病態獣医学 > 微生物学 > RNAウイルスの科と代表的な病気
動物の重要なウイルス病の多くは、RNAウイルスによるものです。国家試験では、口蹄疫、豚熱、日本脳炎、鳥インフルエンザ、犬ジステンパー、狂犬病など、よく知られた病気の原因ウイルスが何科かが繰り返し問われています。
本記事では、RNAウイルスをエンベロープがあるか、ないかで分け、科ごとに「ゲノムの特徴 → 性質 → 代表的な病気」の順に整理しました。
過去の出題では、次の形式が問われています。
- 原因ウイルスの科:フラビウイルス科、オルトミクソウイルス科、アルテリウイルス科、ピコルナウイルス科(鶏脳脊髄炎)、トガウイルス科(ゲタウイルス病)など
- 性状:分節ゲノム、エンベロープ、高病原性鳥インフルエンザの亜型(H5・H7)
- RNAのゲノムのプラス鎖・マイナス鎖・2本鎖と分節の違い
- エンベロープのないピコルナ、カリシ、レオ、ビルナと、その病気
- エンベロープのある各科の代表的な病気
- インフルエンザウイルスの8本の分節とHA・NA
- レトロウイルスの逆転写
1. RNAのゲノムの3つの形
- プラス鎖RNA:ゲノムがそのままmRNAとして働き、すぐにタンパク質をつくれる
- マイナス鎖RNA:そのままではmRNAとして働けないため、ウイルス粒子の中にRNAポリメラーゼを持ち込んで、まずmRNAをつくる
- 2本鎖RNA:レオウイルスやビルナウイルスなど
ゲノムが1本ではなく何本かに分かれているものを分節ゲノムといい、インフルエンザウイルス(8本)などがあります(ウイルスの増殖と変異の解説)。
2. エンベロープのないRNAウイルス
- ピコルナウイルス科(プラス鎖、小さい):口蹄疫(酸に弱く、筋肉の熟成で酸性になると失活する)、豚水疱病、鶏脳脊髄炎、人のポリオ・A型肝炎
- カリシウイルス科(プラス鎖):猫カリシウイルス感染症(口腔の潰瘍と上部気道の症状)、ウサギ出血病、人のノロウイルス。環境中で長く生き残る
- レオウイルス科(2本鎖RNA、10〜12分節):ブルータング(めん羊、ヌカカが媒介)、牛のイバラキ病、アフリカ馬疫、ロタウイルス(子の下痢)。ロタウイルスやブルータングウイルスは、近年の分類ではセドレオウイルス科とされる
- ビルナウイルス科(2本鎖RNA、2分節):伝染性ファブリキウス嚢病(鶏。ファブリキウス嚢を壊して免疫を抑える)、魚の伝染性膵臓壊死症
3. エンベロープのあるRNAウイルス(プラス鎖)
- トガウイルス科:蚊が媒介する東部・西部・ベネズエラ馬脳炎、ゲタウイルス病(馬の発熱と発疹、豚の異常産)
- フラビウイルス科:
- 日本脳炎:蚊が媒介し、豚の体内で増えてから人や馬に広がる(豚が増幅動物)。豚では死産・ミイラ化した胎子、馬と人では脳炎
- ウエストナイル熱:蚊が媒介し、鳥で増える
- 豚熱、牛ウイルス性下痢(ペスチウイルス属):牛ウイルス性下痢では、胎子期に感染した子牛がウイルスを異物と認識できずに持続感染牛となり、一生ウイルスを出し続ける(牛ウイルス性下痢・粘膜病の解説)
- コロナウイルス科(RNAウイルスで最大級のゲノム):豚流行性下痢、豚伝染性胃腸炎、猫伝染性腹膜炎(猫腸コロナウイルスが体内で変異して起こる)、鶏伝染性気管支炎、牛コロナウイルス感染症(冬季の下痢)、人のSARS・MERS・COVID-19
- アルテリウイルス科:豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)、馬ウイルス性動脈炎。マクロファージで増える
4. エンベロープのあるRNAウイルス(マイナス鎖)
- パラミクソウイルス科(分節なし):細胞どうしを融合させて合胞体(多核巨細胞)をつくる。犬ジステンパー、牛疫、小反芻獣疫、ニューカッスル病、ヘンドラ・ニパウイルス感染症。牛RSウイルスは、近年の分類ではニューモウイルス科とされる
- ラブドウイルス科(分節なし、弾丸の形):狂犬病(神経細胞にネグリ小体)、水胞性口炎、牛流行熱、魚のウイルス性出血性敗血症
- オルトミクソウイルス科(8分節、A型インフルエンザ):表面のHA(ヘマグルチニン)とNA(ノイラミニダーゼ)の型で亜型を分ける。鳥インフルエンザ、豚インフルエンザ、馬インフルエンザ。H5亜型とH7亜型は高病原性に変わりうるため、家畜伝染病予防法で特に警戒される。RNAウイルスなのに核で増える
- ブニヤウイルス目(3分節):アカバネ病(ヌカカが媒介し、胎子に関節の弯曲や水頭症を起こす)、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)(マダニが媒介し、猫や犬から人への感染例もある)、リフトバレー熱
