臨床獣医学 > 内科 > 呼吸器 > 馬の喘鳴症(喉頭片麻痺)
馬の喘鳴症(喉頭片麻痺)は、運動すると「ヒューヒュー」という異常な呼吸音が出て、走りが落ちる病気です。国家試験では、運動時の異常呼吸音を主訴とする馬で、内視鏡の画像から左の披裂軟骨の運動麻痺を読み取らせる形で出題されています。
この病気は、左の反回神経がなぜ長いのかという解剖から説明できます。同じ理屈で、犬の手術後の喉頭麻痺も説明できるため、本記事では犬の喉頭麻痺とあわせて整理しました。
過去の出題では、次の形式が繰り返し問われています。
- 主訴:運動時の異常呼吸音と、パフォーマンスの低下
- 内視鏡:左側の披裂軟骨の運動麻痺を読み取らせる画像問題
- 関連(犬):動脈管の結紮など開胸手術で反回神経を損傷して起こる、術後の喉頭麻痺
- 声門を開く唯一の筋である輪状披裂背筋と、それを支配する反回神経
- 左の反回神経が大動脈弓を回るため長く、左側に多い理由
- 吸気時に異常音が出る理由(陰圧による引き込み)
- 内視鏡で左右の披裂軟骨の動きを比べる見方
- 犬の喉頭麻痺との共通点と違い(動脈管の手術との関係)
1. 喉頭を開く仕組み
息を吸うとき、喉頭では左右の披裂軟骨が外側へ開いて(外転して)声門が広がります。この外転を担う筋は輪状披裂背筋ただひとつで、迷走神経の枝である反回神経に支配されています。反回神経が働かなくなると、その側の披裂軟骨は開かなくなります。
2. なぜ左側に多いのか — 反回神経の走行
迷走神経は頸部を下って胸腔に入り、そこから反回神経を出します。反回神経は血管の下をくぐって向きを変え、頸部を上って喉頭へ戻ります(図1)。
- 右の反回神経:右の鎖骨下動脈を回って戻る
- 左の反回神経:心臓に近い大動脈弓を回って戻るため、右よりずっと長い
図1 反回神経の走行の模式図。左の反回神経は大動脈弓を回って喉頭へ戻るため、右より長い。そのそばには動脈管(索)がある。
馬の喘鳴症は、反回神経の末端から軸索が変性していく病気で、神経が長いほど影響を受けやすくなります。そのため、長い左の反回神経が侵されることが圧倒的に多く、左の輪状披裂背筋が萎縮して、左の披裂軟骨が開かなくなります。体高の高い大型の馬(サラブレッドなど)に多いのも、神経がより長いためと考えられています。
3. 病態生理 — なぜ運動時の吸気で音が出るのか
安静時は空気の流れがゆっくりなため、片側の披裂軟骨が開かなくても症状はほとんど出ません。運動で呼吸が激しくなると、吸気時の気道の陰圧が大きくなり、開かない左の披裂軟骨と声帯が気道の内側へ引き込まれます。気道が狭くなって空気が乱れ、吸気時の高い異常呼吸音(喘鳴)が生じ、必要な空気を取り込めずに走りが落ちます。
4. 馬の喘鳴症の診断
- 安静時の内視鏡:左右の披裂軟骨の動きを比べる。左の外転が不十分、左右の動きがそろわない、まったく動かないといった程度で重症度を分類する
- 運動中の内視鏡:実際に走っているときに、左の披裂軟骨が気道へつぶれ込む様子を確認する。安静時の所見と重症度が一致しないことがあるため役立つ
- 触診:萎縮した左の輪状披裂背筋の上で、披裂軟骨の筋突起が触れやすくなる
5. 犬の喉頭麻痺との比較
犬でも、反回神経の障害で披裂軟骨が開かなくなる喉頭麻痺が起こります。
- 後天性の喉頭麻痺:中高齢の大型犬(ラブラドール・レトリーバーなど)に多く、両側性のことが多い。全身の末梢神経の病気の一部として起こると考えられている
