ボツリヌス症と破傷風|【獣医師国家試験対策】

臨床獣医学 > 内科 > 神経 > ボツリヌス症と破傷風

ボツリヌス症と破傷風は、どちらもクロストリジウム属の菌がつくる神経毒による病気です。毒素の働き方もよく似ているのに、ボツリヌス症では体がだらりと弛緩性麻痺になり、破傷風では体が突っ張る強直性けいれんになります。国家試験では、この正反対の症状と、感染のしかた、診断の方法が問われます。

本記事は、「毒素が止めるのは、どこの、どの神経伝達物質か」という一点から、2つの病気を対比して整理しました。後半では、同じく神経症状を示す牛のリステリア症も比較として扱います。

過去問分析

過去の出題では、次の形式が繰り返し問われています。

  • ボツリヌス症:弛緩性麻痺と、マウス接種試験による毒素の検出
  • 破傷風:強直性けいれんと、開口障害などの特徴的な姿勢
  • 牛のリステリア症:劣化したサイレージ、脳幹の微小膿瘍、斜頸と旋回
この記事で押さえること
  • 2つの毒素が神経伝達物質の放出を止める共通の仕組み
  • ボツリヌス毒素は神経筋接合部でアセチルコリンを、破傷風毒素は脊髄で抑制性の伝達物質を止めること
  • その違いが弛緩性麻痺と強直性けいれんという正反対の症状になる理由
  • ボツリヌス症は毒素の摂取、破傷風は傷からの感染で起こること
  • マウス接種試験と、破傷風の特徴的な徴候
  • 牛のリステリア症が脳幹の炎症として神経症状を起こすこと

1. 共通点 — 伝達物質の放出を止める毒素

ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)と破傷風菌(C. tetani)は、どちらもグラム陽性の偏性嫌気性菌で、芽胞をつくって土壌の中で長く生き残ります。

どちらの毒素も、神経の末端で神経伝達物質の入った小胞が細胞膜と融合するのに必要なタンパク質を切断し、伝達物質の放出を止めます。働き方はほとんど同じです。違いはどこの神経の、どの伝達物質を止めるかにあります。

2. ボツリヌス症 — アセチルコリンを止めて弛緩性麻痺

2-1. 毒素が働く場所と症状

ボツリヌス毒素は、末梢の神経筋接合部(とコリン作動性の神経の末端)で、アセチルコリンの放出を止めます。筋に「縮め」という指令が届かなくなるため、筋は力を失い、弛緩性麻痺になります。

  • 麻痺の進み方:後肢から始まって前肢、頸部へと広がることが多い。反射と筋の緊張が低下する
  • 頭部の症状:飲み込めない、よだれを流す、舌を出したまま引っ込められない(牛で目立つ)、まぶたや瞳孔の反応の低下
  • 意識と感覚:保たれる。毒素は脳には働かない
  • 死因:呼吸筋の麻痺

2-2. どうやって体に入るか — 毒素の摂取

多くは、すでに毒素ができている食べ物や飼料を食べることで起こります(毒素型)。菌そのものが体の中で増える必要はありません。

  • 牛:小動物の死体が混入したサイレージや乾草、鶏糞を含む飼料
  • 鳥:水辺の腐敗した死体や、そこにわいたうじを食べる
  • 人:いずしなどの保存食品。1歳未満の乳児では、はちみつに含まれる芽胞が腸の中で発芽して毒素をつくる乳児ボツリヌス症がある

毒素にはいくつかの型があり、動物種によって多い型が異なります。

2-3. 診断 — マウス接種試験

血清、胃や腸の内容物、疑わしい飼料をマウスに接種し、特徴的な麻痺を起こして死ぬかどうかで毒素を検出します。あらかじめ型ごとの抗毒素を混ぜておくとマウスが死なないかを調べることで、毒素の型も決められます。

3. 破傷風 — 抑制を止めて強直性けいれん

3-1. 毒素が働く場所と症状

破傷風毒素は、傷の近くの神経の末端から取り込まれ、神経の中を逆向きに運ばれて脊髄や脳幹へ届きます。そこで、運動ニューロンの働きを抑える抑制性の介在ニューロンから、抑制性の伝達物質(グリシンやGABA)の放出を止めます。

運動ニューロンはブレーキを失って興奮し続け、筋は縮みっぱなしになります。こうして強直性けいれんが起こります。

  • 開口障害(牙関緊急):咀嚼筋が縮みっぱなしになり、口が開かない
  • 第三眼瞼の突出:眼球を引っ込める筋が縮み、第三眼瞼が前へ出る。馬で目立つ
  • 耳が立ち、尾が上がり、四肢を突っ張る:全身の筋が縮み、四肢を開いて棒のように立つ木挽き台様(木馬様)の姿勢になる
  • 刺激で誘発されるけいれん:音や光、接触で強いけいれんが起こる
  • 意識:保たれる
  • 死因:呼吸筋の強直による呼吸困難

3-2. どうやって体に入るか — 傷からの感染

釘を踏んだ深い刺し傷、去勢や断尾の傷、分娩のときの産道の傷、へその緒などから芽胞が入り込み、酸素の少ない傷の奥で発芽して毒素をつくります(感染型)。馬と人は感受性が高く、犬と猫は比較的かかりにくい動物です。予防にはトキソイドのワクチンが用いられます(ワクチンの解説)。