- アレナウイルス科(2分節):ネズミが保有するラッサ熱
5. レトロウイルス科 — 逆転写するRNAウイルス
プラス鎖RNAを2コピーもち、自分の逆転写酵素でRNAからDNAをつくって、宿主の染色体に組み込み(プロウイルス)ます。組み込まれたウイルスは排除できず、生涯の持続感染になります。
- 猫白血病ウイルス(FeLV):リンパ腫、白血病、免疫の抑制(解説ブック「猫のFeLV」)
- 猫免疫不全ウイルス(FIV):免疫不全(レンチウイルス属)
- 牛伝染性リンパ腫ウイルス(BLV):牛のリンパ腫
- 馬伝染性貧血ウイルス:発熱と貧血を繰り返す(レンチウイルス属)
- マエディ・ビスナ、山羊関節炎・脳炎(レンチウイルス属)、鶏白血病
腫瘍をつくるしくみは発がんのしくみの解説で扱っています。
6. RNAウイルスで国家試験に狙われるポイント
- エンベロープなし:ピコルナ(口蹄疫、鶏脳脊髄炎)、カリシ(猫カリシ、ウサギ出血病)、レオ(ブルータング、ロタ)、ビルナ(伝染性ファブリキウス嚢病)
- プラス鎖・エンベロープあり:トガ(馬脳炎、ゲタウイルス病)、フラビ(日本脳炎、ウエストナイル熱、豚熱、牛ウイルス性下痢)、コロナ(豚流行性下痢、猫伝染性腹膜炎、鶏伝染性気管支炎)、アルテリ(PRRS、馬ウイルス性動脈炎)
- マイナス鎖・エンベロープあり:パラミクソ(犬ジステンパー、牛疫、ニューカッスル病)、ラブド(狂犬病、牛流行熱)、オルトミクソ(インフルエンザ、8分節、HAとNA)、ブニヤウイルス目(アカバネ病、SFTS)
- レトロ:逆転写とプロウイルス。FeLV、FIV、BLV、馬伝染性貧血
- 高病原性鳥インフルエンザ:H5亜型とH7亜型
7. RNAウイルスの確認問題
Q1. 日本脳炎ウイルスが属する科と、豚がこの病気の広がりで果たす役割を述べよ。
A. フラビウイルス科。蚊が媒介し、豚の体内でウイルスが大量に増えてから、蚊を介して人や馬に広がる(豚が増幅動物)。豚では死産やミイラ化した胎子を起こす。
Q2. 豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)と豚流行性下痢の原因ウイルスの科をそれぞれ答えよ。
A. PRRSはアルテリウイルス科、豚流行性下痢はコロナウイルス科。
Q3. エンベロープをもたないRNAウイルスの科を4つ挙げ、それぞれの代表的な病気を答えよ。
A. ピコルナウイルス科(口蹄疫)、カリシウイルス科(猫カリシウイルス感染症)、レオウイルス科(ブルータング)、ビルナウイルス科(伝染性ファブリキウス嚢病)。
Q4. インフルエンザウイルスの亜型は何によって分けられるか。また、高病原性に変わりうる鳥インフルエンザの亜型を答えよ。
A. ウイルスの表面のHA(ヘマグルチニン)とNA(ノイラミニダーゼ)の型で分けられる。高病原性に変わりうるのはH5亜型とH7亜型。
Q5. レトロウイルスに感染すると生涯の持続感染になる理由を述べよ。
A. レトロウイルスは逆転写酵素でRNAからDNAをつくり、宿主の染色体に組み込んでプロウイルスとなるため、感染した細胞からウイルスを排除できないから。
関連コンテンツ
理解度チェック
- カードゲーム「DNAか、RNAか」 — ウイルスのゲノムの種類を繰り返し確認できます。
- カードゲーム「ウイルスエンベロープ」 — エンベロープの有無を繰り返し確認できます。
詳細な解説
- 分野別まとめ:微生物学 — 病原体の5つのグループと、ウイルスの科の見分け方を整理しています。
- 流れでたどる:狂犬病ウイルスの旅 — かみ傷から脳、そして次の動物へ、狂犬病ウイルスの旅を図で確認できます。
- DNAウイルスの科と代表的な病気 — DNAウイルスの各科と病気を扱います。
- ウイルスの増殖と変異 — 分節ゲノムと抗原シフトを扱います。
- 分野別まとめ:伝染病学 — ウイルスが起こす家畜の伝染病を整理しています。
参考文献
- 獣医微生物学 文永堂出版
- 獣医伝染病学 近代出版
- 動物病理学各論 文永堂出版
- 農林水産省 獣医師国家試験(公式)
執筆・編集:Vet Study Library 編集部
監修:獣医師(農林水産省 獣医師名簿第44733号登録)/小動物臨床、環境衛生監視員としての実務経験、獣医療系出版社での獣医学情報誌・獣医学書籍の編集経験、医療系情報サイトでの執筆経験
公開日:2026年9月29日/最終更新日:2026年9月29日
本記事は獣医学生および獣医療従事者の学習支援を目的とした教育用コンテンツです。実際の診療上の判断は担当獣医師の責任において行ってください。