- 手術による喉頭麻痺:動脈管開存症の手術では、大動脈と肺動脈をつなぐ動脈管を処理する。そのすぐそばを左反回神経が回っているため(図1)、これを傷つけると術後に左側の喉頭麻痺が起こる
- 症状:吸気時の喘鳴、声の変化、運動を嫌がる、暑さや興奮で悪化。喉頭を閉じる動きも悪くなるため、誤嚥性肺炎を起こしやすい(誤嚥性肺炎と陰圧性肺水腫の詳細解説)
- 診断:浅い麻酔下で、吸気時に披裂軟骨が外側へ開くかを観察する。吸気で内側へ引き込まれ、呼気で受け身に開く動きを「開いている」と見誤らないよう、呼吸と合わせて判定する
馬の左側の喘鳴症も、犬の動脈管の手術後の喉頭麻痺も、大動脈弓を回る長い左反回神経という同じ解剖から生まれます。図1の走行を描けるようにしておけば、どちらの問題にも対応できます。
6. 馬の喘鳴症で国家試験に狙われるポイント
- 声門を開く筋:輪状披裂背筋(唯一の外転筋)。反回神経が支配
- 走行:左反回神経は大動脈弓、右は右鎖骨下動脈を回る。左のほうが長い
- 馬の喘鳴症:左反回神経の末端からの軸索変性 → 左の輪状披裂背筋の萎縮 → 左の披裂軟骨の外転不全。大型の馬に多い
- 症状:運動時の吸気性の異常呼吸音、パフォーマンスの低下。安静時は無症状
- 診断:内視鏡で左右の披裂軟骨の動きを比べる。運動中の内視鏡も有用
- 犬:中高齢の大型犬の後天性(両側性が多い)と、動脈管の手術での左反回神経の損傷による術後の喉頭麻痺。誤嚥性肺炎を起こしやすい
7. 馬の喘鳴症の確認問題
Q1. 馬の喘鳴症(喉頭片麻痺)が左側に多い理由を、反回神経の走行から述べよ。
A. 左の反回神経は大動脈弓を回って喉頭へ戻るため、右鎖骨下動脈を回る右の反回神経より長い。喘鳴症は神経の末端から軸索が変性する病気で、長い神経ほど侵されやすいため、左側に多い。
Q2. 喘鳴症の馬で、異常呼吸音が吸気時の運動中に目立つ理由を述べよ。
A. 運動で呼吸が激しくなると吸気時の気道の陰圧が大きくなり、開かない左の披裂軟骨と声帯が気道の内側へ引き込まれて気道が狭くなるため。安静時は空気の流れがゆるやかで、症状はほとんど出ない。
Q3. 声門を開く唯一の筋の名称と、その支配神経を答えよ。
A. 輪状披裂背筋。反回神経(迷走神経の枝)に支配される。
Q4. 犬で動脈管開存症の手術のあとに喉頭麻痺が起こることがある理由を述べよ。
A. 動脈管のすぐそばを、大動脈弓を回る左反回神経が走っているため、手術の操作でこれを傷つけると、左の輪状披裂背筋が働かなくなり、左側の喉頭麻痺が起こる。
Q5. 喉頭麻痺の犬が誤嚥性肺炎を起こしやすい理由を述べよ。
A. 喉頭麻痺では披裂軟骨の開く動きだけでなく、飲み込むときに喉頭を閉じる働きも損なわれるため、食物や唾液が気道に入りやすくなる。
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詳細な解説
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- 分野別まとめ:循環器疾患 — 動脈管開存症を含む先天性心疾患の成り立ちを整理しています。
参考文献
- 新獣医内科学 文永堂出版
- 家畜比較解剖図説 養賢堂
- 獣医生理学第二版 文永堂出版
- 農林水産省 獣医師国家試験(公式)