4. ボツリヌス症と破傷風の対比

  • 毒素が働く場所:ボツリヌスは末梢の神経筋接合部、破傷風は脊髄と脳幹
  • 止める伝達物質:ボツリヌスはアセチルコリン、破傷風は抑制性の伝達物質(グリシン・GABA)
  • 結果:ボツリヌスは筋への指令が届かず弛緩性麻痺、破傷風は筋へのブレーキが外れて強直性けいれん
  • 体への入り方:ボツリヌスは毒素の摂取(毒素型)、破傷風は傷からの芽胞の侵入(感染型)
  • 共通:グラム陽性の偏性嫌気性の芽胞形成菌。意識は保たれ、呼吸筋の障害で死に至る
「アクセルを止める」か「ブレーキを止める」か

ボツリヌス毒素は、筋を動かすアクセル(アセチルコリン)を止めるので、筋が動かなくなります。破傷風毒素は、筋を止めるブレーキ(抑制性の伝達物質)を止めるので、筋が止まらなくなります。同じ「放出を止める毒素」でも、止める相手が逆だから症状も逆になる、と覚えてください。

5. 比較 — 牛のリステリア症

同じく神経症状を示す牛の細菌病でも、リステリア症は毒素ではなく、脳幹の炎症で症状を起こします。

  • 病原体:Listeria monocytogenes。グラム陽性の短い桿菌で、低温でも増える
  • 感染源:発酵がうまくいかず酸性度が十分に下がらなかった劣化したサイレージ
  • 侵入の経路:口の中の小さな傷から入った菌が、三叉神経などの脳神経をさかのぼって脳幹へ達する
  • 病理:脳幹(延髄・橋)の微小膿瘍と、血管のまわりの単核球の浸潤(囲管性細胞浸潤)
  • 症状:脳幹の片側の障害として、斜頸、同じ方向への旋回、顔面神経の麻痺(耳・まぶた・口唇が垂れる)、飲み込みにくさ、沈うつ。旋回することから「旋回病」とも呼ばれる
  • そのほかの病型:流産や敗血症。人では食品を介して感染する人獣共通感染症でもある(細菌性食中毒の解説)

6. ボツリヌス症と破傷風で国家試験に狙われるポイント

  • 共通:クロストリジウム属、グラム陽性、偏性嫌気性、芽胞。神経伝達物質の放出を止める毒素
  • ボツリヌス症:神経筋接合部でアセチルコリンの放出を阻害 → 弛緩性麻痺。意識は正常。毒素の摂取で起こる。マウス接種試験と抗毒素による型別
  • 破傷風:神経を逆行して脊髄・脳幹へ → 抑制性の伝達物質の放出を阻害 → 強直性けいれん。開口障害、第三眼瞼の突出、木挽き台様の姿勢、刺激で誘発されるけいれん。傷から感染。馬と人の感受性が高い
  • 牛のリステリア症:劣化したサイレージ、脳神経をさかのぼって脳幹へ、微小膿瘍と囲管性細胞浸潤、斜頸と旋回、顔面神経の麻痺

7. ボツリヌス症と破傷風の確認問題

Q1. ボツリヌス毒素と破傷風毒素は、どちらも神経伝達物質の放出を止めるのに、症状が正反対になる理由を述べよ。

A. ボツリヌス毒素は末梢の神経筋接合部でアセチルコリンの放出を止めるため、筋に指令が届かず弛緩性麻痺になる。破傷風毒素は脊髄や脳幹で抑制性の介在ニューロンから抑制性の伝達物質の放出を止めるため、運動ニューロンが抑えられずに興奮し続け、強直性けいれんになる。

Q2. 破傷風毒素が傷の近くから脊髄まで届く経路を述べよ。

A. 傷の近くの神経の末端から取り込まれ、神経の軸索の中を逆向きに運ばれて、脊髄や脳幹に届く。

Q3. 牛のボツリヌス症を確認するための毒素の検出方法と、毒素の型を決める方法を述べよ。

A. 血清、胃や腸の内容物、疑わしい飼料をマウスに接種し、特徴的な麻痺を起こすかどうかで毒素を検出する(マウス接種試験)。型ごとの抗毒素を混ぜて接種し、マウスが守られる抗毒素の型から毒素の型を決める。

Q4. 破傷風の馬にみられる特徴的な徴候を3つ挙げよ。

A. 開口障害(牙関緊急)、第三眼瞼の突出、耳が立ち尾が上がり四肢を突っ張る木挽き台様の姿勢、音や光などの刺激で誘発されるけいれんから3つ。

Q5. 牛のリステリア症で、斜頸や旋回、顔面神経の麻痺が起こる理由を、感染の経路と病変の場所から述べよ。

A. 劣化したサイレージに含まれる菌が口の中の傷から入り、三叉神経などの脳神経をさかのぼって脳幹へ達し、脳幹に微小膿瘍をつくるため。脳幹の片側の前庭神経核や顔面神経核などが障害され、斜頸や同じ方向への旋回、顔面神経の麻痺が起こる。

関連コンテンツ

理解度チェック

詳細な解説

参考文献

執筆・編集:Vet Study Library 編集部
監修:獣医師(農林水産省 獣医師名簿第44733号登録)/小動物臨床、環境衛生監視員としての実務経験、獣医療系出版社での獣医学情報誌・獣医学書籍の編集経験、医療系情報サイトでの執筆経験
公開日:2026年9月24日/最終更新日:2026年9月24日
本記事は獣医学生および獣医療従事者の学習支援を目的とした教育用コンテンツです。実際の診療上の判断は担当獣医師の責任において行ってください。