ウエストナイル熱:フラビ、蚊が運ぶ脳炎(流行性脳炎)
- 腺疫:S. equi、若い馬、下あごのリンパ節の膿瘍、喉嚢の蓄膿
6. 馬の感染症の確認問題
Q1. 馬伝染性貧血がどのように馬から馬へうつるかを述べよ。
A. アブなどの吸血昆虫が、感染した馬の血を吸った口のまま次の馬を刺すことで機械的にうつる。注射針の使い回しでもうつる。
Q2. 馬伝染性貧血で発熱と貧血の発作が繰り返される理由を述べよ。
A. レトロウイルスが宿主の遺伝子に組み込まれて生涯残り、さらにウイルスの表面の形が少しずつ変わって免疫をすり抜けるため。
Q3. 馬鼻肺炎の3つの型を答えよ。
A. 若い馬のかぜのような呼吸器の型、妊娠後期の流産の型、脊髄が傷んで後肢のふらつきや麻痺を起こす神経の型。
Q4. 馬ウイルス性動脈炎で、症状のない種牡馬が問題になる理由を述べよ。
A. 感染した種牡馬の一部は、症状がなくなったあとも精液の中にウイルスを長く出し続け、交配によって雌馬にうつすため。
Q5. 若い馬で、発熱と下あごのリンパ節の腫れと膿瘍がみられた。考えられる病気と原因菌を答えよ。
A. 腺疫。原因菌はレンサ球菌の Streptococcus equi subsp. equi。
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理解度チェック
- 法定伝染病かるた — 家畜伝染病と届出伝染病の区分を覚えられます。
詳細な解説
- 分野別まとめ:伝染病学 — 病原体の分類、消毒薬の選び方、疫学の基礎と、伝染病学全体の出題傾向を整理しています。
- 家畜伝染病予防法と届出伝染病 — 家畜伝染病と届出伝染病の一覧と、発生時の措置を扱います。
- 子馬のロドコッカス肺炎 — 子馬の代表的な細菌の肺炎を扱います。
- RNAウイルスの科と代表的な病気 — レトロウイルスやアルテリウイルスの性状を扱います。
参考文献
- 獣医伝染病学 近代出版
- 獣医微生物学 文永堂出版
- 動物の感染症 近代出版
- 農林水産省 獣医師国家試験(公式)